僕たち夫婦がヨット修行で暫く乗せて頂いていたヨットは、船尾に脱着式のフラッグポールが取り付けられるようなっていて、そこに毎回出港準備の時には、コックピットロッカーから旗を出して掲揚していた。旗はオーナーが所属しているヨットクラブのもので、三角形のペナントの形をしていて、セイリング時に旗を掲て帆走するなんてカッコイイなっていつも思っていました。

旗は遠い昔の帆船時代から用いられており、船と船、または船と陸との間のコミュニケーション手段として、情報の交換や自船が何処から来て何処へ行こうしている、現在の船の状態などを他者に示すツールとして、海上交通の安全のためにも重要な役割を担っていました。それ以外にも、旗はその船の権威を表現するためにもとても重要なアイテムでした。(現在でも王室や軍隊、官公庁の船には、このような意味のある旗を用いている場合があります。)
しかし、通信技術の発展により、旗の役目は少しずつ減って行き、現在ではごく限られた場面でしか用いられなくなっています。

実際に、国内を航行している様々な船に目を向けると、旗が全く見当たらない船も多く、小型の船舶(ヨットやモーターボート)に至っては、旗を掲げている船は稀と言っても過言ではありません。日本の場合、ヨットではヨットレースの時に所属するヨットクラブの旗を出走艇は掲げなくてはならないと言うようなレギュレーション(帆走指示書)に書かれていたりする場合には、小さなクラブ旗をヨットに付けて走っている様子を見ることができます。
日本では、国内を航行する場合には、旗を掲揚する義務が無いことから、旗を使用する場面が極端に少なくなっています。逆に外国船が日本国内を航行する場合には、ナショナルルールに則って、その船が所属する国等の地域の旗を船尾に掲げる必要があります。

しかし、アメリカなどでは、小型船舶でも国内を航行している場合でも多くの船が旗を掲げていますし、僕の船のイメージの中には、船と旗は切っても切れないものとしての思いがあり、最初に乗せて頂いていたヨットように特に必要は無くても旗を上げてヨットを楽しみたいなっていう気持ちがあります。しかし、船舶に旗を掲揚する場合には国際的にエチケットがあります。

そこで、今回は折角旗を掲揚するなら、そのエチケットを知ったうえで正しく掲揚するための基礎知識をお話したいと思います。

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船に旗を掲げるときのエチケットがある理由

船に旗を掲げる場合には、世界共通のエチケットが存在します。掲げることのできる旗の種類は限られていて、更に、掲揚する位置なども決まっています。人によってはカッコイイ旗を何本も自分の船に付けて走りたいって人も居るかもしれません。しかし、それは船の世界ではエチケット違反です。何故なら、先にも少し触れましたが、船の世界では旗は依然として情報通信ツールとして、今も変わらず尊重されているからです。つまり、相手船とのコミュニケーションが取れないような事態になったとき、掲げている旗を見て相手船の状況や情報を把握することができるのです。逆に言えば、自分の船が何か作業をしていたり、不具合が起きていたりする場合に、その意味の旗を揚げておくことで他の船に自分の船の状況を知らせることが出来るのです。しかし、適当な旗を沢山あげていては、他の船が戸惑ってしまいます。だからこそ、船に旗を掲揚する場合には、そのエチケットに則ってあげる必要があるのです。

掲げることができる旗の種類

掲げることが出来る旗は全部で5種類あります。
また、それぞれの旗は掲げる位置についても決まりがあります。

1.エンサイン “Ensign”

エンサインは、その船の船籍(所属する国や地域)を示す旗です。日本船籍の商船やヨット(プレジャーボート)の場合は、原則的に日本のエンサインは国旗「日の丸」を掲揚することになっています。日本ではエンサインのことを商船旗とも言います。

エンサインは船尾中央より少し左右の何れかにずらした位置に旗竿を傾斜させて取り付けます。ヨットの場合には、バックステーのある場合、バックステー全体の下から2/3程度の高さに掲揚することもできます。

国外水域を航行する際には必ず掲揚します。掲揚する時間帯は、その船がヨットレースなどに参加していない限り、朝8:00から日没までの時間と定められています。これは、日没後は旗が双眼鏡などで見ても他から見えないからです。また、船内に誰も居なくなる際にはエンサインを降ろして下船します。日中にエンサインが出ていれば、停泊中などは誰かが船内に居るという事です。

2.バージ ”Burgee”

バージは、ヨットクラブやヨットの団体(日本だとセーリング連盟など)組織などの所属を示す小さな旗のことです。

バージはマストトップ又は右舷の最も低いスプレッダーの下(2本以上のマストがある場合には、最も後ろのマスト)に掲揚します。
バージは、昼夜を問わず掲揚します。

※右舷のスプレッダー下の掲揚位置は、旗を掲揚するときに最も権威の高い位置であるため、外国港に入港する際などは、ここに入港国の国旗を掲揚します。

3.プライベート旗 “private signal”

プライベート旗は、その船の所有者がデザインしたカスタムメイドの旗です。
※自分の好きなデザインの旗は、これ1枚しか掲揚することができません。

この旗は、商船などの場合は、バウの船首ポストに掲揚します。ヨットの場合には、バージを掲揚する同じ位置、あるいは、バージをスプレッダー下に掲揚する場合には、バージの下に連ねて掲揚します。
バージと同様に、昼夜を問わず掲揚します。

