ヨットにはチーク材が何故使われるのか

ヨット雑学•雑記

ヨットのデッキやコックピット、船内の家具などには、古くからチーク材が使われてきました。我がMALU号でも、コックピット周りの床面だけチークが貼ってあります。

海水や雨、強い日差しにさらされるヨットにとって、木材は決して扱いやすい素材ではありませんが、それでも数ある木材の中からチークが選ばれ、長い間使われ続けてきたのには理由があります。

そもそもチークとは、どのような木材で、なぜヨットにはチークが使われるようになったのでしょうか。

今回は、チークという木材の特徴や歴史を辿りながら、ヨットとの関係について少し書いてみたいと思います。

チークとはどんな木なのか

チーク(Teak)は、東南アジアから南アジアにかけての熱帯地域を原産とする広葉樹です。植物学上の学名は Tectona grandis(テクトナ・グランディス)で、シソ科に分類されます。

天然のチークは、インド、ミャンマー、タイ、ラオスなどに分布しています。現在では、インドネシアをはじめ、アフリカや中南米などの熱帯地域でも植林され、木材として生産されています。

チークは常緑樹ではなく、乾季になると葉を落とす落葉樹です。成長すると高さ30〜40メートルほどに達することもあり、大きな葉を持つのが特徴です。

木材としてのチークは、伐採直後から時間の経過とともに色合いが変化します。心材は黄金色を帯びた褐色から濃い褐色で、木目は比較的まっすぐです。屋外で日光や雨にさらされ続けると、表面は次第に銀灰色へと変わっていきます。

また、チークの心材には天然の抽出成分が含まれており、腐朽菌や一部の木材害虫に対して高い抵抗性を持っています。湿度の変化による膨張や収縮も比較的小さく、寸法が安定していることも特徴です。

こうした性質から、チークは船舶だけでなく、屋外家具、建築材、床材などにも広く利用されてきました。

船舶用木材としてのチークの歴史

チークが船の建造に使われてきた歴史は、南アジアや東南アジアの造船文化にまで遡ります。

特にインドやミャンマー周辺では、古くからチークが船を造るための木材として利用されていました。チークが自生する地域では、大きな船体を構成するための木材を比較的入手しやすく、耐久性の高い造船材として重宝されていたのです。

ヨーロッパの船舶建造では、長い間オーク(ナラ類)が主要な木材でした。しかし、ヨーロッパ諸国がアジアとの交易を拡大すると、現地で使われていたチークにも関心が向けられるようになります。

18世紀から19世紀にかけて、英国がインドを中心に海軍力と交易活動を拡大する中で、チークは重要な造船材のひとつとなりました。インドの造船所ではチークを使った大型船が建造され、英国海軍や東インド会社の船にも採用されています。

当時のチークは、現在のヨットでよく見られるデッキの表面材というだけではありません。船体の外板や骨組みなど、船そのものを構成する主要な構造材として使われていました。

19世紀になると、鉄や鋼を使った船体が普及し始め、木材が担う役割も次第に変化していきます。それでも、甲板や船内の造作など、木材が必要とされる部分にはチークが使われ続けました。

現在のヨットに見られるチークデッキは、こうした長い船舶用木材の歴史の延長線上にあるものです。

ヨットに適したチークの性質

チークがヨットに使われる理由は、単に見た目が美しいからではありません。海水や雨、強い日差しにさらされる環境でも、比較的長く使用できる性質を備えていることが大きな理由です。

まず、チークの特徴として挙げられるのが、腐朽に対する抵抗力の高さです。チークの心材には天然の抽出成分が含まれており、腐朽菌による劣化が起こりにくい性質があります。防腐処理を施さなくても高い耐久性を発揮することから、屋外で使用する木材として評価されてきました。

もうひとつの特徴は、湿度の変化による膨張や収縮が比較的小さいことです。木材は水分を吸収すると膨張し、乾燥すると収縮します。チークはこうした寸法変化が比較的小さく、濡れたり乾いたりを繰り返すヨットのデッキにも適しています。

