エンジンを止めてセイルだけで走っているとき、シフトレバーはどの位置にしていますか?
ニュートラルにしている人もいれば、後進に入れてプロペラの回転を止めている人もいるようで、これについてはいろんな意見が飛び交っている状況です。
エンジンを使って走っていないから、どちらでも大きな違いはないように思えます。しかし、海中にあるプロペラは、帆走中も水の流れを受け続けています。
では、エンジンを停止して帆走するとき、シフトレバーはどの位置にしておくのが正しいのでしょうか。
今回は、ヨット乗りならではの、ギアポジション問題について深掘りしてみたいと思います。

帆走中の固定プロペラはどうなっているのか
エンジンを停止してセイルだけで走っているときも、水中のプロペラには水の流れが当たり続けています。
固定プロペラは、エンジンを停止しても水の流れを受けることでプロペラ自身が回転することがあります。これを「空転」と呼びます。
ニュートラルの状態でエンジンを停止し、そのまま艇が帆走すると、プロペラは水流を受けて回転し始めます。その回転は、プロペラシャフトやセイルドライブ内部のギアにも伝わります。つまり、エンジンは停止していても、駆動装置の一部は回転し続けているわけです。
では、エンジンを停止した後にシフトレバーを後進に入れた場合はどうでしょうか。
一般的な機械式のマリンギアやセイルドライブでは、後進に入れるとクラッチがつながり、プロペラの回転が駆動装置を通じて停止中のエンジンに伝わる状態となります。エンジンの回転抵抗によって、プロペラの回転は止まります。
このように、ニュートラルと後進では、エンジン停止中のプロペラや駆動装置の状態が異なります。
ここで問題になるのは、エンジンが停止している間もプロペラを回転させ続けることと、後進に入れて回転を止めることのどちらが、駆動装置にとって適切なのかという点です。
帆走中のシフトレバー位置は、単にプロペラを回すか止めるかだけで判断できるものではありません。
ニュートラルと後進では何が違うのか
ヨットのエンジンとプロペラの間には、回転方向を切り替えるためのマリンギア(逆転機)が組み込まれています。セイルドライブにも、同じ役割を持つギアとクラッチが内蔵されています。
シフトレバーを前進に入れると、エンジンの回転がプロペラに伝わり、船を前進させる方向にプロペラが回転します。後進に入れれば、回転方向が逆になり、船を後進させることができます。
この動力の伝達を切り替えているのがクラッチです。
ニュートラルではクラッチが切り離され、エンジンとプロペラの間で動力が伝わらない状態になります。エンジンを停止して帆走しているときも同じで、プロペラが水流を受けて空転しても、その回転は通常、エンジンには伝わりません。
後進ではクラッチがつながり、エンジンとプロペラの間で動力を伝えられる状態になります。エンジンが停止していれば、プロペラが水流を受けても、エンジンの回転抵抗によって回転が止まります。
では、ニュートラルでプロペラが空転し続けることは、駆動装置(マリンギアやセイルドライブ)にとって問題なのでしょうか。
駆動装置の内部には、回転するシャフトを支えるベアリングや、動力を伝えるギアなどがあります。これらの部品は、摩耗や焼き付きを防ぐためにギアオイルで潤滑されています。
エンジンが停止していても、プロペラが空転すれば駆動装置内部の一部の部品は回転します。ただし、エンジン運転中とは内部で回転している部品や潤滑の状態が異なります。
また、後進に入れてプロペラの回転を止めた場合には、クラッチがつながった状態で水流による力を受け続けることになります。
つまり、ニュートラルと後進では、駆動装置内部の部品が置かれる状態も異なるのです。
どちらの状態を想定して設計されているかは、駆動装置の構造によって違います。帆走中のシフトレバーの位置について、メーカーが機種ごとに操作方法を指定しているのは、こうした内部構造の違いが関係していると考えられます。
ボルボ・ペンタのギア操作指定
ボルボ・ペンタの駆動装置では、固定プロペラを装備して帆走する際のシフトレバーの指定が、機種や取扱説明書の発行時期によって異なります。
旧型のMS系マリンギアと120S系セイルドライブ
MD2010、MD2020、MD2030、MD2040などのエンジンが使われていた時代には、MS2L-D、MS2A-Dといったマリンギアや、120S-Dセイルドライブが採用されていました。
これらを掲載した取扱説明書では、固定プロペラを装備して帆走する場合、シフトレバーをニュートラルにするよう指定されています。
原文では「must be in the neutral position」と表現されており、ニュートラルにしなければならないという明確な指示です。
また、フォールディングプロペラを装備している場合には、後進に入れるよう指定されています。
