ヨットのステンレスと錆対策

ヨットのメンテナンス

ヨットには、さまざまな場所にステンレスが使われています。デッキを囲むパルピットやスタンション、セイルを支えるリギン、各種の金具やボルトなど、普段何気なく目にしている部品の多くがステンレス製です。

ステンレスといえば、錆びにくく、海水にも強い金属というイメージがあります。しかし、実際のヨットでは、ステンレス製の金具に茶色い錆が浮いていたり、磨いてきれいにしたはずの場所に再び錆が現れたりすることがあります。

そもそも、ステンレスはなぜ錆びにくいのでしょうか。そして、海で使うヨットには、どのようなステンレスが適しているのでしょうか。

今回は、身近な金属でありながら意外と知られていないステンレスについて、少し詳しく見ていきたいと思います。

ステンレスはなぜ錆びにくいのか

ステンレスは、鉄を主成分とし、クロムなどを加えた合金です。正式には「ステンレス鋼」と呼ばれ、一般的にはクロムを10.5%以上含む鋼を指します。

普通の鉄は、水分や酸素に触れると表面に錆が発生します。これに対してステンレスは、含まれているクロムが酸素と反応し、表面に「不動態皮膜」と呼ばれる非常に薄い保護膜を自ら形成します。

この皮膜は主にクロムの酸化物からなり、厚さはわずか数ナノメートル程度しかありません。しかし、金属の表面を覆うことで、内部の鉄が腐食するのを抑える働きをしているわけです。

不動態皮膜には、傷がついても周囲に酸素があれば自然に再形成されるという特徴があり、ステンレスが錆びにくいのは、この仕組みによるものです。

ただし、不動態皮膜はどのような環境でも安定しているわけではありません。海水に含まれる塩化物イオンなどの影響で局所的に皮膜が破壊されると、ステンレスでも錆が発生し腐食が進むことがあります。

つまり、ステンレスは錆びない金属ではなく、表面の保護膜によって錆びにくさを保っている金属だということです。

ステンレスにも種類がある

ステンレスにはさまざまな種類があり、含まれる金属の種類や割合によって、耐食性や強度、加工のしやすさなどが異なるものがあります。

ヨットの艤装品でよく使われるのは、SUS304やSUS316と呼ばれるステンレスです。「SUS」は日本のJIS規格でステンレス鋼を表す記号で、数字は鋼種を区別するためのものです。

SUS304は、クロムを約18%、ニッケルを約8%含む代表的なステンレスです。一般的な建築金物や厨房用品などにも広く使われています。耐食性に優れていますが、海水に含まれる塩分の影響を受ける環境では、錆(腐食)が発生することがあります。

SUS316は、SUS304に比べてニッケルを多く含み、さらにモリブデンを約2〜3%加えたステンレスです。モリブデンには塩化物による局部腐食への抵抗性を高める働きがあり、海洋環境で使用する金具などに広く採用されています。

SUS316Lは、SUS316の炭素含有量を低く抑えた鋼種です。「L」はLow Carbon(低炭素)を意味します。溶接時などに発生するクロム炭化物の析出を抑え、溶接部周辺の耐食性を維持しやすい特徴があります。

鋼種 主な特徴 海洋環境での耐食性
SUS304 汎用性が高い 塩化物による腐食に注意
SUS316 モリブデンを含む 304より局部腐食に強い
SUS316L 316の低炭素タイプ 316とほぼ同等。溶接部の耐食性維持に有利

なお、SUS316LはSUS316よりも常に錆びにくいというわけではありません。両者の基本的な耐食性はほぼ同じで、主な違いは炭素含有量と溶接などによる影響の受けやすさにあります。

ヨットで使用するステンレスを考える際には、単に304より316、316より316Lが優れていると考えるのではなく、使用する場所や加工方法に応じて選ぶことが重要です。

何処にどんなステンレスが使われているか

ヨットでは、デッキ上の金具からマストを支えるリギンまで、さまざまな場所にステンレスが使われています。ただし、すべての部品に同じ種類のステンレスが使われているわけではありません。

