この夏、日本各地でスーパーセーリングヨットが来航していると言う話がSNSなどでアップされ、ヨット乗りの周辺では少し話題になってたりします。
よくよく考えてみたら日本にスーパーヨットと言われる25メートル超えのプレジャー船は以前から、たまに横浜ハンマーヘッドなどに来ているのを度々目撃されていますが、スーパーセーリングヨットの目撃情報を色々と確認してみたら、どうやら今回が初めてのようなので、MALU SAILINGとしてはセーリングヨットと言うことなので、ちょっとしたハプニングも踏まえ、今回のヨットについて書いてみたいと思います。
今回のヨットはどんな船
今回来航したスーパーセーリングヨットですが、マン島船籍のフィデリス(FIDELIS)という名前のヨットです。
2011年にイタリアのPeriniNavi社の56メートルシリーズ10隻の最終艇として、過去9隻の技術の集大成として建造されたカスタムセーリングヨットです。最近では2023年に大幅なメンテナンスと改装がされたようです。
船のスペックは、全長56.00メートル(約183フィート)、最大喫水9.73メートル、全幅11.52メートル、高さ(メインマスト高さ)約58.37メートル(水線基準=DWLから計測)、総トン数は497トン、船体等の主構造はアルミニウムです。
最高速度は15.50ノット、巡航速度は12.50ノット、巡航速度10.00ノットでの航続距離は3,500海里と言われ、2台のディーゼルエンジン搭載で燃料容量は53,000リットル、その他に水容量は17,000リットルを搭載しています。
上層デッキには、コックピットの他、ラウンジやダイニングスペース、プールなどがあり、下層デッキには5つのキャビンに10人+2人のゲストを収容できるキャビンには、オーナー用バスルーム付きのフルビームキャビン、VIPキャビン2室、ダブルキャビン2室 (そのうち1室には追加のプルマンベッドが付き)があり、更にクルーキャビン5室10人の乗組員が宿泊できるようになっています。
これまでに世界各地を航海しており、元のオーナーによる世界一周クルーズの中では他のスーパーヨットが行かないようなアマゾン川を航海、その他にも中東地域や南太平洋地域を航海しています。チャーターとしてはインドネシアやパプアニューギニアへの航海、新たな長期チャーターとして今年(2025)北太平洋地域の航海で日本に来航しているようで、日本列島を南は沖縄から北上し神戸、青森、函館まで目撃情報が上がっており、現在は横浜ベイサイドマリーナに居るようです。
現在チャーターヨットとして航海しながら、2990万ユーロ(およそ51億円)の希望価格で売りに出ているとのことです。
ベイブリッジを通過出来なかった
これまで来航のスーパーヨットと言えば、横浜港に来た時には横浜市が鳴り物入りで整備した横浜ハンマーヘッド(新港8号ビジターバース)に入港するのが通例でした。
しかし、今回はスーパーセーリングヨットという事で、高いマストがあることで、ベイブリッジの下を通過することが出来ず、横横ベイサイドマリーナに入港したようです。(あくまでも想像です。)
横浜のベイブリッジは、建設当時世界最大級の豪華客船であるクイーン・エリザベス二世号が通過できるように、満潮時海面より55メートルの高さが確保されていますが、豪華客船の大型化から横浜港に入港できない大型クルーズ船が多くなってきています。
例に漏れず、スーパーヨットの世界でも超大型化は進んでおり、このブログでも紹介した、Amazon創業者のジェフ•ベゾス氏が所有するスーパーセーリングヨット”Koru”の場合、マストの高さは驚きの70メートルもあるそうです。今回来航の”FIDELIS”の場合、先に書いたように58.37メートルと僅か3メートルちょっとで残念ながら通過できないと言うことに…。
現在、全国各地の港でクルーズ船の次はスーパーヨットを誘致しようと港湾施設の整備などが検討されていますが、エンジンのみで航行するスーパーヨットより、圧倒的に航続距離の長いスーパーセーリングヨットの方が来航率は本来高い筈です。 そうなると橋が掛かっている場所は通過できないというのはマイナスになります。また、セーリングヨットの場合にはキールがあるため水深も重要です。
橋に関して言えば、欧米では、アメリカ(サンフランシスコ)のゴールデンゲートブリッジが67メートル、カナダ(バンクーバー)のライオンズゲートブリッジは61メートル、アメリカ(ニューヨーク)のヴェラザノ=ナローズ橋は69メートル、デンマークのグレートベルトブリッジは65メートルなど、概ね60メートル超となっています。(ベゾスの船は残念ながら、これらのどの港にも入れない…)
オーストラリアの玄関口であるシドニーハーバーブリッジは横浜より低く49メートルとかなり低く、ブリッジ手前のオーバーシーズ・パッセンジャーターミナルに大型クルーズ船は停泊します。ここはオペラハウスやハーバーブリッジを望む観光の中心で、逆に景観的な魅力になっているようです。横浜港の場合もベイブリッジを通れない大型クルーズ船は橋の手前の大黒ふ頭客船ターミナルに接岸していますが、スーパーヨットがベイブリッジを通れないと言うことに港湾関係者は今回初めて気付いたのでは無いでしょうか。まあ、気付いてもどうしようもないのですが…。
更なるスーパーセーリングヨットの来航を願う
横浜にはプレジャー船の大集積港として横浜ベイサイドマリーナ(YBM)があり、以前から大型プレジャーボート対応をずっと進めて来たのは知っていたのですが、最近行ったときには大型プレジャーボートが物凄く増えたなって思っていたのですが、僕が知る限りでは「帆船みらいへ」が全長53メートル、230トン、喫水4.8メートルでもベイサイドマリーナに入港することはこれまで無かったので、このクラスになるとYBMでも難しいのかなって思ったりしていたのですが、今回 FIDELIS がYBMに入港できたと言うことで、ベイサイドマリーナはかなりスーパーヨット対応の設備が拡充されたんだなって感じました。
東京港にはスーパーヨットが係留可能な岸壁はないので、東京湾では横浜のハンマーヘッドと今回のYBM、少し小さいサイズのスーパーヨットならベラシスが桟橋をスーパーヨット対応にしたと聞いているので、現在のところこの3箇所だけです。その他の港でも整備が進むことも期待しています。実は、一般的な大型船の出入りする港は基本的に大型船であってもプレジャー船の接岸ができないルールになっているため、現状はスーパーヨットにとっては使いにく状況であることは確かです。まあ、港湾管理者などの許可があれば接岸できるようですが、それには許可申請を行う必要があり、遠く海外からやってくるスーパーヨットの場合には、このような手続きを代行してくれる業者の存在も必要です。一般的な商船などの大型船でも入稿接岸には申請が必要なので、業務としては同じなんですが、プレジャー船と言うだけで、その申請は通常の商戦向けとは異なるので、面倒な仕事であることが間違いないのですが、この手の大型スーパーヨットは商船以上に経済効果が大きい、言い換えれば大金持ちが乗る船なので、手数料が多少高くても、いやいたバカ高くても支払ってもらえます。そんな細かいことは気にしない人たちの筈ですから…。そして、補給についても一般の商船の補給とは全く違うはずです。商売に充分なると思うんですが、そのあたりの仕組みも施設と並行して準備されなくては、なかなか日本に気軽に行こうとは考えてもらえないのではと思ったりもします。
今後もどんどんスーパーセーリングヨットが日本に来航したらいいなってヨット乗りとしては思うばかりです。
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