セーリングクルーザーには、ギャレーがあることから、水が使えるようになっています。しかし、家の水道と違ってヨットの水栓から出る水はヨットに積んである水タンクから供給していることから、この水タンクの管理が必要になります。欧米のヨットでは、年に一度は必ず水タンクのメンテナンスを行っているようです。タンク内の水質の管理や浄水、そしてタンク内の洗浄についても日本より進んでいる面があるように思います。その背景には、欧米では陸の水道でもそのまま飲めないということや、浄水器の使用、飲用の水は買って飲むという水事情から、ヨットにおける水の考え方も陸同様の考え方で使い分けているようで、水タンクの中の水を直接飲むことは無いようです。

水タンク
さて、日本ではどうでしょうか? 水は直接、水道の蛇口から汲んだ水を飲みます。それは、日本の水道が非常に清潔だからです。しかし、ヨットの水タンクを日本の公共水道と同じレベルに保つのはとても難しいことだということを認識しておく必要があります。ヨットの水タンクの洗浄と言っても、そう容易ではありません。それは、ヨットの水タンクの容量が結構大きいことから、水を入れるだけでも結構な時間が掛かり、その逆に水を出し切るのも入れるのと同様にかなりの時間が掛かります。キャンピングカーのような陸にあるものなら、排水口があれば重力に任せてそのまま垂れ流しも出来ますが、海の水面(水線)下に据えてある水タンクの水を排出するためには、わざわざポンプで汲み出す必要もあります。つまり、水タンクを洗浄するためには、タンクの中の水を何度も出し入れする必要があることから、単純な作業ではあっても、そう気軽に短時間でできる作業ではないのです。つまり、タンク内洗浄をする事が容易ではないということは、水質は常にあまり良くないということを理解しておかなければならないということです。

そこで今回は、ヨットの水タンクの洗浄について、いろいろと考えてみたいと思います。

ヨットの水タンクを洗浄するということは?

ヨットの水タンクの洗浄を考え始める理由としては、「見た目に綺麗でも水が匂う」「タンクの中の水を腐らせてしまった」「タンク内の洗浄をしたことがない」などの理由が挙げられると思います。このようなケースで求めることは「消臭」「洗浄」「除菌」ということになります。しかし、水タンクの洗浄を行うということは、水タンクにつながる全ての設備も同時に洗浄されるということですから、洗浄時に使う洗剤が設備に悪影響を及ぼさないものを選ぶ必要があります。

よく使われている食器用消毒洗剤

ネットなどで、このタンク洗浄をテーマにしたブログなどを読んでいると、家庭用の食器などを除菌する洗剤がよく使われているようです。確かに、口に入るかもしれないものですから、家庭用のキッチンで使われるもであれば安全面でも不安が無いように感じますし、手軽に手に入るものとあって、よく使われているようです。

家庭用食器洗剤でタンク洗いによく使われるもの

タンク洗いでよく使われているものとして多いのが、商品名で言うと「キッチンハイター」「ミルトン」と呼ばれるものや、それらの類似品のようです。果たしてこれらの洗浄剤は、ヨットにとって問題ないものなのでしょうか?
「キッチンハイター」は、台所用品の除菌、漂白、消臭を目的とした塩素系漂白剤といわれるものです。湯呑や急須の茶渋汚れ、布巾の漂白、プラスチックや樹脂製用品の消臭などの用途でよく使われています。おそらくタンクの匂いが水に移ったりし始めると、これを使う人が多いのではないかと思います。
この塩素系漂白剤の主成分は、次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤、水酸化ナトリウムなどで、タンクの水量に合わせて希釈してタンク内に溜め、暫く時間をおいてから排出するという方法で水タンク内の洗浄に用いられています。
「ミルトン」は、赤ちゃん用の哺乳瓶の殺菌、消毒を目的とした、弱塩素系洗浄剤と言われるものです。この洗剤の主成分は、次亜塩素酸ナトリウムで、これもタンク容量に対して、哺乳瓶を洗うのと同程度の濃度で使用し、やはり暫く入れたままにして船を走らせるなどで攪拌してから排出するという具合です。こちらはすすぎ不要なので排出して水を入れれば完了という手軽さがうけているようです。

