僕がヨットにハマってしまったのは、風の力だけで10メートルを超える船体が帆走(セイリング)することに感動したこと。そしてもう一つ、ヨット(セーリングクルーザー)はキャビンで食事や寝泊まりができる海のキャンピングカーだってことです。
僕には子供の頃からの夢で大型のキャンピングカーで日本中を巡ってみたいと思っていました。僕のキャンプ好きは子供の頃からで、当時流行っていたボーイスカウトにも入りキャンプはお手のもの。当時のキャンプは今と比べればとても質素なもので、三角テントに寝袋と懐中電灯、飯盒と水筒に自分が食べる分だけの材料が持ち物で、焚火で作る飯盒炊飯はキャンプにおける一番の醍醐味であり楽しみでした。そして、持ち寄った材料を大鍋に入れ大量のカレーを作り、飯盒で炊いた飯を飯盒の蓋に盛りカレーをかけて食べるのが子供の頃には何よりも楽しみでした。大人になった今から思えば、そんなに大したものではないけれど、子供の頃はそれが最高にうまかった。そんな子供の頃のキャンプ経験はいつしか大型キャンピングカーを買って家代わりにしながら日本中を巡ってやろうと僕のささやかな夢に変わってゆきました。しかし、大人になってその夢は潰えたのです。理由は単純、就職した仕事が全国対応で頻繁に出張し全国各地を巡ることができたことや、やがて海外にも行くようにもなったことで狭い日本でアメリカのような大型のキャンピングカーを持っても行き場が限られる現実を悟ってしまったのです。

それから長い年月が経ち、ヨットに初めて乗った時、ビビビって昔の気持ちが蘇りました。そんな僕がヨットを始めてわかったことが『ヨット乗りたちはグランピングをヨットの船上で遠い昔からやっていた』ということです。

ヨットにはグランピングの要素が詰まっている

アウトドアブームも過熱の一途を辿り、キャンプサイトを見ると家のリビングを持ち出したような大きなテントに快適アイテの数々。今ではソーラーパネルにポータブル電源まである状態です。しかし、キャンプサイトに着いてテントを立て快適グッズをセッティング、それから食事の準備なんて全く寛ぐ暇などなく疲れてバタンキュー。これでは、まるでキャンプという仕事をやりに行ったようなもの、そんな感じで豪華なキャンプに限界が見えてきたのがグランピングの始まりともいえると思います。

大型のテントやアウトドアっぽい建物、遊牧民族ゲルからツリーハウスまで様々な体験型のビラは、まるで豪華な家のゲストハウスような感じで、快適アイテムの数々も全てセッティング済み、更に食事まで準備されていて、体ひとつで行くだけでキャンプのおいしいところ取りでゆったり楽しめるのが近年流行のグランピングだそうです。

それに比べて、ヨット(セーリングクルーザー)も、ベッドやリビング、小さなキッチンも既にキャビン内に全て揃っています。電気も使えるのでスマホや携帯の充電から家電までOK。コックピットに上がってテーブルを広げれば、そこは水上コテージのデッキと同じようなものです。そこでケータリングのピザでも頼んでワインでも開ければ、もうそこはグランピングのビラと同じです。小さなギャレーで調理もできるから、少しばかり何かを作ってもいいし、ホットプレートやカセットコンロでバーベキューや焼肉、鍋物、なんでもできます。

おまけにロケーションを変えたければ、ヨットを出して何処かの入り江で錨を落とし(アンカリング)停泊したり、どこか別のマリーナに行くのもいい。趣向を変えたければ何処かの漁港に入り現地の美味いものを食べてももいい。温泉場が近ければ温泉に浸かりにいってもいい。都会から少し離れれば星空だって綺麗に見えます。夜は波音を聞きながらキャビン内のバース(ベッド)で就寝すれば、これは完全に野外体験型宿泊グランピングということになります。

