ヨットのマリングレード・ファブリック

ヨットのメンテナンス

MALU号のスタックバッグ、汚れが激しくなってきて、気になり始めていました。破れているわけではないし、セイルカバーとしてもまだまだ使えるのですが、生地には緑色の苔のようなものが付着し、いくら洗ってもきれいにならず、遠目に見てもかなりくたびれた印象です。交換した方がいいとは思いながらも、なかなか決断できずにいました。

ヨットで使うスタックバッグやブームカバー、ドジャー、ビミニ、デッキカバーなどは、艇ごとに寸法を合わせて作るオーダーメイドです。しかも雨や潮風、強い紫外線を受けながら屋外に付けっぱなしになるものですから、使われる生地にもマリングレードのものを使う必要があります。

当然、作り直せばそれなりの金額になるので、「まだ破れていないし、もう少し使えるか……」そんなことを考えているうちに交換を先延ばしにして、MALU号にはずいぶんみすぼらしい姿のまま我慢してもらうことになってしまいました。

でも、ここで一つ疑問が湧いてきました。

ヨットのカバー類を作る時によく名前が出てくるのが「サンブレラ(Sunbrella)」というマリン用の生地で、ヨット乗りなら聞いたことがない人はいないほど有名ですが、これが生地代だけでもかなりお高い…。それだけの値段に見合う価値があるのか。そして、今の時代もっとコストパフォーマンスの良い選択肢はないものでしょうか。

ということで、今回はヨットに使われるマリンファブリックについて書いてみたいと思います。

なぜヨットではサンブレラなのか

サンブレラ(Sunbrella)は生地の種類を表す一般名称ではなく、アメリカのグレン・レイブン(Glen Raven)という会社が展開するファブリックブランドです。

サンブレラが誕生したのは1961年。当初は、それまで屋外で使われていた綿製のオーニング生地に代わる、耐久性の高い生地として開発されました。その後、屋外家具や住宅用オーニングだけでなく、ボートやヨットでも広く使われるようになります。

現在、マリン用途として販売されている「Sunbrella Marine Canvas」は、原着アクリルという素材で作られています。

「原着」とは、生地になってから表面を染めるのではなく、繊維を作る段階で顔料を練り込んで色を付ける方法で、繊維そのものに色が入っているため、長期間紫外線を浴びる屋外用途でも色褪せしにくいという特徴があります。

ヨットで重要なのは、色褪せしにくいことだけではありません。

スタックバッグやドジャー、ビミニなどは、雨を防ぎながら、強い日差しや潮風にも耐える必要があります。サンブレラは撥水性を持ちながら生地そのものには通気性があり、カビが発生しにくいこともマリン用途で評価されてきた理由のひとつです。

さらに、長年にわたって世界中のボートやヨットで使われてきた実績があります。メーカーはマリン用途について50年以上の実績を掲げ、現在のSunbrella Marine Canvasには、ビミニ、ドジャー、セイルカバー、ボートカバーなどが用途として明確に示されています。サンブレラのマリン用生地には10年間の限定保証が設定されており、メーカーが長期間の屋外使用を前提としていることもわかります。

サンブレラがマリン用途に使われるようになったのは1970年代です。それまでボートやヨットのカバーに使われていた綿のキャンバスに対して、原着アクリルで作られたサンブレラは、紫外線による色褪せや劣化に強く、カビにも強いという、屋外で使う生地として大きな利点を持っていました。

現在ではさまざまなマリンファブリックがありますが、サンブレラはそのずっと以前からマリン市場に入り、長年にわたって世界中のボートやヨットで使われてきました。

つまり、「ヨットのカバーならサンブレラ」という現在の評価には、生地そのものの性能だけではなく、早い時期からマリン用途に使われ、長い時間をかけて実績を積み重ねてきたという背景があります。マリン用途に使われ始めてからすでに半世紀ほど。今でも「マリンファブリックといえばサンブレラ」と言われるほどの存在になったということなのでしょう。

サンブレラ以外の選択肢は?

