ヨットで機走中に、「以前と何か違う」と感じたことはないでしょうか。
いつものようにスロットルを開けても、何となく走りが重い。以前にはなかった振動を感じる。エンジンは普通に動いているようなのに、どうもしっくりこない。
長く乗っているヨットなら、オーナーには「いつもの感じ」があります。
何回転くらいで、どのくらいの船速になるのか。スロットルを開けたときに、どんな感じで回転数が上がっていくのか。機走中に船体へ伝わってくる振動や、エンジンの音も含めて、毎回数字を記録していなくても身体で覚えているものがあります。
だからこそ、ほんの少しの変化でも「何か違う」と感じることがあります。
ところが、ヨットのプロペラは船尾の水中にあります。エンジンなら、音を聞くこともできます。回転数や水温などを計器で確認することもできます。エンジンルームを開ければ、目で見ることもできます。
プロペラはそうはいきません。機走中に直接その状態を見ることはできないのに、プロペラに何か起これば、その変化は回転数や船速、振動など、別の形になって現れます。
では、「何かおかしい」と感じたとき、どこを見ればよいのでしょうか。
そして、その違和感がプロペラに関係するものなのか、それとも別のところに原因があるのか、どうやって切り分けていけばよいのでしょうか。
今回は、機走中に現れるいくつかの症状を手掛かりに、見えない水中にあるプロペラのトラブルシュートについて考えてみたいと思います。

その違和感、いつから?
プロペラに関係していそうな違和感を感じたとき、最初に考えたいのは、その症状がいつから始まったのかです。
それまで問題なく機走していたヨットなら、現在のプロペラのダイヤメーターやピッチが、ある日突然そのヨットに合わなくなることは通常では考えられません。
何か別の変化が起きたと考えるほうが自然です。
ここで思い出したいのが、違和感を感じるようになる直前に何かなかったかです。
例えば、上架して船底やプロペラを整備した。プロペラを脱着した。エンジンや減速機、セイルドライブを整備した。海中の浮遊物などに接触した。ロープや釣り糸を巻き込んだなどなど…。
はっきりした出来事を自覚していない場合もあります。
重要なのは、「プロペラがおかしいのではないか」と考えるだけではなく、正常だったときと現在との間で、何か変わったことが起きなかったのかを探すことです。
例えば、上架整備の後から振動が出るようになったのであれば、「整備したばかりだからプロペラは問題ない」と考えるのではなく、整備の前後で何が変わったのかを考えてみる必要があります。
プロペラを交換した後から回転数や船速が変わったのであれば、交換したプロペラの仕様を確認します。
エンジンを載せ替えた後から最高回転数が以前と違うのであれば、エンジンだけではなく、現在の減速比とプロペラとの組み合わせも確認する必要があります。
プロペラは単独で働いているわけではなく、エンジンや減速機と組み合わされていることは、マッチング編で説明しているとおりです。

つまり、症状だけを見るのではなく、「いつから」「何をした後から」という時間の流れを一緒に考えることが、原因を探す大きな手掛かりになります。
エンジンの回転数が上がらない
スロットルを開けても、エンジンの回転数が思ったように上がらない。
プロペラのマッチングを考えるうえで、これは重要な症状のひとつです。ただし、回転数が上がらないからといって、すぐにプロペラが原因だと判断することはできません。
最初に確認したいのは、ニュートラルでは回転数が上がるのか、前進に入れて負荷をかけたときだけ上がらないのかという違いです。
ニュートラルでも本来の回転数まで上がらないのであれば、プロペラは駆動されていないので、燃料供給、吸気、排気、エンジン制御など、まずエンジン側を調べる必要があります。
ニュートラルでは問題なく回るのに、前進に入れて機走すると回転数が上がらない。
この場合は、プロペラを回すことでエンジンに大きな負荷がかかっている可能性が出てきます。
プロペラが重すぎる可能性
エンジンや駆動系に異常がなく、船底やプロペラもきれいな状態なのに、負荷をかけるとメーカーが想定する回転域まで上がらない。
このような場合には、現在のプロペラがエンジンに対してオーバープロップ(Over-propped)になっていないかを確認します。
オーバープロップについては、マッチング編で詳しく説明しています。

