スタンディングリギン 交換の判断

ヨットのメンテナンス

MALU号も船齢29年に入り、来年で購入してから10年目となります。これまでも、いろいろなところを修理し、メンテナンスしてきましたが、一度も交換を考えたことがなかったのがスタンディングリギンです。それでも船齢29年となると、さすがに気になってきます。

スタンディングリギンは、マストを支え続けている重要な艤装です。ワイヤーが破断している、素線が切れている、端末部品などにクラックがある。そんな明らかな異常が見つかれば、迷わず交換を考えるべきですが、見たところ何も問題がなければ、どう判断すればよいのか迷うところです。

ワイヤーはきれいで、素線切れも見当たらない。端末にも目立った異常はなく、サビなども見当たらない。そして、これまで普通にセーリングしてきた。それでも、使い始めてからかなりの年月が経っている。中古艇として購入して、以前にいつ交換されたものなのか分からないなんてこともあります。

こうしたスタンディングリギンを、何を根拠に「まだ使える」「そろそろ交換した方がいい」と判断すればよいのでしょうか。

そこで今回は、スタンディングリギンの交換を考えるとき、その判断材料になるものを見ていきたいと思います。

スタンディングリギンに交換時期はあるのか?

スタンディングリギンの交換時期について調べてみると、「10年くらいで交換した方がいい」という話を目にすることがあります。もし、10年が交換時期だとすれば、判断は簡単です。新艇から10年、中古艇なら前回の交換から10年を目安に交換すればいいことになります。

ところが、実際にメーカーなどが示している考え方を調べてみると、必ずしも「何年経ったら交換」という単純なものではありません。

例えば、マストやリギンを製造するスウェーデンの Seldén(セルデン)は、ワイヤー式のスタンディングリギンについて、20,000海里を「期待寿命」として、これを超えたらすべてのスタンディングリギンを交換することを推奨しています。

20,000海里というと約37,000kmです。

ここでは「10年」や「15年」といった年数ではなく、どれだけ航海に使われたかという距離が基準になっています。

また、ヨットの保険事故を数多く扱う欧州のパンテニウス(Pantaenius)では、毎年の目視点検に加えて、少なくとも4〜5年ごとに専門家による点検を受け、8〜10年ごとにリギン全体をオーバーホールし、摩耗した部品を交換することを勧めています。ただし、パンテニウスも8〜10年でスタンディングリギンを必ずすべて交換しなければならない、としているわけではありません。点検や交換の間隔は、そのヨットがどのように、どの程度使われているかによって変わるとしています。

つまり、「10年」という数字だけを取り出して、すべてのヨットに共通する交換期限と考えるのは少し違うようです。

年間数千海里を航海するヨットと、年間数百海里しか航海しないヨットでは、10年間に受ける負荷は同じではありません。レースで頻繁に強い荷重を受ける艇と、穏やかな日にクルージングを楽しむ艇でも条件は違います。

だからといって、ほとんど乗らなければ何十年でも使えると考えることもできません。

ヨットがマリーナに係留されている間も、マストやスタンディングリギンには風や波による荷重が掛かり続けています。塩分や湿気にもさらされています。

実際、パンテニウスもスタンディングリギンやその端末金具は港に停泊している間にも繰り返し荷重を受けていることを指摘しています。

こうして見ていくと、スタンディングリギンの交換時期は、「10年だから交換」「20,000海里に達していないから大丈夫」と、どちらか一つの数字だけで決められるものではなさそうです。

年数、航海距離、使われ方、置かれてきた環境、そして現在の状態。少なくとも、これらを合わせて考える必要があるように思います。

見た目が綺麗なら、まだ使える?