現在、マリンファブリックといえばサンブレラしか選択肢がないのかを調べてみると、この半世紀の間に海外ではボートやヨットで使うことを想定したマリンファブリックが、他にもいくつもあります。

そのひとつが、アメリカの「ウェザーマックス80(WeatherMAX 80)」です。ウェザーマックス80は原着ポリエステルを使った生地で、メーカーもボートカバーやビミニなどを用途として挙げています。耐候性や撥水性を持ちながら通気性も確保するという、サンブレラと同じように屋外で使うカバー類を意識したマリンファブリックです。

スペインにも「サウレダ(Sauleda)」というメーカーがあります。同社の「Sea Star」は原着アクリルを使ったマリン用の生地で、オーニングやボートカバーなどに使われています。日本でも取り扱われており、実際にヨットのスタックカバーなどに使用している業者があります。

また、フランスのセルジュ・フェラーリ(Serge Ferrari)が展開する「スタモイド(Stamoid)」のように、ポリエステルの基布にコーティングを施して高い防水性を持たせたマリン用生地もあります。

同じマリンファブリックでも、原着アクリル、原着ポリエステル、さらにコーティングによって防水性を高めたものまで、その作り方や特徴はさまざまです。つまり現在では、「マリン用の生地=サンブレラ」というわけではありません。

世界に目を向ければ、ヨットのカバーに使えるように作られた生地には、すでにいくつもの選択肢があります。

日本にもボート用の生地あります

海外にこれだけマリン用の生地があるのなら、日本にもある筈と、探してみると、ちゃんとありました。

朝日加工株式会社という国内メーカーが製造している「KTS735」と「KTS835」という生地です。

あまり聞き慣れない名前かもしれません。少なくともヨット用品として、サンブレラのように名前を目にする機会は殆どありませんが、このKTSシリーズは「ボートカバー用」「マリン用」として製造販売されている数少ない製品です。

KTS735は原着アクリル系の難燃繊維を使った生地で、表裏に撥水加工が施されています。屋外で使用するボートカバーなどを用途として想定した国産生地です。

KTS835も基本的には同じ系統ですが、こちらは裏面にアクリルコーティングが施されています。

そして気になったのが価格です。

国内で確認できる販売価格の一例では、KTS735、KTS835ともに幅約116cmで1mあたり3,000円(税別)ほどで販売されています。

ヨットのカバー用生地として考えると、かなり気になる価格です。もちろん、価格が安いというだけでサンブレラの代わりになるとは言えません。

海外製と国産KTSを比べてみる

では、国産のKTSはサンブレラなどの海外製マリンファブリックと比べて、どうなのでしょうか。

まず素材を見ると、サンブレラは原着アクリル、ウェザーマックス80は原着ポリエステル、サウレダのSea Starは原着アクリルを使用しています。KTS735とKTS835にも原着のアクリル系難燃繊維が使われています。

つまり、少なくとも「屋外で長期間紫外線を浴びることを考えて、繊維そのものに色を持たせる」という基本的な考え方は、海外の代表的なマリンファブリックと共通しています。

水への対処には違いがあります。サンブレラやウェザーマックス80は、生地に撥水性を持たせながら通気性も確保するという考え方です。完全に水を通さないシートにするのではなく、雨を防ぎながら内部に湿気を閉じ込めにくくしています。

KTS735も表裏に撥水加工を施した生地です。KTS835では、さらに裏面にアクリルコーティングが施されています。

紫外線に対する性能についても、KTS735には興味深いデータがあります。国内販売業者が公表している資料では、耐光堅牢度について「8級相当」とされ、JISの試験方法に基づいた社内促進暴露試験でも、320時間で変色は認められなかったとされています。

実は日本のKTSには、メーカーサイトで詳しい説明が無いのです。この辺りは、後程深掘りしてみたいと思います。

価格はどのくらい違うのか

国産のKTS735/835は、幅115cmの生地が50cm単位で税込1,425円で販売されています。1mにすると2,850円です。

比較するサンブレラは、マリン用として販売されている「Marine Canvas」のPacific Blue(4601-0000)だと、こちらは幅117cmで、国内では90cmあたり税込7,810円で販売されています。1mに換算すると約8,678円です。

