自分のヨットを持っても、ネットで中古艇の情報を見ることは今でもあります。実は昔から特に好きなヨットがあって、その船が売られたり買われたり、そしてまた売りに出されてと言うのを10年くらいの間ずっと見続けてきています。その船が数年前に中古艇の情報に再アップされるようになり、コンディションが明らかに悪くなってゆき、買ってしまおうかと思うくらいに値段が物凄く下って行くのを見つつ、そのまま朽ちてゆくのかと思いきや、どうやらヨットディーラーが買い取ったのか、レストア作業が始まり、そのまま中古艇の情報に上がり続け、情報更新される度に綺麗になってゆく姿をみて、このヨット復活したな…あーこのまま売れないで欲しいなぁ‥なんて買えもしないのに勝手なことを考えているのです…。
それはどうでもいい話なんですが、今回のテーマに話を戻して、
これからヨットを始めようと考えておられる方にとっては中古ヨットの情報を開くと、「20年落ち」「30年落ち」という艇を普通に見かけると思います。自動車なら30年前の車となれば、かなりの旧車っぽい感じです。ところがヨットの世界では、1980年代や1990年代に建造されたヨットが、今も現役でたくさん海を帆走っています。
では、ヨットの寿命はいったい何年なんでしょう?
何年落ちのヨットを買うのがお買い得なのか?
10年? 20年? 30年? 50年?
この疑問は、ヨットと付き合いが始まればわかる話ではあるんですが、全くのビギナーにとっては単純な疑問でしかないと思います。

そこで今回は、「ヨットの寿命」について書いてみたいと思います。
FRPのヨットは何年もつのか?
船の歴史において、初期の船は全て木造船であり、ヨットも物凄く古い物は木造のヨットが現在でも帆走っています。しかし、現代ヨットの主流は、FRP(Fiber Reinforced Plastic:繊維強化プラスチック)が1960年代以降、ヨットの船体材料として広く普及し始めました。
それ以前の木造ヨットと比較して、FRPは腐朽しにくく、量産が容易、比較的維持管理もしやすいことから急速にFRP艇は普及し、今やヨット界のみならず、小型船舶全体のスタンダードとなりました。
では、そのFRPそのものの寿命はどのくらいなのでしょう。
実は、これについて「○年」と断定できる数字は何処にも見つけることができません。
国土交通省はFRP船について、「製品寿命が30年以上にも及ぶ」と説明しています。
また、国連食糧農業機関(FAO)のFRP漁船に関する資料では、FRP艇について20年程度という寿命がしばしば引用される一方、それを超えて良好な状態で使用されている艇が多数存在することも指摘されています。
つまり、「FRPは30年経ったから突然使えなくなる材料ではない」ということです。
「耐用年数」と「寿命」は同じではない
ここで注意したいのが、「耐用年数」と「実際に使用できる寿命」を混同しないことです。
税務上の耐用年数、経済的な耐用年数、設計上想定される期間、そして実際に安全に使用できる期間は、それぞれ意味が異なるのです。
日本沿岸域学会に掲載された「FRP漁船の寿命と耐用年数」という研究では、FRP漁船の実際の寿命について分析が行われており、そこで推計された寿命は62年以上でした。
もちろん、これをもって「すべてのFRPヨットが62年間安全に使える」という意味ではありません。
重要なのは、「FRP艇は船齢だけで寿命を判断できない」ということです。
船体より先に寿命を迎えるもの
30年を経過したヨットを考えるとき、本当に問題になるのはFRP船体だけではありません。
むしろ、ヨットを構成している多くの設備(艤装)の方が使っても使わなくても先に確実に寿命を迎えます。
例えば、
・エンジン、ギア、プロペラなどの推進系
・マスト、ステー、ターンバックルなどのリギン
・スルーハル、バルブ、ホース類
・電気配線、分電盤、バッテリー、航海計器
・清水、汚水、燃料系の配管類
・ウインチやファーラー、ウインドラス
・ラダーやステアリング系統
・セイル
・ハッチやボートライトなどのシールやガラス類
・デッキ金物
など、船体以外の全てです。
これらが船体と同じ30年間、何もメンテナンスや交換無しに使い続けることができるわけではありません。このことは、30年落ちの自動車や住居に置き換えて考えても、なんとなく理解してもらえると思います。
つまり古いヨットに乗るということは、
「30年前のヨットを、そのまま使い続ける」
ということでは無いということになります。
必ずしも全体をアッセンブリーで交換しなくてはならないというわけではなく、各部の使用頻度や経年劣化により必要な部分を修理し、交換し、更新しながら、「船体という基本構造を使い続けている」と言うのが実態だということです。
古いヨットは危険なのか?