また、チークは表面が濡れた状態でも、比較的滑りにくい木材として知られています。特にデッキに使われるチークは、塗装せずに木材の表面を露出させた状態で使用されることが多く、歩行時の滑りにくさが重視されるヨットにとって重要な性質です。ただし、表面に藻や汚れが付着すると滑りやすくなるため、チークであれば常に安全というわけではありません。

さらに、チークは加工性にも優れています。切削や成形が可能で、デッキの曲面に合わせた部材の製作や、船内の家具、手すりなどにも使用できます。ただし、チークに含まれるシリカは刃物を摩耗させやすく、加工には適切な工具が必要です。

こうした耐久性、寸法安定性、滑りにくさ、加工性を兼ね備えていることが、チークが長くヨットに採用されてきた理由といえます。

チークデッキにも弱点がある

耐久性に優れたチークですが、ヨットのデッキに使用した場合、必ずしもメンテナンスが不要というわけではありません。

チークデッキで注意したいのが、木材表面の摩耗です。チークは腐朽に強い木材ですが、表面が削れることまで防げるわけではありません。人が歩くことによる摩耗に加え、デッキブラシで強くこすったり、高圧洗浄機を使用したりすると、木材の柔らかい部分が先に削られ、木目に沿った凹凸が生じることがあります。

こうした摩耗が進むと、デッキの厚みが徐々に減少します。特に薄いチーク材を船体のデッキに接着しているヨットでは、残された厚みが補修や張り替えの判断に関わってきます。

また、チーク材そのものが健全でも、デッキの継ぎ目に充填されたシーリング材が劣化することがあります。シーリング材に亀裂や剥離が生じると、継ぎ目から水が入り込み、接着面や下地に問題を起こす可能性があります。

古いヨットでは、チーク材をネジで固定している構造もあります。この場合、ネジ穴の防水が不十分になると、そこから水が浸入することがあります。特に下地がサンドイッチ構造のデッキでは、内部の芯材まで水が達すると、修理が大掛かりになる場合があります。

さらに、チークデッキは直射日光を受けると表面温度が上昇します。夏場には裸足で歩くことが難しいほど熱くなることもあり、木材だから涼しいとは限りません。

チークデッキを長く使うには、汚れを落とすだけでなく、木材の摩耗をできるだけ抑え、シーリング材や接着部分の状態を定期的に確認することが重要です。

チークは耐久性の高い木材ですが、デッキ全体の寿命は木材だけで決まるものではありません。施工方法や使用環境、日頃の手入れによっても大きく変わってきます。

天然チークと植林チークの違い

現在、ヨットに使用されるチーク材には、天然林から伐採されたものと、人工的に植林された森林から生産されたものがあります。

どちらも基本的には同じ樹種である Tectona grandis ですが、育った環境や樹齢、木材の品質には違いがあります。

天然チークの産地として特に知られているのがミャンマーです。ミャンマー産のチークは、かつてビルマチークと呼ばれ、高級な造船材や家具材として評価されてきました。

天然林で育ったチークは、伐採までに長い年月を要することが多く、大径木から幅の広い板材を得られる場合があります。しかし、天然林からの伐採には森林資源の保全や合法性の問題があり、現在では調達が難しくなっています。

これに対して植林チークは、インドネシアをはじめ、アジア、アフリカ、中南米などの地域で生産されています。計画的な植林と伐採によって供給できることが特徴です。

植林材は天然林の木材に比べて若い樹齢で伐採される場合があり、木材の密度や心材の割合、色合いなどに違いが生じることがあります。ただし、植林チークが必ず天然チークより劣るというわけではありません。植林地の環境や育成期間、製材方法によっても品質は変わります。

また、チーク材の耐久性に関係する天然の抽出成分は、樹齢や生育環境、木材の部位によって含有量が異なります。天然林で育ったか、植林されたかという区分だけで、耐久性を判断することはできません。

ヨットのデッキ材として使用する場合には、木目の通り方、節の有無、心材の割合、乾燥状態なども重要になります。産地や天然林・植林という区分だけでなく、実際の木材の品質を確認する必要があります。

近年は、木材の品質に加えて、そのチークがどこで生産され、どのような経路で流通してきたのかも重要になっています。合法的に伐採された木材であることや、森林資源を適切に管理していることを確認する仕組みとして、FSCなどの森林認証制度も利用されています。

