僕は子供の頃、水が怖い人でした。
その怖がり方と言ったら、ちょっと大袈裟過ぎるほどで、お風呂嫌い、頭や顔を洗うのも嫌と言う程で、子供の頃に水泳の練習と言われて風呂桶に水を溜めて顔を浸けて息を止める練習なんて僕にとっては単なる嫌がらせでしかありませんでした。僕が本格的に水嫌いになったのは、どうやら小学校に上がる頃のようで、それまでは家のベランダで小さなビニールプールで水遊びをする様子の写真も残っているので、水が怖くなったのは物事が解り始めてからのようです。しかし、そこから大方20年間、僕は水が嫌いな人ととして、海なんか嫌い、遊ぶなら山という人で、もちろんお風呂や温泉も全く好きではありませんでした。

そんな僕が今のような海好き、風呂好き、温泉好きに180度変わったのは、スキューバーダイビングとの出会いからです。

大人になって理路整然と水と関わるときの様々な方法や理論をきちんと1から学んだこと、そして「こうすれば水中での危険を回避できる」といった水と関わるときの安全について理論と実技で段階をおってきちんと学び練習したからこそ、今の海好きで風呂好きの僕があります。(ちょっと大袈裟かな…)そして単にダイビングを楽しむだけでなく、ダイビングの仲間が増え過ぎたことがキッカケでインストラクターの資格まで一時は持って、Cカードの認定や沖縄でガイドをしていたこともありました。それは、海を安全に楽しんで欲しい、仲間と一緒に海を安全に楽しみたいという気持ちからです。

事故を一度でも起こしてしまったら、海を心から楽しむことは出来なくなります。

さて、最近になってヨットの事故が立て続けに起きています。コロナ禍ということで、ソーシャルディスタンスにもってこいとばかりにヨットやボートで海に出てしまえば人混みを避けて遊ぶことができるということで、ヨットやボートを始める人が増えているそうです。しかし、そこで事故が増えてしまっては、折角の楽しい筈のヨットやボート遊びは台無しになってしまいます。海での遊びは一つ間違えると命を落としかねません。しかし、正しい知識と無理なく経験を積んでゆけば、安全に永く楽しむことも出来るのです。

そこで今回は、ヨットを楽しむための安全の心得について考えてみたいと思います。

水深5センチあれば人は溺れて命を落とします

この言葉はダイビングを始める際に教わることです。たった5センチで人の命を落とすわけがないと仰る方も少なくないと思いますが、実際に水深5センチしかない用水路で溺れて亡くなられた方が実際に居ることから、事実として話されていることです。

人は水のある場所で自分をコントロールできなくなると、たった5センチの水でも溺れてしまいます。5センチとは、口と鼻が水に完全に浸かってしまい息が出来なくなる状態を言います。
ヨットで水深5センチしかない海を走るなんてことはありませんが、ヨットで走ることができる場所は水深が最低でも2メートル弱はあり、仮に水底に足が着いたとしても立ち上がって顔を水面より高く出すこともできません。

つまり、何が言いたいのかというと、ヨットからの落水のリスクヘッジ落水してしまった時にどうすべきかを十分にシュミレーション(事前に学び考え準備)しておく必要があるということです。

死亡事故を起こせば楽しいヨットライフは一瞬にして終わる

どんな遊びでも死亡事故をひとたび起こしてしまったら、もう再起はできないと考えるべきです。何故ならそれは単純なことで、楽しくなくなるからです。仮にそれが自分以外の同乗者だったとしても、あなたの楽しいヨットライフは終わります。どんなことがあったとしても生きて帰って来れると自分で納得できるだけの準備や用心深さが水上での遊びでは必要です。

