自分たちのヨットを持ち2度目の冬(2018年)を迎えようとしている。週末や休みの日の艇内暮らしも夜から朝にかけて冷え込むようになり、ついに気温は一桁台、小さなセラミックヒーターをバウバースから引っ張り出し動かすようになってきた。秋から冬に掛けての駿河湾は最高に綺麗。何と言っても空気が乾き富士山が早朝からくっきり見えるようになる。東京からも富士山が見える場所はあるけれど、清水港のホームポートに居ると、この時期は朝陽が昇り陽が暮れるまで富士山の姿をいつでも見ることができるのは、何だか日本人で良かったという気持ちにさせられるのと同時に、ここにヨットを置くことにして良かったという気にさせられる。
徐々に冬の足音が聞こえるようになると、西から北の風が吹き始め、海が荒れ始める。夜通し波立つ海面の水が船底にあたり、艇内は騒々しくなるが、そんな波音を聞きながらバースで眠れるようになれば、何となくヨットマンとして一人前になったような気がする。(妻はどんなところで直ぐに眠りに落ちるけど…)

そんな週末のハーバー暮らしをする中、ヨットハーバーやマリーナでのマナーや気遣いについて、いろいろと気付かされることも少なくないので、今回はそのあたりについての話を纏めてみたいと思います。

そもそもヨットハーバーやマリーナってどんなところ?

本題に入る前にハーバーは港だけれど、ヨットハーバーやマリーナは単なる港ではない。基本的にプレジャーボートと呼ばれる遊びのための船を預けて置くための施設であって、そこにはプロの漁船や営業船は基本的には居ない。(※例外的に営業船を置いているところもあります。)おもいっきりプロの漁船に見える船が係留してあったって、それは遊び用の釣船で誰かが個人的にその船で釣りを楽しんでいる。だから、その施設を利用している人は、それらの船のオーナーまたは関係者(ゲストやクルー)だったりする。つまり、ヨットハーバーやマリーナ―は、ヨットやボートを使って楽しむ人のための施設です。

そこにはいろいろな楽しみ方の人がいる

ヨットハーバーやマリーナと言っても、単にヨットやボートに乗り降りするためにだけ、そこに来ているわけではない。人によっては出港しなくてもキャビンでのんびりしに来たという人も居れば、僕たち夫婦のような週末住人から船に殆ど住んでいるような人たちまで居たりもする。夜明け前から出港準備し遠出する人や釣りに出掛ける人、自分の船のメンテナンスに来ている人なども居る。そこにはまさにいろいろな楽しみ方の人たちが集ってきている場所と言えます。

いろいろな楽しみ方をしに来ている人が居るのだから、来ている人すべてが快適かつ楽しく過ごせるようにするために、そこにはマナーがあり気遣いが必要なことは言うまでもないことです。自分だけが快適で楽しければ良いというよ欠けますうな自己中心的な考え方はそもそもシーマンとしての資質に欠けるように思います。

最も大切なこと、それは「安全」

マナーや気遣いを考えるとき、最も意識しなければならないのは「安全」です。楽しみに来た筈なのに怪我や事故に遭ってしまっては全てが台無しになりますから、マリーナやヨットはバーの利用者全てが安全を念頭においた利用を心掛けなければならないです。安全を保つためには、安全に対するマナーや気遣いが最も重要だと考えます。

桟橋や艇置場内では走らない

子供でない限り、走るということは何か急ぎの要件があるからこそ走るものです。しかし、幾ら急ぎの用があったとしても桟橋上や艇置場内で走ることは自分のみならず周囲にも危険を及ぼす原因となります。走っている本人は急ぎの用件しか頭にないのですから、当然周囲を気遣ってはいられないわけです。それが桟橋上なら、ぶつかったり、躓いたりすることで落水の危険性が増すし、他人となら尚更です。入ってきた船の舳先のオーバーハングが急に桟橋の通路上に出てくることだって考えられます。陸置きの艇置場なら、移動させようと作業していることもあれば、船台の陰から人や車両が出てくるかもしれません。落ち着いて周囲に注意を払いながら歩くことは、自分のみならず周囲の人たちの安全をも気遣いすることにもなるのです。

