DMG MORI Sailing Team、新たなステージへ

2026年9月1日、ニューヨークをスタートする「The Ocean Race Atlantic 2026」に、完成したばかりの IMOCA60(フォイリング)新艇「DMG MORI GLOBAL ONE」で白石康次郎さん率いるDMG MORI Sailing Team が参戦。

これまで Vendée Globe(ヴァンデ・グローブ)を中心に、シングルハンド世界一周レースへ挑戦してきた DMG MORI Sailing Team にとって、今回のレースは単なる新艇のデビュー戦というだけではない意味があります。

2027年の The Ocean Race 世界一周、そして2028年の Vendée Globe へ向けた、新しい4年間のキャンペーンの本格的なスタートでもあります。

そこで今回は、スタートしたばかりの The Ocean Race Atlantic とDMG MORI Sailing Team、そして新艇についてまとめておきたいと思います。

The Ocean Race Atlanticとは?

The Ocean Race Atlanticは、2026年に初めて開催される新しい大西洋横断レースです。

The Ocean Raceといえば、1973年にWhitbread Round the World Raceとして始まった、世界を代表するフルクルー形式の世界一周レースとして知られています。(VOLVO OCEAN RACE という名称の方が馴染みがあると思いますが、メインスポンサーのVOLVOが外れてから、The Ocean Race という名称になっています。)

しかし、今回の Atlantic は世界一周レースの1レグではなく、ニューヨークからフランス・ロリアンまで、北大西洋を一気に横断する独立したレースとして新設されました。

The Ocean Race が50年以上に及ぶ歴史の中でも、こうした独立した point-to-point形式 のレースを開催するのは初の試みとなります。

2026年大会には6チームが参戦

使用艇はすべてIMOCA60(フォイリング型)艇で、男性2名、女性2名による4名のレーシングクルーに、OBR(On Board Reporter)が1名乗船するというルールになっています。特に注目されるのが、男女比を完全に50:50とするクルー構成にあります。The Ocean Race の長い歴史でも、全艇に男女同数のレーシングクルーを義務付けるのは今回が初めてです。

約3,000海里の「大西洋スプリント」

コースはアメリカ・ニューヨークからフランス・ロリアンまでの、およそ3,000海里over。

世界一周レースと比較すれば短いですが、現在のフォイリングIMOCAにとっては、かなり激しい超高速のスプリントレースになる設定です。

ニューヨークを出た艇団が最初に向き合う重要な要素のひとつが Gulf Stream(メキシコ湾流)で、大西洋を北東方向へ流れる強い海流をどのように利用するのか。そして、北大西洋を通過する低気圧や前線をどう捉えるのか。これらのコースどりによっては、最新世代のIMOCA60が長時間にわたって20ノットを大きく超える艇速で走り続けることになります。

Vendée Globe とは異なり、今回は4人のクルーが交代しながら艇を走らせるので、シングルハンドではスキッパー自身が睡眠を取るために艇の負荷を下げなければならない場面も出てきますが、フルクルーなら高いパフォーマンスを24時間維持することが可能となります。

言い換えれば、The Ocean Race Atlantic は最新IMOCAの純粋な高速性能を見るうえでも、非常に興味深いレースになりそうです。

DMG MORIにとって初の本格的フルクルーレース参戦

今回、DMG MORI Sailing Team にとって大きな変化となるのが「クルーで戦う」ということです。

白石康次郎さんはこれまで Vendée Globe をはじめ、シングルハンドの外洋レースを中心に活動してきました。(一部のIMOCAレースではダブルハンドの経験はあります)

しかし、2027年1月には、スペイン・アリカンテから The Ocean Race 世界一周に挑戦することが、既に決定されており、そのためチームは、フルクルーIMOCAの経験を一気に強化しています。