パルピットやスタンション、ハンドレールなど、海水の飛沫や雨にさらされる部品には、耐食性に優れたSUS316系のステンレスがよく使われます。特に溶接加工を伴うパルピットなどでは、SUS316Lが選ばれることもあります。

デッキに取り付けられるクリート、シャックル、アイプレートなどにも、316系のステンレスが広く使用されています。ただし、これらの金具は耐食性だけでなく、荷重に耐える強度も必要です。製品によっては、鋳造や鍛造、加工硬化などによって求められる性能を確保しています。

マストを支えるワイヤーリギンにもステンレスが使われています。一般的なクルージングヨットでは、316系ステンレスを使用したワイヤーが代表的です。ワイヤーを構成する細い素線は、冷間加工によって強度を高めています。

チェーンプレートやターンバックルなど、リギンから大きな力を受ける部品にもステンレスが使われますが、材質や製造方法は製品によって異なります。

また、身近なクルーザー・レーサーやレーシングヨットでは、ワイヤーの代わりに金属製のロッドを使用する「ロッドリギン」が採用されることがあります。代表的な材料の一つが、Nitronic 50と呼ばれる高強度ステンレスです。一般的な316系ステンレスとは成分や機械的性質が異なり、高い強度が求められる用途に使用されています。

このように、ヨットのステンレスは、海水に対する耐食性だけでなく、部品にかかる力や加工方法なども考慮して選ばれています。

ステンレスが錆びる理由

ステンレスは表面の不動態皮膜によって錆(腐食)から守られていますが、海水に含まれる塩化物イオンは、この保護膜を局所的に破壊する原因になります。

ヨットで特に注意したいのが、「孔食」と「隙間腐食」です。

『孔食(こうしょく)』は、ステンレスの表面に小さな穴ができ、その部分から内部へ腐食が進む現象です。海水の塩分が付着した状態が続くと発生しやすく、表面には針で刺したような小さな穴や、点状の錆として現れることがあります。

孔食は表面の変色が小さくても、内部では腐食が深く進んでいる場合があります。見た目だけでは損傷の程度を判断しにくいのが特徴です。

『隙間腐食』は、金属同士の接合面や、金属と樹脂・ゴムなどの間にできた狭い隙間で発生する腐食です。

例えば、デッキに取り付けられたステンレス金具の裏側や、チェーンプレートがデッキを貫通する部分などが該当します。

こうした隙間に海水が入り込むと、内部の酸素が消費されても補給されにくくなり、不動態皮膜を維持しにくい環境が生まれます。さらに、隙間内部では塩化物イオンが濃縮され、腐食が進行することがあります。

厄介なのは、外から見える部分がきれいでも、隠れた接合面で腐食が進んでいる可能性があることです。

もう一つ知っておきたいのが、『応力腐食割れ』です。

これは、引張応力がかかった金属が、特定の腐食環境に置かれることで亀裂を生じる現象です。ステンレスの場合、塩化物を含む環境で発生することがあり、特に高温などの条件が重なると危険性が高まります。

ただし、一般的な海水温度で使用されるヨットの316系ステンレスにおいて、応力腐食割れが常に起こりやすいわけではありません。リギンやチェーンプレートの亀裂には、繰り返し荷重による金属疲労など、別の原因も考えられるからです。

ステンレスの腐食は、必ずしも表面全体が赤く錆びる形で進むとは限りません。特に大きな荷重を受けるチェーンプレートやリギンの端末部分では、表面の小さな異常や、金具の隙間に生じた腐食を見逃さないことが重要です。

ステンレスと電食の関係

ヨットでは、ステンレスとアルミニウムなど、異なる種類の金属を組み合わせて使用することがあります。こうした場所で注意したいのが、一般に「電食」と呼ばれる腐食です。

異なる金属が電気的に接続され、両方が海水などの電解質に触れると、金属の間に電位差による電流が流れ、腐食しやすい側の金属が優先的に溶け出すことがあります。これを「異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)」と呼びます。

