歴史上最大の最新型クルーズ帆船就航

クルーズ船と言えば日本では飛鳥IIIが就航して、マスコミ関係を中心にちょっとした話題になっていましたが、それも喉元過ぎればなんとやら… といったような感じではあります。次はディズニーのクルーズ船が日本で就航する予定なんてこともあり、これがお披露目されれば、また話題となるんでしょうね。

世界に目を移すと、相変わらず続々と大小様々なクルーズ船が就航しているようですが、最近の傾向としては、よりプライベート感が強く、冒険的趣向が強いプライベートスーパーヨットに近い感じの小型のクルーズ船が多い傾向あるようです。しかし、このブログではセーリングできない船の話題は取り上げませんが、ちょっとリサーチを油断をしていたところ、なにやら歴史上最も大きいセーリングクルーズ船が建造され就航開始していると言う情報をキャッチしましたので、書いておきたいと思います。

Orient Express Corinthian

Orient Express Corinthian(オリエント エキスプレス コリンシアン)は、2026年4月29日にフランスのサン•ナゼールで造船所から施主に引渡され、2026年5月2日にはサン・ナゼールを出港し地中海での処女航海に出航しました。

この史上最大の帆船は、全長220m(721フィート)、幅25.2m、喫水5.45m(ダガーボード使用時11m)、高さ100m、総トン数 約15,000トン(26,200 UMS)。

この船を製作した Chantiers de l’Atlantique の公式登録仕様では、乗客130名、乗組員170名、客室数54スイートとなっています。(Orient Expressの営業仕様では乗客110名・54スイート)

オリエント•エキスプレス(日本ではオリエント急行として有名)の名前が示すとおり、最初の豪華列車を発表してから140年を経て、過去に前例のない世界最大のセーリングヨットとして建造されました。海上旅行に革命をもたらすこの特別な船は、冒険と優雅さの概念を塗り替えるものになります。わずか54室の洗練されたスイートを備えたオリエントエクスプレスセーリングヨットは、オリエント急行の伝統を凝縮した、洗練された海上の聖域です。各スイート(客室)からはパノラマの海の景色が広がり、地中海とカリブ海の最も魅力的な場所を巡る特別な旅へとお客様をお迎えします。 (オリエントエキスプレス サイトより引用) とサイトに書かれている通り、オリエント急行の優雅な旅の船編とした新たな豪華セーリングクルーズ船です。
尚、船の写真が同サイトには多数掲載されていますので、是非リンクからご覧ください。

完全帆走を意識したクルーズ船

このクルーズ船の最も大きなポイントは、純粋にセーリングクルーズすることを目的に造られたクルーズ船であると言うことです。

公表されている情報によると、20ノットの真風で12ノットでセーリングすることができるとのことで、設計上は最大セーリング船速は17ノットを想定しているそうです。これだけの大型船だと機帆走が前提になるところをこの船は完全に帆走状態でクルーズすることを想定しています。更に、最大機走速度は15ノットと一般的なクルーズ船の巡航速度20ノットですから、機走に重きを置いていないということが船の基本スペックからも見えてきます。
また、通常の喫水は5.45メートルですが、この船はダガーボートが装着されており、船底から最大に伸ばした時の喫水は11メートルになるとのこと。セーリング時の横滑りを防ぐための本気でセーリングすることを前提としているからこその装備です。

3本の巨大なマストとセイルはBalestron rig(バレストロン・リグ、写真で各マストの根元付近に横方向へ大きく張り出している黒い構造物)+SolidSail は Chantiers de l’Atlantique が約10年をかけて開発した独自のシステムです。1枚のセイルエリアは1,500㎡、それが3枚でトータルのセイルエリアは4,500㎡にもなります。セイルの素材は一般的なテキスタイルではなく、カーボン繊維で補強されたガラスパネルを使った剛性の高いセイルです。3基ともセイルの上げ下げなど全ての動きは自動制御され、リグ自体は360°回転が可能、さらに近年の大型セーリングヨットで問題となっている、マストが高過ぎて港の入口などにある大橋の下を通過できないという問題に、このカーボン製マストは最大70°傾斜させることができ、主な大型クルーズ船が入港するために通過する大橋の下を通過できる構造にもなっているそうです。

