ヨットの電気設備は、艇によってまちまちです。シンプルな電装しか持たない艇もあれば、冷蔵庫やエアコン、インバーター、バウスラスターなど、多くの電気設備機器を搭載している艇もあります。
中古艇では、さらに事情は複雑です。
新艇として建造されたときの状態から、歴代のオーナーによって機器が追加されたり、交換されたり、配線が変更されたりしていることもあります。
普段ヨットに乗っていても、目にするのはスイッチや機器そのものが中心で、その先の配線がどこを通り、どのようにつながっているのかまで見る機会は、それほどありません。
自分のヨットの電気系統は、いまどのような状態になっているのでしょうか。
ということで今回は、普段あまり見ることのないヨットの電気系統について、少し目を向けてみたいと思います。

陸電(ショアパワー)には注意
ヨットをマリーナに係留している間も、陸電を接続したままにしている艇は少なくありません。
バッテリーの充電をはじめ、冷蔵庫やエアコンなどを使うことができ、長期間係留するクルージングヨットにとって便利な設備です。
しかし、BoatUSの火災事故分析では、AC電源による火災について気になる傾向が報告されています。
AC電源による火災の多くは、艇内にある電気設備機器ではなく、マリーナの陸電ポストから艇側のショアパワー・インレット(陸電ケーブルの船側の差込口)までの間で発生しているというものです。
陸電は、マリーナの陸電ポスト → 陸電ケーブル(ショアパワーケーブル)→ プラグやコネクター → 艇側のショアパワー・インレット(陸電ケーブルの船側の差込口)という経路で艇内へ電気を取り込んでいます。
この中には、ケーブル同士をつないでいる部分や、金属端子同士が接触して電気を流している部分がいくつもあります。
ここで問題になるのが、接触不良による発熱です。
例えば、陸電(ショアパワー)のプラグが差込口(インレット)にしっかり差し込まれていなかったり、端子が腐食して接触状態が悪くなったりすると、その部分の電気抵抗が大きくなります。
それでも接続が完全に切れていなければ、艇内へ電気は供給され続け、冷蔵庫も動いている、バッテリーも充電されている、艇内のACコンセントも使える。オーナーから見れば、陸電(ショアパワー)は正常に使えているように見えます。
しかし、接触状態が悪くなった部分では、電気を流しながら発熱している可能性があります。
陸電(ショアパワー)では、エアコンや電気ヒーター、など消費電力の大きな機器を長時間使うこともあります。流れる電流が大きくなれば、接触抵抗のある部分で発生する熱も大きくなります。
発熱が続けば、プラグや差込口(インレット)周辺の樹脂が変色し、さらに温度が上がれば変形や炭化につながることもあります。
BoatUSは、陸電ケーブル(ショアパワーコード)に傷みがないか、特にコネクターの両端やプラグの接点に異常がないかを確認し、傷みが見つかった場合には交換することを勧めています。
さらに注意したい場所があります。艇側の陸電ケーブルの差込口(ショアパワー・インレット)の裏側です。外から見えているインレットの、その裏側には、艇内のAC配線を接続する端子があります。
BoatUSが火災保険事故を分析したところ、船齢10年以上の艇では、この差込口(インレット)裏側の配線接続部分も火災リスクの高い場所として確認されています。古い艇では、インレットが建造時から交換されていない場合、交換または接続状態の点検を検討するよう勧めています。
陸電(ショアパワー)による火災が怖い理由は、こうした発熱が係留中にも起こり得ることです。
エンジンを止めてキーを抜き、メインのDCスイッチを切って艇を離れたとしても、陸電(ショアパワー)を接続していれば、AC系統には通電が続き、接続されているAC機器も動作できる状態です。
人が乗っていない時間にも、陸電(ショアパワー)は何時間、場合によっては何日も接続されたままになります。
つまり、ヨットを離れたからといって、艇の電気がすべて止まっているわけではありません。ショアパワーを接続したまま艇を離れるのであれば、陸電ポストからケーブル、プラグ、艇側の差込口まで、長時間通電した状態になることを意識しておく必要があります。
DC側で注意したい場所
陸電(ショアパワー)を使用していないヨットでも、電気火災への注意は必要です。
ヨットには12Vや24VのDC電源があり、その中心にあるのがバッテリーです。エンジンを停止して陸電(ショアパワー)を外していても、バッテリーが接続されている限り、DC側には電気を供給できる状態が残っています。
まず確認したいのが、大きな電流が流れる回路です。
代表的なものは、バッテリー端子、バッテリースイッチ、スターターモーター、オルタネーター、ウインドラス、バウスラスター、インバーターなどです。
これらの機器には、航海計器やLED照明などとは比較にならない大きな電流が流れることがあります。