自分の船の上以外の場所にみだりにものを置かない

桟橋の上や艇置場に物を置いていると、それに躓いたり、引っ掛けたりと安全性が極端に損なわれます。そこが桟橋の上なら更に危険性は増大します。桟橋から落水してしまうと桟橋に上がるのは意外にも容易ではありません。物を置くのは桟橋以外の「物置」または「自分の船の上」として、それ以外の場所、つまり桟橋上にはみだりにものを置かないことがマナーであり、更には他者への安全に対する気遣いとなります。

舫綱は船上で長さを調整し桟橋に転がしておかない

舫綱(係留ロープ)は船上のクリートで長さを調整し余りは船上にある状態にするのがベストだと、とあるオールドソルトから僕は習いました。クリートして余ったロープの端を桟橋上に転がしておくと、そのロープを踏んでロープが転がり(係留ロープは太いものが多いので踏むと転がる)こけてしまったり、桟橋上から落水の危険さえあります。
ホームポートでの舫綱(係留ロープ)は、常に同じポジションに係留するのですから必要以上に長いものを使う必要はありません。どうしても長いものを使う必要があるのなら、桟橋側には余らせないようにアイをつくった側を桟橋に掛けて船側でクリートし、船側で舫の長さを調整すれば桟橋上にロープの余りを転がしておくことは無くなります。
また、どうしても桟橋側に伸ばしておきたい場合には、地面にロールしてマット状にしておき、仮に踏んでしまっても転がらないようにしておくくらいの気遣いは必要です。

風や波のある時の着岸は陸側が手伝う

幾ら慣れたホームポートとは言えども、風や波のある時の着岸はなかなか思い通りには行かないことがあります。そんな時は、桟橋側に誰か舫を取ってくれる人が居るだけで着岸時の安全性は大きく増します。
陸側の近くにいる人が着岸を手助けするのはシーマンとしての基本中の「き」でもあります。

通路に船首を突き出させない

これは係留型に限られる話ですが、櫛型桟橋で船首のオーバーハングが大きい艇やバウスプリットが長く突き出している艇が通路にまではみ出して係留しているのをよく見かけます。更に、船首にアンカーを付けている船が桟橋にはみ出しているなんて船も少なくありません。これはとても危険です。桟橋の通路はパブリックスペースで船首先端は桟橋から離して係留しなければならないです。特に船首アンカーを通路に突き出している船はナンセンスです。小さな子供は目線より上の視界が少なく怪我をする原因にもなります。絶対に選手は通路に突き出した状態で舫うべきではありません。

ハーバー内の航行はデッドスロー

デッドスローとは船舶用語で「極微速」のことを指す言葉です。極微速によって何が重要なのかと言うと、船は走ると引き波が起きます。この引き波を立てずに走るのがデッドスローです。速く走る程に引き波は大きくなります。引き波を立てると、浮き桟橋のみならず係留している船も大きくロールしたりピッチングします。仮にマストに登ってメンテナンスしている人が居たとして、引き波を立てて通過しようものなら、その状態はとてつもなく危険です。桟橋を歩いていたとして、桟橋には柵や手すりはありません。大きな引き波を立て通過すれば、桟橋を歩いている人に危険が及びます。ヨットのキャビンで熱いコーヒーを飲もうとしている人が居たとして、他艇の引き波で大きくピッチングしたりローリングすれば火傷は免れないです。
デッドスローで航行する理由は他人の安全だけではありません。他艇が急に動き出した時に直ぐにアスターンを掛け止まることができるし、事故を自ら防ぐことができるかもしれない。船は自動車のようにブレーキを掛けて急減速はできません。(車だって急には止まれないのですから…)、慎重に極微速で走ることで、止まることも避けることもやり易くなるわけです。つまり、デッドスローで航行することは、自艇を事故から防ぐ意味もあります。
ハーバーやマリーナのルールで〇ノット以下で航行なんて書かれていたりしますが、そんなことは言われなくてもデッドスローで航行するのがシーマンシップであり、本物のシーマンだと思います。

楽しむ場所だからこそ、他人への気遣いが重要

安全の次に大切なことと言えば、ヨットハーバーやマリーナは楽しむための場所である筈です。しかし、自分だけが楽しければ良いという自己中心的な考えは困ったものです。多くの利用者は、誰が、どの船がそのマリーナやヨットハーバーの迷惑者だということを知っています。気が付いていないのは当の本人だけだったりするものです。シーマンたるもの、他人の楽しみまで気遣って一人前だという事が言えます。
他人を気遣うと言えば特に環境面ではないかと思います。