その中心人物としてチームに加入したのが、Nicolas Lunven(ニコラ・リュンヴェン)とSam Davies(サム・デイヴィス)です。

Lunven は2024-25 Vendée Globeで6位。The Ocean Race 2022-23ではTeam Malizia のナビゲーターとして世界一周を経験しています。Daviesも4度の Vendée Globe 出場経験を持ち、The Ocean Race では Team SCA のスキッパーや Biotherm のクルーとして参戦してきた、世界でも有数のIMOCAセーラーです。

白石さん自身も The Ocean Race Atlantic について、「最初の挑戦はクルーで走る The Ocean Race Atlantic になる。私たちには、より多くの経験が必要になる」という趣旨のコメントをしています。

クルーにはさらに、日本の若手セーラー 守屋ありさ(Arisa Moriya)が加わっています。30歳の守屋にとって今回がIMOCAでのレースデビューとなり、The Ocean Race Atlantic への出場によって、この種のレースに挑む初のアジア人女性となります。将来のThe Ocean Race 出場を目標としており、白石康次郎、Nicolas Lunven、Sam Davies という経験豊富なセーラーとともに大西洋を横断する今回のレースは、貴重な実戦経験となるに違いありません。

そして5人目が、Anne Beaugé(アンヌ・ボージェ)。彼女は艇を走らせるレーシングクルーではなく、OBR(On Board Reporter)として乗船します。レース中の映像や写真、艇内の様子などを記録・発信し、陸上にいる私たちへ北大西洋を戦うGLOBAL ONEの姿を伝える役割を担っています。

ソロレースとは異なる船内共同生活はもとより、ワッチシステム、クルー間のコミュニケーション、セールチェンジ、ナビゲーション、そして艇を24時間高いレベルで走らせ続けるためのチームワーク。今回の Atlantic は、それらを実戦で確認する最初の機会となります。

完全新設計の「DMG MORI GLOBAL ONE」

今回、何より注目したいのが最新型の新艇です。
新しい DMG MORI GLOBAL ONE は2026年6月4日にロリアンで完成艇として公開され、その後7月6日したばかり、艇の設計は現在の世界のレーシングヨット設計界を代表する人物の一人で、IMOCA、Ultim、America’s Cup、Class40など、外洋艇とフォイリング艇の双方でトップレベルの実績を持つ Guillaume Verdier(ギヨーム・ヴェルディエ)により、フランス・VannesのMultiplastで建造された最新世代のIMOCA60 です。
セイルナンバーはいつも通りの「JPN 11」、全長18.28m、全幅5.85m、マスト高29m、最新デザインのフォイル艇です。
しかし、その姿を初めて見たときに目を引くのはフォイル以上に船体形状です。
従来のIMOCAとは明らかに異なる、かなり大胆なデザインのハルを採用しています。

白石さんは新艇発表時に、「これが私の最後の船になるので、特別なものにしたかった」と語り、設計者Verdierとそのチームには「自由な発想で制限を設けずに考えてほしい」と求めたそうです。

チームメンバーである Sam Davies も、従来のIMOCAとは明らかに異なる船体形状であり、理論上はスラミングを大幅に減らし、これまでより早くフォイリング状態へ移行できる船型だと説明しています。

もちろん、実際に他の最新IMOCAと比較してどの程度の性能を発揮するのかは、まだ未知の部分がありますが、だからこそ今回のAtlantic は見どころが多いとも言えます。

新艇にとって「本番で行うシェイクダウン」

GLOBAL ONEはまだ生まれたばかりの艇で、The Ocean Race Atlantic は、この船にとって最初の公式レースとなります。

3,000海里以上の北大西洋を、世界トップレベルのIMOCAと競いながら全力で走ることになります。これは通常の海上テストとはまったく異なります。

フォイルのセッティング、セール選択、オートパイロット、バラスト、クルー配置、ワッチシステム、電力消費、艇内環境、スラミング、そして何より故障や構造上の弱点。実戦でなければ見えてこない問題が次々と出てくるはずです。