ピッチが大きすぎる、ダイヤメーターが大きすぎる、ブレード枚数や面積が多いなど、現在のエンジンに対してプロペラの負荷が大き過ぎれば、スロットルを開けてもエンジンは本来の回転域まで上がれません。
ここで、「ではピッチを小さくすればよい」とすぐに変更するのは早すぎます。
それまで同じプロペラで正常に回っていたのであれば、まず、現在の負荷が増えた原因を探します。
プロペラへの海藻やフジツボなどの付着、ロープや釣り糸の巻き付き、ブレードの損傷、船底の汚れなどがないかを確認します。
プロペラを交換した直後から回転数が上がらなくなったのであれば、交換したプロペラの仕様が重要な手掛かりになります。
エンジンや減速機、セイルドライブを交換した後から症状が出たのであれば、新しい組み合わせに対してプロペラが適切なのかを確認します。
プロペラが原因ならどうするのか
エンジンが正常に出力を発生していることを確認し、船底やプロペラの汚れ、巻き付き、駆動系などにも問題がない。それでも負荷時の回転数が適正な範囲まで上がらず、プロペラ負荷が大き過ぎると判断されたのであれば、プロペラのセッティングを見直します。
確認するのは、現在のダイヤメーター、ピッチ、ブレード枚数、プロペラ形式です。
ダイヤメーターとピッチの意味については、基礎知識編で説明しています。

固定プロペラであれば、プロペラ専門業者にピッチ修正が可能か相談する方法があります。プロペラそのものを適切な仕様の物へ交換する方法もあります。
ピッチ調整が可能なフェザリングプロペラなら、メーカーが指定する方法と範囲でピッチを変更できる製品もあります。
ここで必要なのは、単に「回らないからピッチを小さくする」という判断ではありません。
エンジンの型式、メーカーが指定する回転域、減速比、現在のプロペラ仕様、実際の負荷時最高回転数を揃えたうえで、プロペラメーカーや専門業者に適切な仕様を確認します。
プロペラを軽くすれば回転数は上がります。しかし、回転数を上げること自体が目的ではなく、エンジンとプロペラを適切な負荷で組み合わせることが目的です。
回転数は上がるのに船速が出ない
エンジンの回転数はいつもと同じところまで上がる。それなのに、以前ほど船速が出ない。この症状では、「エンジンが回っているのだからプロペラも正常」とは限りません。
まず確認したいのは、本当に船速が落ちているのかということです。
GPSに表示されるSOG(Speed Over Ground/対地速力)は、潮流の影響を受けます。同じ回転数で同じように機走していても、向かい潮ならSOGは低くなり、追い潮なら高くなります。風や波によっても船速は変わります。
一度だけの数字ではなく、条件を変えて何度か確認しても以前より明らかに遅いのであれば、船側に何か変化が起きている可能性を考えます。
最初に確認したいのは船底
船底に海藻やフジツボなどが付着すれば抵抗が増えます。プロペラ自体に付着物があれば、ブレード周囲の水の流れも変わります。
ここで重要なのは、エンジン回転数が上がっているから、船底やプロペラはきれいだとは判断できないことです。
船底抵抗が増えていれば、プロペラが推力を発生していても、その力の一部は増えた抵抗に使われ、船速として現れにくくなります。
船底やプロペラを確認して問題がなく、それでも船速が以前より低いのであれば、プロペラそのものを確認していきます。
プロペラに何か変化はないか
固定プロペラなら、ブレードの曲がりや欠け、損傷がないかを確認します。
大きな損傷なら見れば分かりますが、ブレードがわずかに変形している場合には、上架して見ただけでは判断しにくいこともあります。
フォールディングプロペラでは、すべてのブレードが正常な位置まで開いているかも重要です。
フェザリングプロペラなら、ブレードが設定された角度になっているか、可動部分が正常に動いているかを確認します。
こうしたプロペラでは、見た目にブレードが付いているだけでは、正常に働いているとは判断できません。
回転数と船速の関係を見る
船底もきれいで、プロペラにも明らかな損傷や作動不良がない。
それでも回転数に対して船速が出ていない場合には、プロペラのピッチと回転数から求められる理論上の速度と、実際の船速との差も手掛かりになります。
これは前回の「水中編」で説明したプロペラスリップです。
[水中編URL]
ただし、スリップ率が大きいからといって、それだけで「プロペラが悪い」と判断することはできません。
同じ艇で、同じプロペラ、同じような積載と海況で測った過去の数字があれば、以前との変化を見る材料になります。
プロペラが原因ならどうするのか
ここでも、いきなりプロペラを交換するのではなく、何が原因で推力を十分に得られていないのかを確認します。
付着物なら清掃します。ブレードが曲がったり欠けたりしているのであれば、プロペラ専門業者に依頼し、修正や補修が可能か、または交換が必要かを判断してもらいます。
フォールディングプロペラの展開不良やフェザリングプロペラの作動不良であれば、メーカーの整備方法に従ってオーバーホールします。そこで摩耗した部品があれば交換します。
プロペラに損傷や作動不良がなく、現在の仕様そのものが艇に合っていないと考えられるのであれば、エンジン出力、減速比、ダイヤメーターやピッチ、ブレード枚数、プロペラ形式まで含めてマッチングを見直します。

