ヨットオーナーになって最初の楽しみでもあり悩むことと言うと、ヨットに船名を付けることです。僕たち夫婦も、ヨット探しをしているときから「いいヨットが見つかったら、どんな名前にしようかね?」なんて話しながら、実際にはヨットが決まって現実味を帯びてからバタバタと考え始めました。まあ、それまでは冗談のような名前ばかりを適当に言っていたりして、これっていう決め手に欠けていたんです。そして、実際に決めるとなると、これがまたなかなか決まらない。特に僕が凝り性で拘りが強いので余計ですね。そして、いろいろ悩んだ挙句に要らぬ心配まで始まってしまいます。「法律とかルールとか無かったっけ?」「名前は日本語しかダメなんだっけ?」などなど、考え始めたら悩みは更に深くなるばかりです。そして、ヨットハーバーやマリーナに行くと、とにかく他のヨットの船名が気になって仕方ない…なんて状態でした。

そこで今回は、ヨットの船名に関することについて当時いろいろ調べたことなど、諸々をお話したいと思います。

小型船舶には船名の表示義務はない、しかし国際航海には必要

ヨットハーバーやマリーナに行って、ヨットやボートを見ると、殆どの船には船名が書かれています。しかし、中にはこれ何て読むの?って船もあれば、カタカナ、ひらがな、漢字、ローマ字、英語、フランス語、イタリア語、などなど、実に様々な文字や言語で書かれています。また、字体様々で筆記体で書かれてるものまであります。まあ、この段階でヨットの船名には特にルールが無いんだなって感じることはできますが、実際にそうなのか何処かにルールはないのか探してみました。

国土交通省の見解

小型船舶の登録等に関する法律に伴う政省令案に関する意見とそれに対する国土交通省の考え方に、こんなことが書かれていました。
「小型船舶の船名表示については、国際航海に従事しない船舶にあっては、義務付けする必要がないと考えます。しかしながら、国際慣習から必要となる国際航海に従事する船舶に限っては、義務付けることとしています。また、船舶番号については、外部から見やすい部分に表示することとしております。 更に、船籍港の船体表示については、小型船舶登録法第8条に定めている表示が義務化される船舶番号に、船籍港の所在する都道府県名を含める予定です。」

国際航海する場合

小型船舶が国際航海するにはという国土交通省のQ&Aを見ると
Q;国籍証明書交付申請するのになぜ船名を決めなくてはいけないのですか。
A; 国際慣習において船名は船体に表示することがルールとされていますので、小型船舶の登録等に関する法律においても船名の表示義務を国際航海する日本船舶である小型船舶の所有者に課しています。ですから、船名を所有者の方に決めていただかなければなりません。このように、国際ルール上、船名は最も重要な要素であることから、地方運輸局等が交付した国籍証明書の当該船舶の船名が変更されたときには、その国籍証明書は効力を失うこととなります。

JCIの小型船舶の登録

小型船舶の登録に関するJCI(小型船舶検査機構)の「よくある質問」を見てみると、
Q;「船名を変更したいのですが、どのような手続が必要ですか?」というのがあり、その解答を見ると、
A;【手続案内>中古艇購入>中古艇購入手続(証書書換のみ)】をご参照ください。また、「船名」は登録事項ではありませんので、登録関係の手続はありません。

船名の表示はグローバルスタンダード

国際慣習において船名は船体に表示することがルールとされているので、表示した方がよい。しかし、日本国内の海水面を航行するだけなら無くてもよい。国内では船名よりも小型船舶を登録した際に交付される船舶番号標識と船籍港の所在都道府県名表示を定められた位置に表示するほうが大切ということです。
しかし、国土交通省の見解では要らないと言っていても「小型船舶安全規則第64条により、救命胴衣には「船名」、「船舶番号」または「船舶所有者名」を表示しなければならないことが規定されています。」(引用:JCI よくある質問 より)とあるので、船名はやっぱり必要なのです。
そして、「船名」は登録事項ではないとJCIは言っていますが、船検証(船舶検査証書)には船種及び船名の欄があります。船種はヨット(セーリングクルーザー)の場合には「帆船」になります。
 「船名」は船主が唯一自由に決めることができる事項なのです。 