スタンディングリギンを点検するとき、まず目につくのはワイヤーです。

素線切れ、錆、折れ、変形などは重要な確認箇所です。セルデン(Seldén)も、ワイヤーを布で拭きながら素線切れがないか確認し、1本でも見つかった場合は、そのステイやシュラウドとともに、同じような荷重を受けてきた反対側も同時に交換するよう推奨しています。

ただし、スタンディングリギンの点検はワイヤーだけでは終わりません。

ワイヤーの両端にはターミナルがあり、その先にはターンバックル、トグル、クレビスピンなどがあります。セルデンも、これらについて摩耗、変形、クラックがないか確認するよう求めています。

特に確認したいのが、ワイヤーとターミナルの接続部分です。

パンテニウスが紹介している点検資料でも、ワイヤーとターミナルの境目には摩耗や腐食による損傷が発生することがあり、ターミナル自体にもヘアクラックや変形がないか確認するよう示されています。

もう一つ、外から確認しにくいのがフォアステイです。ファーリングジブを使用している艇では、フォアステイの大部分がファーラーの内部にあります。外から見える部分に異常がなくても、内部のワイヤーや端末部分まで確認できているわけではありません。状態を確認するには、ファーラーの分解が必要になる場合もあります。

つまり、「見た目がきれい」というときに、実際にはスタンディングリギンのどこまでを見れているのかということです。

デッキから見えるワイヤーだけなのか。端末やターンバックルまで確認したのか。マスト上部やファーラー内部まで確認できているのか。スタンディングリギンの状態を判断するには、まず「見えていない部分がある」ということです。

乗らなければ劣化しない?

スタンディングリギンの交換時期を航海距離で考えると、あまり乗らないヨットなら長く使えるようにも思えます。

例えば、年間300海里しか航海しない艇なら、10年間でも3,000海里です。セルデン(Seldén)が期待寿命として示している20,000海里には遠く及びません。

日本のクルージングヨットでは、年間の航海距離がそれほど多くない艇も珍しくないと思います。では、年間数百海里しか走らない艇なら、20年、30年と使っても問題ないのかということになりますが、ここで忘れてはいけないのが、スタンディングリギンは航海しているときだけ働いているわけではないということです。

マストを立てたまま係留していれば、スタンディングリギンには常に張力が掛かっています。風を受ければマストは動き、波や引き波で艇が揺れればリグにも荷重の変化が生じます。

パンテニウスも、ステイやシュラウド、ターミナルなどは港に停泊している間にも繰り返し荷重を受けていると説明しています。

リギンの張り具合も関係します。張力が不足していると、風や波によってマストやリギンが余計に動きやすくなります。リギン専門会社 Allsparsは、緩すぎるリギンは疲労を早め、反対に張りすぎれば艇体側に過大な負担を掛けると説明しています。

また、海上で使用する以上、塩分や湿気の影響も無視できません。特に異種金属が接する部分や、水分が残りやすい部分では腐食も問題になります。

こう考えると、航海距離が少ないことはリギンが受けてきた負荷を考える材料にはなりますが、それだけで寿命を判断することはできません。

「ほとんど乗っていないから大丈夫」とも、「20年経ったからもう使えない」とも、単純には言えないということです。

何をきっかけに交換するか?

では実際に、スタンディングリギンはどんなときに交換されているのでしょうか。

破断や素線切れ、端末部品のクラックなど、明らかな異常が見つかった場合は別として、まだ普通に使えているスタンディングリギンを交換するには、何かきっかけが必要になりそうです。

国内のヨットオーナーの記録を調べてみると、船齢16〜17年ほどで、まだ破断していないスタンディングリギンを交換した例がありました。

このオーナーは以前所有していた艇でも、船齢約17年のときにマストを倒してスタンディングリギンを総交換しています。その後所有した艇でも、船齢16年でマストを倒し、スタンディングリギンを交換しています。

興味深いのは、どちらもリギンが破断したから交換したわけではないことです。

また、マストを倒す機会に合わせて、マスト灯などの整備とスタンディングリギンの交換をまとめて行っています。

「マストを倒す」というのは、一つの大きなきっかけになりそうです。

普段は確認しにくいマストヘッドやスプレッダー、シーブ、配線などを点検でき、スタンディングリギンそのものも取り外して確認できます。マストを立てたまま交換するより、ほかの整備と合わせて作業しやすくなります。

