ヨットのポートライト(キャビンの窓)やハッチには、ガラスではなくアクリル板が使われています。透明で軽く、さまざまな形状に加工できるアクリルは、ヨットにとって身近な素材のひとつです。
長年使っていると、表面に細かな傷が増えたり、白く曇ったり、無数の小さなひび割れが現れたりすることがあります。交換を考えてアクリル板を調べてみると、一般的なものから「マリングレード」と呼ばれる船舶向けの製品まで、さまざまな種類が見つかります。
普段はあまり意識することのないヨットのアクリルですが、実は知っておきたいことがいろいろあります。
そこで今回は、ヨットで使われるアクリルについて書いてみたいと思います。

ヨットの窓には、なぜガラスではなくアクリルが使われるのか
ヨットのキャビン側面にある窓やデッキハッチの透明な部分には、アクリル板が広く使われています。
アクリルは、正式にはポリメタクリル酸メチル(PMMA)と呼ばれる透明な合成樹脂です。ガラスに近い透明度を持ちながら、軽量で加工しやすく、屋外での使用にも適した性質を備えています。
アクリルがヨットの窓に使われる理由のひとつが、その軽さです。
一般的なアクリルの比重は約1.19で、ガラスの約2.5に対して半分以下です。同じ面積、同じ厚さで比較すると、重量はガラスの約48%になります。船体の高い位置に取り付けるデッキハッチなどでは、軽量であることが利点になります。
もうひとつの特徴が、衝撃に対する強さです。
一般的な板ガラスと比較すると、アクリルは衝撃を受けても割れにくく、破損した場合にもガラスのような細かな鋭い破片になりにくい性質があります。
ただし、強化ガラスと比較した場合には、必ずしもアクリルの方が衝撃に強いとは限りません。また、アクリルはガラスより剛性が低いため、同じ厚さでは水圧などによって大きくたわむことがあります。ヨットの窓では、波を受けたときの荷重や窓の大きさに応じて、十分な板厚を確保する必要があります。
加工のしやすさも、アクリルが選ばれる理由です。
ヨットの窓は、船体やデッキの形状に合わせて曲線を描いていることが少なくありません。アクリルは切断や穴あけ、研磨ができるほか、加熱して曲面に成形することも可能です。船体ごとに異なる窓の形状にも対応しやすい素材です。
さらに、アクリルは耐候性にも優れる点です。
適切な製品であれば、長期間日光にさらされても透明性を維持しやすく、海水に対する耐性も備えています。
もっとも、ヨットの窓がすべてアクリルというわけではありません。強化ガラスや合わせガラスを採用する艇もあり、特に大型艇ではガラス製の窓も一般的です。
アクリルには傷が付きやすいことや、温度変化による伸縮がガラスより大きいといった弱点もあります。
ヨットの窓にアクリルが広く使われているのは、単にガラスの代用品だからではなく、軽さ、耐衝撃性、耐候性、加工性といった特徴が、船舶の窓に求められる条件とよく合っているからです。
アクリル板にはどんな種類があるのか
アクリル板は、どれも同じように見えますが、製造方法によって性質が異なります。一般的に流通しているアクリル板は、大きく「キャスト板」と「押出板」の2種類に分けられます。
キャスト板(注型板)
キャスト板は、液状のアクリル原料を2枚のガラス板などで作った型に流し込み、重合させて製造するアクリル板です。
一般に分子量が高く、薬品による影響や、力が加わった状態で発生する細かなひび割れ(クレージング)に対して、押出板より優れた耐性を持つ傾向があります。また、切断や穴あけ、切削などの機械加工にも適しており、加工時に発生する応力によるトラブルを比較的抑えやすいことも特徴です。
ヨットのポートライトやデッキハッチなど、長期間屋外で使用し、水密性や耐久性が求められる場所では、キャスト板が有力な選択肢になります。
押出板
押出板は、加熱して溶かしたアクリル樹脂を、押出機から連続的に押し出して製造するアクリル板です。
