前回の「基礎知識編」では、プロペラそのものについて書いてきました。
では、自分のヨットに付いているプロペラは、なぜそのダイヤメーターとピッチなのでしょうか。同じくらいの大きさのヨットを見ても、付いているプロペラが同じとは限りません。船が大きければ大きなプロペラ、エンジンの馬力が大きければ大きなプロペラ。そんな単純な決まり方でもないようです。
中古艇なら、さらに気になることがあります。現在付いているプロペラが、新艇時から付いていたものなのかも分かりません。以前のオーナーが交換しているかもしれませんし、エンジンを載せ替えたときにプロペラも変更されているかもしれません。
実際に機走してみると、「もう少し力があってもよさそうなのに」「このエンジンなら、もっと速く走れそうなのに」「どうしてこのサイズのプロペラなんだろう」と感じることもあります。
では、エンジンに対して、このプロペラが「合っている」とは、どのような状態なのでしょうか。
そして、自分のヨットに付いているプロペラが適切なのか、オーナー自身が確認する方法はあるのでしょうか。
今回は、プロペラ単体ではなく、エンジンとプロペラのマッチング(組み合わせ)という視点から考えてみたいと思います。

エンジンとプロペラはセットで考えるもの
ヨットのエンジンとプロペラの間には、いくつかの機械が介在しています。
シャフト船なら、一般的にはエンジンの後ろにマリンギア(Marine Gear/減速逆転機)があり、そこからプロペラシャフトを介してプロペラを回します。
セイルドライブ船では、エンジンから伝えられた回転をセイルドライブ内部のギアを介してプロペラへ伝えます。
大まかな力の流れは、エンジン → 減速機 → プロペラ となります。
ここで知っておきたいのは、エンジンの回転数とプロペラの回転数は同じではないということです。例えば、エンジンが3,000rpmで回っていても、プロペラが3,000rpmで回っているとは限りません。プロペラへ伝わるまでに、減速機によって回転数が変わるからです。
さらに、エンジンが発生できる出力、つまり馬力だけでプロペラが決まるわけでもありません。同じ30馬力のエンジンでも、組み合わされている減速機が違えば、プロペラ側の回転数は変わります。
同じエンジン、同じ減速機でも、船体の大きさや重量、船型が違えば、船を走らせるために必要な力も変わります。
つまり、「このエンジンは30馬力だから、このプロペラ」という単純な関係ではありません。エンジン、減速機、プロペラ、船体まで含めた組み合わせで考える必要があります。
これは、中古ヨットでは特に確認しておきたいところです。
エンジンを載せ替えている船では、以前と同じプロペラが使われていることがあります。プロペラだけをフォールディングやフェザリングタイプへ交換している船もあります。
現在付いているプロペラが、現在のエンジンや減速機との組み合わせを考えて選ばれたものなのかは、外観を見ただけでは分かりません。
自艇のプロペラを考えるには、プロペラのダイヤメーターやピッチだけではなく、エンジンの型式と出力、減速機の型式と減速比も一緒に確認しておく必要があります。
減速比とは何なのか
エンジンの回転は、そのままプロペラに伝わっているわけではありません。途中にある減速機によって回転数を落としてから、プロペラを回しています。ここで出てくるのが 減速比(Reduction Ratio/リダクション・レシオ)です。
例えば、減速比が2:1なら、エンジンが2回転する間にプロペラは1回転します。
エンジンが3,000rpmなら、3,000 ÷ 2 = 1,500rpm プロペラは毎分約1,500回転することになります。
減速比が2.5:1なら、3,000 ÷ 2.5 = 1,200rpm プロペラは毎分約1,200回転です。
同じ3,000rpmでエンジンを回していても、減速比が違えばプロペラの回転数はこれだけ変わります。
なぜ、わざわざ回転数を落とすのか
「エンジンが3,000rpmで回るなら、プロペラも3,000rpmで回したほうが速そうだ」数字だけを見ると、そんな気もします。しかし、プロペラは速く回せば回すほどよいというわけではありません。
減速機で回転数を落とすと、機械的な損失を無視すれば、プロペラ軸側ではその減速比に応じて大きなトルク(Torque/回す力)を得ることができます。自転車で坂道を上るときに、軽いギアへ変えることを考えるとイメージしやすいでしょう。ペダルを何回も回す代わりに、車輪はゆっくり回ります。しかし、車輪を回す力は大きくできます。舶用エンジンの減速機にも、これと似た役割があります。
同じエンジンでも減速比が違うことがある
同じ型式のエンジンでも、組み合わせるマリンギアやセイルドライブによって、減速比が異なる場合があります。
例えば、同じエンジンを搭載した2艇が、どちらも3,000rpmで機走していたとしても、減速比が違えばプロペラの回転数は同じではありません。プロペラの回転数が違えば、適したダイヤメーターやピッチも同じとは限りません。
「同じエンジンを積んでいるヨットだから、同じプロペラでよい」とは考えられない理由のひとつが、減速比の違いです。
