ヨットの帆はなぜ三角形なのか

ヨット雑学•雑記

現在のセーリングヨットを見渡すと、ほとんどの船が三角形の帆を使っています。

マストの後ろに張られたメインセイルも、船首側に張られたジブも、基本的には三角形です。ヨットといえば、三角形の帆を思い浮かべるほど、見慣れた形になっています。

ところが、昔のヨットの写真や絵画を見ると、少し様子が違います。

マストの後ろに大きな四角形の帆を張った船が数多く登場します。現在のヨットとは、帆の形も、それを支える仕組みも異なっています。

そもそも、帆は風を受けて船を進めるためのものです。それなら、三角形でなければならない理由はあるのでしょうか。

四角形の帆では、何か不都合があったのでしょうか。そして、昔から使われていたさまざまな形の帆の中で、なぜ現代のヨットでは三角形が主流になったのでしょうか。

そこで今回は、何故ヨットの帆は三角形なのかについて、深掘りしてみたいと思います。

昔のヨットは四角形の帆を使っていた

19世紀のヨットの写真や絵画を見ると、現在のヨットとは帆の形が大きく異なっていることに気づきます。

マストの後方に張られたメインセイルは三角形ではなく、上部にも幅のある四角形をしています。帆の上辺には斜めに伸びる桁が取り付けられ、そこから大きな帆が広がっています。

この帆をガフセイル(gaff sail)、上辺を支える桁をガフ(gaff)と呼びます。そして、ガフセイルを使用する帆装がガフリグ(gaff rig)です。

ガフリグは、19世紀から20世紀初頭にかけて、多くのヨットで使われていました。当時のヨットレースでも、ガフリグの船が活躍していました。

ところが、こうしたヨットをよく見ると、すべての帆が四角形だったわけではありません。

船首側には、現在のヨットと同じように、三角形のジブが張られています。

つまり、当時のヨットは、三角形の帆を使うことを知らなかったわけではないのです。船首側には三角形の帆を使いながら、メインセイルには四角形の帆を選んでいました。

ここで、帆の形について少し整理しておきましょう。

帆船の帆は、横帆(おうはん)と縦帆(じゅうはん)に分けられます。

横帆は、マストに対して横向きに取り付けた桁から帆を張る方式です。古い帆船の絵に登場する、船体を横切るように広げられた大きな帆が代表的なものです。

これに対して縦帆は、船の前後方向に沿って張る帆です。現在のヨットのメインセイルやジブも、ガフセイルも、この縦帆に含まれます。

横帆と縦帆は、帆が四角形か三角形かという分類ではありません。船に対して、どのような向きに帆を張るかという違いです。

そして、三角形の縦帆そのものは、近代のヨットが登場するよりもずっと以前から存在していました。例えば、地中海で使われてきたラテンセイル(lateen sail)があります。

ラテンセイルは、マストに対して斜めに取り付けた長い桁で三角形の帆を支える方式です。古代末期には地中海で使用されていたことが確認されており、中世には広く普及していました。

現在のヨットの三角帆とは、帆を支える構造が異なりますが、三角形の帆が古くから実用化されていたことを示しています。

そして、ヨットに使われる三角帆にも、長い歴史があります。現在のヨットで一般的な、マストに沿って前縁を張る三角形のメインセイルは、バミューダセイル(Bermuda sail)と呼ばれます。この帆を使う帆装がバミューダリグ(Bermuda rig)です。その名の由来となった大西洋のバミューダ諸島では、17世紀には三角形の帆を使う船が存在していました。

つまり、19世紀のヨットでガフリグが広く使われていた頃には、現在のバミューダリグにつながる三角帆も、すでに知られていたのです。それでも、多くのヨットでは四角形のガフセイルが使われ続けました。これは、単に古い帆装が残っていたという話ではありません。ガフリグには、当時の船体やマストの構造に適した特徴がありました。

三角形の帆が存在していたにもかかわらず、四角形の帆が選ばれていたという事実は、帆の形を考えるうえで重要です。帆の形は、三角形か四角形かという違いだけで決まるものではなく、船全体の設計や、帆を支える仕組みと深く関係していたのです。