大量生産に適しており、一般的にキャスト板より価格が安く、板厚のばらつきが小さいという特徴があります。また、加熱によって軟化しやすく、熱曲げや真空成形などの加工に適しています。ただし、製造時の分子配向や残留応力の影響を受ける場合があり、切断や穴あけ、接着などの条件によっては、クレージングが発生しやすくなることがあります。
ヨットの窓に使用できないわけではありませんが、長期間にわたって日射や温度変化、船体の変形などにさらされる場所では、製品の特性と施工条件を十分に確認する必要があります。
キャスト板と押出板の違い
| 比較項目 | キャスト板 | 押出板 |
| 製造方法 | 型に流し込んで重合 | 溶融樹脂を連続的に押し出す |
| 分子量 | 一般に高い | 一般に低い |
| 耐薬品性 | 比較的優れる | キャスト板より劣る傾向 |
| クレージング耐性 | 比較的優れる | 加工条件による影響を受けやすい |
| 切削加工 | 適している | 加工時の応力に注意 |
| 熱成形 | 可能 | 比較的容易 |
| 板厚精度 | ばらつきが比較的大きい | 比較的均一 |
| 価格 | 一般に高い | 一般に安い |
なお、透明度や耐候性については、キャスト板と押出板の製造方法だけで優劣が決まるわけではありません。使用される樹脂の配合や添加剤、製品ごとの品質によっても異なります。
また、アクリル板には透明なものだけでなく、スモーク、ブロンズ、グレーなどの着色品もあります。ヨットのキャビン窓に見られる濃い色のアクリル板も、基本的にはこうした着色アクリルの一種です。
着色によって日射やまぶしさを軽減できますが、色が濃いほど夜間や薄暗い場所での視認性が低下することにも注意が必要です。
ヨットに使用するアクリル板を選ぶ際には、透明か着色かという外観だけでなく、キャスト板か押出板か、さらに製品ごとの耐候性や耐薬品性などを確認することが重要になります。
マリングレードのアクリルとは
ヨットの窓に使うアクリル板を調べていると、「マリングレード(Marine Grade)」という名称を見かけることがあります。
マリングレードとは、船舶での使用を想定した製品に用いられる呼び方です。ただし、アクリル板について世界共通の「マリングレード」という品質規格があるわけではなく、この名称だけで一定の性能が保証されるものではありません。
実際に、船舶用途向けのアクリル板を製造しているメーカーがあります。
例えば、スペインのアクリル板メーカーであるASTARIGLASは、「ASTARIGLAS NAUTICAL」という船舶向けのキャストアクリル板を販売しています。
この製品は、通常のキャストアクリルとは異なる架橋構造を持つ樹脂を採用しており、耐薬品性やクレージングに対する耐性を高めていることが特徴です。
ヨットの窓は、海水や紫外線にさらされるだけでなく、洗浄剤との接触や、船体の変形による繰り返しの応力を受けることがあります。こうした環境で発生しやすい劣化を抑えることが、船舶向けアクリル板の開発目的のひとつになっています。
また、英国で生まれたアクリル板ブランドのPERSPEXも、船舶の窓やハッチに使用するキャストアクリル板を展開しています。
PERSPEXの船舶用途向け製品では、耐候性、耐紫外線性、耐海水性などが重視されています。
ただし、船舶向けとして販売されているアクリル板が、すべて特殊な樹脂で作られているわけではありません。一般的なキャストアクリル板でも、十分な耐候性を持ち、船舶の窓に使用されている製品があります。
つまり、マリングレードと呼ばれる製品と一般的なアクリル板の違いは、必ずしも原材料そのものにあるとは限りません。樹脂の配合や製造方法、耐薬品性などの性能、船舶用途を想定した品質管理や製品仕様などに違いがある場合があります。
ヨットの窓に使用するアクリル板を選ぶ際には、マリングレードという名称だけで判断するのではなく、メーカーが公表している性能や推奨用途を確認することが大切です。