自艇の減速比は、マリンギアやセイルドライブの銘板、取扱説明書、メーカーの仕様書などで確認できます。プロペラについて考えるときには、エンジンの回転数だけでなく、減速比も確認しておきたい数字です。
プロペラはエンジンにとって負荷になる
エンジンから見ると、プロペラは回転させる相手であり、同時に 負荷(Load/ロード)でもあります。
水の中にあるプロペラを回そうとすると、水から抵抗を受けます。この抵抗に打ち勝ってプロペラを回しているのがエンジンです。
分かりやすい例が、ニュートラルでエンジンを回したときと、ギアを前進に入れて実際に機走したときの違いです。ニュートラルではプロペラを駆動していないので、スロットルを開ければエンジンの回転数は比較的簡単に上がります。前進に入れるとプロペラが水中で仕事を始めます。エンジンはプロペラを回しながら回転数を上げなければならないので、ニュートラルのときとは負荷条件がまったく違います。
プロペラによって負荷は変わる
同じエンジンに取り付けるプロペラでも、どんなプロペラを使うかによって負荷は変わります。
例えば、ダイヤメーター(直径)の大きなプロペラと小さなプロペラでは、水に作用する範囲が違います。ピッチを変えても負荷は変わります。さらに、ブレードの枚数や面積、形状も関係します。
プロペラは単にエンジンの回転を水へ伝えているだけの部品ではありません。どんなプロペラを取り付けるかによって、エンジンが受ける負荷も変わります。
自転車のギアに似ている
感覚的には、自転車のギアを思い浮かべると分かりやすいでしょう。
重いギアにすると、ペダルを1回転させたときに大きく進めますが、ペダルを踏む力も必要になります。軽いギアなら、ペダルは楽に回せますが、同じ速度を出すには多く回さなければなりません。
プロペラにも、エンジンにとって「重すぎる」状態と「軽すぎる」状態があります。
大きなプロペラを付けたり、ピッチを大きくしたりすれば、必ず船が速くなるわけではありません。
エンジンが回し切れないほど負荷が大きくなれば、スロットルを開けても本来の回転数まで上がらなくなります。逆に負荷が小さすぎれば、エンジンの回転数は上がっても、その出力を十分な推進力として使えていない可能性があります。
プロペラには、エンジンが無理なく回せて、持っている出力を適切に使える範囲があるということです。
ダイヤメーターとピッチが変わると負荷も変わる
プロペラのダイヤメーターやピッチを変えると、エンジンにかかる負荷も変わります。
例えば、「もう少し船速を上げたいから、ピッチを大きくすればいい」と考えたくなります。ピッチを大きくすれば、プロペラが1回転したときに理論上進む距離は大きくなります。ただ、それだけでは船速が上がるとは限りません。
ピッチを大きくすると、プロペラを回すためにエンジンへ要求されるトルクも大きくなります。エンジンがその負荷に対して十分な回転数を上げられなくなれば、ピッチを大きくしたのに、期待したほど船速が上がらないこともあります。場合によっては、変更前より最高回転数が低くなります。
ダイヤメーターを大きくした場合
ダイヤメーターを大きくすると、プロペラはより広い範囲の水に作用できるようになります。
これも、「大きなプロペラのほうが力がありそうだ」と考えがちなところです。
しかし、他の条件が同じであれば、ダイヤメーターを大きくすることでプロペラ負荷も大きくなります。ヨットでは、取り付けられるダイヤメーターに物理的な限界もあります。
プロペラの先端と船体との距離が小さくなり過ぎると、水流や振動、騒音などの問題につながることがあります。
セイルドライブでは、使用できるプロペラについてドライブメーカー側の条件も確認する必要があります。
「大きくすればよい」では決められない
ダイヤメーターとピッチは、それぞれ単独で決めるものではありません。
直径を変えずにピッチを変更する場合もあれば、直径とピッチの両方を変更する場合もあります。ブレードの枚数や面積、形状が変われば、同じ直径とピッチでもプロペラがエンジンへ与える負荷が同じとは限りません。
プロペラを交換するときに、「今より大きくすれば力が出る」「ピッチを増やせば速くなる」と安易に判断できないのは、こうした条件が互いに関係しているからです。
見るべきなのは、プロペラ単体の大きさではなく、そのプロペラを取り付けた状態で、エンジンが想定された回転域で働けるかどうかです。
オーバープロップとアンダープロップ
エンジンに対してプロペラの負荷が大きすぎる状態を、オーバープロップ(Over-propped)と呼びます。
簡単にいえば、エンジンに対してプロペラが「重すぎる(負荷が大きすぎる)」状態です。例えば、ピッチが大きすぎたり、ダイヤメーターが大きすぎたりすると、エンジンはプロペラを回すために大きな力を必要とします。
スロットルをいっぱいまで開けても、エンジンが本来到達するはずの回転域まで上がらない。こうした状態は、オーバープロップを疑う手掛かりのひとつになります。この状態を、現場では「ピッチがきつい」と表現することがあります。これは、プロペラのピッチが大きく、エンジンにかかる負荷が重いという意味です。
アンダープロップとは