つまり、ヨットを今日これから出港させたら、どんなことが想定できるのかを十分に船長であるあなたは頭の中でシュミレーションし(様々な情報や経験を駆使して考えておくこと)、同乗者が居る場合には自分だけでなく同乗者のことまでを想定しておく必要があります。
また、同乗者を乗せるときに、同乗者にまで気が回らないような状態で船出してしまうことは無謀なことであるということを理解しておく必要があります。例外としては、ヨットの経験が豊富であなたを指導してくれるような技量を持っている人なら未熟な自分と同乗して貰っても、何かあった際には自分で自分のことは対処してくれることでしょう。しかし、これはあくまでも例外です。船長であるあなたはたとえどんなに凄い経験を持った同乗者が乗っていたとしても、船で起きたことの全責任は船長であるあなたにあるということを肝に銘じておく必要があります。

無理を感じたら即座に撤退する勇気

無理を感じる場面は様々です。「悪天候になってきた」「海上で波が高くなってきた」「視界が悪くなってきた」「天気予報で天候が崩れる予報が出港前に出ている」「強風が吹き始めた」「体調が悪くなってきた」「ヒールがきつくなり過ぎてきた」「自分の技量では操船しきれない」「自分の力ではどうしても操作できない」…。無理を感じる場面は人それぞれです。しかし、1つだけ言えることがあります。絶対に無理をしないことです。

海の状況が悪いなら出港を取り止める。海に出て海況が悪くなってくれば、できるだけ早く何処かの港に逃げ込む、または引き返す。より控えめのスピードに落とし警戒を強める。風が上がってきたりヒールが付き過ぎなら、帆を減じたり風をセイルから抜く作業を素早く行う。無理を感じたら、とにかく直ぐに撤退する行動を起こすことです。シートやハリヤードが動かなくなる、ウインチを使っても操作できなくなるということもあり得ます。そんな時にナイフでロープを切ってしまう勇気も必要です。これは逃げるのではありません、あくまでもより安全なマージンを稼ぐ行動をとるということです。

そのままにしておいたらどうなるのでしょうか? それは遭難しかありません。
とにかく「無理」を感じたら、即座に行動を起こすことです。それは何も格好悪いことではありません。セーフティーセーリング出来る人こそ、最も信頼され最も尊敬されるセーラーなのです。

人の言葉や意見に絶対に惑わされない

ヨットに乗り始めると、ヨットクラブや周囲のヨットオーナーとの人付き合いも出てきます。あるヨットオーナーは「こんな風は大したことないよ」という人もあれば「こんな強風で出港するのは無謀だ」という人もいます。しかし、それはその人それぞれの尺度であって、自分の物事の判断の尺度は自分で持っておくべきなのです。
また、その判断の尺度すら持ちあわせていない場合には、あなたの経験が圧倒的に足らないということです。経験が少ないなら、より控えめな意見に耳を傾けるべきです。しかし、その判断もあなた自身が決めることです。そのポイントは、自分の能力をよく考えること、そしてより控え目であることです。

また、尺度はあなた自身の経験度だけではありません。あなたの船の能力にもよります。船の能力が高ければ、あなたの経験を大きく補ってくれるかもしれません。しかし、船に高い能力があっても、それを使いこなすことができるのかということも別問題としてあります。それも全てはあなた自身の経験から判断をする必要があるのです。

更に、海では絶対に見栄を張ったり、自分に嘘をついてはいけません。これらは全て「無理」に繋がるのです。誰にどう思われようとも、どう言われようとも、自分のありのままの経験や技量、自分の船の能力を自分で判断して出港や航海の判断することです。そして、常により控え目に考えるべきなのです。

救命浮環

実際にやってみないと非常時に使い物にならない

上の写真に浮き輪が写っています。この浮き輪の周りにはロープが付いていますが、こういったタイプの浮き輪を救命浮環と言います。この救命浮環はヨットに必ず搭載されていなければならないもので、法定備品として定められています。さて、ヨットオーナーのあなたは、この救命浮環を海に投げてみたことがありますか?