一般的なアクリル板と何が違うのか
マリングレードのアクリル板と一般的なアクリル板では、実際にどのような性能の違いがあるのでしょうか。
まず、アクリルそのものが持つ基本的な性質は共通しています。透明度が高く、軽量で、ガラスより加工しやすいことや、屋外での使用に適した耐候性を持つことは、一般的なアクリル板にも備わっている特徴です。
特に、品質のよいキャストアクリル板は、紫外線による黄変が起こりにくく、海水に対しても比較的安定しています。船舶用という名称が付いていなくても、ヨットの窓に適した製品は存在します。
違いが現れやすいのは、薬品や応力に対する耐性です。
アクリルは、一定の力が加わった状態でアルコールや溶剤などに接触すると、表面や内部に細かなひび割れが発生することがあります。これをクレージングと呼びます。
ヨットの窓では、取り付け時の締め付けや船体の変形、温度変化による膨張と収縮などによって、アクリル板に応力が生じます。こうした状態で不適切な洗浄剤などが使用されると、クレージングが発生する可能性があります。
船舶向けに開発された一部のアクリル板では、樹脂の分子構造や配合を工夫することで、こうした劣化に対する耐性を高めています。
例えば、ASTARIGLAS NAUTICALでは、架橋構造を持つキャストアクリルを採用し、耐薬品性や耐クレージング性の向上を特徴としています。
ただし、こうした性能は製品ごとに異なり、マリングレードと表示されたアクリル板が、あらゆる条件で一般的なアクリル板より優れているとは限りません。
また、耐衝撃性についても注意が必要です。
マリングレードだからといって、必ずしも一般的なアクリル板より衝撃に強いわけではありません。耐衝撃性を高めた特殊なアクリル板も存在しますが、通常のキャストアクリルと同程度の衝撃特性を持つ船舶向け製品もあります。
主な違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 一般的なキャストアクリル | 船舶向けアクリル |
| 透明度 | 高い | 高い |
| 耐紫外線性 | 一般に優れる | 製品によって強化・保証される場合がある |
| 耐海水性 | 一般に良好 | 船舶用途を想定して評価される場合がある |
| 耐薬品性 | 製品による | 強化された製品がある |
| 耐クレージング性 | 製品・施工条件による | 強化された製品がある |
| 耐衝撃性 | 製品による | 必ずしも高いとは限らない |
| 価格 | 一般に選択肢が多い | 専用品は高価になる場合がある |
この表は、すべての製品に共通する性能差を示したものではありません。船舶向けアクリル板の中にも、一般的なキャストアクリルと基本的な性能がほとんど変わらない製品があります。
ヨットに使用するアクリル板を選ぶ際に重要なのは、マリングレードという名称そのものではなく、使用する場所に必要な性能を備えているかどうかです。
ヨットの使用箇所によって、適したアクリル板は違うのか
ヨットでは、キャビンの側面窓、デッキハッチ、ポートライト、コンパニオンウェイの差し板など、さまざまな場所にアクリル板が使われています。
同じアクリル板でも、取り付ける場所によって受ける荷重や日射、取り付け方法が異なります。使用箇所ごとに、どのようなアクリル板が適しているのかを見ていきます。
キャビン側面の固定窓
キャビン側面の窓は、長時間の日射や雨、海水にさらされる場所です。また、船体やデッキの変形によって、窓にも応力が加わることがあります。
こうした場所には、耐候性と耐クレージング性に優れたキャストアクリル板が適しています。
特に、フレームを使わず船体に直接接着するタイプの窓では、アクリルの熱膨張や船体の変形を吸収できる接着方法が重要になります。船舶向けの耐クレージング性を高めた製品も選択肢になりますが、接着剤との適合性を確認する必要があります。