例えば、スターターモーターはエンジンを始動する短い時間だけですが、大きな電流を必要とします。ウインドラスやバウスラスターも同様で、太いケーブルでバッテリーと接続されています。
ここで注意したいのは、機器そのものだけではありません。バッテリーから機器までの途中にある接続部分です。
バッテリー端子から太いケーブルが延び、その途中にはバッテリースイッチやバスバー、ヒューズ、端子などがあります。接続箇所が増えれば、それだけ点検すべき場所も増えます。
BoatUSの保険事故分析でも、DC電装による火災では、緩んだバッテリー接続、擦れて損傷したバッテリーケーブル、古くなったバッテリースイッチなどが原因として挙げられています。
バッテリー周辺でもうひとつ注意したいのが、バッテリーから最初のヒューズまでの配線です。ヒューズは、その先の回路で過電流が発生したときに配線を保護するためにあります。しかし、バッテリーとヒューズの間にある配線は、そのヒューズでは保護されません。
例えば、バッテリーから離れた場所にメインヒューズがあり、その途中のプラスケーブルが擦れて損傷したとします。ヒューズよりバッテリー側で短絡すれば、そのヒューズでは電流を遮断できません。だからこそ、バッテリーに近い位置で適切に回路を保護することが重要になります。
また、ヨットではエンジンを止めたあともDC電源を使うことがあります。ビルジポンプやアラームなど、艇を離れている間にも動作させるため、メインのバッテリースイッチを切っても電源が残るように配線されている機器もあります。
つまり、「バッテリースイッチをOFFにしたから、艇内のDC配線すべてに電気が流れなくなった」とは限りません。自艇のどの回路がバッテリースイッチを通り、どの回路がバッテリーから常時給電されているのか。
DC側の火災を防ぐためには、まず自分のヨットの電気がどのようにつながっているのかを把握しておくことが重要です。
古いヨットでは「後付け」にも注意
船齢の長いヨットだからといって、それだけで電気火災が起こりやすいとは限りません。
注意したいのは、長く使われてきたヨットでは、建造されたときの電気系統がそのまま残っているとは限らないことです。
30年、40年と使われてきたクルージングヨットを考えてみると、その間にさまざまな電装品が追加されていることがあります。
GPS、チャートプロッター、AIS、VHF、オートパイロット、冷蔵庫、インバーター、USB電源、電動ウインドラスなど、現在では珍しくない装備でも、建造当時には搭載されていなかったものがあります。
こうした機器を追加するたびに、新しい配線も追加されます。
問題は、誰が、いつ、どのような方法で取り付けたのか分からない配線が残っていることがあることです。
例えば、新しい機器を取り付けるために既存の配線から電源を分岐したり、途中でケーブルを継ぎ足したりしていることがあります。
さらに機器を交換した際、以前使われていた配線だけが残っていることもあります。
配電盤を開けてみると、どこにつながっているのか分からない配線が何本もあるという古いヨットも珍しくありません。
ここで確認したいのは、単に配線が古いかどうかではありません。追加された機器に対して、配線そのものが適切なのかという点です。
消費電流に対してケーブルが細すぎれば、配線そのものが発熱する可能性があります。ヒューズの容量が大きすぎれば、配線が許容できる以上の電流が流れても、ヒューズが切れない可能性があります。端子の圧着が不十分なら、接触抵抗による発熱につながります。
さらにヨットでは、配線が船体の振動や動きにさらされます。配線が適切に固定されていなければ、隔壁や機器の角などに長期間擦れ続け、被覆が傷むこともあります。
BoatUSの火災事故分析でも、船齢25年以上の艇では、古いワイヤリングハーネスやスターターに関連する火災が目立つことが報告されています。
古いヨットの電気系統を見るときには、建造時の配線だけを見るのではなく、その後何十年にもわたって何が追加され、どのように変更されてきたのかを見る必要があります。
電装品を追加すること自体が問題なのではありません。新しい機器を取り付けたときに、配線の太さ、ヒューズ、端子、接続方法、配線の取り回しまで、その機器に合わせて適切に施工されているか。
船齢の長いヨットでは、こうした過去の電装工事も含めて確認することが大切です。
まずどこを確認すべきか
電気系統のすべてを点検しようとすると、配電盤を開けたり、配線を一本ずつ追ったりする必要があり、専門的な知識も必要になります。
ただ、オーナー自身で普段から簡単に確認できる場所はあります。
まず見ておきたいのが、陸電(ショアパワー)のプラグと艇側の差込口(インレット)です。
プラグや差込口の樹脂が茶色や黒っぽく変色していないか、溶けたり変形したりしていないかを確認します。焦げたような臭いがする場合も注意が必要です。