ここで注意したいのは、「船速が出ないからピッチを大きくする」と単純に考えないことです。
ピッチを大きくすれば、1回転あたりの理論上の前進距離は大きくなりますが、同時にエンジンにかかる負荷も大きくなります。船速だけを見てプロペラを変更すると、今度はエンジンが適正な回転域まで回らなくなることがあります。
現在の回転数と船速だけでなく、エンジン、減速比、プロペラの仕様を一緒に見ながら判断する必要があります。
突然、回転数だけが上がって推進力が抜ける
機走中、それまで普通に走っていたのに、突然エンジンの回転数だけが上がり、船を前へ押す力が抜けたように感じることがあります。
これは、前の項目で取り上げた「いつもの回転数まで上がるのに、以前ほど船速が出ない」という症状とは少し異なります。
それまでプロペラにかかっていた負荷が急に軽くなったことで、エンジンの回転数が上がっている可能性があります。
まず確認したいのは、どのような状況でこれが起きたのかです。
波があるときだけ起きる
平水では問題なく機走できるのに、波が高くなり、船尾が大きく上下したときだけ回転数が急に上がる。
このような場合には、プロペラ周辺へ空気が入り込むベンチレーション(Ventilation)が起きている可能性があります。
セーリングヨットでは、ヒールによってプロペラが水面に近づいた場合にも起こることがあります。
ベンチレーションについては「水中編」で詳しく説明しています。
[水中編URL]
この場合、回転数が上がったからといって、プロペラのピッチが小さすぎると考えるのは適切ではありません。
平水では正常で、船尾が大きく上下したときや強くヒールしたときだけ発生するのであれば、まず発生したときの船の姿勢や海況との関係を見ます。
海況に関係なく突然起きた
平水を普通に機走しているときに突然回転数が上がり、推進力が失われたのであれば、別の原因を考える必要があります。
フォールディングプロペラやフェザリングプロペラでは、ブレードや可動部分が正常な位置で働いているかが重要です。
また、エンジンからプロペラまでの間で回転が正常に伝わっていなければ、エンジンだけが回ってプロペラが十分に回らないという症状も起こり得ます。
ここでは、エンジンの回転数が上がったという事実だけで、プロペラそのものが原因だと決めつけないことが重要です。
プロペラが原因ならどうするのか
フォールディングプロペラやフェザリングプロペラが疑われる場合は、上架時などにブレードを実際に動かし、メーカーが指定する範囲で正常に作動するかを、まず確認します。
全てのブレードが同じように動くか、途中で引っ掛かりはないか、ガタが大きくなっていないか確認します。
ギア、ピン、ブッシュなどの摩耗部品についても、使用しているプロペラのメーカーが指定する点検方法と交換基準に従います。
固定プロペラで、海況に関係なく突然推進力が失われたのであれば、プロペラだけでなく、プロペラシャフトやセイルドライブなどを含めた駆動系に回転が正常に伝わっているかを確認する必要があります。
また、特定の海況やヒール角でベンチレーションが繰り返し発生するのであれば、プロペラの没水状態や取り付け位置なども確認の対象になります。
ここで重要なのは、「回転数が急に上がった」という症状と、「以前から回転数が高すぎる」という症状を同じものとして考えないことです。
それまで普通に走っていたのに突然回転数が上がったのであれば、プロペラが水を捉えて推力を発生していた状態から、何らかの理由で十分な推力を発生できない状態へ変化した可能性があります。
つまり、この場合に探すべきなのは「なぜエンジンの回転数が上がったのか」だけではなく、その瞬間に、プロペラや駆動系で何が変わったのかを突き止めることが必要です。
以前にはなかった振動が出る
それまで滑らかに機走していたヨットに、ある時から振動を感じるようになった。この場合も、振動があるというだけでプロペラが原因だと判断することはできません。
まず確認したいのは、どのようなときに振動が出るのかです。
ニュートラルでも振動するか
エンジンをニュートラルにして、プロペラを回していない状態でも同じような振動が出るのであれば、少なくともプロペラの回転によって発生している振動とは考えにくくなります。
エンジン本体、エンジンマウントなど、プロペラ以外の原因を調べる必要があります。
ニュートラルでは気にならないのに、前進に入れてプロペラを回すと振動が出る。
この場合には、プロペラからシャフトやセイルドライブを含む駆動系まで、実際に負荷がかかったときに回転する部分を確認していきます。
プロペラのバランスが崩れると振動が起きる
プロペラは、それぞれのブレードの形状やピッチ、重量などが揃った状態で回転するように作られています。
例えば、3枚のブレードのうち1枚だけが曲がっていたり、欠けていたり、大きな付着物が付いていたりすれば、回転時のバランスが崩れます。
ロープや釣り糸などを巻き込んだ場合も、正常な回転を妨げる原因になります。
フォールディングプロペラでは、複数のブレードが同じ位置まで開いていなければ、正常な状態とはいえません。
こうした状態でプロペラを回転させると、回転する位置によって力のかかり方に偏りが生じ、それが周期的な振動としてシャフトやセイルドライブから船体へ伝わることがあります。
負荷をかけると黒煙が増える
ニュートラルではエンジンがきれいに回るのに、前進に入れてスロットルを開けていくと黒煙が増える。この症状も、プロペラとエンジンの関係を考える手掛かりになることがあります。
ディーゼルエンジンの黒煙は、シリンダーへ噴射された燃料を十分に燃焼させるだけの空気が不足したときなどに発生します。
ただし、黒煙が出たからといって、プロペラが原因とは限りません。
吸気系の詰まり、排気系の抵抗、燃料噴射系の異常、ターボチャージャーを備えたエンジンなら過給系の不具合などでも黒煙は発生します。
ここで注目したいのは、黒煙と同時にエンジンの回転数がどうなっているかです。
回転数が上がらず、黒煙が増える
前進に入れてスロットルを開ける。燃料は供給されているのに回転数が上がらず、黒煙が増えていく。
エンジン側に異常がなく、船底やプロペラにも大きな付着物がないのであれば、プロペラによる負荷が大きすぎないかを確認する必要があります。
例えば、ピッチやダイヤメーターが現在のエンジンとの組み合わせに対して大きすぎれば、エンジンはプロペラを十分な回転数まで回せなくなることがあります。
これはマッチング編で説明したオーバープロップの状態です。