ヨットで身近な例が、アルミ製マストに取り付けられたステンレス製の金具です。

アルミニウムとステンレスが電気的に接触し、接合部に塩分を含んだ水分が入り込むと、一般的にはアルミニウム側の腐食が進みやすくなります。ステンレス製の金具には目立った異常がなくても、その周囲のアルミニウムに白い粉状の腐食生成物や、表面の荒れが現れることがあります。

こうした腐食を抑えるには、異なる金属の間に絶縁材を入れて電気的な接触を防ぐ方法が有効です。例えば、ステンレスボルトをアルミ部品に取り付ける際に、絶縁ワッシャーや絶縁スリーブ、用途に適した防食ペーストなどを使用します。接合部に塩水が入り込まないようにすることも重要です。

なお、船舶では、電気設備から漏れた電流などによって金属が腐食する「迷走電流腐食」も電食と呼ばれることがあります。しかし、これは異なる金属の組み合わせによって起こるガルバニック腐食とは別の現象です。

また、異種金属接触腐食は、必ずしもステンレスそのものが錆びることを意味しません。ステンレスが腐食しなくても、接触している別の金属の腐食を促進する場合があるのです。

鯖を出さないための日常手入れ

ヨットのステンレスを良好な状態に保つには、表面に付着した塩分や汚れを取り除くことが基本です。

セーリング中に海水を浴びたパルピットやスタンション、ハンドレールなどは、帰港後に真水で洗い流すだけでも腐食の予防につながります。特に、海水が乾燥して塩分が残ると、湿気を吸収して金属表面に水分を保持しやすくなるため、長期間放置しないことが大切です。

真水だけでは落ちない汚れには、中性洗剤と柔らかいスポンジや布を使用します。洗浄後は洗剤が残らないように十分にすすぎます。

また、ステンレスの表面に鉄粉が付着すると、その鉄粉が錆びて茶色い斑点になる「もらい錆」が発生することがあります。普通鋼に使用したワイヤーブラシやスチールウールなどは、ステンレス表面に鉄分を付着させるおそれがあるため使用を避けます。

注意したいのは、金具の根元や溶接部分、ボルトの周囲など、塩分や汚れが残りやすい場所です。表面を洗うだけでなく、こうした部分に錆や変色が生じていないか、日常的に確認しておくとよいでしょう。

ステンレス用の保護剤やワックスも市販されていますが、すべての製品がヨットの艤装品に適しているわけではありません。使用する場合は、ステンレスへの適合性に加え、周囲のFRPやシーリング材への影響も確認する必要があります。

なお、チェーンプレートのデッキ貫通部やリギンの端末など、構造的に重要な部分では、外から見える錆の有無だけで安全性を判断することはできません。日常の洗浄とは別に、定期的な点検が必要です。

錆が出たときの対処と錆取り

ヨットのステンレスに茶色い錆を見つけたら、まずは表面の汚れなのか、ステンレス自体が腐食しているのかを確認します。

パルピットやスタンションの表面に薄く広がる茶色い変色は、付着した鉄粉による「もらい錆」や、海洋環境で発生する表面的な変色(ティーステイニング)の場合があります。こうした軽度の錆であれば、適切な洗浄によって取り除けることがあります。

まずは真水と中性洗剤で洗う

最初に真水で塩分や砂などを洗い流し、中性洗剤を含ませた柔らかいスポンジや布で表面を洗います。汚れと一緒に軽い錆が落ちることもあります。洗浄後は十分にすすぎ、乾いた布で水分を拭き取ります。

落ちない錆にはステンレス用クリーナーを使う

通常の洗浄で落ちない錆には、ステンレスに使用できる錆取り剤やクリーナーを使用します。

例えば、シュウ酸やクエン酸などを利用したステンレス対応の製品があります。こうした薬剤は表面の錆や鉄分汚染の除去に使われますが、製品によって成分や使用方法が異なります。

使用前には、ステンレスへの適合性だけでなく、周囲のFRP、アルミニウム、塗装面、シーリング材への影響も確認します。目立たない場所で試し、指定された使用時間を守って作業します。