反対に、エンジンに対してプロペラの負荷が小さすぎる状態が、アンダープロップ(Under-propped)です。プロペラが「軽すぎる(負荷が小さすぎる)」と考えると分かりやすいでしょう。
ダイヤメーターやピッチなどの組み合わせによってプロペラ負荷が小さすぎると、エンジンは比較的簡単に回転数を上げられます。スロットルを開けると回転数は上がるのに、それに見合う推進力を得られない場合もあります。
プロペラの選定によっては、メーカーが想定する負荷時の回転域を超えやすくなることもあります。
オーバープロップやアンダープロップを船速だけで判断することはできません。
例えば、船速が出ないからといって、必ずプロペラが軽すぎるとは限りません。船底の汚れ、プロペラへの付着物、積載重量、海況などでも船速は変わります。エンジン自体が本来の出力を発生していない可能性もあります。
プロペラとエンジンの組み合わせを見るときには、実際に負荷をかけた状態で、エンジンがどの回転数まで到達できるのかが重要な手掛かりになります。
適正かどうかは回転数が手掛かりになる
自艇のプロペラがエンジンに合っているかを確認するとき、重要な手掛かりになるのが実際に機走したときのエンジン回転数です。
ここで見るのは、ニュートラルで空ぶかししたときの回転数ではありません。プロペラを回して船を走らせ、エンジンに実際の負荷がかかっている状態での回転数です。
まずエンジンの仕様を確認する
舶用ディーゼルエンジンには、メーカーが定めた定格回転数、最高出力時の回転数、無負荷最高回転数などがあります。
例えば、取扱説明書や仕様書に「最高出力○○kW/3,600rpm」などと記載されていれば、3,600rpmは最高出力が示されている回転数です。
ここで注意したいのが、定格回転数、最高出力時回転数、無負荷最高回転数などを混同しないことです。呼び方や示される数値は、メーカーやエンジン型式によって異なります。
自艇のエンジンについて確認するときは、別のエンジンの数字を参考にするのではなく、型式を確認して、そのエンジンの取扱説明書やメーカー資料を見る必要があります。
実際に何回転まで上がるのか
船底やプロペラがきれいで、通常の積載状態にある船を機走させたとき、スロットルを開けてエンジンがどの回転数まで上がるのか。
これは自艇について知っておきたい数字です。
例えば、以前は3,500rpmまで上がっていた船が、現在は3,000rpmまでしか上がらないのであれば、何らかの条件が変化した可能性があります。
プロペラを交換した直後から以前より簡単に回転数が上がるようになった場合も、交換前後でプロペラ負荷が変わった可能性を考える材料になります。
大切なのは、自艇が正常な状態だったときの数字を知っていることです。
回転数だけで決めつけない
実際の回転数がメーカー資料に記載された数字と違っていたとしても、それだけでプロペラが間違っているとは断定できません。
船底やプロペラの汚れ、積載量、海況などによっても結果は変わります。エンジン側に問題があり、本来の出力を発生できていない場合もあります。タコメーターそのものに誤差がある可能性も考えなければなりません。
プロペラの適否を見るとき、回転数は非常に有効な手掛かりですが、ひとつの数字だけで結論を出すものではありません。
エンジンの型式と出力、メーカーが示す回転数、減速比、現在のプロペラのダイヤメーターとピッチ、実際に機走したときの回転数。
これらを一緒に確認することで、自艇のエンジンとプロペラがどのような組み合わせになっているのかが見えてきます。
最後に…
プロペラについて考えようとすると、どうしてもダイヤメーターやピッチ、ブレードの枚数など、プロペラそのものに目が向きます。
しかし、プロペラだけを見ても、そのプロペラが自艇にマッチしているかどうかは分かりません。
プロペラは、大きくすれば力が出る、ピッチを大きくすれば速くなる、というような単純なものではありません。
エンジンの出力と回転数、減速比、プロペラのダイヤメーターやピッチ、そして船体。これらが組み合わされて、ひとつの推進システムとして働いています。
プロペラを考えるということは、このマッチング(組み合わせ)を考えることでもあるのです。
もうひとつ知っておきたいのが、新艇時に取り付けられていたプロペラです。新艇時のプロペラは、ヨットメーカーやエンジンメーカーなどが想定した船体、エンジン、減速比などの条件を基に選定されています。
中古艇では、エンジンやプロペラが交換されていることもあります。
新艇時の仕様が分かるのであれば、現在の組み合わせを考えるうえで重要な基準になります。
「もう少し速くしたいからピッチを大きくする」「もっと力が欲しいから大きなプロペラに交換する」こうした変更は、プロペラだけの問題ではありません。
組み合わせを考えずにプロペラを変更すれば、エンジンを本来想定されている回転域で使えなくなったり、エンジンや駆動系に余計な負担を与えたりする可能性があります。
プロペラを交換したりピッチを変更したりするときは、現在付いているプロペラの数字だけを見るのではなく、エンジン、減速比、プロペラ、船体をひとつの組み合わせとして考えることが大切です。




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