デッキハッチ
デッキハッチは、日射や海水に加えて、波による衝撃や人が上に乗ったときの荷重を受けることがあります。
耐候性に優れたキャストアクリル板が広く使用されていますが、側面窓よりも強度やたわみに対する配慮が必要です。
ハッチの透明部分を交換する場合には、元の板厚を参考にしながら、ハッチメーカーが指定する材質や板厚を確認することが基本になります。
また、ハッチの上を歩くことが想定されているかどうかも重要です。すべてのデッキハッチが人の体重を支えられる設計になっているわけではありません。
開閉式ポートライト
船体やキャビン側面に取り付けられた開閉式ポートライトでは、窓の透明性だけでなく、閉じたときの水密性が重要になります。
ポートライトには、アクリル板を使用する製品のほか、強化ガラスなどを使用する製品もあります。
アクリル製の場合でも、単に同じ厚さの板を切り出せばよいとは限りません。窓の外周形状や厚さ、シール材との接触状態が水密性に影響します。
交換する際には、メーカー純正の交換部品、または指定された材質と寸法に適合するものを選ぶのが確実です。
コンパニオンウェイの差し板
キャビン入口の差し板は、取り外して収納する機会が多く、日常的に手で扱う部品です。アクリル製の差し板では、透明性や耐候性に加えて、取り扱い時の衝撃や傷への配慮が必要になります。
キャストアクリル板は加工しやすく、差し板の形状に合わせて製作できます。ただし、アクリルは強い衝撃によって割れることがあるため、大きな差し板や衝撃を受けやすい構造では、ポリカーボネートなど別の材料も検討対象になります。
ポリカーボネートは一般的なアクリルより耐衝撃性に優れていますが、表面に傷が付きやすく、屋外で長期間使用する場合には耐候性を高めた製品を選ぶ必要があります。
スプレーフードの透明窓
スプレーフードやドジャーの透明部分にも、樹脂製の透明材料が使われています。
ただし、布製のスプレーフードに縫い付ける透明窓は、通常の硬質アクリル板とは異なり、軟質透明PVCなどの柔軟な材料が一般的です。
折り畳みや曲げに対応する必要があるため、キャビン窓などに使う硬質アクリル板とは材料の選び方が異なります。
なお、硬質のドジャーでは、アクリル板やポリカーボネート板が使用されることもあります。
使用箇所別の材料選び
| 使用箇所 | 適した材料の候補 | 特に重視する性能 |
| キャビン側面の固定窓 | 耐候性キャストアクリル | 耐候性、耐クレージング性 |
| デッキハッチ | 船舶用途に適したキャストアクリル | 強度、たわみ、耐候性 |
| 開閉式ポートライト | メーカー指定のアクリルなど | 水密性、寸法精度 |
| コンパニオンウェイの差し板 | キャストアクリル、ポリカーボネート | 耐衝撃性、加工性 |
| 布製スプレーフードの透明窓 | 軟質透明PVCなど | 柔軟性、耐候性 |
このように、ヨットの透明部材は、すべて同じ種類のアクリル板で統一する必要はありません。
特に、強い荷重を受ける場所や水密性が重要な場所では、アクリル板の種類だけでなく、板厚や支持方法、取り付け構造まで含めて判断する必要があります。
アクリルの窓はなぜ細かなひび割れが発生するのか
長年使用しているヨットのアクリル窓には、表面に細かなひび割れが無数に現れることがあります。光の当たり方によって白っぽく見えたり、蜘蛛の巣のような模様になったりすることもあります。
こうした現象は「クレージング(Crazing)」と呼ばれ、アクリル樹脂に生じる微細な亀裂です。
クレージングが発生する主な原因は、アクリル板に加わる応力と、薬品や周囲の環境による影響です。
アクリルは温度変化によって膨張と収縮を繰り返します。その変化量はガラスや金属より大きく、アルミニウム製の窓枠などに強く固定されていると、温度変化によって内部に応力が生じることがあります。