これも「古い=危険」と単純には言えません。
例えば、30年経過した艇でもリギンが交換され、スルーハルが更新され、エンジンが適切に整備され、電装系も更新されている艇があります。
逆に船齢10年程度でも、数年乗らずに放置され、全く整備されず、水の浸入や各部の腐食を放置していれば状態は30年経過した艇よりも悪くなっている可哀想な艇もあります。
従って中古ヨットを見る場合、「何年式ですか?」だけでは、その艇の状態を正しく判断することはできないのです。
むしろ重要なのは、「この30年間に何をしてきた艇なのか」ということになります。整備記録、部品交換履歴がヨットの取引には非常に重要になる理由がここにあります。
FRP船体も永久ではない
FRPの船体なら単純に永久的に使えるという意味でもありません。FRPにも経年による問題は発生する場合があります。
代表的なのが、オズモシスによるブリスターです。水面下のゲルコート層に浸透圧によりできる水ぶくれ状の膨れで、初期のFRP積層後に塗布するゲルコートに目には見えないピンホールが製造段階でなんらかの理由で出来て起きます。
そのほかにも、FRP積層内部への水分侵入、デラミネーション(層間剥離)、長期間にわたって荷重を受ける部分の疲労劣化、衝突や座礁による損傷、貫通部分の水漏れによるFRPデッキ内部の構造材の腐食などがあります。
特に注意したいのは、「見た目がきれいだから船体も健全」とは必ずしも言えないことです。
逆に、ゲルコート(ハルの表面仕上塗装面)が退色して見た目が古くなっていても、構造体としては十分健全ということもあります。
そのため船齢が大きくなればなるほど、外観だけではなく内部構造部分の状態を確認することが重要になります。
50年前のヨットが今も走っている理由
1970年代に建造されたFRPヨットは、すでに船齢50年前後です。それでも現在まで残り、現役で航海している艇が割と多くあります。
これはFRPという素材の耐久性だけが理由ではありません。
ヨットという乗り物そのものが、「修理・交換をしながら使い続ける」ことのできる構造になっていることも大きいでしょう。
セイルは交換できます。
エンジンも載せ替えられます。
リギンも交換できます。
航海計器も交換できます。
配線も引き直せます。
バルブやホースも交換できます。
場合によっては、デッキやラダーについても大規模な修理が可能です。
それに、前の項目で書いたFRPの様々な不具合や破損も修理補修を正しくすれば十分な強度と仕上がりで再生させることもできます。
そう考えると、ヨットは自動車というよりも「古い住宅」に少し似ているのかもしれません。
屋根を直し、配管を交換し、設備を更新しながら住み続けるのと、ヨットは同じような物だと言うことです。
基本構造が健全である限り、設備を更新することで長期間使い続けることができると言うわけです。
ヨットの本当の寿命とは何なのか?
ここまで考えてくると、少し違った答えが見えてきます。
ヨットの寿命は、「FRPが何年もつか」では決まらないのではということです。
構造的に修復できないほど大きな損傷を受ければ、当然そこで廃船を迎える可能性があります。また、技術的には修理できても「修理費用が艇の価値を大幅に上回る」ようになれば、現実には修理されないこともあります。
例えば、市場価値100万円の艇に500万円の大規模修理が必要になったとします。
技術的には直すことができても、経済的には直さない。
この場合、その艇はFRPという材料の寿命を迎えたわけではなく、「経済的な寿命を迎えた」と言えるわけです。
そして、もう一つあります。
「オーナーが艇を維持し続けることをやめたとき」です。これも古いヨットにとって、非常に大きな意味を持つのではないでしょうか。
最後に…MALU号は何歳?
今回この記事を書くきっかけになったのが、たまたまクラウドにMALUの船舶検査手帳をPDF化して格納してあったので、それを開いてぼんやり眺めていたら、「第1回定期検査 平成9年7月29日 新造」「進水年月 平成9年7月」と書かれていたのです。
平成9年は1997年なので、MALU号はこの記事を書いている(2026年9月)現在で、船齢29年です。
29年と聞くと、かなり古いヨットに感じます。しかし、私と比べれば、まだ私の人生の半分も経っていません。見た目、外見も内側も現代艇のようなモダンな物でなく古いデザインのヨットです。外観もくたびれ始めてますし、キャビンも古めかしい感じで、これを味があると言って良いものか…と思ったりもします。
MALU号にあと何年乗れるんだろう?って考えることがありますが、艇自体は、私が乗り続け、メンテナンスをやり続けている限り、僕が生きている間に経済的な理由がない限り、乗り続けられると思います。おそらく、僕の方が早く寿命を迎えるんだと思います。
FRP船体や構造部材、艤装品の状態を継続してチェックしつつ乗り続ける。これまでも不具合が出た場所、出そうな場所はこのブログでも紹介してきた通り、メンテナンスをしてきました。そして、このメンテナンスという言葉ですが、「ヨットを所有して乗り続ける限り終わりが無い」ということも言えます。
つまり…
ヨットの寿命を決めるのは、船齢という数字だけではありません。
「何年経ったか」よりも、
「その年月をどう維持してきたか」
そして、
「これからも安全な状態を維持するために、必要な修理と更新を続けられるか」
それがヨットの寿命を大きく左右するということです。
MALU号と私は終わることのないメンテナンスをセーリングを楽しみながら続けてゆく、これがヨットライフの本質なんだ思います。
【参考資料】
国土交通省「FRP船リサイクルシステム」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h18/hakusho/h19/html/i2723200.html
FAO “Lifespan of FRP”
https://www.fao.org/4/t0530e/T0530E11.htm
日本沿岸域学会「FRP漁船の寿命と耐用年数」J-STAGE
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaczs/22/2/22_77/_article/-char/ja/





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