帆船史上最大の所以

これまで帆船の歴史において最大の帆船は、1902年に建造された貨物帆船 Thomas W. Lawson です。全長は約145m、総トン数5,218トン、7本マストの巨大スクーナーです。この頃の船は既に蒸気エンジンを持っていることも多く機帆走前提の物が主流となり始めていましたが、この帆船は最初から純帆船として設計・建造された純粋な帆船です。

そして、もう一隻「ギネス記録上で世界最大の帆船として記録れている」のが 1912年に建造された France II です。全長146.5m、総トン数5,633トンです。建造時には補助ディーゼルを装備していましたが、1919年に撤去され、その後は純帆走船になったという経緯がある帆船です。

現代において、補助エンジンが搭載されていることは、航海の安全上あたりまえの時代ですから、エンジンを積んだことがあるかどうかで帆船としての純潔度をはかる必要は全くないので、結果としては1.5メートル全長の長い France ll がギネス記録の通り、帆船史上最大と言えます。

これら以外に、このブログで取り上げてきた、Sailing Yacht A は2017年建造、全長142.81m、総トン数12,558トン。Philippe Starckがデザインした3本マスト艇で、一般には世界最大のプライベートセーリングヨットと言われてきました。しかし、A は補助動力無しの帆走は基本的にしない(できない?)船として、機帆走船としてカテゴライズされたりしています。では、純粋なセーリングヨットとしては、これもこのブログの記事として以前に書いた、Amazonのジェフ•ベゾス氏所有の Koru ですが、全長125m、総トン数は約3,493トンです。

このように、これまでの帆船はどれも全長220m、総トン数15,000トンと Corinthian が帆船史上圧倒的な最大記録を更新しました。

船名”Corinthian”の意味

「Corinthian(コリンシアン)」という言葉の意味は「古代ギリシャの都市コリント(Corinth)の人・もの/コリント式の」という意味です。英語圏ではコリンシアンという言葉を用いる場合、華麗、優雅、豪華、上質と言ったようなイメージで用いられることが多く、まさにオリエン急行のイメージフラッグシップを示す言葉であると感じます。

さらにヨットの世界においてコリンシアンという言葉は特別な意味を持ちます。
Corinthian は歴史的に、職業船員を雇わず自ら操船して航海やヨットレースを楽しむヨットマンという意味でも使われる言葉です。

Corinthian =「純粋にセーリングを愛し、自らの手で船を操り帆走するヨットマン」

そこから Corinthian sailing / Corinthian yachting という表現が生まれました。

つまりオリエントエキスプレスがこの巨大帆船に「Corinthian」と名付けたのは、Corinthianという言葉が持つエレガンスなイメージとヨット文化、そして本物のセーリングで旅する体験をこの船で楽しんで欲しいというメッセージが込められているように思います。

最後に…遂にここまで来たか

全世界での気候変動は、今やリアルなものとなり、日本でも気候変動による災害級の被害が出るようになってきました。今や全ての乗り物で環境負荷の低減は待った無しの状態になりつつあります。既に大型船では重油の使用が制限されるエリアなども登場し、日本ではLPG船などが活躍し始めていますが、風を利用するというアプローチはこれまでも様々な造船所がやってきています。

今回のコリンシアンが採用したバレストロンリグとソリッドセイルの組み合わせは、大型船にセイルリグを採用する際の最適解であるように見えます。

軽くて強いカーボンマストにカーボン素材を利用したガラス繊維パネルのセイルは、軽くて丈夫かつしなやかにセイルカーブを描き、耐久性も高く、交換サイクルは35年を想定しているそうです。

大型の新造帆船技術も遂にここまできたかという感じですね。

また、オリエント急行が考えるセーリングクルーズの旅、どんなものなんでしょうか? 一度はその片隅だけでも体験してみたいものです。

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