三角形の帆は何が違うのか

昔のヨットでは四角形のガフセイルが広く使われていました。では、三角形の帆とは、何が違うのでしょうか。

帆は風を受けて船を進めるものですが、その働きは、風に後ろから押されるだけではありません。例えば、ヨットが風を斜め前方から受けながら帆走しているとき、帆には風の流れによって力が生まれています。

帆を適切な角度に調整すると、風は帆の両側を流れ、圧力差が生じます。この圧力差などによって発生する力を揚力と呼びます。揚力は、帆に対しておおむね横方向に働きます。船体やキールは横流れを抑える役割を持っており、帆に働く力の一部が船を前進させる力として利用されます。この仕組みは、三角形の帆だけに特有のものではありません。四角形のガフセイルでも、適切な角度と形に調整すれば揚力を発生させ、風上へ向かって帆走できます。つまり、三角形だから風上へ進める、四角形だから進めない、という違いではないのです。

では、形の違いはどこに現れるのでしょうか。

ガフセイルは、上辺をガフで支えるため、帆の上部にも幅があります。比較的低いマストでも大きな帆面積を確保できることが特徴です。これに対して、バミューダセイルは、マストの上端に向かって幅が狭くなる三角形です。同じ帆面積を確保する場合、細長い形に設計しようとすれば、より高いマストが必要になります。

この違いは、風を受ける面積が船のどの高さに配置されるかという点にも関係します。

ガフセイルは上部に幅を持たせることで、マストをそれほど高くしなくても面積を増やせます。バミューダセイルは、マストを高くすることで、縦に細長い帆を張ることができます。ただし、三角形の帆が必ず細長いわけではありません。幅の広い三角帆もあれば、縦に細長い四角帆もあります。

重要なのは、三角形か四角形かという区別だけではなく、帆の高さと幅、そして面積がどのように配置されているかです。

さらに、帆は平らな布ではありません。実際のセイルには、風を効率よく受けるためのふくらみがつけられています。帆走中には、そのふくらみの深さや位置、帆の上部のねじれ方などが性能に影響します。ガフセイルでもバミューダセイルでも、こうした立体的な形を適切に保つことが重要になります。

三角形の帆と四角形の帆は、どちらも風から揚力を得ることができます。しかし、帆の高さや幅、支える構造が違えば、空気の流れや帆の形を調整する方法も変わってきます。

現代のヨットで使われる細長い三角帆の特徴を理解するには、まず帆の高さと幅の関係に注目する必要があります。

帆の縦横比が性能を変える

帆の高さと幅の関係を表す指標に、アスペクト比(aspect ratio)があります。

簡単にいえば、縦に細長い帆はアスペクト比が高く、横に広い帆はアスペクト比が低くなります。厳密には、帆の高さの2乗を帆面積で割った値などを使って表します。

例えば、同じ30平方メートルの帆でも、高さが10メートルの帆と15メートルの帆では、アスペクト比が異なります。後者の方が、より縦に細長い形になります。

では、帆を縦に細長くすると、何が変わるのでしょうか。

帆の上端で生まれる抵抗

帆が揚力を発生させているとき、帆の両面には圧力差が生じています。

帆の上端付近では、この圧力差によって空気が回り込み、渦を伴う流れが生まれます。この現象は、飛行機の翼端に生じる渦と基本的に同じ仕組みです。

こうした流れによって揚力の向きが変化し、誘導抗力(induced drag)と呼ばれる抵抗が発生します。

一般に、同じ帆面積で同程度の揚力を発生させる場合、アスペクト比が高い帆ほど、この誘導抗力を小さくできる傾向があります。

つまり、縦に細長い帆には、風から得た力を利用する際の余分な抵抗を減らせるという利点があります。

ただし、これは同じような条件で比較した場合の話です。実際の帆では、マストや船体、海面の影響も受けるため、アスペクト比だけで性能が決まるわけではありません。

高い位置の風を利用する

帆を高くすることには、もう一つの意味があります。

海面近くの風は、水面との摩擦などによって弱められています。一般に、海面から高くなるほど風速が増すため、高いマストに張られた帆は、上部で比較的強い風を受けることができます。