Sam DaviesもAtlanticを前に、「目標は一緒に学び、改善すること。そして自分たちの強みと弱みを完全に明確にすること」と語っています。

つまり DMG MORI にとって Atlantic は、もちろん勝利を目指すレースであると同時に、2027年の世界一周に向けた極めて重要な実戦シェイクダウンでもあるということです。

Atlanticの先にあるThe Ocean Race 2027

Atlantic終了後、チームはすぐに次の段階へ移ります。2026年9月から12月にかけて GLOBAL ONE とチームをさらに仕上げ、2027年1月には The Ocean Race のスタートラインに立つ計画です。

The Ocean Race は世界一周です。短期間のAtlanticとは比較にならないほど、艇の信頼性、修理能力、クルーの体力、チームワークが要求されます。今回の新型GLOBAL ONEは、そもそもこの The Ocean Race 2027 をフルクルーで戦うことを第一段階として設計されています。
しかし、この艇の物語はそこで終わらない。
最終目標は Vendée Globe 2028 です。

The Ocean Race を終えた GLOBAL ONE は、その後シングルハンド仕様へと更に最適化されます。
そして2028年11月12日、白石康次郎さんが再び Vendée Globeのスタートラインに立つ計画なのです。

つまり今回の新艇は、「The Ocean Raceをクルーで世界一周する艇」であると同時に「Vendée Globeを白石康次郎ひとりで世界一周する艇」でもあるのです。

この二つを最初から一隻で実現しようとしているところが、今回のGLOBAL ONEプロジェクトの非常に面白いところだと言えます。

DMG MORI Sailing Teamのロードマップを整理すると、

2026年
新艇DMG MORI GLOBAL ONE完成

The Ocean Race Atlantic
ニューヨーク → ロリアン

2027年
The Ocean Race
フルクルー世界一周

クルード仕様からシングルハンド仕様へ最適化

2028年
Vendée Globe
白石康次郎による単独無寄港世界一周

となります。

最後に…本当の評価が、いよいよ始まる

新しいGLOBAL ONEは、見た目だけでもこれまでのIMOCAとはかなり違います。しかし、レーシングヨットは設計思想がどれほど優れていても、実際に海を走って初めて評価できるものです。

特にIMOCAは、コンピューター上の数値だけでは分からない予測不能の荒れた海面を、何週間、何か月にも渡って走らなければならないのです。今回のThe Ocean Race Atlanticは、その最初の答え合わせになるとも言えます。

しかも相手には、同じく2026年に完成した最新艇 Malizia 4をはじめとするトップIMOCAがいます。新しい船体形状は本当にスラミングを減らせるのか。低い風速から素早くフォイルへ乗せられるのか。北大西洋の荒れた海面で平均速度を維持できるのか。

そして白石康次郎を中心とする新しいフルクルー体制が、世界のトップチームに対してどこまで戦えるのか。

2027年のThe Ocean Race、さらに2028年のVendée Globeを考えれば、今回の順位だけでGLOBAL ONEの成否を判断するべきではありません。

むしろ注目したいのは、「この3,000海里で、チームが新艇からどれだけ多くのことを学べるか」だと思います。

DMG MORI Sailing Teamと白石康次郎の新しい世界一周プロジェクトが、いよいよここから始まります。

【参考・出典】

The Ocean Race
「DMG MORI Sailing Team – The Ocean Race Atlantic 2026」

The Ocean Race
「New IMOCA and Star Crew: DMG MORI Sailing Team ramps up for The Ocean Race Atlantic 2026 and The Ocean Race 2027」

IMOCA
「The DMG MORI Sailing Team embarks on its first crewed offshore challenge at The Ocean Race Atlantic」

IMOCA
「DMG MORI GLOBAL ONE – The big reveal in Lorient」

DMG MORI
「DMG MORI GLOBAL ONE」新艇発表資料

※本記事は2026年9月2日時点でThe Ocean Race、IMOCA、DMG MORIが公表している情報を基に構成しています。

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