以前にこのブログで世界のセーリングウェアブランドを紹介したことがあります。MUSTOやGill、HELLY HANSENなど、ヨットに乗る人なら一度は目にしたことがある定番ブランドを中心に紹介しました。

それから数年が経ち、最近はSNSなどを見ていると頻繁にいろんな広告が表示されるようになり、その中には日本では見たことが無いセーリングウェアブランドが出てくるようになりました。それで、他にも無いかと調べてみると意外にたくさんあることがわかりました。
中には、以前は日本ではほとんど見かけなかったものの、現在では国内で販売されているブランドもあります。また、日本に正規代理店や店舗がなくても、インターネットを利用すれば日本から購入できるものも増えてきました。
更に突っ込んで調べてみると、それぞれのブランドが得意とする分野やウェアに対する考え方もかなり違います。
そこで今回は、現在日本から実際に購入できるセーリングウェアブランドを中心に、「こんなブランドもある」という視点で紹介してみたいと思います。

ヨットウェアはどれも同じではない
ひとことで「ヨットウェア」といっても、セーリングスタイルによってウエアに求められる性能はかなり違います。
例えば、外洋を長時間航海するオフショアセーリングでは、強風や波を受け続けるため、高い防水性や防風性、耐久性が重要になります。一方、ディンギーやスキフ(軽量で高速な小型レーシングヨット)では、身体を大きく動かすため、重く頑丈なウェアよりも、動きやすさや軽さ、濡れた状態での保温性などが重視されます。
さらに近年のフォイリング艇や高速セーリングでは、ウェアに求められるものも変わってきました。高速での落水や艇体との接触を考え、インパクトベストやヘルメットなど、身体を保護する装備まで含めて開発するブランドもあります。
こうした違いは、それぞれのブランドの商品構成を見るとかなりはっきりしています。
オフショアを得意とするブランド、ディンギーから発展したブランド、高速セーリングに力を入れるブランド、そして価格を抑えながらセーリング専用ウェアを展開するブランドなど、その方向性はさまざまです。
つまり、ヨットウェアは単純に「どのブランドが高性能か」で選ぶものではなく、自分がどんなヨットに乗り、どんなセーリングをするのかによって選択肢が変わってくるということです。
今回は、そんなブランドごとの違いにも注目しながら、定番以外のヨットウェアブランドを見ていきます。
Sail Racing|高速セーリングを追求する北欧ブランド
Sail Racing(セイルレーシング)は、1977年にスウェーデンで誕生したセーリングウェアブランドです。一時活動を休止していた時期がありますが、1999年に再始動し、現在は「High Speed Sailing」を掲げて、高速セーリングのためのテクニカルウェアを中心に開発しています。北欧ブランドらしいシンプルで洗練されたデザインが目を引きますが、単なるマリンファッションのブランドではありません。
製品開発にはプロセーラーによるテストチームが関わり、実際のセーリング環境で素材やフィット感、機能などを検証し、高速化する現代のレーシングヨットとの関係も深く、SailGPやAmerica’s Cupなど、世界最高峰のセーリングシーンにも関わっています。
製品は普段着として使えるポロシャツやジャケットなどから、本格的なセーリングウェアまで幅広く展開しており、その中でも「Reference」シリーズは本格的です。外洋での使用を想定したReference Pro Jacket や Reference Pro Pantなどが用意されており、価格もかなり高め。今回紹介するブランドの中では、高性能・高価格側のブランドです。
一方、日本では FULLMARKS が Sail Racing を取り扱っているため、海外通販を利用しなくても購入することができます。一部実店舗でも取り扱いがあります。
MUSTO や Gill ほど日本では名前を聞く機会が多くありませんが、「高速セーリング」をブランドの中心に据えているところが Sail Racing の大きな特徴です。
Sail Racing 公式サイト
Sail Racing 日本サイト
Vaikobi|動きやすさを追求するオーストラリアブランド
Vaikobi(バイコビ)は、2012年にオーストラリア・シドニーで誕生したウォータースポーツブランドです。