例えば、アクリルの線膨張係数を約70×10⁻⁶/Kとすると、長さ1mの板は温度が30℃上昇した場合、約2.1mm伸びる計算になります。
実際の窓では、取り付け部分の拘束や温度分布によって変形の仕方が異なりますが、こうした伸縮を吸収できない構造では、アクリル板に負担がかかります。また、取り付け時のネジの締めすぎや、穴あけ加工によって残った応力も、クレージングの原因になります。特に、ネジ穴の周囲や窓の角など、力が集中しやすい部分から細かなひび割れが発生することがあります。
もうひとつ注意したいのが、洗浄剤や溶剤の影響
アクリルは海水や水に対して比較的安定していますが、アルコール、アセトン、シンナーなど、一部の薬品によって表面が侵されることがあります。特に、すでに応力が加わっているアクリル板に不適切な薬品が接触すると、環境応力亀裂と呼ばれる現象によって、クレージングが発生しやすくなります。
窓の清掃に使用する洗剤や、周囲のシーリング材を除去するための溶剤などにも注意が必要です。
紫外線や長期間の屋外使用も、アクリルの劣化に関係する
アクリルは一般的に耐候性の高い樹脂ですが、長期間の日射や熱、湿気などの影響によって、表面や材料の状態が変化することがあります。ただし、窓に発生したクレージングを、すべて紫外線だけが原因だと判断することはできません。
クレージングは、単なる表面の傷とは異なります。
細かな亀裂が光を散乱させることで白っぽく見える場合があり、進行すると透明性が低下します。また、亀裂が深くなれば、窓の強度にも影響する可能性があります。
特に、デッキハッチや波の荷重を受ける窓では、クレージングの発生範囲や深さに注意が必要です。
アクリル窓のクレージングを防ぐには、取り付け時に熱膨張を考慮すること、ネジを過度に締め付けないこと、加工による応力をできるだけ残さないこと、そしてアクリルに適した洗浄剤を使用することが重要です。
なお、細かなひび割れが発生していても、すぐに窓が破損するとは限りません。しかし、外観だけで亀裂の深さや残存強度を正確に判断することは難しく、荷重を受ける場所では慎重な点検が必要になります。
傷や白濁は修復できるのか
長年使用したヨットのアクリル窓は、細かな傷が増えたり、表面が白っぽく曇ったりすることがあります。こうした症状は、原因や劣化の程度によって、研磨で修復できるものと、交換が必要になるものに分かれます。
表面の細かな傷
アクリルはガラスに比べて表面が柔らかく、砂や塩の結晶が付着した状態で拭くと、細かな傷が付きやすい素材です。
浅い傷であれば、アクリル専用の研磨剤を使って目立たなくすることができます。
作業する際には、まず十分な水で砂や塩分を洗い流し、柔らかい布で汚れを取り除きます。その後、アクリル用の研磨剤を使用して、表面を少しずつ磨いていきます。
傷が比較的深い場合には、耐水ペーパーによる水研ぎを行い、段階的に番手を細かくしてから研磨剤で仕上げる方法もあります。
ただし、研磨はアクリルの表面を削り取る作業です。特定の部分だけを強く磨くと、表面に凹凸が生じ、窓越しの景色が歪んで見えることがあります。
特に、操船時の視界に関係する窓では、研磨による光学的な歪みに注意が必要です。
表面の白濁や曇り
アクリル窓が白っぽく見える原因には、表面の細かな傷、汚れの付着、材料内部の劣化などがあります。
細かな擦り傷によって透明度が低下している場合には、研磨によって改善できる可能性があります。
また、表面に付着した水垢や塩分、洗浄剤の残留物などが原因であれば、アクリルに適した洗浄方法で取り除けることもあります。
一方、材料内部に微細な亀裂が生じて白く見えている場合には、表面を磨くだけでは元の透明度を取り戻せません。
白濁しているからといって、必ずしも研磨で修復できるわけではなく、原因を見極めることが重要です。
クレージングによる細かなひび割れ
