11月1日、フランス北西部の港町サン=マロ(Saint-Malo)で、単独大西洋横断ヨットレース「Route du Rhum(ルート・デュ・ラム)」がスタートしました。
4年に一度開催されるこのレースには、今回は115人のセーラーが参加。大西洋を越えたカリブ海のグアドループ(Guadeloupe)を目指します。
1978年に始まったこのレースは、数ある外洋ヨットレースの中でも、独特な歴史と特徴を持つ大会です。
今回は、このレースがどのようにして生まれ、どのような競走が繰り広げられてきたのかについて書いてみたいと思います。
また、今年2026年大会には日本から鈴木晶友君がIMOCA 60で初挑戦し、2028-2029年のVendée Globe出場を目指しており、今回のRoute du Rhumは、出場資格を得るためにも重要なレースのひとつでもあります。

Route du Rhumとは
Route du Rhum は、フランス北西部のサン=マロ(Saint-Malo)から、カリブ海に浮かぶグアドループ(Guadeloupe)の港町ポワンタピートル(Pointe-à-Pitre)まで、約3,542海里(約6,560km)を単独で横断するヨットレースです。
1978年に第1回大会が開催されて以来、4年に一度、10月末から11月初めにかけてスタートしています。2026年は13回目の大会となります。
レースの特徴は、モノハルとマルチハル、さらに大きさや性能の異なるヨットが、同じ日にスタートして同じ目的地を目指すことです。
クラス別での順位争いに加え、艇種やサイズの垣根を越えたラインオナー(ファーストホーム)争いも、このレースの大きな見どころとなっています。
航路は、英国とフランスの間にあるイギリス海峡から大西洋へ出て、グアドループへ向かうコースですが、スタートからフィニッシュまで一直線に走れるわけではありません。北大西洋の低気圧やアゾレス高気圧、カリブ海へ向かって吹く貿易風などを考慮して、各艇が自分の航路を選択します。フィニッシュ直前にはグアドループ島の北側を回り込む必要があり、島の周辺で風が弱まることもあり、大西洋を横断してきた艇にとって、最後まで気の抜けないコースになっています。
1978年の第1回大会では、優勝艇が大西洋を横断するのに23日以上掛かっていましたが、前回の2022年大会では、大型トリマランのMaxi Edmond de Rothschildを操るシャルル・コードレリエ(Charles Caudrelier)が、6日19時間47分25秒という大会記録を樹立しています。44年間で優勝タイムは約3分の1以下になりました。マルチハルの大型化や船体・セイルの進化によって、大西洋横断のスピードは大きく変わっています。一方、比較的小型の艇では、ゴールまでに2週間から3週間以上かかることもあります。
同じ海を渡りながら、艇によって航海の速さも、選択する航路も大きく異なる。それがRoute du Rhumの特徴のひとつです。
Route du Rhumはどのように始まったのか
1970年代の単独大西洋横断レースといえば、英国のプリマス(Plymouth)から米国へ向かうOSTARが代表的な大会でした。
1960年に始まったこのレースには、エリック・タバリー(Éric Tabarly)をはじめ、当時の外洋レースを代表するセーラーたちが参加していました。1976年大会では、タバリーがPen Duick VIで優勝しています。同じ大会には、アラン・コラ(Alain Colas)が全長72mの4本マスト艇 Club Méditerranée で出場するなど、外洋レース艇の大型化も進んでいました。ところが、大会後に主催者である英国ロイヤル・ウェスタン・ヨットクラブ(Royal Western Yacht Club)は、次回大会から参加艇の全長を56フィート(約17m)以下に制限する方針を打ち出します。
こうした動きの中で、フランスの広告イベント業界で活動していたミシェル・エトヴノン(Michel Etevenon)が構想したのが、艇の大きさに制限を設けず、モノハルもマルチハルも参加できる、新しい単独大西洋横断レースでした。当時、フランス領カリブ海地域のラム酒生産者たちは、ラム酒の販売促進につながる企画を求めており、大西洋横断レースを通じて産地を広く知ってもらおうという狙いがあり、こうして誕生したのが、フランス語で「ラム酒の道」を意味する Route du Rhum です。
