「ヨットのセイル(帆)の形は?」と聞かれたら、殆どの人は三角形だと答える筈です。ヨットの絵を描くときにも、殆どの人は三角形を二つ相合傘のように船の上に描くと、これはヨットって言う筈です。
しかし、「ヨットのセイルの角っこの部分は何ていうか知ってる?」と聞くと、一般の人は殆ど答えられないと思います。何故なら、一般的に使う言葉ではないからですが、これがヨットに乗るとなると、けっこう重要なワードとなります。
ヨットのセイル(帆)には、その三角形の三つの辺、三つの角にそれぞれ決められた名称があります。何故なら、ヨットの帆の三角形には取り付ける向きがあり、役割があるからです。そして、この三角形の三つの角の引き具合や三つの辺の具合などを調節することで風をセイル(帆)に最適な形で流す(または、受ける)ようにすることで、ヨットをより早く走らせることができるようになるわけです。
ヨットが風で走る理論はいろいろなところで説明されているので、ここでは話をセイル(帆)の各部名称にフォーカスしたいと思います。

Parts of Sail

そこで今回は、ヨットのセイル(帆)の各部名称を深堀りしてみたいと思います。

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セイル(帆)の各部名称

一般的なスループタイプのセーリングクルーザーの場合、セイルは2枚です。また、マストが2本になっても基本的には三角形のセイル(帆)の場合には各部の名称は変わりません。

Parts of a Sail
セイル(帆)の各部の名称には、マストの後側に取り付ける「メインセイル」”MAINSAIL” 、前側につける「ヘッドセイル」”HEADSAIL” でも、基本的に各部分の名称は同じルールで同じ名前です。
ルールは簡単です。セイルは基本的に船の前側になる辺を固定して後ろ側に吹き流す形に取り付けます。セイルの三つの角(かど)のそれぞれの名称は、固定される前側の下の角を「タック」”Tack”、固定される側の頂点を「ヘッド」”Head”、吹き流される後端の角を「クルー」”Clew”と呼びます。
また、三つの辺(へん)のそれぞれの名称は、タックからヘッドの間の辺を「ラフ」”Luff”、ヘッドからクルーの間の辺を「リーチ」”Leach”、クルーからタックの間の底辺を「フット」”Foot”と呼びます。
つまり、「ラフ」の辺がメインセイルの場合にはマスト、ヘッドセイルの場合にはフォアステーに固定されていると言うことになります。

セイルの肝心要(かんじんかなめ)の角「タック」

「タック」”Tack” は、元来は「食べ物」という意味があり、昔の帆船は長期の航海用に固い乾パンのような食べ物を大量に積み込み、それを “hard tack” と言っていました。それに対して、船内でオーブンが使えるようになり柔らかいパンが焼けるようになると、それを “soft tack” と呼ぶようになります。”tack” という言葉の語源は、古いドイツ語の takel というロープのことを指す言葉から来ていると考えられており、「(ロープは帆船に)いつでもそこにある物」という意味合いで “tack” という言葉が船上では使われていたようです。そして、乾パンも大量にいつでも無くなることなくあったことから、「いつでもある固いやつ」的な表現で “hard tack” と言うようになったようです。
さて、セイルの部分を示す「タック」ですが、現代英語では「留め金」というような意味がありますが、まさに セイルを船体に留める(固定する)ことを「タック」と言う ようになったわけです。これは前段で説明した「いつでもあるもの = 帆船でいつでもあるロープ」でしっかり縛り付けておく的なニュアンスで「そこをタックして(おいて)…」的な表現から、その部分を「タック」と言うようになったと考えられています。

因みに、セイルとは関係ない話ですが、”hard tack” というと「不味い食い物」と言う感じのスラングになります。「これ、激マズ(不味)」的な感じの表現に使われたります。

セイルをセットするときは風上に向ける「ラフ」

「ラフ」という言葉は、風上に向かう(風上に船首を向ける)ことを指す言葉です。
言葉の起源は、中世のフランス語で”LOF”という言葉があり、意味は「掌(てのひら)」ですが、当時の帆船の方向転換には大型のオール(櫂)のような舵を使っていました。この大型の舵用のオールのことを「掌(てのひら)のようなオール」と表現して「舵を切って風上に向けて…」という表現の時に”LOF….”と言ったところから、風上に向けることを”Luff”「ラフ」と言うようになったようです。
つまり、今でもヨットではセイルを上げ下げするときには船首を風上方向に向けますが、近代の帆船でも同じようにしていたことから、 セイルの風上側の辺を「ラフ」 と呼ぶようになったわけです。
因みに追風状態の時には、そのまま横帆を広げて走り始めていました。では、横帆しかなかった時代の古代帆船で風上に船首を向けるとは、どんなときだったのでしょうか? それは、大きなオールで人力で漕いでいたのです。風を利用できない辛い仕事が始まるときに「ラフするぞ~」と言ったと思われるわけです。