グランピング・ヴィラと変わらないヨット設備

グランピングにおける豪華なテントや建物のことをヴィラ(Villa)と言うようです。ヨットはグランピングにおけるヴィラの要素も満たす設備が整っています。

ヨットのキャビン(船室)はデッキの下の居住区画の事を言います。デッキ内は大きく分けて2つから3つのエリアに分かれており、コックピット(操船スペース)からキャビンに入った最も広い区画がメインキャビンです。メインキャビンの前側の部屋をフォクスルと言い、メインキャビンの後ろ側(コックピットの下)をクォーターバースと言います。(メインキャビンとクォーターバースが一体になっている艇もあります。)

メインキャビンは家で言えばリビングダイニング

中央部のメインキャビンは中央部に大きなテーブルとベンチシートがテーブルの両脇にあり、家で言えばダイニングテーブルセットがあるような感じです。その横にはギャレー(小型のキッチン)があり、シンク、冷蔵庫、コンロ、食器棚などが備えられています。最近の船は電化が進み電子レンジを備えているものもあります。
また、海図などを見るためにダイニングテーブルとは別にチャートテーブルが備えられていて、海図見たり、船全般の分電盤や計器類が集中しています。小さな船長用のデスクと言ったところです。メインキャビンにはトイレの扉があります。トイレのことはヘッドと呼び中は様式便器と洗面台、船によってはシャワーなどが設備されています。因みに、船内で使う清水は、清水タンクに溜めたものを使います。
ベンチシートは夜になればベッドにすることもできるようなサイズになっています。

フォックスルはヨットの前側の物置兼ベッドルーム

フォクスルはデッキ上のマストの下で壁になった部分よりも前方部分の部屋の事をいいます。船首に向かって先細って行く形をしていて、そこにV型にマットを敷いてベッドにしたりするので、Vバースとも言います。フォクスルには天井にバウハッチが付いていてデッキへの出入りできるようになっています。小型ヨットの場合には、セイルロッカーや物置として使われています。逆に最近の大型ヨットは船首側のこのスペースをオーナーズルームと呼んで中央にダブルサイズのベッドと服などを収めるロッカーやパウダーテーブル(化粧台)が設えられた豪華な仕様になっています。

クォーターバースはヨットの後ろ側のベッドルーム

クォーター(quarter)は4分の1、バース(berth)は船の係留場所という意味でそれを人に置き換えて寝台(ベッド)という意味です。「1/4のベッド」とは、昔のヨットは船尾側も中央の胴体幅に対して尻すぼみになっていたので、人が1人寝られるくらいの穴倉のような細長いベッドスペースしか取れなかったので、船の幅の1/4しかないような小さな寝台スペースという意味でそのように言われるようになったようです。
現代のヨットでも小型ヨットのクォーターバースは狭い穴倉のようなスペースですが、中型から大型のヨットについては名ばかりで、ダブルサイズ以上の大きなベッドルームになっています。

コックピットは水上コテージのウッドデッキ

コックピットは海に出ればその名の通り操船するスペースですが、停泊すればそこは水上コテージのウッドデッキに早変わりです。テーブルを出して食事を楽しんだり、バーベキューや焼肉だってできます。また、夜空を見上げれば星空の下ので波の音を聞きながらのんびり過ごすこともできます。

最後に

ヨットはキャンピングカーの海版だという意味、解っていただけましたでしょうか。
クルーザーは旅に出てこそ価値がありますが、海に出られないような日でもホームポート(母港)のバースでのんびりグランピングするのも意外と楽しいです。いつも同じ風景で退屈しないかという声も聞こえてきそうですが、デッキ上に出て周囲の風景を見てみると、四季を通じて港の風景や海の感じも変わります。またやってくる海鳥や水中の魚たちも季節によって異なります。早朝の朝焼けや日暮れ時の夕焼けを見られた時には感動ものです。水上でのんびり波に揺られているのは、まるで揺りかごに居るかような気分ですし、バースで体を横にすると、気持ちよく眠りに落ちてゆきます。

ヨットのある暮らしの醍醐味はセーリングすることだけでなく、こういうプチ船上生活も第二の楽しみ方だと思います。

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