スタート地には、古くから大西洋交易で栄えた港町のサン=マロが選ばれ、ゴールはラム酒の産地であるグアドループのポワンタピートルに決まりました。第1回大会がスタートしたのは1978年11月5日、38艇が参加。モノハル、マルチハル、プロ、アマチュアが入り交じって大西洋横断に挑みました。
そして、この第1回大会は、Route du Rhumの名を世界に知らしめる、思いがけない結末を迎えることになります。
どんなヨットが参加するのか
Route du Rhumには、最新の外洋レーシングヨットから、かつての名艇まで、さまざまなヨットが参加できるレースとなっています。
2026年大会は、Ultim、Ocean Fifty、IMOCA、Class40、Vintage Mono、Vintage Multiの6クラスに分かれ、115艇がエントリーしています。
最も大きく速いのが Ultimで、全長32m(約105フィート)、最大幅23mという巨大なトリマランで、最新艇には近年主流となっているフォイルが装備されています。高速帆走時にはフォイルによって船体を持ち上げ水の抵抗を減らして走り、条件が整えば40ノットを超える艇速に達することもあり、単独で操るヨットとしては驚異的な性能です。
Ocean Fiftyは、全長50フィート(約15.24m)のトリマランです。Ultimに比べれば小型ですが、軽量な船体と大きなセイルエリアによって高い帆走性能を発揮します。大型のUltimとは異なる、50フィートというサイズに最適化されたマルチハルの競走が展開されています。
モノハルの最高峰が、全長60フィート(約18.28m)のIMOCAです。Vendée Globeで使用される艇と同じクラスで、近年の新艇では大型フォイルによって船体を持ち上げ、特にリーチングで高い艇速を発揮する設計が主流となっています。ただし、すべてのIMOCAがフォイラーというわけではなく、従来型のダガーボードを備えた艇も現役で建造年代による船型や艤装の違いが、レースでの性能差にも表れます。
Class40は、全長40フィート(約12.19m)のモノハルです。IMOCAほどの建造費や運用費を必要としない一方、外洋レースに特化した設計で、近年は船首部分のボリュームを大きく取ったスカウバウ型の艇も増えています。Class40は2026年大会で49艇がスタートし、最も参加艇数の多いクラスとなりました。
そして、今回の大会で注目したいのが、Vintage MonoとVintage Multiです。2022年大会までのRhum Mono、Rhum Multiに代わって設けられたカテゴリーで、現在の主要クラスの枠に収まらない、過去の外洋レースを彩った艇などが参加しています。Vintage Multiには、かつて外洋マルチハルレースの主役だったORMA 60のトリマランも登場します。Vintage Monoにも、以前の世代の外洋レーシングヨットが参加しています。
最新のフォイラーと、かつて大西洋を駆け抜けたレーシングヨットが同じ大会に集まるのも、Route du Rhumならではの光景とも言えます。
こうした艇の違いは、単に最高速の差だけではなく、強風域を高速で抜けることができるか、軽風帯をどう通過するか、そして長期間にわたって艇とセーラーの性能を維持できるか。それぞれの船型や艤装の特性によって、最適な航路やレース運びも異なります。
大西洋をどう横断するか
サン=マロからグアドループまでの約3,542海里。Route du Rhumでは、どの航路を選ぶかが勝敗を大きく左右します。
一般的な大西洋横断では、アゾレス高気圧の南側を回り、北東貿易風を利用してカリブ海へ向かう航路が考えられます。高気圧の中心付近には風の弱い海域が広がるため、最短距離を走れば最も早く到着できるとは限りません。大きく南下してでも安定した貿易風をつかむ方が、結果的に速いこともあるからです。
しかし、Route du Rhumの航路が毎回このパターンになるわけではなく、北大西洋を通過する低気圧の位置や発達状況によっては、北寄りの航路で強い風を利用する選択もあります。大型のUltimと比較的小型のClass40では、艇速が大きく異なるため、同じ気象システムを利用できるとも限らないのです。