チークに代わる新しいデッキ材

近年のヨットでは、天然のチーク材を使わず、別の素材でデッキを仕上げる例も増えています。

代表的なのが、チークの木目や色合いを再現した人工デッキ材です。PVC(ポリ塩化ビニル)などの樹脂を使った製品があり、見た目はチークデッキに似ていますが、木材とは異なる性質を持っています。

こうした人工デッキ材は、天然木のように木目に沿って摩耗したり、腐朽菌によって腐ったりすることがありません。また、定期的なオイル塗布や木材表面の研磨を必要としない製品もあります。ただし、汚れの除去や接着部分の点検など、一定のメンテナンスは必要です。

人工デッキ材の弱点として挙げられるのが、直射日光による表面温度の上昇です。製品の色や材質によって差がありますが、天然チークより高温になる場合もあります。また、紫外線による変色や経年劣化、傷が付いた場合の補修方法も製品によって異なります。

樹脂系以外では、コルクを利用したデッキ材もあります。コルクはコルクガシの樹皮から得られる天然素材で、軽量で弾力性があり、断熱性にも優れています。ヨット用としては、コルクを粒状に加工し、結合材で成形した製品などが使われています。

さらに、木材そのものを加工して耐久性や寸法安定性を高めた改質木材も、デッキ材の選択肢として登場しています。木材に熱処理や化学的な処理を施し、通常の木材とは異なる性質を持たせたものです。

これらの代替素材には、それぞれ長所と短所があります。天然チークのような風合いを重視するのか、メンテナンスの負担を減らしたいのか、表面温度や滑りにくさを優先するのかによって、適した素材は変わります。

また、人工デッキ材だから環境への負担が小さいとは限りません。原材料の製造、製品寿命、廃棄やリサイクルまで含めて考える必要があります。

チークに代わるデッキ材の選択肢が増えたことで、ヨットのデッキは必ずしも天然木で仕上げるものではなくなっています。

最後に…

チークは、船体そのものを木材で造っていた時代から、現代のヨットに至るまで、長く船舶に使われてきた木材です。腐朽に対する強さや寸法安定性など、海上で使う木材として優れた性質を備えていることは、現在でも変わりません。

しかし、ヨットの構造や建造技術が変わり、天然木以外のデッキ材も選べるようになった現在、チークが唯一の選択肢というわけではなくなりました。天然チークの供給や森林資源の保全という問題もあり、かつてと同じように使い続けることが難しくなってきている面もあります。それでも、年月とともに変化する木材の風合いや、天然素材ならではの質感は、チークが今なお選ばれる理由のひとつなのでしょう。

これからのヨットにチークが必要なのかという問いに、ひとつの答えがあるわけではありません。木材としての優れた性質を評価しながら、維持管理や調達の問題も含めて、その価値を考える時代になっているのだと思います。

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コメント

  1. malusailing より:

    いつもコメントありがとうございます。
    50ftの総チーク張りとは、凄いですね。

  2. ちょっと太めのじいさん より:

    前の船はいかにもフランス製のプラスティック感が強かったのでコクピットをチークに張りましたが、採寸がもう大変。チークを裁断してもらい、施工はマリーナでやったがうまくいきました。
    さて、今の船は50フィート総チーク貼り。
    見せるためにあえてフルカバーは作っていませんが、雨が降ると空中のゴミが降り注ぎ、デブリがついていきます。
    これがなかなか落ちなくて洗剤では無理。チークワンダーの酢酸が入った洗剤でしか落ちない。
    大きすぎて、一度にできるのは5分の1ぐらい。
    そしてチークのやせですが、やせてくるとコーキングのゴムが浮きます。この浮いたゴムのせいで電動工具(サンダー)が効かない。
    困っていたら、ヨーロッパにはコーチングゴムを削る専用のカッターがあって、スウェーデンで買ってきたのですが、これが素晴らしくうまく削れるんです。
    ゴムを削って面一になったらマキタのランダムサンダーで少しだけ削る。
    メンテナンスだけで何日もかかります。。。楽しいです。。。

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