セーリング専門ブランドというより、カヤック、SUP、サーフスキー、フォイルなどを含めた「水上で身体を動かすスポーツ」のためのウェアや装備を開発しているところに特徴があります。
そのため、Sail Racing のようなオフショア用ジャケットを中心としたブランドとは少し方向性が違います。
Vaikobi が重視しているのは、濡れることを前提とした環境での保温性や防風性、そして何より身体の動きを妨げないことです。セーリング用としても、ディンギーやスキフなど、クルーが頻繁に身体を動かす艇との相性がよく、PFD(浮力補助具)、スモック、ウェットスーツ、ラッシュガードなどを幅広く展開しています。
また、フォイリングなど高速化したウォータースポーツに対応するため、身体を衝撃から守るプロテクション系の製品にも力を入れています。
こうした商品構成を見ると、Vaikobi は「雨や波から身体を守るヨットウェア」というより、セーリング中に身体を動かすためのウェアと装備という考え方に近いブランドだといえます。
そして、今回このブランドを紹介したいもうひとつの理由が、日本で購入しやすくなっていることです。
現在は Vaikobi Japan の公式オンラインストアがあり、PFDをはじめ、スモック、ラッシュガード、アパレル、アクセサリーなどを国内で購入できます。
価格も、例えばUVロングスリーブラッシュガードが1万円前後、パフォーマンススモックが3万円弱と、海外の本格的なセーリングブランドと比較すると比較的手を出しやすい製品もあります。
大型クルーザーでオフショアを航海するための重装備というより、ディンギー、スポーツボート、フォイリングなど、運動量の多いセーリングを楽しむ人には面白い選択肢になりそうです。
Vaikobi 公式サイト

Vaikobi Japan 公式オンラインストア
Rooster|セーラー目線の実用派ブランド
Rooster(ルースター)は、1999年にイギリスで誕生したセーリングブランドです。
創業者の Steve Cockerill(スティーブ・コッカリル)はディンギーセーラーで、「本当に機能する装備が見つからない」という自身の経験から、自宅の空き部屋で製品づくりを始めました。
ブランドの出発点がディンギーということもあり、Rooster の商品には実際に艇の上で使うことを強く意識したものが多く、ウェットスーツ、スモック、PFD、グローブ、ブーツなど、ディンギーセーリングに必要なものがかなり幅広く揃っています。
さらに面白いのは、ウェアだけではなくロープや艤装品、ILCA(「Laser : レーザー」と呼ばれていた、世界的に普及している一人乗りのレーシングディンギー)用のパーツなどまで扱っていることです。
いわゆる高級ヨットウェアブランドというより、「セーラーが実際に使う道具を作るブランド」という印象に近いかもしれません。
Roosterを代表する製品のひとつが「Aquafleece(アクアフリース)」です。これは、外側に防水性を持たせたPU(ポリウレタン)コーティングを施し、内側にフリースを組み合わせたウェアです。一般的な防水用のスプレートップと保温用のフリースを組み合わせたような発想で、風や水しぶきを防ぎながら身体を冷やしにくくしています。
Aquafleece が登場したのは2002年。現在ではRooster を象徴するシリーズのひとつとなり、ディンギーだけでなく、キールボートやパドルスポーツなどでも使われています。
価格についても、世界的な高級セーリングブランドと比べれば比較的手を出しやすい製品が多く、機能性と価格のバランスを重視する人には面白いブランドです。
そして、Roosterは日本でも購入できます。
日本には「ROOSTER JAPAN」のオンラインショップがあり、セーリングウェア、ウェットスーツ、Aquafleece、ライフジャケット、フットウェア、グローブなどのほか、ロープやILCA関連用品まで販売されています。海外サイトから個人輸入しなくても国内で購入できるため、今回紹介するブランドの中でも比較的選びやすいブランドといえます。
派手な高級感よりも、実際にヨットに乗る人が必要とする機能を、現実的な価格で提供する。そんな実用性の高さがRoosterの大きな特徴です。
Rooster Sailing 公式サイト
ROOSTER JAPAN 公式オンラインショップ
