環境面の問題から海運業界が再生可能エネルギーに着目している、つまり化石燃料の使用量を下げるために「帆を動力源にする(セーリングが見直されている)」という話は、このブログでも幾つか取り上げてきました。しかし、それらを踏まえつつも、別の側面からセーリングでの海運に価値を見出すアプローチがようやく形になりつつあるようです。
それは、定期航路が無い、大型船では行けない、コスト的に現代型の輸送手段では物資輸送ができない(燃料依存型の貨物船にとって利益が出ない)地域において、小型の貨物帆船を用いて環境面にも配慮しながら低コスト(化石燃料を殆ど使わない)で物資輸送を行うという試みがビジネスとして形を成し始めているようです。

そこで今回は、ハワイをベースにしている貨物帆船について書いてみたいと思います。

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“KWAI”と言うハワイを拠点としている貨物帆船

貨物帆船なんて、もうこの世には余程の物好きか、歴史遺産的な物で残している以外は存在しないと思っていましたが、10年も前から帆船による貨物輸送に取り組み始め、今やこの帆船を待つ人々、必要とする荷主や旅客が存在する地域があるのです。その貨物帆船がハワイを拠点とする”KWAI”号です。

”KAWI”号はハワイとクック諸島(南太平洋の小さな島から成る地域)の島々を回る貨物帆船です。通年安定的に吹く南太平洋の貿易風を用いて、ハワイ~クック諸島の間のどちら向きの航海でも通年セーリングで航行することでエンジンを極力使うことなく低コストの運行を実現しています。

帆船による低コストの運航が不可欠な理由

クック諸島は南太平洋に浮かぶ小さな島々で、これらの島々には定期船航路などは全く無く、何世紀もの間、島民に物資を販売する船が稀にかつ不定期にやってきた時にしか島民は物資を手に入れることが出来ませんでした。”KAWI”号は、年に3から4回、島々から来た物資の注文品をハワイの出来る限り安価なところから調達し島々を巡りながら配達する(調達手数料と運賃を商品価格に乗せて請求する)こと、そして注文品以外にも販売のための物資を更に積み込み、いわゆる移動販売も行うことで収益を上げています。

移動販売によるマーケットの様子
南太平洋上に浮かぶ小さな島々は裕福な島ではありませんから、現代型の商流やコンテナ等の輸送では、品物に対して送料が掛かりすぎることや、コンテナが一杯になるまでコストが合わないなどの問題から、輸送面での低コスト化は必須課題でもありました。そこで、輸送コストをできるだけ下げるために、燃料代の掛からないセーリングでの運航、そしてこれらの島々の人達を現地スタッフや乗船クルーとすることで、雇用も生み出しながら物資を低コストで届けるという形を実現したわけです。また、島々からは特産品や海産物などを出荷することなども提案することで、安定的な運航を実現しています。

SAILING VESSEL KWAI (貨物帆船クワイ号)について

“KWAI”号は1950年にドイツで建造された流し網漁船で、元の船名はドイツらしい名前で”Bayern”(バイエルン)号と呼ばれていました。”KWAI”号のオーナーでありキャプテンの”Brad Ives”がこの船をノルウェーのフィヨルドで見た時には、火災によりエンジンルームと船尾のキャビンが消失しており錆びた状態でスクラップヤードに運ばれている様子を見ながら、この船体は帆船にできると直感的に感じたそうです。2002年にこの船を買い入れ、修復と共に本格的な帆船への改造に4年の歳月を掛けた後に、南米のスリナムまで回航し、木材をハワイに向けて運び販売するビジネスを開始します。ハワイへ向かう途中、クック諸島のラロトンガ島に立ち寄り、そこで船を登録し、クック諸島への海運免許を取得し、キリバス諸島の政府からも免許を申請するように要請があったことから、この海域でのビジネスを開始するキッカケとなりました。

初期のKWAI
“KWAI”号のKWAIという名前は、1952年に制作された有名な戦争映画 “The Bridge on the River Kwai”(邦題:戦場にかける橋)に因んで名付けたそうです。(下の動画を再生すると、誰でも知っている音楽が聞こえきます。)

KWAI号の仕様

KWAI号は、全長43メートル(140フィート)、全幅7メートル(23フィート)、喫水3メートル(10フィート)、トン数179トンのガフケッチの鋼鉄帆船で、500トンの貨物と8人~11人のクルー、60人の乗客をデッキ上に乗せることが出来ます。長期航海での客室は4つで8人まで就寝が可能です。航海は全工程の9割以上をセーリングし、巡航速度10ノットで航行します。
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コロナ禍の現在は太平洋のプラごみを回収

コロナ禍の現在、KWAI号は感染拡大を防ぐために南太平洋の島々への航海が出来なくなっています。勿論、クルー検疫体制も十分に考慮していますが、コロナウイルスの感染が無い南太平洋上の島々への寄港は、今は控えるべき時期でもあるわけです。そこで KWAI号はアメリカのカリフォルニア州にある非営利団体 Ocean Voyages Institute と共に太平洋上に浮遊する海洋プラスチックゴミの回収を行うための航海を行っており、5月25日にホノルルに到着し、5トンのゴーストネット(流された漁網)と40トンのプラスチックゴミを回収し持ち帰りました。

collect ghost nets and plastic

最後に… 静かに世界で広がる SAILING VESSEL

KWAI号のような帆船での小規模海運事業が静かに広がりつつあるようです。
帆船を使うというと環境問題に対するデモンストレーション的な要素が大きいように感じますが、KWAI号においては地域の要望とビジネスが完全に両立できていると言えそうで、非常に良いビジネスモデルだと思います。まだまだ南太平洋上の全ての人が住む島をカバーしきれていないこともあり、このビジネスモデルを使った貨物帆船が増える可能性も考えられます。また、地中海地域や大西洋でも、このような小規模貨物帆船事業が始まっており、今後の動向を引き続き追いかけてみたいと思っています。
それにしても、帆船ファンにとってはこういう帆船が出現することは嬉しい限りです。

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