ヨットに乗り始めると必ず遭遇するのが、マスト回りの不具合やメンテナンスでのマストクライム(マストのぼり)することです。僕は人生で初めてヨットに乗った日にヨットのオーナーから、その日のメンバーの中で一番身軽に動けそうだからマストに上って作業してくれないかと言われてマストクライムすることに…。ボースンチェアーをハリヤードにつなげて引っ張り上げて貰えるものだと思っていたら、ウインチでの巻き上げが大変だから「自分でも登って」と言われ、マストにしがみつきながら子供が棒登りをするように上がりながら下でウインチを巻いてもらうというような具合で登りました。

クルーが沢山いれば、マストクライムも非常に楽で命綱まで付け、それを下の人たちがコントロールして登れるので安心感も大きいですが、僕たち夫婦のように2人だけで作業するときにはそうも行きません。当然、マストに登るのは僕で妻は下で作業を見守る程度しか期待できません。まさか体重60キロの僕をウインチで巻き上げてくれと言っても妻にはできないでしょうし…。降りるときのロープを緩めて送り出す作業をミスすると、いきなり落下というリスクがあります。結局、人任せのマストクライムはリスクがかなり伴い危険だなって思いました。

では、人任せにすることなく、一人でどうやってマストに登ったらいいんだろうと、いろいろと考え始めた頃に、たまたま海洋冒険家の白石康次郎さんのレース艇(スピリットオブユーコー)を見学する機会があり、白石さんに単独世界一周レースの時に海上でのマストクライムはどのようにされているのかという事を伺ったところ、登山用の登高器を使って上っていると教えてくださいました。それを参考に僕もクライミングのことをいろいろと調べて、現在では今回ご紹介する方法でマストクライムをするようになりました。

そこで今回は、マストに安全に登る方法について書いてみたいと思います。

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【注意】マストクライムはオウンリスクで実施する

これからクライミング用の器材や昇り降りの方法をご紹介しますが、先ず最初に申し述べておきたいことは、マストクライム作業には常にリスクが伴うことを十分ご理解ください。
また、仮に補助できる人が居たとしても、その人に身を任せるような方法は絶対に取るべきではありません。仮にその人の操作ミス等で落下事故になってしまっても、その補助した人の責任にはできません。必ずオウンリスク(自己責任)を前提として、自らセッティング等を行い、正しい知識と練習を行ったうえでマストクライムにのぞむ必要があることを十分に認識してください。

クライミング技術を使って上る

クライミング技術
ロープクライミングの技術と器材を使用すれば安全にマストクライムすることができます。登高器(アッセンダー)を2個使って尺取り虫のようにマストを上る方法が一般的です。また、下降する際には下降器(ディセンダー)を使ってスピードをコントロールしながら安全に下降することができます。
下の動画は、登高から下降の一連の流れを説明しています。

ロープクライミングでの登高・下降の方法

動画では2本のロープ()が上から降りてきています。い方が登高・降下用のロープで、い方が落下防止用の予備ラインです。

登高(上る)する場合

チェストアッセンダーとハンドアッセンダーの2個を使用して尺取り虫のように上ってゆきます。ハンドアッセンダーにはフットロープが付けられていて、フットロープ上に立ち上がることで上ります。動作の流れは以下の通りです。

➀チェストアッセンダーで体を保持~➁ハンドアッセンダーを上へスライド~➂フットロープに立ち上がり上へ移動~➀チェストアッセンダーで体を保持~➁ハンドアッセンダーを上へスライド~➂フットロープに立ち上がる…という一連の動作を繰り返して登高します。

下降(下る)の場合

下降する場合には、アッセンダーからディセンダーに切り替える作業が発生します。下降する際には、ディセンダー取付後にディセンダーで体を保持した後、アッセンダーを切離します。手順は以下の通りです。

➀チェストアッセンダーで体を保持した状態にします。➁チェストアッセンダーより下の位置にディセンダー(下降器)を取付け、ハーネスと連結します。➂フットロープに立ちあがったらチェストアッセンダーをロープから外します。➃体をディセンダーで保持します。(この段階でいロープにディセンダーでぶら下がっていることになります。)➄フットロープを足から外し、手はディセンダーに移します。➅ハンドアッセンダーはそのまま残して降下します。(ハンドアッセンダーは、マストクライムの場合にはハリヤードを下ろせば回収できるので、動画のようにハンドアッセンダーを外す必要はありません。)