「中古艇を購入したとき」も、交換を考えるきっかけになります。問題になるのは、前回いつ交換されたのか分からない場合です。

新艇から所有していれば使用年数も航海履歴も把握できますが、中古艇では前オーナー以前の航海及び整備記録が残っていないことがあります。見た目に異常がなくても、「このリギンは5年前のものなのか、それとも20年以上使われているものなのか」「どのんな航海をしてきたのか」が分かりません。

国内には、かなり長期間使用されたあとに実際に不具合が出た例もあります。

約35年間交換されていなかったとみられるスタンディングリギンで、ロワーサイドステーのターンバックル下部が破断した事例です。

この艇では、破断する以前にターンバックルのロックナットが電食によって割れているのが見つかり、オーナーはリギン全交換の必要性を考えていました。その後、実際に端末側で破断が起き、マストを倒してスタンディングリギンを全交換しています。

もちろん、この一例だけから「35年使えば破断する」と考えることはできません。

ただ、スタンディングリギンの交換は、必ずしもワイヤーが切れたことをきっかけに行われているわけではありません。

使用年数が長くなった。中古艇を購入して履歴が分からない。マストを倒す機会ができた。点検で気になる箇所が見つかった。こうしたことが、まだ使えているスタンディングリギンを交換するきっかけになっています。

交換するとき、どこまで交換する?

スタンディングリギンを交換するといっても、どこまでを交換するのでしょうか。

対象になるのは、フォアステイ、バックステイ、アッパーシュラウド、ロワーシュラウドなどのワイヤーです。ただし、ワイヤーの両端にはマストや船体と接続するためのターミナルがあります。一般的なスエージ式では、このターミナルはワイヤーに圧着されているので、ワイヤーを新しくすればターミナルも新しくなります。

迷うのは、その先にある部品です。

デッキ側を見ると、ターンバックル、トグル、クレビスピンなどを介してチェーンプレートにつながっています。

これらをすべて新品にするのか、それとも状態を確認して再使用するのかは、部品の種類や状態によって変わります。

セルデン(Seldén)も、スタンディングリギンの点検ではワイヤーだけではなく、ターミナル、トグル、ターンバックル、リンク、クレビスピンなどについて、摩耗、変形、クラックがないか確認するよう求めています。

つまり、ワイヤーを交換する機会には、その周辺部品も同時に点検することになります。

さらに忘れてはいけないのがチェーンプレートです。せっかくワイヤーや端末部品を新しくしても、それを受けるチェーンプレートや船体への取付部分に問題があれば、スタンディングリギン全体として健全になったとはいえません。

フォアステイの場合は、ファーラーも関係します。フォアステイを交換するためにはファーラーを取り外す必要があり、その機会にドラムやベアリング、フォイルなどを点検することもできます。

こうして見ると、スタンディングリギンの交換は、単純に「古いワイヤーを新しいワイヤーに張り替える」という作業ではありません。

どこまで交換するかは艇ごとに違いますが、少なくともワイヤーを交換する機会に、その両端からマスト側、船体側までの接続部分を一緒に確認しておく必要があります。

交換にはいくらかかる?

スタンディングリギンの交換を考えたとき、やはり気になるのが費用です。

残念ながら、日本国内では「35ftならいくら」「40ftならいくら」といった料金を公開している業者は殆どなく、一般的な相場を示すのは難しいのが現状です。

スタンディングリギンの交換費用は、単純に艇の大きさだけでは決まりません。

ステイやシュラウドの本数と長さ、ワイヤー径、ターミナルの種類、ターンバックルなどをどこまで交換するかによって部品代が変わります。さらに、マストを倒して作業する場合には、クレーンやマストの脱着、作業後のリグ調整などの費用も必要になります。