処理後は薬剤が残らないよう、十分な量の真水ですすぎます。

研磨剤を使う場合は表面仕上げに注意する

錆が落ちにくい場合、ステンレス用の研磨剤やポリッシュで表面を磨く方法もあります。

ただし、鏡面仕上げのパルピットやスタンションに粗い研磨材を使うと、細かな傷が残り、かえって汚れや塩分が付着しやすくなることがあります。

研磨する場合は、製品の指定に従い、できるだけ表面を傷つけない方法を選びます。普通鋼用のワイヤーブラシやスチールウール、粗いサンドペーパーなどは避けます。

小さな穴や亀裂がある場合は磨いて済ませない

錆を落とした後、表面に針で刺したような穴や深い凹みが残っている場合は、孔食が進んでいる可能性があります。

また、チェーンプレート、ターンバックル、ワイヤー端末など、大きな荷重を受ける部品に腐食や亀裂が見つかった場合は注意が必要です。

こうした部品では、錆を取り除いて外観がきれいになっても、失われた金属の厚みや強度が回復するわけではありません。損傷が疑われる場合は使用を控え、専門業者による点検や部品交換を検討します。

ステンレスの錆取りは、単に茶色い部分を消す作業ではありません。表面の汚れや軽い腐食を除去できる場合と、部品そのものの損傷を確認しなければならない場合を区別することが大切です。

錆取り後の手入れと再発防止

ステンレスの錆を落とした後は、きれいになった表面を良好な状態に保つことが大切です。

錆取り剤やクリーナーを使用した場合は、薬剤が残らないように十分な真水ですすぎ、柔らかい布で水分を拭き取ります。特に、金具の根元や溶接部分、ボルトの周囲などは薬剤が残りやすいため、丁寧に洗い流します。

ステンレスは、表面が清浄で酸素に触れる状態であれば、不動態皮膜が自然に再形成されます。通常の洗浄や軽い錆取りの後に、必ず特別な薬剤で不動態化処理を行う必要はありません。

ただし、鉄粉の付着がひどい場合や、研磨・溶接などによって表面の状態が変化している場合には、専用の薬剤による不動態化処理が有効なこともあります。こうした処理には薬剤の選定や適切な取り扱いが必要なため、専門業者に相談するのが確実です。

錆を落とした部分には、しばらく注意を向けておきます。短期間で同じ場所に錆が再発する場合は、塩分が残りやすい構造になっていたり、金具の隙間で腐食が進んでいたりする可能性があります。

例えば、スタンションの根元に繰り返し錆が現れる場合、表面を磨くだけでなく、ベース金具との接合部や取り付けボルト周辺の状態も確認する必要があります。

また、ステンレス用の保護剤やワックスを使用する場合は、製品の適合性を確認し、定期的な洗浄や点検の代わりにはならないことを理解しておきたいところです。

錆を取り除いた後も、海水を浴びたら真水で洗い、汚れをためず、同じ場所に異常が現れていないかを確認することが、再発防止の基本になります。

最後に…

ヨットにとってステンレスは欠かすことのできない金属です。しかし、海水に強いとされるSUS316であっても、使用する環境や取り付け方によっては腐食が発生します。普段から真水で塩分を洗い流し、錆が出たら早めに対処する。こうした日常の手入れが、ステンレスを長持ちさせる基本になるようです。

マリーナなどの水道設備が充実しているところであれば、マメな水洗いもできますが、そうでない場所に係留保管してある場合には、メンテナンスに工夫が必要になりそうです。

我がMALU号もスタンションの基部に錆が出ていて軽く磨いただけではどうしようもない部分もありるのですが、デッキに取り付けられている金物を交換するのはキャビン内まで影響し容易では無いので、今着いているものをなんとか綺麗にするしかありませんが、一度気合を入れて頑張ってみたいと思っています。

  クリック頂けると嬉しいです
にほんブログ村 マリンスポーツブログ ヨットへ

コメント

タイトルとURLをコピーしました