落下防止の予備ライン

動画のい方のロープは落下防止用の予備ラインで、い方のロープが切れたり器具の不良で万が一落下してしまった時、落下を食い止めるためのフォールアレスター(落下防止器具)が取り付けられています。フォールアレスターは人の動き(上下動)に追従して動きますが落下時にはアサップに荷重がかかるとロックされてその場に保持される仕組みです。

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ロープクライミング用必要器材

クライミングハーネス

ヨットだとボースンシートが一般的ですが、クライミングでマストに上る際にはクライミングハーネスを使用します。体に食い込まない太めのベルトで出来ているものをオススメします。

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ハンドアッセンダーとフットテープ

ハンドアッセンダーはフットテープと組み合わせて使用します。ハンドアッセンダーを上方にスライドさせ、フットテープに足を掛けて立ち上がると上に進むことができます。

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チェストアッセンダーとハーネススリング

チェストアッセンダーは体を保持するためのアッセンダーです。ハーネススリングはチェストアッセンダーの向きを上下に保持するためにサスペンダーのように肩に掛けてチェストアッセンダーを引き上げる役目があります。

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ディセンダー(スピード調節型下降器)

ディセンダーはいろいろな種類がありますが、その中でも下降スピードを調節できるタイプを選ぶようにします。ハーネスとの接続には後で紹介するカラビナD型を使用します。

カラビナD型

カラビナは器具とハーネスを繫ぐのに使います。チェストアッセンダーとハーネス、ディセンダーとハーネス、の2個が必要です。似たようなカラビナがありますが、必ずクライミング用の25KN以上の強度のものを使用します。

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【注意】カラビナには形状と種類によって使い方が異なります。詳しくは こちらをご参照 ください。

フォールアレスター

上下動に追従するタイプのフォールアレスターは若干値段が高いですが、保険のようなものですので良いものを選んでおくと、もしもの時に安心です。

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クライミングロープ

ヨット用のハリヤードを使ってアッセンダーやディセンダーを取り付けて使用すると、ロープに傷が入ってしまうので直接使用はせずに、ハリヤードでクライミングロープを持ち上げてクライミングロープで登高・下降作業をするようにします。

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ロープクライミングするには体力も必要

このマストクライムの方法は、ロープの下側は固定しません。つまり、上り始めはかなり不安定で全身の筋肉を使います。慣れればバランスをとれるようになってくるのですが、それでも上るときにはある程度の筋力を必要とします。体をクライミングロープに預けてリラックスした状態でぶら下がることができるようになれば、不必要な体の力を抜いて上ることが出来るようになります。また、不安定なロープ上で自分の体重を腕の力と片足で何度も持ち上げる必要があるので、体力が必要になります。慣れないうちは、かなり疲れるとおもいますので、ある程度は体力に自信のある方しかオススメできません。できれば、マストに上る必要がなくても、上る練習を体力トレーニングのつもりでやっておくと、いざと言う時には割と楽に登れるようになると思います。

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最後に…

マストクライムの方法を考え始めた時に、先ずはネットでマストクライム用の専用グッズが売っていないかいろいろと調べました。海外で何通りかの方法でマストクライムのための用品が出ているのを見つけることができましたが、日本のヨット用品店では取り扱いがありません。あまり売れないからなんでしょうね。そこで、次はマリーナの人に手伝って貰って上るということを考えましたが、冒頭にも書いたように、手伝ってもらうという事は、その手伝って貰う人にもリスクを負わせることになります。

マストクライム

そこで、自分一人で作業できる方法が何かないのかと考えると、結局のところ今回ご紹介したロープクライミングに辿り着くわけです。ロープや器具の扱い方など、実際には少し勉強する必要がありますので、そのあたりはクライミングの本やネットで調べて学習し、器材を買い揃え、誰も居ない早朝にヨットのハリヤードにクライミングロープを取り付け上げてみて、上る練習を何度かしてみました。きちんと事前学習をしておけば、案外すんなりと上ることができます。しかし、上ってみないと解らないこともありますから、いきなり高いところまで上るではなく、体を吊るせる程度の高さまで上がってみて、最悪は機材を外しても降りれる高さで登高器から下降器への切り替えなどの練習もやってみました。ここが最も難しくて手順を間違えると怖い思いをすることや、切り替えには慣れが必要だということも、そんな練習の中で解りました。ですから、練習は必ず行って十分にこれで安全にできそうだっていう自信がついてから本格的な作業に入るようにしてください。

マストクライムもヨットを楽しむ一コマということで、是非、楽しんでやってみることをオススメします。

海外サイトで見つけたマストクライム用の用具については、また別の機会にご紹介したいと思います。

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