この救命浮環には、水面に浮くタイプの長いナイロン製のロープが付いていて、落水者が出た場合に素早く海に投げ込むことで、落水者が浮き輪に捕まることができ、船から離れることが防げる場合があります。また、船を落水者に接近させるのが容易でない場合もあります。そんな時にはこれを投げて落水者を一回りすることでナイロンロープや浮環(浮き輪)に掴まることで、船に引き寄せることができるというものです。この落水者を引き寄せるときに、浮き輪の輪の太い部分を持つより、周囲にぐるりと回したロープを掴んだ方が落水者側も掴みやすいことから、浮き輪だけでなくロープが周囲にも取り付けられているわけです。

さて、救命浮環を一度も海に投げたことが無い(新品)状態では、実はナイロンロープは浮き輪部分を海に投げ込んでもスムーズに解けて伸びてはくれません。そんなことも一度投げてみなければわからないことです。しかし、一度でも海に投げ込む経験をしておけば、どんな準備や投げ方をしたら良いのかがわかります。まあ、一度と言わず何度も投げる練習をしておけばより良いです。そして、実際に投げ込まなければならない時には、初めてではないので初めてで焦るよりも圧倒的に上手く扱うことができるでしょう。

つまり、緊急時に使う物でも一度は試しに使ってみることです。そうすれば、焦らず使うこともできるかもしれませんし、不具合を見つけることもできるかもしれません。もしもの時の物は、もしもの時に役立たなければ意味がありません。

最後に…

今回は、心構えということで具体的な対処法やテクニックなどは一切書いていません。その理由は、それらのテクニックは様々なヨットの教本などに書かれているので、そちらをご参照頂くこととして、5つの心得を書きましたが、この5つを読んで何が見えてきましたか?

日本人の多くのドライバー(車を運転する人)は、自分は運転が上手いと考えているという調査結果が出ていると免許更新時の講習会で聞かされたことがあります。これはどういうことかと言うと、日本人の多くの人は、自分のことを冷静な目で控え目に判断することが苦手だということです。これは、そのままヨットの操船にも当てはまることだと思います。
次に、日本人は自分の車を自分で修理する人が極端に少ないです。車だけでなく、家や様々な物の修理をプロに任せてしまいます。最近はDIYが盛んでホームセンター通いの人も少なくないとはいえ、日本人はなんでもプロに任せるというのは、まだまだ一般的なことです。
つまり、何が言いたいのかと言うと、私たち日本人は自分で懸命に調べて自分で判断して自分で行動するということが、かなり苦手な人が多いということです。ヨットやボートは、小型船舶操縦士免許という国家免許制度がありますが、実はこの免許は、海上交通のルールと最低限度の操船の知識を得るためのもので、自動車免許とあまり変わりません。自動車の免許でも、教習所でパニックブレーキの踏み方や濡れた路面の走り方、細かい話をすればデフロスター(ガラスの曇りとり)の操作方法など、本当に体験しておいたり知っておくべき安全に関わっていることでも教えてはくれないものもあります。
教えてもらえなかったことは、本来なら自分で調べたり、何かで体験しておくことがとても重要ですが、免許制度の中では必要最低限度と言う形になっていることと、そんなものは、危ない運転をしなければ良いこととされています。

つまり、自分で調べて、自分で学び、自分で経験することでしか判断や行動は出来ないのです。また、教習所や免許取得のための勉強の項目に入ってなかったとしても、人を乗せて動くもの(ヨット)を船長として操縦するのですから、自分に不安が無いように準備しておく必要があるのではないかと思います。

そして、幾ら一級小型船舶操縦士免許を持っていても、ヨットの操船については全く教えてもらうことはありませんし、教科書にも出ていません。つまり、ヨットを操船するには、自ら学び、自ら調べ、自ら経験するしか方法がありません。これは、ヨットスクールに行くということも同じです。ヨットに関する免許制度が無いから何でもOKというわけではありません。ヨット遊びを楽しむということは、自分で何でも判断できる技量を自ら身につけなければならないということでもあるわけです。

5つのヒントを参考にして、楽しいヨットライフを送って頂きたいと思います。

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