海外の例を見ると、35〜45ft程度のクルージングヨットでスタンディングリギンを一式交換した場合、6,000〜15,000ドル程度という目安が紹介されています。

実際の例では、34ftの Catalina 34 で、マストを倒し、スタンディングリギンを交換して、再びマストを立ててリグを調整するところまで業者に依頼した見積りが 15,000ドルを超えたケースもあります。

このオーナーは最終的に自分で交換する方法を選び、ワイヤーや端末部品など一式を購入した費用は、送料や税を含めて約4,000ドルでした。

同じ艇でも、部品を購入して自分で作業する場合と、マストの脱着から交換、調整まで専門業者に任せる場合では、これだけ大きな差が出ることがあります。

もう一つ考えておきたいのが、マストを倒したことで見えてくる整備です。

普段は簡単に手を入れられないマストヘッドのシーブ、スプレッダー、マスト灯、VHFアンテナや同軸ケーブル、電気配線などを間近で確認できます。ファーラーも取り外すのであれば、その整備も同時に行う機会になります。

「せっかくマストを倒したのだから」と整備範囲を広げれば、当然ながら費用も増えていきます。

つまり、スタンディングリギンの交換費用を考えるときには、ワイヤー一式の価格だけを見てもあまり意味がありません。

どこまで部品を交換するのか。マストを倒すのか。誰が作業するのか。そして、同時にどこまで整備するのか。まず交換する範囲を決めなければ、必要な費用も決まらないということです。

最後に… 何を見て判断する?

ここまで見てきたように、スタンディングリギンには、すべてのヨットに共通する「何年経ったら交換」という期限があるわけではありません。

では、自分の艇ではどう判断すればよいのか。

まず、破断、素線切れ、端末部品のクラック、著しい腐食や変形など、明らかな異常が見つかった場合は話が別です。これは「そろそろ交換した方がいいだろうか」と考える段階ではありません。使用を続けず、必要な範囲を交換すべき状態です。

難しいのは、そうした異常が見つからない場合です。

ここで最初に確認したいのが、現在のスタンディングリギンがいつ取り付けられたものなのかです。

次に、そのリギンがどのように使われてきたのか。

そして、現在の状態の詳細な確認です。

ワイヤーだけではなく、ターミナル、ターンバックル、トグル、ピンなども含めて見る必要があります。ファーラー内部のフォアステイやマスト上部など、普段の目視では確認できない場所もあります。

問題は、ここまで確認しても「あと何年使える」と正確に判断することは難しいということです。

セルデン(Seldén)が示す20,000海里という期待寿命も、他で示されている年数の目安も、個々の艇のリギンがその数字まで必ず使えることを保証するものではありません。

反対に、ある年数を超えた瞬間に使えなくなるという意味でもありません。

だからこそ、交換履歴が分からない、かなり長期間使われている、あるいは自分で確認できない部分が多いという場合には、一度、専門家にリグ全体を見てもらうことが、交換するかどうかを決めるための大きな判断材料になると思います。

スタンディングリギンの交換を考えるときに必要なのは、「何年経ったか」という数字だけではありません。

いつから使っているのか。どのように使われてきたのか。そして、今どのような状態なのか。

この三つを把握することが、交換するかどうかを考える出発点になるということのようです。

  クリック頂けると嬉しいです
にほんブログ村 マリンスポーツブログ ヨットへ

コメント

  1. ちょっと太めのじいさん より:

    スウェーデンではもうこの時期には毎年マストを抜いて、艇庫にしまうから自動的にチェックできてしまいますね。
    マスト抜きって日本じゃとんでもなく大がかりだけと彼らはちょちょいのちょいのようです。
    フランスでも運河に行くときは抜くので手慣れたもので作業工賃、数万円とか仲間が言ってましたね。
    僕らはマストへ登らないとチェックできないのでなにか修理のときぐらいしかチェックできません。。。勿論、僕にはできません。。

タイトルとURLをコピーしました