コロナ禍による船の世界でのニュースと言えば、大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号での乗客乗組員の集団感染から始まり、日本では長崎に停泊中のクルーズ船でもクルーの感染により隔離などの措置が取られています。日本船での集団感染等のニュースは日本国内では聞こえてきませんが、米国海軍の艦艇でも集団感染が起きるなど、人の行き来が多い船では集団感染騒ぎは多く出ている模様です。ヨットの世界に目を向けると、セーリングで世界を渡り歩いているようなヨット生活者にとって深刻な問題となっているのが、6月頃から始まるカリブ海周辺のハリケーンシーズン問題です。通常、4月下旬から5月にはカリブ海の島々をアイランドホッピングしていたヨッティー達は、ハリケーンを避けて北米方面に向かうか、ヨーロッパ地中海方面に行くなどの船出の時期です。しかし、コロナ禍によりアメリカはもとより、世界中の港は入港を規制しており、母国の港以外、他国の港へは受け容れて貰えず、特にヨーロッパ各国籍のヨッティー達が行き場を失うという問題が起きているようです。
さて、港の規制だけではありません。カリブ海には様々なヨットツアー船もカリブの島々を巡っていますが、その中でもオランダのセイルトレーニングシップに乗った学生たちが母国へ帰れなくなってしまったことから、そのまま帆船で大西洋を横断し、5週間にも渡る航海でようやく帰り着いたというニュースがCNNなどを中心に報道されてます。
今回は、そのニュースを中心に、世界最大のトップスルスクーナー型帆船であり、セイルトレーニングシップでもある”WYLDE SWAN”号についてもご紹介したいと思います。
カリブ海で立ち往生した25人のオランダ・ティーンエイジャー
世界最大のトップスルスクーナーでセイルトレーニングシップでもあるワイルドスワン号で、カリブ海の島々を巡りながらトレーニング(マスタースキップ)を受けていた、14歳から17歳までのオランダ人学生たち25人は、所定の6週間のトレーニングコースを終え、3月の中旬にキューバから空路にてオランダに帰る予定でした。しかし、世界的に新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの対応により各国政府が施行した港湾と国境の閉鎖により、当初予定されていたキューバからの空路での帰国が不可能となってしまいます。幸いにも、ワイルドスワン号に乗船した子供たちの他、12人のクルーと3人教師は感染の疑いが無く健康状態も良かったことから、子供たちの航海を延長し、そのままオランダへ帰国することが最良の手段であると判断を下します。子供たちの親もその提案に同意したことから、子供たちはおよそ4350海里(およそ7000キロ)をおよそ5週間掛けて大西洋を横断する航海を行うことになりました。
ワイルドスワン号はカリブ海から途中、大西洋のほぼ中央部あるアゾレス諸島のオルタで補給のために停泊しますが、船から降りることは許されず、食糧などの他に生徒たちは暖かいカリブの海での準備市化してきていなかったことから、温かい服などを積み込み、一路オランダに向けて大西洋を北上し、出発から5週間後の4月26日にオランダのハーリンゲン港に無事に帰り着きました。
世界最大のトップスルスクーナー ”WILD SWAN”
この帆船は、1920年にドイツで建造されたニシン漁の蒸気運搬船でした。ニシンは漁船で水揚げしてからの痛みがはやいことから、沖で獲った魚を集めて市場に迅速に輸送することで、新鮮なニシンを高値で取引できることから高速で走れるように細長いデザインをしています。この船体を利用してセイルトレーニング専用の帆船として生まれ変わったのが”WiLD SWAN”です。この”WILD SWAN”号は、世界最大の2本マストのトップスルスクーナーで2010年に進水しました。長さ62メートル、幅7.3メートル、セイルエリア1130㎡、269トン、定員36名、最大速度は15ノットのオランダ船籍の帆船(トールシップ)です。
オランダのセイルトレーニングシップ
オランダは教育制度が世界で最も充実し進んでいる国として有名で、5歳から18歳までの義務教育が無償です。ワイルドスワンは”MASTERSKIP“と言う、1航海6週間のカリキュラムでチームワークやリーダーシップ、その他、普段の生活では得難い様々な海外体験ができるプログラムになっています。航海中の6週間、学校教育が滞ることなく、船には教員免許を持った教師が3名から4名乗船し教育カリキュラムは継続されます。乗船を申し込むと教育機関と連携し学校での教育内容が船内で継続されるように乗船する教師が連携します。つまり、参加した子供たちにとって、船は学校であり、家であり、貴重な体験を積む場所でもあるわけです。勿論、航海術や海洋学習など、帆船で旅する特有の経験や体験、知識も得ることが出来るわけです。
最後に… セイルトレーニングとは
セイルトレーニングは世界的に盛んで、先進国でセイルトレーニングが行われていない国は日本だけかもしれません。(過去に日本でも「海星」「あこがれ」というセイルトレーニングシップが存在しました。)セイルトレーニングと言うと、ご存知でない方は、古い帆船で船員教育をするのだと考えがちですが、実際には船乗りを養成するためのものではありません。
主に15歳から18歳位までの子供たちに、冒険の世界に足を踏み入れる機会を与えるためのものです。冒険とは、自分に挑戦し、新しいスキルを学び、世界中から新しい友達を作ることができる貴重な機会の事です。海に出て帆船で航海することにより、そこで学ぶことができる経験は、自分自身について学び、隠れた強みや才能を発見し、チームワークの価値を理解するのに役立ちます。つまり、帆船は小さな社会であり、その小さな社会で自分を見つめ直し、自分の存在価値や自分の立ち位置を見つけ、小さな社会の中で社会の一員として如何に社会参加してゆくかを帆船の航海の中で体験的に学びます。例えるならば、幼児向けに様々な仕事を遊び感覚で体験させる遊園地のような施設がありますが、セイルトレーニングはそれのミニ社会体験版とでもいえば解り易いでしょうか?遊園地の遊び間隔は、こちらでは冒険に置き換わっているということです。
単なる帆船を体験するだけではなく、そこには子供たちにとって貴重な経験を通した体験を積むチャンスがあり、それが大人になり実際に社会参加してゆくときのヒントになる経験を積むことが出来る場所がセイルトレーニングというものです。
世界では、セイルトレーニングシップに世界中の子供たちが乗船し、世界中に友達を作るという場所でもあります。
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