風から得られる力は、風速によって大きく変わります。風速が2倍になれば、ほかの条件が同じ場合、帆に働く空気力はおおむね4倍になります。

高い位置の風を利用できることは、帆走性能を考えるうえで無視できない特徴です。

もっとも、高い位置で大きな力を受ければ、船体を傾ける力も増えます。

帆に働く横方向の力が同じでも、その力が高い位置に作用するほど、船体を傾けようとするモーメントは大きくなります。

高いマストには、それを支えるステーや船体構造の強度も必要です。帆を高くすれば必ず速くなる、というわけではありません。

ガフセイルとバミューダセイルの違い

ここで、昔のヨットのガフセイルと、現代のバミューダセイルを比べてみましょう。

ガフセイルは、帆の上辺をガフで支えているため、比較的低いマストでも大きな帆面積を確保できます。

バミューダセイルは、上端に向かって細くなる三角形です。高いマストと組み合わせれば、縦に細長い帆を張ることができます。

高いアスペクト比を持つ帆は、特に風上へ向かう帆走で、誘導抗力を抑えるうえで有利になる場合があります。

しかし、これは三角形という形そのものの効果ではありません。

四角形の帆でも縦に細長く設計できますし、三角形の帆でも横幅を広くすればアスペクト比は低くなります。

また、帆の性能には、風を受けたときのふくらみやねじれ、帆の上端付近の形状なども関係します。

重要なのは、帆をどのような形に設計し、その形を帆走中にどれだけ適切に保てるかということです。

バミューダセイルには、高いアスペクト比の帆を、ガフを使わずに張れるという構造上の特徴があります。

ただし、その特徴を生かすには、高いマストを支える技術が必要でした。

三角形の帆がヨットの主流になった理由を考えるには、帆の空気力学だけでなく、それを支える艤装の発達にも目を向ける必要があります。

なぜガフリグからバミューダリグへ変わったのか

三角形の帆が古くから存在していたにもかかわらず、19世紀のヨットでは四角形のガフセイルが広く使われていました。

では、なぜ現在のヨットでは、三角形のメインセイルを使うバミューダリグが主流になったのでしょうか。

その変化を理解するには、まず当時のマストの構造を見る必要があります。

高いマストをつくることの難しさ

ガフリグでは、メインセイルの上辺をガフと呼ばれる桁で支えています。

この構造なら、マストをそれほど高くしなくても、上部に幅のある大きな帆を張ることができます。

これに対して、バミューダリグで縦に細長いメインセイルを張るには、帆の前縁を支える高いマストが必要です。

19世紀の大型ヨットでは、木製のメインマストの上に別のトップマストを継ぎ足す構造が一般的でした。マストの途中には、ステーやシュラウドを支える横木なども取り付けられていました。

こうした構造では、メインセイルの前縁をマストの頂部まで連続して引き上げることが難しくなります。

ガフリグなら、メインセイルは下側のマストに沿って揚げ、上部の帆面積はガフやトップセイルによって確保できます。

当時の大型ヨットにとって、これは合理的な仕組みだったのです。

バミューダリグは小型ヨットから広がった

バミューダリグは、20世紀になって突然登場した帆装ではありません。

19世紀のイギリスでも、三角形のメインセイルを使うヨットは存在していました。

1880年代から1890年代には、スコットランドの著名なヨット設計者ウィリアム・ファイフ3世(William Fife III)や、イギリスの設計者リントン・ホープ(Linton Hope)らが、小型レーシングヨットにバミューダリグを採用しています。

小型艇なら、比較的単純な一本のマストで、細長い三角帆を支えることができました。

しかし、大型ヨットで同じような帆装を実現するには、さらに高いマストを十分な強度で支え、メインセイルを円滑に上げ下ろしできる構造が必要でした。

マストと索具の技術が変わった

大きな転機の一つが、1912年に建造されたイギリスのレーシングヨット、イストリア(Istria)です。

設計者のチャールズ・ニコルソン(Charles Nicholson)は、従来のメインマストとトップマストを継ぎ合わせ、連続した一本のマストとして機能する構造を採用しました。