同じ説明書には、固定プロペラで長時間帆走する場合、駆動装置の潤滑と冷却を確保するため、10時間ごとにエンジンを運転するという注意書きもあります。
MS10・MS15系などのマリンギア
その後のMD2010〜MD2040シリーズには、MS10L、MS10A、MS15Aなどのマリンギアを組み合わせた仕様もあります。
これらの機種についても、エンジンの取扱説明書に帆走中のギア操作が記載されています。
ただし、同じMDシリーズのエンジンでも、組み合わされるマリンギアが異なることがあります。
古いMS2系の説明書に書かれた操作方法を、型式の異なるすべてのMS系マリンギアに当てはめることはできません。
130S・150S系セイルドライブ
130S・150S系セイルドライブでは、ニュートラルと後進の両方を認める指示が確認できます。
2010年10月に発行されたボルボ・ペンタのサービスブリテン(Service Bulletin:メーカーが整備方法や仕様変更などを通知する技術文書)には、帆走中のギア操作についても記載されています。
対象となっているのは、130S-A、130S-B、130SR-A、130SR-B、150S-A、150S-B、150SR-A、150SR-Bです。
この文書では、固定プロペラを装備している場合、ニュートラルまたは後進にするよう指定されています。
後進に入れるとプロペラの回転が止まり、騒音が小さくなるものの、帆走速度は低下すると説明されています。
つまり、これらのセイルドライブでは、固定プロペラを空転させたまま帆走することも、後進に入れて回転を止めることも認められています。
D1・D2シリーズの取扱
比較的新しいD1・D2シリーズのエンジン取扱説明書にも、帆走中のギア操作について記載があります。
2012年版の取扱説明書では、固定プロペラの場合、ニュートラルまたは後進を選択できるとされています。後進を選んだ場合には、騒音が減る代わりに艇速が低下するという説明もあります。
ただし、これはエンジンシリーズの取扱説明書に記載された内容です。個々のマリンギアやセイルドライブについては、搭載されている型式と対応する説明書を確認する必要があります。
ボルボ・ペンタの指定を比較すると
今回確認したメーカー資料の内容は、次のように整理できます。
| 対象 | 固定プロペラで帆走中の指定 |
| MS2L-D・MS2A-Dを掲載した旧MDシリーズ説明書 | ニュートラル |
| 120S-Dを掲載した旧MDシリーズ説明書 | ニュートラル |
| 130S・150S系セイルドライブ(2010年サービスブリテン対象型式) | ニュートラルまたは後進 |
| D1・D2シリーズ(2012年版取扱説明書) | ニュートラルまたは後進 |
このように、ボルボ・ペンタの説明書でも、固定プロペラで帆走するときの指定は一律ではありません。
特に古いヨットでは、エンジンが同じシリーズでも搭載されている駆動装置が異なることがあります。メーカー名やエンジンの型式だけで判断せず、実際に取り付けられている駆動装置を確認することが重要です。
帆走中でも定期的にエンジンを始動する必要がある特殊な指定
ボルボペンタでは、エンジンを停止して長時間帆走するとき、シフトレバーの位置とは別に定期的なエンジン始動を指定している機種もあります。
D2-50Fは4時間毎にエンジン始動
ボルボ・ペンタのD2-50Fエンジンの2020年版取扱説明書には、固定プロペラを装備して帆走する場合、4時間ごとにエンジンを5分間運転するよう記載されています。
その目的について、説明書ではトランスミッション系統の問題を避けるためと説明しています。
古いMDシリーズでは10時間毎
ボルボ・ペンタのMD2010、MD2020、MD2030、MD2040シリーズの取扱説明書にも、長時間の帆走に関する注意書きがあります。
こちらでは、固定プロペラで帆走する場合、駆動装置の潤滑と冷却を確保するため、10時間ごとにエンジンを運転するよう指示されています。
ヤンマーのギア操作指定
ヤンマーの駆動装置についても、エンジンを停止して帆走する際のシフトレバーの位置が、取扱説明書や技術通達に記載されています。
KM系マリンギア
シャフトドライブを採用するヨットでは、KM2P、KM2P-1、KM35A、KM35A2、KM4A、KM4A1、KM4A2などのマリンギアが使われています。
2011年10月18日付のヤンマー技術通達「YMTQTB11-017」では、KM2P、KM35P、KM35A、KM4Aなどについて、エンジンを停止して帆走する際はニュートラルにするよう指定されています。
後進に入れたまま帆走すると、コーンクラッチが滑ったり、クラッチが切れなくなったりする可能性があると警告されています。
また、KM2P-1を組み合わせたYMシリーズ、KM35A2・KM4A1を組み合わせたJHシリーズ、KM4A2を組み合わせたJH4シリーズの取扱説明書にも、帆走中はニュートラルにするよう記載されています。