2026年大会は、まさにその違いが表れる気象条件となりました。スタート時には東寄りの風が吹き、各艇は比較的速いペースでイギリス海峡を抜けましたが、大西洋ではアゾレス諸島付近に低気圧が発達し、通常のように南下して貿易風をつかむ航路が有利とはいえない状況になってしまいました。大会前の気象予測では、多くの艇が通常より北寄りの航路を選ぶと考えられていました。
こうした航路選択に関して、Route du Rhumにはクラスによる競技規則の違いがあります。IMOCA、Class40、Vintage Monoのモノハルでは、陸上の専門家から個別のルーティング指示を受けることが禁止されています。スキッパー自身が気象データを解析し、航路を決定します。これに対して、Ultim、Ocean Fifty、Vintage Multiのマルチハルでは、陸上からのルーティング支援が認められています。高速で走るマルチハルは、気象条件の急変による転覆の危険性が高く、陸上の気象専門家や経験豊富なセーラーが航路選択を支援することは、安全確保の意味も持っています。
そして、大西洋を横断した後にも、最後の難所が待っており、グアドループが見えてからも、すぐにゴールできるわけではありません。島の北側から回り込み、バステール(Basse-Terre)沖のマークを通過して、レ・サント海峡(Canal des Saintes)を抜け、ポワンタピートルへ向かうコース設定となっており、島の風下側では風が弱まったり、岬の周辺では風が強まったりするほか、沿岸の潮流も艇速やコース取りに影響します。数千海里を走って築いたリードが、ゴール直前の数十海里で失われることもあるのです。

Route du Rhumは、単に大西洋を速く横断するだけではなく、変化する気象条件を読み、艇やスキッパーの持つ能力を最大限に引き出しながら、最後のフィニッシュラインまで走り切るヨットレースなのです。
Route du Rhumの歴史に残るレース
1978年の第1回大会で起きた出来事は、今でもRoute du Rhumを語るうえで欠かせないエピソードです。
カナダ人セーラーのマイク・バーチ(Mike Birch)が操っていたのは、全長約11mの黄色いトリマラン、Olympus Photoでした。対するフランス人セーラーのミシェル・マリノフスキー(Michel Malinovsky)は、全長約21mのモノハル、Kriter Vで出場していました。
艇の大きさの違いは約2倍。マリノフスキーは大西洋を横断してグアドループに近づくまで先行していましたが、ゴール直前で状況が一変します。島の周辺で風が弱まり、Kriter Vが思うように艇速を維持できなくなったところへ、後方からOlympus Photoが迫ってきたのです。
最後はバーチが逆転し、23日以上に及ぶ単独大西洋横断の末、わずか98秒差で初代優勝者となりました。
現在では大型マルチハルがファーストホームを飾ることは珍しくありませんが、1978年当時は、外洋レースでモノハルとマルチハルのどちらが優位なのか、まだ模索が続いていた頃でした。小さなトリマランが大型モノハルを破ったこの競走は、外洋レーシングヨットの進化を象徴する出来事となりました。
ただし、第1回大会には悲しい出来事もありました。フランスの著名なセーラー、アラン・コラ(Alain Colas)が、トリマランのManurevaで出場したまま大西洋上で消息を絶ったのです。捜索が行われましたが、船も本人も発見されませんでした。
その後もRoute du Rhumでは、さまざまな記録が生まれています。
1990年大会では、フランス人女性セーラーのフロランス・アルトー(Florence Arthaud)が、トリマランGroupe Pierre 1erで総合優勝。1994年と1998年には、スイス人セーラーのローラン・ブルニョン(Laurent Bourgnon)がPrimagazで2大会連続の総合優勝を達成しています。2002年大会では、英国のエレン・マッカーサー(Ellen MacArthur)がIMOCAクラスで優勝しました。マッカーサーは2000〜2001年のVendée Globeで総合2位となったことでも知られるセーラーです。