興味深いことに、イストリア自体はまだガフリグでした。

しかし、このようなマスト構造の発達は、後にバミューダリグを大型ヨットへ採用するうえで重要な意味を持ちました。

連続したマストにセイルを案内するトラックを設ければ、メインセイルの前縁をマストに沿って高い位置まで引き上げられます。

また、スプレッダーやワイヤー索具の改良によって、高いマストを横方向から支える技術も進歩しました。

こうして、ガフを使わず、高いマストに細長い三角帆を張るための条件が整っていきました。

ヨットレースで評価された風上性能

バミューダリグが普及するうえで、ヨットレースも重要な役割を果たしました。

前の項目で説明したように、縦に細長い帆には、誘導抗力を小さくできるという空気力学的な利点があります。

特に風上へ向かう帆走では、帆が発生する揚力と抵抗の関係が重要になります。

当時のレーシングヨットでも、バミューダリグの風上性能は高く評価されるようになりました。

また、ガフリグではメインセイルの上部にガフという桁があり、さらにトップセイルを備える船もありました。

バミューダリグでは、こうした上部の桁をなくすことができます。

これは、マスト上部の重量を減らせるだけでなく、帆を揚げるための索具や操作を減らせるという利点にもつながります。

レースのスタートやマーク回航では、帆走性能だけでなく、素早く進路を変えられることも重要です。

ガフリグと比べて艤装を簡潔にできることも、バミューダリグが評価された理由の一つでした。

レースの規則も帆装を変えた

もう一つ見逃せないのが、ヨットレースの計測規則です。

異なる大きさや設計のヨットを競わせるため、レースでは船体寸法や帆面積などからレーティングを算出する規則が使われてきました。

こうした規則では、帆面積を大きくすれば、それだけ有利になるとは限りません。

帆面積に対する評価が厳しくなると、設計者は限られた帆面積から、できるだけ高い帆走性能を得ようとします。

高いアスペクト比を持つバミューダセイルは、特に風上性能を重視する設計で有力な選択肢となりました。

ただし、計測規則は時代やクラスによって異なります。バミューダリグへの移行が、すべて同じ規則によって起きたわけではありません。

実際にガフリグから切り替わったヨット

1921年、チャールズ・ニコルソンは大型ヨットのナイリア(Nyria)をバミューダリグに改装しました。

同じ頃、小型レーシングヨットのスター級でも、ガフリグからバミューダリグへの転換が進みます。

スター級は1911年に誕生したアメリカのレーシングヨットで、当初はガフリグを採用していました。

1921年にはバミューダリグの使用が認められ、実際のレースで良好な成績を収めたことから、採用する艇が急速に増えました。

さらに1931年には、イギリス国王ジョージ5世の大型レーシングヨット、ブリタニア(Britannia)もバミューダリグに改装されています。

こうした変化を経て、バミューダリグは大型ヨットでも一般的な帆装となっていきました。

ここまでの歴史を見ると、ヨットのメインセイルが三角形になった理由が見えてきます。

三角形の帆が新しく発明されたからでも、四角形の帆では風上へ進めなかったからでもありません。

高いマストを支える技術が発達したことで、細長い三角帆の空気力学的な利点を、大型ヨットでも利用できるようになりました。

さらに、ガフなどの上部の桁をなくして艤装を簡潔にできることや、レースでの風上性能が評価されたことが、普及を後押ししました。

つまり、現在のヨットで三角形のメインセイルが主流になったのは、帆の性能だけでなく、それを支える技術と、ヨットに求められる性能が変化した結果だったのです。

帆の形によって操船はどう変わるのか

ガフリグからバミューダリグへの移行によって、ヨットの帆走性能だけでなく、帆を扱うための操作も変わりました。

その違いがわかりやすいのは、メインセイルの上げ下ろしです。

ガフリグでは、四角形のメインセイルの上辺をガフという桁で支えています。一般的なガフリグでは、ガフの付け根側を引き上げるスロートハリヤードと、先端側を引き上げるピークハリヤードという2本の索を使います。メインセイルを揚げる際には、この2本を操作してガフを持ち上げ、適切な角度に保つ必要があります。ガフの先端が下がりすぎたり、上がりすぎたりすると、帆の形も変わってしまいます。