生地幅は115cmと117cmですから、ほぼ同じなので、KTS735が1mあたり2,850円なのに対して、サンブレラは約8,678円と約3倍です。

近年は為替や原材料問題も相まって外国製品は全て高くなっているので、ここまでの価格差になってしまっていると思います。また、販売店によって、多少の違いはあると思いますが、サンブレラはやはりかなり高い傾向にある事が、ここからもわかると思います。

735と835、なぜ2種類あるのか

KTSには「735」と「835」という2種類があります。

どちらもボートカバーなどのマリン用途として販売され、価格も同じです。大きく違うのは生地の裏側です。

KTS735は撥水加工を施した生地ですが、KTS835は表面の撥水加工に加えて、裏面にアクリルコーティングが施されています。

では、なぜわざわざ2種類を作っているのでしょうか。

実は、先に書いたようにメーカーから作り分けしている理由が何処にも説明が無いだけでなく、国内の販売店やボートカバーを製作する業者のサイトも調べてみたのですが、「この用途なら735、この用途なら835」という具体的な使い分けは、ほとんど説明されていませんでした。

ところが海外のマリンファブリックを調べてみると、よく似た作り分けが実際に行われているのがわかりました。

その代表的なのがサンブレラです。通常のSunbrella Marine Canvasは、原着アクリルの織物に撥水性を持たせながら、生地そのものには通気性があります。これとは別に「Sunbrella Plus」という裏面に樹脂コーティングを施した製品があるのです。海外のボートカバー製作業者によると、このコーティングによって耐水性が高くなる反面、通常のサンブレラより空気を通しにくくなるとの説明がありました。

ここで違ってくるのが、生地の上に水が滞留するかどうかです。ドジャーやオーニングなど、生地に十分な張りや傾斜があり、雨水がそのまま流れ落ちる使い方では、水が一か所に長時間留まることはありません。このような使い方なら、撥水性を持たせながら通気性を確保するという製品でも使用上は問題ありません。しかし、大きな面積を覆うボートカバーやコックピットカバーなどでは、場所によって十分な傾斜をつけられず、生地がわずかにたわんだところに雨水が溜まることがあります。実際にこうしたカバーを使っていると、撥水性のある生地でも、水が溜まった部分から時間をかけて染み込み、やがて内側へ漏れてくるのです。

表面に落ちた雨粒を弾いて流すことと、溜まった水を長時間通さないことは、同じ性能ではありません。ここで裏面コーティングの意味が出てきます。KTS735 と KTS835 は、まさにこの造り分けを海外製品同様にしているようです。

最後に…

マリングレードのファブリックについて、調べてきましたのですが、MALU号のスタックバック、実は新しいものに交換しました。

生地は KTS735 を使って製作してもらいました。KTS735 は色がブルーと黒からしか選ぶ事が出来なかったのですが、MALU号のドジャーやビミニ、コックピットカバー、そしてスタックバックも全てブルーだったので、ブルーを選択。メーカーが異なると、同じブルーと言えどもニュアンスは異なりますが、別にそんなに気になりません。

そして、使ってみて実は1年ちょっと経過していますが、感想としては、何ら問題ないし全く綺麗なままで、生地にも張りがありつつ、しなやかでシワが寄りにくい感じです。。撥水性能も良くて中のセイルも濡れていたと言う事は今のところありません。今年の9月は長雨が続き、船にもキノコが生えそうなくらい雨が降りましたが、スタックバックは全く問題ありませんでした。以前のままなら、じっとり湿って、本当にスタックバックからキノコが生えてたかもしれません…。

そして、このKTSシリーズのマリンファブリックですが、今回調べてみて特筆できる事が1つありました。それが「難燃繊維」だと言う事。実は、他の外国製マリンファブリックには、難燃性があると説明されている物は1つもありませんでした。ヨットのファブリックに難燃性が必要なのかというと、ちょっと何とも答えようが無いのですが、燃えにくいと言うのは、安心に繋がるような気がしました。実はこのメーカーの生い立ちを見ると難燃帆布など作っていたことから、難燃素材であるモダクリルという難燃素材100%の原着アクリル系難燃繊維のマリンファブリックになったようです。

ちょっとだけ得した気分になりました。

  クリック頂けると嬉しいです
にほんブログ村 マリンスポーツブログ ヨットへ

コメント

タイトルとURLをコピーしました