これらの機種については、固定プロペラの回転を止めるために後進へ入れる操作は、メーカーの指定に沿ったものではありません。
SD20・SD31・SD40・SD50系セイルドライブ
2011年の技術通達では、SD20、SD31、SD40、SD50、SD50-4Tについても、エンジン停止中の帆走ではニュートラルにするよう指定されています。
これらは、比較的古い世代のヨットに搭載されているセイルドライブです。
後進に入れてプロペラを止めるのではなく、ニュートラルで帆走することがメーカーの指示となっています。
SD25・SD60セイルドライブ
SD25とSD60では、前述の機種とは異なる指定が確認できます。
2025年8月版のヤンマー公式取扱説明書では、固定プロペラを装備して帆走する場合、艇速が10ノット未満であればシフトレバーを後進に保持するよう指定されています。帆走で10ノットを超える航行をするヨットの場合には、固定プロペラを使用しないよう注意されています。(つまり、フォールディングプロペラやフェザーリンクプロペラに変更しなければならないということのようです。)
また、フォールディングプロペラやフェザリングプロペラを装備している場合には、後進に入れてブレードを格納した後、ニュートラルで帆走するよう指定されています。
ヤンマーの指定を比較すると
今回確認したメーカー資料を整理すると、次のようになります
| 駆動装置 | 固定プロペラで帆走中の指定 |
| KM2P、KM35P、KM35A、KM4A | ニュートラル |
| KM2P-1、KM35A2、KM4A1、KM4A2 | ニュートラル |
| KBW10、KBW20、KBW21 | ニュートラル |
| SD20、SD31、SD40、SD50、SD50-4T | ニュートラル |
| SD25、SD60 | 10ノット未満では後進(※記事参照) |
ヤンマーのマリンギアでは、今回確認した主要なKM系についてニュートラル指定が確認できました。
セイルドライブでは、SD20・SD50系などのニュートラル指定に対して、SD25・SD60の最新取扱説明書では条件付きで後進指定になっています。
なぜギアによって操作方法が異なるのか
マリンギアやセイルドライブの内部には、エンジンの回転をプロペラに伝える歯車やシャフト、前進・後進を切り替えるクラッチが組み込まれています。
基本的な役割は同じでも、これらの部品の構造や組み合わせは機種によって異なります。
クラッチの構造と回転方向
一般的なヨットのマリンギアには、円錐形の摩擦面を押し付けて動力を伝えるコーンクラッチや、複数の摩擦板を重ねた多板クラッチなどが使われています。
エンジンが動いているときは、クラッチをつなぐことでエンジンの回転がプロペラに伝わります。しかし、帆走中にエンジンを停止すると、回転する力が加わる方向が逆になります。
ニュートラルでは、水流によって回されるプロペラが駆動装置内部の一部を回転させます。後進ではクラッチをつないだ状態となり、プロペラから伝わる回転力を停止中のエンジンが受け止めます。
クラッチは、どの方向から力が加わっても同じように働くとは限りません。
実際にヤンマーの2011年技術通達では、KM系の一部のマリンギアについて、後進に入れたまま帆走するとクラッチが滑ったり、クラッチが切れなくなったりする可能性があると警告しています。
このように、後進に入れてプロペラを停止させる操作が、必ずしも駆動装置に適しているとは限りません。
ギア内部の潤滑
マリンギアやセイルドライブには、歯車やベアリングなどを潤滑するためのオイルが入っています。
潤滑方法には、回転する歯車がオイルをかき上げる方式や、専用のポンプでオイルを循環させる方式があります。
エンジンを停止してニュートラルで帆走すると、プロペラの回転によって駆動装置の一部が回り続けます。このとき、どの部品が回転し、どのように潤滑されるかは、内部構造によって異なります。
エンジンを運転しているときには問題なく潤滑される装置でも、エンジンを停止した状態で同じ潤滑条件が保たれるとは限りません。
ただし、今回確認したメーカー資料では、個々の機種について、潤滑方法の違いがニュートラル指定と後進指定を分けていると明示されているわけではありません。
メーカーが禁止する操作には理由がある
例えば、ヤンマーの旧型KM系マリンギアでは、後進に入れたまま帆走すると、コーンクラッチの滑りや、クラッチが切れなくなる問題が起こる可能性があると警告されています。
また、SD60の以前の取扱説明書では、ニュートラルと後進の両方が認められていましたが、前進に入れることは禁止されていました。
取扱説明書には、前進に入れるとセイルドライブが損傷するおそれがあると記載されています。
ボルボ・ペンタの130S・150S系では、固定プロペラでの帆走中にニュートラルと後進の両方が認められています。
こうした違いを、単純にメーカーごとの方針の違いと考えることはできません。