CODE-ZERO|海でも街でも着られるセーリングブランド
CODE-ZERO(コードゼロ)は、オランダで誕生した比較的新しいセーリングウェアブランドです。ブランド名になっている「Code Zero」は、セーリングをする人なら聞いたことがあるかもしれませんが、軽風域で使用する、ジェノアとジェネカーの中間的な性格を持ったセールの名称です。
CODE-ZEROの特徴は、本格的なセーリングの世界を背景に持ちながら、いわゆる重装備のオフショアウェアだけを作っているブランドではないところです。
ジャケットやベスト、ショーツ、ポロシャツ、フリース、パーカーなど、実際にヨットに乗るときはもちろん、マリーナや普段の生活でもそのまま着られるウェアを数多く展開しています。
つまり、MUSTO などに見られる「荒天時に身体を守るためのセーリングウェア」とは少し方向が違い、セーリングとマリンライフスタイルの中間に位置するブランドと考えると分かりやすいと思います。ただし、単なる「ヨット風ファッション」のブランドというわけでもありません。
CODE-ZERO は世界各地のヨットレースやレガッタとの関係が深く、特にTP52によって争われる世界最高峰のモノハル・クルーザーレース「52 SUPER SERIES」に関連したウェアも展開しています。そんなこともあって、デザインにはレーシングヨットの雰囲気がかなり色濃く反映されています。
商品を見ていくと、海上で使えるジャケットやベストなどの機能的なウェアがある一方、ポロシャツやショーツ、ニット、キャップなども非常に充実しています。
セーリングクルーザーに乗る場合、いつも荒天用のオフショアジャケットが必要なわけではありません。穏やかな日のデイセーリングや沿岸クルージング、マリーナで過ごす時間、そしてクルーザーレースなどを考えると、むしろこうしたウェアの方が実際に着る機会は多いかもしれません。
価格も最高級のオフショアウェアほど高価ではなく、例えばポロシャツなどは70~90ユーロ程度の商品が中心です。
今回紹介しているブランドの中でも、CODE-ZEROは少し異色です。「ヨットに乗るためだけの服」ではなく、ヨットに乗る日から普段まで、そのまま着られるセーリングウェア。そんなところがCODE-ZEROの面白さではないでしょうか。
CODE-ZEROメーカー公式サイト

DECATHLON/TRIBORD|手頃な価格のセーリングウェア
DECATHLON(デカトロン)は、フランスで生まれた世界最大級のスポーツ用品ブランドです。
登山、自転車、ランニング、キャンプ、マリンスポーツなど非常に幅広い分野の商品を自社で開発していますが、その中でウォータースポーツを担当してきたブランドが「TRIBORD(トリボード)」です。
TRIBORD は1996年に誕生し、セーリングについても専用のウェアや装備を長年開発してきました。ここで面白いのは、単に安価なレインウェアを「ヨットでも使えます」と販売しているわけではないことです。
セーリング専用として、沿岸でのクルージングから、より厳しい海況を想定したオフショアまで、使用環境に応じた製品が用意されています。例えばセーリングジャケットには、比較的穏やかな海況で使用するエントリークラスから、本格的なオフショア航海を想定したモデルまであります。
つまり、「セーリングウェアは欲しいけれど、いきなり MUSTO や Gill の高価なオフショアウェアを揃えるほどではない」という人にも選択肢があるわけです。
セーリングクルーザーで考えてみても、毎回荒天の外洋航海をするわけではありません。デイセーリングや沿岸クルージングが中心なら、それに適した性能のウェアを選べばよく、必要以上に高価なものを購入する必要もありません。長時間波をかぶるような航海では、防水性だけでなく、防風性、透湿性、襟やフードの構造、縫い目からの浸水対策なども重要になります。
DECATHLONでは、こうした用途の違いによって製品を段階的に選べるところが特徴です。価格についても、ヨット専業の有名ブランドと比較するとかなり手頃です。
「セーリング専用品は高い」というイメージがありますが、TRIBORD を見ると、必ずしもそうではないことが分かります。
なお、DECATHLON は以前、日本にも西宮と幕張に大型店舗を構えていましたが、現在この2店舗は閉店しています。しかし、日本から完全撤退したわけではなく、現在も日本の公式オンラインストアが運営されており、国内の販売パートナーを通じた販売も行われています。