これに対して、現在の一般的なバミューダリグでは、メインセイルの頂点をメインハリヤードで引き上げます。ガフを持ち上げたり、その角度を調整したりする必要はありません。メインセイルを揚げる仕組みは、ガフリグより単純です。

ただし、帆を揚げる操作が単純になったことと、帆走中のセイルトリムが簡単になったことは、同じではありません。

バミューダセイルでは、メインシートでブームの位置を調整するほか、アウトホールで帆の下辺を張り、ハリヤードやカニンガムで前縁の張力を調整します。さらに、バングやトラベラーなどを使って、帆の上部のねじれ方やブームの位置を調整することもできます。これらの操作によって、帆のふくらみの深さや位置、風を逃がす量を変え、風向や風速に合わせたセイルトリムを行います。

ガフセイルでも、シートやハリヤードなどを使って帆の形を調整できます。ただし、上辺をガフで支えているため、帆の形を変える際にはガフの角度や張力も関係します。

もう一つの違いは、帆を小さくするリーフ(縮帆)です。

ガフリグでは、メインセイルを下げる際にガフも下げる必要があります。一般的なリーフでは、ハリヤードを操作してガフを下げ、帆の下部をブームに沿ってまとめます。

バミューダリグでは、メインハリヤードを緩めて帆を必要な位置まで下げ、リーフ用の前縁と後縁を固定します。

どちらも基本的には帆の面積を減らす操作ですが、バミューダリグにはガフを扱う操作がありません。また、現在のクルージングヨットでは、ブームやマストの内部にメインセイルを巻き取る方式も使われています。こうした装置は、バミューダリグの艤装を前提に発達してきたものです。

ただし、バミューダリグだから必ずリーフが容易になるわけではありません。実際の作業量は、リーフ装置の方式や索の取り回し、帆の大きさによっても変わります。

帆走中のジャイブでも、両者には違いがあります。

ガフリグでは、ブームに加えて、上部にガフという桁があります。ジャイブの際には、このガフも風下側から反対側へ移動します。

バミューダリグにはガフがないため、メインセイル上部の桁の動きを考える必要はありません。もっとも、ジャイブでブームが勢いよく反対舷へ移動する危険は、どちらの帆装にも共通しています。バミューダリグであっても、メインシートの適切な操作は欠かせません。

このように、ガフリグとバミューダリグでは、帆を支える構造の違いが、上げ下ろしや縮帆、ジャイブなどの操作に現れます。

バミューダリグでは、ガフとそれを支える索具が不要になったことで、メインセイルを扱う仕組みが簡潔になりました。ただし、帆走中に必要な調整まで減ったわけではありません。現代のヨットでは、むしろさまざまな調整装置を使い、帆の形を細かくコントロールしています。

バミューダリグの特徴は、単に三角形の帆が扱いやすいということではなく、ガフを使わない構造によって帆の支持方法が変わり、そのうえで帆の形を調整する技術が発達してきたことにあります。

現代の帆は三角形から変わり始めている

ガフリグからバミューダリグへの移行によって、三角形のメインセイルは現代のヨットの標準となりました。ところが、最近のレーシングヨットを見ると、必ずしもきれいな三角形のメインセイルばかりではありません。