セイルの風が抜ける側「リーチ」

「リーチ」”leech” は、現代英語の和訳だと、吸血生物の「ヒル」のことを意味する言葉です。また、他の文献などでは、”leech” のスペルは本来は “leach” ではないかとも書かれています。”leach” の意味は「浸出」と言う意味で、コーヒーを淹れる時にフィルターから落とす、あの浸出です。何となく、当たらずとも遠からじと言った感じです。また、いろいろと調べてみたのですが、語源不明としっかり書かれているところもありました。
しかし、スペルを分解してみると、”lee” は風下を示す言葉の “Lee” です。”Lee side” で「風下舷」、”Lee tide” で「風下方向へ流れる波」と言った具合に、”Lee”は「風下」を示す単語なので、これが最も正しい解釈ではないかと思います。
残りの “ch” は、何の “ch” なのかは解りませんが、おそらく口語で「リー」と言っていたのを書き起こしたところ “Leech” と書いちゃったのではないかと想像したりします。
つまり、”Luff”(風上)に対して “Leech”(風下)と言うことで、「セイルの風下側」の辺 ということです。

ギリシャ神話のアリアドネの糸「クルー」

セイルの「クルー」”clew” は、セイルの風下側(リーチ)の下側の角のことを示します。
この “clew” と言う単語は12世紀以前から「糸の玉」という意味で使われている言葉で、その起源となったのが「ギリシャ神話のアリアドネの糸」という話です。
テセウスが牛頭人身の怪物ミノタウロスを退治するために迷宮に入るとき、クレタの王女であるアリアドネはテセウスに糸玉を持たせ、迷宮に入っても、その糸を辿れば帰って来れるように手助けしたという話です。(かなり大雑把に省略した説明ですので、詳しい内容はこちらをご参照ください。)

現代英語では”clue”と綴り、その語源も「ギリシャ神話のアリアドネの糸」から来ており、問題の「手がかり」とか問題の「糸口」という意味に使われる言葉です。このように糸玉から糸が出ている様子と同じように、セイルの端を引くためにロープを付けている様子のことを”clew”と表現したわけです。
元々は横帆だけの帆船時代に四角形の両側下端の角を”clew”と呼び、ここからロープが垂らされていたことから、この様子を「アリアドネの糸」つまり”clew”と表現したのです。三角の帆になってからも、帆の端から引手用のロープが出ている場所をそのままクルーと呼ぶようになったわけです。縦帆はその後に出現するセイルなので、同様にヘッドセイルに倣って 風下側の角を「クルー」 としたわけです。

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最後に… 「ヘッド」と「フット」は読んで字の如く

ヨット用語は帆船時代からあったものは全て、その時代から言い継がれてきた言葉ばかりです。特にセイル(帆)は、最も古くからある物で、その呼び名は船乗りたちによって使われ続けてきた言葉ばかりで、歴史に従って古い綴りのままでそのまま現代でも用いられています。

因みに、まだ説明していない「ヘッド」”head”と「フット」”foot”ですが、これは読んで字の如く、「ヘッド」は「頭」、「フット」は「足」ですから、 セイルの上側の角を「ヘッド」、足元の辺を「フット」 というわけです。
因みに、現代のヨットでは付けることはありませんが、古いスタイルのトップスルスクーナーなどの「四角形の横帆」”Square rigged sail” の場合には、上側の辺を「ヘッド」と言い、下側の辺を「フット」と言います。(四角形の横帆に関する詳細はこちらをクリック
また、現代のスパンカーのような「台形のセイル」”Spritsail” の場合には、四角形の帆に倣って、上辺を「ヘッド」と呼び、最も高い部分の角を「ピーク」”peak”(頂上)と呼びます。(台形のセイルに関する詳細はこちらをクリック

単純な物は、とてもシンプルに単純な単語が使われていますが、基本的には命令が間違いなく伝わる言葉として用語化されていますので、中には、いろいろと考えた挙句に、これに決めたって感じのストーリ性のある名称もあって、なかなか奥深いですね。

 
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