なお、ヨーロッパで販売されているTRIBORDのセーリング用品すべてが、日本のオンラインストアにラインナップされているわけではないようです。それでも、「セーリング専用ウェア=高価」という常識とは少し違う選択肢として、DECATHLON/TRIBORD は知っておいて損のないブランドだと思います。
DECATHLON 日本公式オンラインストア

DECATHLON グローバルサイト
Marinepool|クルージングから外洋まで揃うドイツブランド
Marinepool(マリンプール)は、1991年にドイツで誕生したセーリングウェアブランドです。ブランドを立ち上げたのは、自らもセーリングを楽しんでいた仲間たち。「By sailors, for sailors(セーラーによる、セーラーのための)」を掲げ、現在ではセーリングウェアだけでなく、ライフジャケット、シューズ、バッグ、マリンファッションまで幅広く展開しています。
今回紹介するブランドの中でも、Marinepool は特にセーリングクルーザーとの相性がよいブランドです。セーリングジャケットひとつを見ても、穏やかな海域でのデイセーリングから沿岸クルージング、さらに数日間に及ぶオフショア航海まで、使用する海域や条件に応じて製品が分けられています。
例えば「Gotland Ocean Jacket」はクルージングセーラー向け、「Fortuna 2.0 Offshore Jacket」は、より厳しい外洋での使用を想定したモデルとして位置付けられています。これは、ヨットウェアを選ぶうえでは意外に重要なポイントです。
セーリングクルーザーの場合、すべての人が大西洋横断のような外洋航海をするわけではありません。デイセーリングが中心の人もいれば、沿岸を数日かけてクルージングする人もいます。必要とする防水性や防風性、耐久性も当然違います。
Marinepool では、その使用環境に合わせてウェアを選べるようになっているため、自分のセーリングスタイルに合った装備を選びやすいのが特徴です。また、ウェアだけでなくライフジャケットも自社で開発しており、オフショア用の自動膨張式から浮力体式まで幅広く揃えています。
さらに、ポロシャツ、フリース、ベスト、シューズなど、ヨットの上だけでなくマリーナや普段着として使える商品も多く、CODE-ZERO と同様にマリン・ライフスタイルまで含めたブランドでもあります。
価格は格安ブランドではありませんが、MUSTOなどと比較すると選択肢は幅広く、セールや旧モデルなどでは比較的購入しやすい商品も見つかります。
日本ではあまり名前を聞かないブランドですが、ヨーロッパでは30年以上続いている本格的なセーリングウエアブランドです。
Marinepoolメーカー公式サイト
最後に……
セーリングウェアというと、MUSTO や Gill、HELLY HANSEN など、どうしてもよく知られたブランドに目が向きます。もちろん、長い歴史と実績を持つ定番ブランドには、それだけ選ばれてきた理由があります。
しかし今回改めて調べてみると、それ以外にも、それぞれ違った考え方でセーリングウェアを作っているブランドが数多くあることがわかりました。
高速セーリングを意識したもの、動きやすさを重視したもの、実用性と価格のバランスを考えたもの、そしてヨットの上からマリーナ、普段着まで使えるもの。同じセーリングウェアでも、ブランドによってかなり方向性が違います。
考えてみれば、私たちのヨットの乗り方もさまざまです。デイセーリングが中心なのか、数日間のクルージングに出るのか、クルーザーレースにも参加するのか。それによって必要なウェアも変わってきます。
大切なのは、有名だから、高価だからという理由だけで選ぶのではなく、自分がどんなヨットの乗り方をしているのかを考えて選ぶことなのかもしれません。
そして今では、日本であまり知られていない海外ブランドでも、国内のオンラインショップや海外通販を利用して購入できるようになりました。
いつもの定番ブランドだけでなく、少し視野を広げて探してみる。セーリングウェア選びにも、まだまだ知らない選択肢がありそうですね。




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