4.儀礼旗 “courtesy flag”

儀礼旗とは、国際儀礼(プロトコール:伝統的な国家間のマナー)に従って掲揚される相手国、またはその地域の旗のことです。

船舶上で儀礼旗を掲げるのは、外国人があなたの船に乗船している時や、外国港に入港する際に掲揚します。但し、外国港に掲揚する際は、その国の当局から入港の許可を貰った後にのみ掲げます。(入国を拒否された場合には掲揚しません。)また、掲揚する際には、その国の適切な状態の旗を掲揚するべきです。汚れていたり、破れている、古い、デザインが異なるなどの場合には掲揚を控えます。国によっては、適切ではない状態で掲揚すると、罰金を科されるケースもありますので十分な注意が必要です。
掲揚位置は、マストの右舷スプレッダー下です。この位置にバージやプライベート旗がある場合には、右舷には儀礼旗のみを掲揚し、左舷にバージやプライベート旗を掲揚します。

5.行き先旗

大型商船などでは、最も高いレーダーポストの上に行き先旗(行き先の国または地域の旗)を掲揚します。ヨットの場合でも、その艇の最も高いマストトップに行き先旗を掲揚することっができます。これは、儀礼旗とは異なり、これから行こうしている国や地域を表すだけのことです。

6.国際信号旗 “international signal flags”

船舶の通信のために世界共通で使われる旗のことです。アルファベットの文字を意味する旗26種類、数字を意味する旗10種類、代表と言われる旗3種類、合計40種類の旗で構成されています。

国際信号機は必要な時、随時掲揚します。(日中の見ることができる時間帯にのみ使用)
船の状態(火災・操縦困難・試運転、投網中など26通りの意味を持つ)を周りの船舶に知らせながら航行・停泊することができます。
また、「国際信号書」 “International Code of Signal” (あらかじめよく使う文例を1~3文字の記号に割り当て、国際的に統一したもの)で定められた組み合わせで掲揚することもあります。
詳細は以下の資料をご参照ください。INTERNATIONAL CODE OF SIGNALS – U.S EDITION.
掲揚する位置は、右舷、または左舷のスプレッダーを利用します。

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満船飾 “Full Dress Ship”

船に小旗が洗濯物を物干しに干したようにいっぱい掲げられているのを目にしたことがあると思います。これは、満船飾と言います。(軍艦や日本の自衛艦の場合には「満艦飾」と言います。)
満船飾船は、国の祝祭日や記念日、特別の行事などに祝意を表すために国旗や国際信号旗を船に掲揚して飾り付けを行います。
国際信号旗は船首から船尾まで旗流に従って掲揚します。また、マストトップには国旗、マストが2本以上ある場合、メインマストに国旗、ミズンマストにバージやプライベート旗を掲揚します。また、船尾にはエンサインを掲揚します。(海外で満船飾を行う場合には、メインマストトップには相手国旗を掲揚します。)

国際信号旗の旗流(旗を連ねる順番)は、日本とアメリカでは異なっています。日本ではメインマストを中心に前後に2つの旗流で掲揚されますが、アメリカの場合には船首から船尾に向けてマストトップを経由して掲揚されます。
日本:(メインマストから船首に向けて)4-D-C-1-L-E-5-U-X-9-F-S-回答-Y-J-3-R-N-7-W-V-2 (メインマストから船尾向けて)7-E-I-3-M-L-8-S-R-1-W-V-0-Z-N-回答-C-G-8-K-O-2-F-T-5-U-Z-4-Y-P-0-X-H-D-9
アメリカ:A-B-2-U-J-1-K-E-3-G-H-6-I-V-5-F-L-4-D-M-7-P-O-第三代表-R-N-第一代表-S-T-0-C-X-9-W-Q-8-Z-Y-第二代表

掲揚する時間は、朝8:00から日没までです。

最後に

近年、多くの外国船が日本の港に来航するようになりました。その中でもクルーズ船が日本各地の港に見られるようになりましたが、見たことのない国旗をエンサインとして掲げているなって思っていたら、海事制度がイギリスを手本とした国は、エンサインもイギリスに倣って赤地に自国の旗などを入れたレッドエンサインを使っています。また、国旗とは異なるデザインもあったりします。海上や港で出会った際には、写真に撮って調べてみるのも面白いかもしれません。また、自衛隊の艦船などは、ワッチの際に周囲の船のエンサインも細かく確認していたりします。行き交うときなどに、エンサインを半旗にすると、自衛隊艦船も半旗にしてくれる時があります。これは、敬礼の意味があり、相手が半旗にしたら、こちらは元に戻します。そうすると相手も元に戻すという一連の流れになります。


他にも、出動してゆく艦船に対して、国際信号旗でUWを掲揚すると、UW1と返礼旗を掲揚してくれたりします。(UWは国際信号書で「安全航海を祈る」の意味です。上の絵はUW旗です。)

旗のコミュニケーションで海上で挨拶するのも、ヨットを楽しむ1つではないでしょうか。

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