また、余談ではありますが、海上保安庁の巡視船が海上で船舶に対して呼びかけをするときには、船体に表示されている船名で呼び掛けてきます。また、海上等での臨時検査の際には船名を船体に表示していない場合、「船検証に記載されている船名が船体に表示されていないという指摘」を受けることもあるようです。

つまり、小型船舶の船名は登録事項ではなくても、やっぱり船名は必要だということになります。

どのように表示すべきか

船名の表示方法については、漁船に関する表示方法に関してはネット検索すると各都道府県が発した内容を見ることができますが、セーリングクルーザーの用途は漁船ではなくプレジャーボートになるので、この規定にはあてはまりません。そこでいろいろと探してみたところ、日本財団(旧の日本船舶振興会)図書館というホームページの中に「船舶法及び関係法令の解説」というコンテンツがあり、日本船舶の義務に関する項目があります。
その中に、「日本船舶が船舶に標示すべき事項及びその標示方法は、次のとおりである(細則44条)。」という項目があり、そこには以下のように記述されています。

船首両舷の外部に船名、船尾外部の見やすい場所に船名及び船籍港を10センチメートル以上の国字で記載すること(1項1号)。船名は、登記及び登録がなされた船名であり、それと同一の国字で記すべきである。国際航海に従事する船舶は、一般にこれらの船名の下部にローマ字で併記する慣習があるが、これについては制限がない。しかし、そのローマ字の使い方については、なるべく昭和29年12月9日内閣告示第1号で定められた「国語を書き表わす場合に用いるローマ字のつづり方」の特例によるものとされている(昭和32年5月1日船舶局通牒舶登486号)。

つまり、1文字が10センチ角以上の大きさで、船首両舷の外部と船尾の見易い位置に船名を表示するというのが、グローバルスタンダードだということになります。

国字とは…?

船名に用いることができる「国字」とは、「漢字」「カタカナ」「ひらがな」「ローマ字(アルファベット)」「数字」になります。これは、公的に採用している文字を指し、一般的な国字論とは異なります。小型船舶登録規則第40条に定める国籍証明書交付申請書(第21号様式)の船名記入欄の脚注には、「船名が漢字、平仮名、片仮名の場合にはふりがなをローマ字にて付記すること。」とあります。つまり、ローマ字名の場合にはローマ字のふりがなは不要ということが言えることから、ローマ字も国字として認められているということになります。

最後に ~日本の船舶名「丸」の意味~

日本が誇る大型帆船の「日本丸」や「海王丸」に代表されるように、昔の日本船には全てと言って良い程、船名の末尾に「丸」が付けられていました。(現代の日本船では「丸」を付けることが少なくなりました。)この「丸」ですが、一時期は日本船には、必ず末尾に「丸」を付けるというルールがあったようです。(逆に日本の軍艦には「丸」は付けないという慣例もありました。)

この「丸」の起源には諸説あるのですが、かつての日本人は自分のことを「麿(まろ)」と言っていたのが、大切なものなどにも「麿」が変化して「丸」と付けるようになり、それが船にも使われるようになったという説です。確かに、昔の犬の名前や刀の名前にも「〇〇丸」と付けられてるものがありますが、船もそのオーナーにとって愛するべき大切なものということで「丸」を付けたというのは何となく考えられることですね。

ヨットの名前には世界的に一つの傾向があります。それは、ヨットには愛する女性の名前を付けた船が多いということです。愛艇に愛する人の名前を付けると言うのは世界的にみてよくあることです。また、船は海外では”She”とか”Her”など、女性として形容されます。昔の船乗りは男性ばかりで、女性が船に乗るのを拒んだ時代もあったのですが、その大きな理由も女性が乗船すると船の神がその女性に嫉妬するから、つまり船は女性だからということで、航海で必ず悪いことが起きると言われていたからです。現代で言えば「船は自分の大切な相棒」と言うことも言えますが、怖いけど愛する奥さんって言うところでしょうか(笑)

愛艇のヨットにどんな船名をつけるかは、とても悩むことですが、今や公的証書に自分が決めた名前を記載できる乗り物は船だけです。是非、素敵な名前をヨットにつけてあげてください。

因みに余談ですが、僕たち夫婦のヨット「MALU」号の「マル」には、ハワイ語としての”MALU”と日本の船だというアイデンティティーを示す「丸」を掛けて「マル」と名付けました。

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