ただし、「黒煙が出て回転数が上がらない=オーバープロップ」と安易に判断することはできません。
エンジンが本来の出力を発生できていない場合にも、負荷をかけたときに同じような症状が現れることがあるからです。
いつから黒煙が出るようになったのか
ここでも、症状が始まった時期が重要な手掛かりになります。
それまで同じエンジンとプロペラの組み合わせで正常に機走できていたのに、ある時から回転数が上がらなくなり、同時に黒煙も増えたのであれば、まず新たに何が起きたのかを調べます。
プロペラや船底への付着物、ロープなどの巻き付きによって負荷が増えていないか、エンジン側に本来の出力を発生できなくなる原因が生じていないかを確認します。
エンジンを換装した後から黒煙が出るようになった。プロペラを交換した後から出るようになった。
こうした場合には、その変更によってエンジンにかかる負荷が変わっていないかを確認します。
エンジン、減速比、プロペラの組み合わせが適切なのかというところまで戻って調べる必要があります。
最後に…
ヨットに長く乗っていると、計器の数字を見るより先に「今日は何か違う」と感じることがあります。
その違和感は、原因を探すための最初の手掛かりになります。
大切なのは、その時点で「プロペラが悪い」と決めてしまわないことです。
それまで普通に走っていたのであれば、何かが変わったから、走り方にも変化が現れた可能性があります。
いつから変わったのか。直前に何があったのか。どのような条件で症状が現れるのか。
ニュートラルではどうなのか。前進に入れるとどうなるのか。海況によって変わるのか。特定の回転域だけで起きるのか。
こうして一つずつ切り分けていけば、水中にあって直接見ることのできないプロペラでも、何が起きているのかを探ることができます。
そして、原因がプロペラにあると分かったときに初めて、清掃や整備で直るのか、損傷を修理するのか、ピッチを変更するのか、それともプロペラそのものを見直すのかを考えればよいと言うことになります。





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