マストの上端付近で帆が後方へ大きく張り出し、頂点を斜めに切り落としたような形をしたものがあります。

これは、スクエアトップセイル(square-top sail)と呼ばれるメインセイルです。ファットヘッド(fathead)と呼ばれることもあります。

通常の三角形のメインセイルは、上に向かうほど幅が狭くなり、頂点ではほとんど幅がなくなります。スクエアトップセイルでは、その上部にも幅を持たせています。

なぜ、長く使われてきた三角形の形を変えるのでしょうか。

帆の上部にも面積を確保する

スクエアトップセイルの特徴の一つは、同じマスト高でも、通常の三角帆より上部に大きな帆面積を配置できることです。

メインセイルの後縁には、もともとローチ(roach)と呼ばれる、マストとブームの端を結ぶ直線から後方へ張り出した部分があります。

スクエアトップセイルは、この張り出しを帆の上部まで大きくした形と考えることができます。上部の幅を広げれば、その部分でも風から揚力を得られます。

ただし、帆面積が増えれば、風から受ける力も増えます。単に面積を大きくするだけでは、強風時に船体を過度に傾ける原因にもなります。

そこで重要になるのが、帆の上部の動きです。

風が強くなると上部が開く

メインセイルは、上から下まで同じ角度で風を受けているわけではありません。帆の上部を下部に対して風下側へ開くようにねじらせることを、ツイスト(twist)と呼びます。

適切なツイストを与えることで、帆の高さによって異なる風向に対応したり、上部の揚力を調整したりできます。

スクエアトップセイルでは、帆の上部を支えるバテンの硬さや、セイルクロスの配置などを工夫することで、風圧が強くなったときに上部が開くように設計することがあります。

バテンとは、帆の形を保つために取り付けられた細長い補強材です。

スクエアトップセイルでは、上部に広がった帆を支えるため、長いバテンが重要な役割を果たします。風が強くなったときに上部が適度に開けば、帆の高い位置で発生する横方向の力を減らせます。高い位置の力を減らすことは、船体を傾ける力を抑えるうえでも効果があります。

つまり、スクエアトップセイルは、帆の上部に面積を増やしながら、その部分の風圧を調整できるようにした設計なのです。

三角形の帆は不要になったのか

では、スクエアトップセイルの登場によって、従来の三角形のメインセイルは時代遅れになったのでしょうか。

そういうわけではありません。

スクエアトップセイルでは、帆の上部を大きく張り出させるため、それを支えるバテンやマストとの組み合わせが重要になります。

また、一般的なクルージングヨットでは、マストの上部から船尾へバックステーを張っていることがあります。

スクエアトップセイルの大きく張り出した後縁は、タックやジャイブの際に、このバックステーと干渉する場合があります。そのため、バックステーを持たない艤装や、特殊な支持方法を採用したヨットなどで使われることが多く、従来の艤装にそのまま取り付けられるとは限りません。また、レースでは帆面積の計測方法やクラス規則によって、採用できる帆の形が制限されることもあります。

スクエアトップセイルがすべてのヨットに適しているわけではないのです。

ここで注目したいのは、スクエアトップセイルが、ガフセイルのような上辺を支える桁を使っていないことです。ガフリグでは、上部に幅のある帆を支えるためにガフが必要でした。

現代のスクエアトップセイルでは、マストとバテン、そして帆そのものの構造によって、上部の形を保っています。

つまり、バミューダリグの基本的な構造を維持しながら、従来の三角形では狭くなっていた帆の上部を、さらに有効に利用しようとしているのです。

帆の形は、三角形であること自体を目的として決められているわけではありません。

風から必要な力を得ること、その力を適切に調整できること、そして船体や艤装と無理なく組み合わせられることが重要です。

三角形のメインセイルが主流になった後も、こうした条件を満たすために、帆の形は変化を続けています。

最後に…

ヨットの帆は、最初から三角形だったわけではありません。

かつてのヨットでは、四角形のガフセイルが広く使われていました。三角形の帆も古くから存在していましたが、それだけでヨットの標準的な帆装になったわけではありません。

大きな変化をもたらしたのは、マストや索具の技術の発達でした。

高いマストを支えられるようになったことで、縦に細長い三角帆の空気力学的な利点を生かしながら、ガフを必要としない帆装が実用的になりました。

ヨットレースで風上性能が重視されたことも、バミューダリグの普及を後押ししました。

つまり、現代のヨットで三角形の帆が主流になったのは、三角形という形そのものが万能だったからではありません。

帆走性能、艤装の構造、取り扱い、そしてそれを支える技術が組み合わさった結果、三角形の帆が広く採用されるようになったのです。

そして現在は、スクエアトップセイルのように、三角形の上部に幅を持たせた帆も使われています。かつて四角形から三角形へと変化したヨットの帆は、今も性能を追求しながら、その形を変え続けているのです。

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