2018年大会でも、歴史に残る接戦となりました。大型トリマランIdec Sportを操るフランシス・ジョワイヨン(Francis Joyon)が、François GabartのMacifをわずか7分8秒差で破って優勝。そして2022年には、シャルル・コードレリエ(Charles Caudrelier)がMaxi Edmond de Rothschildで6日19時間47分25秒の大会記録を樹立しています。
第1回大会の23日以上から、現在では7日を切るまでになった大西洋横断の記録。この間には、艇の大型化、カーボン構造の普及、セイルや艤装の進化、そしてフォイルの導入など、外洋レーシングヨットの技術は大きく変わってきました。Route du Rhumの歴代記録を振り返ることは、外洋レーシングヨットがどのように進化してきたのかを振り返ることでもあるのです。
今回(2026年)の見どころ
2026年のRoute du Rhumは、11月1日に115艇がスタートしています。
今回の注目は、Ultim クラスの新艇とライバル艇との戦い、そして IMOCA クラスの激しい順位争い、そして Vintage クラスに復帰した往年のレーシングヨットです。
Ultimでは、2022年大会の優勝者シャルル・コードレリエ(Charles Caudrelier)が、新造の Maxi Edmond de Rothschild(Gitana 18)で連覇に挑みます。対するのは、SVR Lazartigueを操るトム・ラペルシュ(Tom Laperche)や、Banque Populaire XIを操るアルメル・ル・クレアック(Armel Le Cléac’h)などです。Gitana 18 は2026年に進水した最新のフォイリング・トリマランですが、レース開始から2日後の11月3日、左舷フォイルに大きな損傷が発生。コードレリエはレースを断念リタイアし、フランスのロリアン(Lorient)へ引き返すことになってしまいました。
IMOCAクラスでは、サム・グッドチャイルド(Sam Goodchild)、コランタン・オロー(Corentin Horeau)、アンブロージョ・ベッカリア(Ambrogio Beccaria)などが上位争いを展開しています。最新のフォイラーが揃うこのクラスでは、艇の性能差だけでなく、変化する風に合わせた航路選択や、スキッパーがどれだけ艇速を維持できるかも重要になります。
また、今回から設けられたVintage Multiには、かつて外洋マルチハルレースで活躍したORMA 60のトリマランが参加しています。2018年大会の優勝者フランシス・ジョワイヨン(Francis Joyon)も、その1艇であるOcéansを操って出場しましたが、11月2日に転覆してリタイア。ジョワイヨンは貨物船に救助されています。
スタートからわずか数日で、最新鋭のフォイラーから往年の名艇まで、さまざまなトラブルが発生している2026年大会。大型マルチハルでは記録更新が期待されるほどの高速帆走が続いていますが、アゾレス諸島付近の低気圧や風の変化によって、今後の展開はまだ予測できない状況です。
どの艇が最初にグアドループへ到着するのか。そして各クラスでは、どのスキッパーが最後まで艇の性能を引き出し、フィニッシュラインを越えるのか。2026年大会も、目の離せない競走になりそうです。
最後に… 鈴木晶友君も参戦
1978年に始まったRoute du Rhumは、半世紀近くにわたり、外洋レーシングヨットの進化とともに歩んできました。艇の大きさ、船型、帆走性能が異なるヨットが、同じスタートラインから大西洋を横断する。現在でも、これほど多彩なヨットが集まる単独外洋レースは珍しい存在です。
今回の2026年大会には、日本から鈴木晶友君が IMOCAクラスのMILAI-FURUNOで出場しています。MILAI-FURUNOは2006年建造のIMOCAで旧型のダガーボード艇です。彼が目指しているのは、2028-2029年のVendée Globeへの出場で、今回のRoute du Rhumは、その出場資格を得るためにも重要なレースとなっています。

最新のフォイラーが競い合うIMOCAクラスで、約20年前に建造された艇をどのように走らせ、大西洋を渡っていくのか。その航海にも注目しながら、今年のRoute du Rhumを楽しみたいと思います。






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