陸電(ショアパワー)を使用したあと、プラグや差込口が以前より熱く感じるようになった場合も、そのまま使い続けず、接続状態を確認する必要があります。
次に確認したいのがバッテリー周辺です。
ケーブル端子が緩んでいないか、白や緑色の腐食が発生していないか、ケーブル端子やバッテリースイッチに変色や熱による変形がないかを見ます。
特にスターター、ウインドラス、バウスラスター、インバーターなどへつながる太いケーブルは、大きな電流が流れます。ケーブルそのものだけでなく、その両端がどのように接続されているかを確認することが重要です。
配線については、被覆の状態も確認します。
隔壁を通過する場所、エンジン周辺、ロッカーの中などでは、配線が船体や金属部品に擦れていないか、無理に曲げられていないか、配線の固定が外れて動く状態になっていないかを見ます。
後から追加された電装品については、電源線をたどってみるのも有効です。
どこから電源を取っているのか。その回路にはヒューズがあるのか。途中で不自然に細い配線へ変わっていないか。家庭用の配線部品など、船内での使用に適さないものが使われていないか。
自分で取り付けた機器なら分かりますが、中古艇では以前のオーナーが行った電装工事がそのまま残っていることもあります。
また、目で見るだけではなく、触ったときの温度や臭いも異常を見つける手掛かりになります。
電気機器を使用したあとに、特定の端子やスイッチだけが異常に熱い。以前にはなかった焦げたような臭いがする。プラグを抜いてみると接点が変色している。こうした変化は、その場所で発熱が起きている可能性を示しています。
ただし、点検するために通電中の端子へ触れたり、AC配電盤やショアパワー・インレットを知識のないまま分解したりするのは危険です。特にAC100Vや200Vを扱う部分は、火災だけでなく感電の危険もあります。
オーナー自身でできるのは、まず「いつもと違う状態がないか」を見つけることです。
焦げ、変色、溶け、腐食、緩み、擦れ、異常な発熱、異臭。
こうした兆候が見つかった場合は、該当する電気設備の使用を中止し、原因を特定して必要な修理を行います。安全な状態に戻ったことを確認するまでは、通電して使い続けないことが重要です。
特に陸電(ショアパワー)やAC配線など、自分で安全に判断できない部分については、専門家に点検を依頼することをお勧めします。
最後に…
ヨットに長く乗っていると、少しずつ装備が増えていきます。
新しい航海計器を取り付けたり、USB電源を増設したり、冷蔵庫を交換したり。中古艇を購入すれば、自分が乗り始める前に取り付けられた機器もたくさんあります。
機器を取り付けたときには、その機器についてよく覚えています。しかし、5年、10年と時間が経つと、いつ取り付けたのか、どこから電源を取ったのかまで覚えていないこともあります。
ましてや中古艇なら、自分が知らないところで行われた電装工事があっても不思議ではありません。
ヨットは、購入したときの状態のまま何十年も使われるものではありません。オーナーが変わり、装備が変わり、そのたびに電気系統も少しずつ変わっていきます。
だからこそ、自分のヨットにどんな電装品があり、それがどのようにつながっているのかを知っておくことには意味があります。
すべてを自分で修理できる必要はありません。
「これは何の配線だろう」と思うものがない状態にしておく。それも、長くヨットと付き合っていくための大切な整備のひとつではないでしょうか。





コメント
とてもとても難しい問題ですね。実は最近、GPSは動くのですが、ログ、デプス、風向風速計、オートパイロットが同時に動かなくなりました。スイッチが共通なので、ヒューズを疑いました。一般的にスイッチボックス、に近いところにありますよね。ところがどこを探してもヒューズボックスが見つからない。結局ヒューズボックスはないブレーカーだけ❗よくよく考えてみれば、家庭でもブレーカーだけでヒューズはないことに気づきました。各機器のケーブルを確認、大型艇、小型艇共通に使うためなのでしょう。端にある端子まで長いこと長いこと、余分なケーブルの整理だけでとんでもない時間かかりました。結局自分では無理(僕が下手にいじると状況が悪化する)、業者依頼でした。
陸電では平行プラグを使う場合の極性(プラグ差し込みのどちらがアースか)を間違わないようにしないと危険かなと思っています。僕の船には海保の OB さんが乗ることもあるのですが、「正規品を使わないといけない」と指摘されます。
陸電ボックスも何台かごとにブレーカーがあり、そのブレーカーが開くと他の陸電ボックスも電気が来なくなり迷惑をかけることがありますね。特に電力(ワット)をたくさん使うパワーボートと同じ回路の陸電を使っている場合は気を使わなくてはいけませんね。
能書きを読むだけではなかなかうまくいきません。読まなくてはなお分からないから困ります。