マストにあたるロープの音

ヨット乗りの楽しみと言えば、自艇を別荘代わりに使い、船に泊まることではないかと思います。中には殆ど船に住んでいるという人まで居たりします。そんな人たちの楽しみを台無しにするのが騒音です。なかでも強風時にヨットのマストに叩きつけられるロープの音は、まるで近所でバケツを誰かが精一杯叩いているのと同じような不快感があります。
殆どの場合、メインハリヤード又はマストの外側に沿って張られているロープ類が風になびいてマストに叩きつけられます。これを防ぐのは簡単なことで、メインハリヤードはセールから切り離してデッキの固定できる場所にマストから離して繋ぎテンションをかけておけば良いだけのことです。とにかくマストに沿っていなければよいだけのことで、簡単に防ぐことができます。また、スピンハリヤードやレイジージャックのラインがパタパタとマストを叩くこともあります。スピンハリヤードの場合には、スタンディングリギンの外側を通してライフラインに留めておくなど、メインハリヤードの対策と同じようにしても良いです。レイジージャックのラインの場合にはテンションが掛かっておらず緩んでいるとバタバタするのでテンションをきつめに掛けるか、左右のラインをマストの前の部分でひとまとめにするように雑策などで縛っておくとバタつきが無くなります。
ハリヤードやロープ類が夜の強風でバタバタして大音響を出しているのは船に泊まらない人の船に多いです。しかし、自分が泊まらないからと言って何もしないのはいわゆる近所迷惑というものです。是非、気遣ってバタつかないように十分に対策しておくことです。

桟橋で釣りはしない

ヨットハーバーやマリーナ内の桟橋や係留した自艇から釣り糸を垂れるのは、釣り好きの人にはたまらない楽しみかもしれないです。しかし、釣り糸が切れたり、それを流してしまったりすること想像してみて欲しいです。その糸が誰かの船のプロペラ(スクリュー)やラダーなどに絡まってしまった時、これは誰の責任なんでしょうか? そして、その絡みついた糸を誰が外すんでしょうか? それを考え始めたら僕は夜も眠れなくなります。僕は絶対にマリーナやヨットハーバー内では釣りはしません。同じ船を持つ者なら誰でも容易に想像できることだと思います。

施設は綺麗に気持ちよく使う

マリーナやヨットハーバーは一種のコミュニティーなので、そこでは誰もが綺麗に気持ちよく居たい。トイレやシャワールーム、シンクなどの共同施設がありますが、これらを綺麗に使うことはあたりまえのことですが、オーナーでは無く慣れないゲストが使ったりすると荒れ放題になってしまっている場合が多いです。オーナーはゲストを招いたら、最低限度のルールやマナーはゲストに徹底すべきです。
また、オーナー同士は直接付き合いが無い人でも相手に挨拶されれば一応挨拶を返すものですが、ゲストが見ず知らずの人から挨拶されると何も返してこないことが多いです。しかし、マリーナやヨットハーバーは海が好きで船が好きで、その愛好家が集まっている場所です。オーナーはゲストに対して他船の人から挨拶されるかもしれないから、そんなときには挨拶くらいは返してねって言っておくだけで、ゲストも郷に入れば郷に従えという風になるものだと思います。

最後に

今回の話は、いろんなヨットマンの方々や自分自身がこれは危ないなって思ったこと、更には古いシーマンシップに関する書物などからピックアップしてみました。日常生活でもマナーや他人に対する気遣いは必要になりますが、海の上では甘えは禁物。マナーや気遣いを怠ることで、人を死に至らしめることだってあり得ます。しかし、マナーや気遣いを互いにもって楽しめば、それは互いに危険を排除し合うこともなるし、補い合うことにもつながります。マリーナやヨットハーバーは、海のようで海でなく、陸のようで陸でない、海との接続点になる場所なだけに、どうしても海上よりも気が緩んでしまいがちな面もあります。だからこそ、ルールに書いていなくてもマナーや気遣いは重要になるのだと思います。お互いに気を付けましょう。

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