家庭用食器洗剤を使った時のデメリット

どちらの洗浄剤も安全面では問題ないものですが、水タンクの洗浄という意味では厄介なものがあります。それは「界面活性剤」です。界面活性剤の役割は水の界面張力を下げる、つまり洗浄性を上げる目的で入っている成分です。界面張力が下がると何が起きるかというと、泡立ちが良くなるのです。つまり、界面活性剤の入っている洗剤を水タンクに入れてタンクをゆするとタンク内で泡立ってしまい、すすぎの作業が非常に大変になってしまいます。

また、どちらの洗剤にも含まれる「次亜塩素酸ナトリウム」は金属(ステンレスなどの金属全般)を腐食させてしまいます。つまり、ステンレス製の水タンクへの使用には向いていません。また、給水・給湯の配管や給湯器などの金属部分(給湯器内の熱交換器やタンク)の腐食の原因となる可能性があるため、これらの機器を切り離して使う必要があるということです。

結論:家庭用食器洗浄剤はヨットに向かない

家庭用洗剤の殆どに入っている「界面活性剤」は、家庭用の食器洗浄には効果がありますが、水タンク洗浄では面倒を増やしてしまい向きません。また、すすぎ不要の哺乳瓶用洗浄剤の「次亜塩素酸ナトリウム」は、直ぐには問題が出なくても、水廻りの金属部材に問題が出てきそうだということで、 家庭用洗浄剤は、ヨットには向かないという結論 です。

食品である重曹とお酢もよく見ますが…

食器洗剤がダメなら、食品なら問題ないのでは?ということで、これも水タンク洗浄で使ってますという話をよく聞く「重曹」と「お酢」についても調べてみました。

「重曹」は、スーパーの食品売り場でも買うことができるもので、人の口に入るものですから、安全性については全く問題ありません。また、重曹は掃除の洗剤としても使われるもので、生ごみや汚物にかけると脱臭効果があったり、静菌効果があるので菌の繁殖を抑えることができることから、水に添加すると水を長持ちさせることが出来ます。しかし、殺菌効果がないためタンク内に菌が繁殖している場合には、先ずは殺菌、又は除菌する必要があります。重曹には殺菌や除菌の効果はありませんので、水タンク洗浄には向かないというわけです。

「お酢」については、殺菌効果は非常に高いのですが、酸性なので金属を酸化させてしまいます。先に書いたようなステンレスのタンクや給湯器の熱交換器部分、更に蛇口関係は全て金属製なので、これも向いていないということになります。

つまり、結論としては 「重曹」も「お酢」も水タンクの洗浄には向かない ということです。

最後に… 結局なにを使えば良いのか?

これまで書いたもの、全てが水タンクの洗浄には向いていないと書いていますが、これはあくまでも厳密にいえばということです。しかし、ヨットの給湯器(温水器)の突然の水漏れや、ステンレスタンクの水漏れ、金属部分から水漏れや腐食など、いろんな話を聞いていると、やはりメンテナンスの方法に問題があるように思います。(特に日本では…)
そこで、水タンクやタンクから水が供給される機器類、配管内の洗浄には、何か良いものは無いのかということなりますが、世界に目を向けてみると、ちゃんとしたものがありました。

Water Tank Flush Cleaner
全米最大のボート用品チェーン店であるウエストマリンを見ると、Water Tank Flush Cleaner というタンク洗浄剤が売られています。ウエストマリンなんて日本にはないじゃないか!と怒られてしまいそうですが、ウエストマリンは日本からのECオーダーも可能です。この商品自体はウエストマリンのプライベートブランド商品のようになっていますが、ウエストマリンが大量仕入れして値段が安いだけで、オリジナル商品がちゃんと別にありました。こちらの方は、日本でも取り扱っている業者さんがありました!それもAmazon.jp でも出品しているのを見つけました。(素晴らしい!)

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メーカーサイトも見て確認してみましたが、この洗剤は生分解性の成分で海に放流しても全く環境負荷のない成分で構成されていて、非常に安全性高い製品のようです。また、希釈量をきちんと守って使えば、ヨットやボートにおける水タンクからつながる全ての機器内の洗浄まで問題なく行うことが出来ます。お値段的には、5千円オーバーのお値段でちょっとお高いような気がしますが、ウエストマリンの値段を見ると、それに輸入コストなどを考えれば、リーズナブルな値段だと思います。年に一度の船の水関係のメンテナンスとして考えれば、問題ないような気がします。

MALU号でも1本買って、今シーズン使ってみようと思います。(コロナ禍で自粛中につき、実際に使うのはいつになることやら…)

“Water Tank Flush” で水タンク洗浄をやってみた



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