クラッチや歯車の構造、潤滑方法などが関係している可能性がありますが、個々の指定の理由を断定するには、それぞれの駆動装置について技術的な裏付けが必要です。
自分のヨットでは何を確認すればよいか
帆走中のシフトレバーの位置を判断するには、自分のヨットに搭載されている駆動装置を正確に把握する必要があります。
エンジンのメーカーや型式がわかっていても、それだけで操作方法が決まるとは限りません。同じエンジンでも、組み合わされる駆動装置(マリンギアやセイルドライブ)が異なる場合があるからです。
駆動装置の型式を確認する
シャフトドライブのヨットでは、エンジンの後方に取り付けられているマリンギアの型式を確認します。
セイルドライブの場合も、エンジンの型式とは別に、セイルドライブ本体の型式を確認します。
型式は本体に取り付けられた銘板などに表示されていることがあります。艇の取扱説明書や整備記録に記載されている場合もあります。
中古ヨットでは、過去にエンジンや駆動装置が交換されている可能性もあります。購入時の資料だけで判断せず、実際に搭載されている装置を確認することが確実です。
プロペラの種類を確認する
固定プロペラとフォールディングプロペラでは、メーカーが指定するシフトレバーの位置が異なることがあります。
例えば、ボルボ・ペンタの古いMDシリーズの取扱説明書では、固定プロペラはニュートラル、フォールディングプロペラは後進と指定されています。
また、ヤンマーのSD25・SD60の2025年版取扱説明書では、固定プロペラは後進、フォールディングプロペラやフェザリングプロペラはブレードを格納した後にニュートラルと指定されています。
プロペラを交換したことがある艇では、エンジンや駆動装置の説明書だけでなく、取り付けたプロペラの取扱説明書も確認する必要があります。
取扱説明書の帆走時の指示を確認する
駆動装置の型式とプロペラの種類がわかったら、該当する取扱説明書で、エンジンを停止して帆走する場合の操作方法を確認します。
英語の説明書では、Sailing、Sailing with engine stopped、Freewheelingといった項目に記載されていることがあります。
確認したいのは、ニュートラルと後進のどちらが指定されているかだけではありません。
「前進への操作が禁止」「帆走速度に制限がある」「長時間帆走する際に定期的なエンジン運転が必要」といった記載がないかも確認します。
また、後進への操作を認めている機種でも、プロペラが空転し始めてから後進へ入れてよいかは、別の問題です。
今回確認したボルボ・ペンタ130S・150S系のサービスブリテンや、ヤンマーSD25・SD60の取扱説明書では、帆走中のギア位置は指定されていますが、すでにプロペラが空転している状態から後進へ切り替える操作の許容条件までは確認できていません。
後進に入れるよう指定されていることと、艇速が上がってプロペラが空転している状態でも、いつでも後進に切り替えてよいということは同じではありません。
同じ型式でも、取扱説明書の発行時期によって記載内容が異なる場合があります。説明書同士で指示が食い違っているときには、新しい説明書の内容を無条件に適用するのではなく、自分の装置に適用される指示をメーカーや正規サービス店に確認するのが確実です。
最後に…
今回の帆走中のギアの位置については、以前からいろんな意見が出ていました。
MALU号のの場合には、古いボルボペンタのMD-2040Bエンジンに130Sセイルドライブが組み合わされているので、帆走時はニュートラルか後進のギア位置という事がはっきりしました。
また、意外だったのが、古いMDシリーズエンジンだと10時間毎にエンジンを始動させなければいけないと言うのは、初めて知りました。まあ、10時間以上の時間、連続でセーリングしていることなんて、殆どない事なので、今後そのような事があったらエンジン始動ですね。
それと、僕は帆走時は常にニュートラルにしています。理由は、後進に入れた時のエンジン始動時に、ギアが抜けなくなってしまい、エンジンが始動できなくなった経験があるからです。
セーリング中に緊急でエンジンを始動して危険回避をするかもしれないと考えると、後進に入れるのは危険だと僕は判断して、それからはセーリング時にはニュートラルで走らせています。
また、後進に入れると本文でも書いたように水流による抵抗もあるんだと思います。ギアがエンジンと繋がったままの状態でプロペラから力が掛かると言うのは、メカ的に考えると、何処かにストレスが掛かってしまう。つまり、負荷による部品などの破損や変形にも繋がるんじゃないかと僕は思ったんです。そした、先に書いた、ギアが抜けなくなるということも相まって、ニュートラルでセーリングすると決めたわけです。





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