アクリルの内部や表面に発生したクレージングは、通常の傷とは異なります。
ごく浅い表面のクレージングであれば、研磨によって目立たなくできる場合もあります。しかし、亀裂が深く入り込んでいる場合には、研磨で完全に除去することはできません。
また、表面がきれいになったとしても、亀裂によって低下した強度が回復するわけではありません。
特に、ネジ穴の周囲や窓の角から亀裂が伸びている場合には、応力が集中している可能性があります。
こうした場所では、見た目を改善することよりも、窓としての強度や水密性を確保することが優先されます。
アクリル窓の修復で避けたいこと
アクリルを磨く際には、一般的なガラス用研磨剤や、成分のわからないコンパウンドを安易に使用しないことが大切です。
また、アルコールやアセトン、シンナーなどの溶剤は、アクリルの表面を傷めたり、クレージングを発生させたりする可能性があります。
電動ポリッシャーを使用する場合も、摩擦熱によって表面が変形したり、局所的に傷んだりすることがあるため、回転速度や押し付ける力に注意が必要です。
アクリル窓の補修では、専用のクリーナーや研磨剤を使用し、目立たない部分で状態を確認しながら作業するのが基本です。
修復するか、交換するか
表面の浅い傷や軽度の曇りであれば、研磨によって透明度を改善できる可能性があります。
一方、深い亀裂、広範囲のクレージング、著しい変形などが発生している場合には、交換を検討する必要があります。
特に、デッキハッチのように荷重を受ける部分では、透明度だけでなく、構造的な安全性を重視することが重要です。
アクリル窓は、古くなったからといって必ず交換しなければならないわけではありません。表面の傷なのか、材料内部の劣化なのかを見極めることで、補修できるものと交換すべきものを判断できます。
窓を交換するとき、どんなアクリル板を選べばよいのか
ヨットのアクリル窓を交換する場合、まず確認したいのは、現在取り付けられている窓の材質、板厚、形状、固定方法です。
特に、長年使用されてきたヨットでは、過去に窓が交換されている可能性もあります。現在取り付けられているものが、必ずしも建造時の仕様と同じとは限りません。
アクリル板の厚さ
アクリル板の厚さは、窓の大きさや形状、取り付け方法、受ける荷重によって決まります。
一般的なセーリングクルーザーでは、キャビン側面の窓に5〜10mm程度、デッキハッチに8〜12mm程度のアクリル板が使用される例があります。
ただし、これらは板厚の一例であり、すべてのヨットに適用できる基準ではありません。窓の面積が大きい場合や、波による強い荷重を受ける場所では、さらに厚い板が必要になることもあります。
交換する際には、造船所やハッチメーカーの指定する板厚を優先するのが基本です。元の板厚がわかっていても、取り付け構造や使用条件に問題がある場合には、単純に同じ厚さの板へ交換すればよいとは限りません。
透明か、着色アクリルか
ヨットの窓には、透明なアクリル板のほか、グレーやブロンズなどの着色アクリル板も広く使われています。
着色アクリルは、日差しによるまぶしさを軽減し、キャビン内部への光の入り方を調整できます。ただし、色が濃いほど可視光線の透過率が低くなり、曇天時や夕方、夜間には外の様子が見えにくくなります。
特に、操船時の見張りに使用する窓では、外部の視認性を十分に確保する必要があります。また、濃い色のアクリル板は日射によって温度が上がりやすい場合があり、熱膨張や取り付け部分への影響も考慮する必要があります。
加工方法にも注意が必要
アクリル板は、切断や穴あけなどの加工が比較的容易な素材ですが、加工方法によっては内部に応力が残ることがあります。特に、ドリルによる穴あけや切断面の仕上げが不適切だと、その部分からクレージングや亀裂が発生する原因になります。
穴あけにはアクリル加工に適した工具を使用し、穴の周囲に過度な力が加わらないようにする必要があります。また、切断面に鋭い角や細かな欠けが残っていると、そこに応力が集中しやすくなります。角を丸め、切断面を適切に仕上げることも重要です。
曲面の窓を製作する場合には、アクリル板を加熱して成形することがありますが、加熱温度や冷却方法が不適切だと、残留応力が発生する可能性があります。
取り付け方法と熱膨張
アクリル窓の交換で特に注意したいのが、熱膨張への対応です。
アクリルはアルミニウムやステンレスより温度による伸縮が大きいため、金属製の窓枠に固定する場合には、その差を吸収できる構造が必要になります。ネジで固定するタイプでは、アクリル板の穴とネジの間に適切な余裕を設けるなど、熱膨張によって穴の周囲に過大な力が加わらないようにします。ネジを強く締め付けすぎると、取り付け直後には問題がなくても、温度変化や船体の変形によって亀裂が発生することがあります。
一方、接着によって固定するタイプでは、アクリルと船体の伸縮差を吸収できる弾性接着剤が使用されます。
ただし、船舶用の接着剤であれば何でも使用できるわけではありません。アクリルとの適合性や、接着面の材質、必要な接着層の厚さなどを確認する必要があります。
国内でアクリル板を入手するには
日本国内でも、キャストアクリル板は樹脂材料の販売店や加工業者を通じて入手できます。
一般的な透明板や着色板であれば、板厚や寸法を指定して購入できるほか、図面に合わせた切断や穴あけ、曲げ加工などを依頼できる業者もあります。
ただし、海外で販売されているマリングレードの特殊なアクリル板については、国内で常時取り扱われているとは限りません。船舶向けの特殊な製品を選ぶ場合には、メーカーの技術資料を確認し、国内での供給状況や加工の可否を調べる必要があります。
また、既製品のデッキハッチやポートライトでは、メーカーが交換用の透明パネルや完成部品を供給している場合があります。こうした製品では、汎用アクリル板から新しく製作するよりも、純正交換部品を使用する方が、寸法や水密性を確保しやすい場合があります。
ヨットのアクリル窓を交換する際には、材料の品質だけでなく、適切な板厚、加工精度、取り付け方法まで含めて考えることが大切です。
高性能なアクリル板を選んでも、取り付け方法が不適切であれば、クレージングや亀裂、雨漏りなどの問題が発生する可能性があります。
最後に…
ヨットの窓は、普段のセーリングではあまり気に留めることのない部分かもしれません。しかし、長い年月を経たヨットでは、窓の透明度や細かなひび割れが、その船の年齢を感じさせることがあります。
窓が曇ってきたからといって、すぐに交換が必要とは限りません。反対に、見た目には大きな問題がなくても、取り付け部分に亀裂が生じていることもあります。
アクリル窓の状態を確認する際には、晴れた日に外から眺めるだけでなく、光の当たり方を変えて表面を観察し、窓の縁や固定部分にも目を向けてみるとよいでしょう。
ヨットの窓は、船内に光を取り入れ、外の景色を楽しむためのものですが、同時に海水や風雨から船内を守る船体の一部でもあります。透明であることだけでなく、その役割を長く果たせる状態に保っておきたいものです。




コメント
いつもコメントありがとうございます。
最近、多くなりましたね。
スカイライトより光の取り込みがいいからですかね…
でも、ハルに一体化するくらいの補強処理はしてると思いますけどね、どんな造り方してるのか見てみたいですね。
う~~~ん、アクリル板には言いたいことが山ほどありますね!
ヨーロッパのビルダーはなぜ、一斉に出来た船殻にNC工作機で窓枠切って、アクリル板を接着剤でくっつけるんでしょうか?
流木がぶつかることもあるし、何よりも接着剤の寿命は永久か?って思っちゃいます。
オイスターヨットみたいな高級ヨットが縦スリットのアクリル入れはじめたらあれよあれよと、すべてのビルダーが採用しちゃいました。
頑丈が売り物のハルベルグラッシーさえも最新型はハルに穴が!