ヨットから見る水平線は何キロ先なのか

ヨットで少し沖に出て周囲を見渡すと、どこまでも海が続いているように感じることがあります。
陸地が見えなくなるほど離れれば、周囲360度を水平線に囲まれることもあります。
では、その水平線は自分が乗っているヨットから、いったい何キロ先なのでしょうか。

これってヨットに乗っていると、あたりまえそうなことでありながら、実際どのくらいの距離なのかという事を実際に計算してみたことは無いと思います。

そこで、実際に計算してみると、私たちが思っている以上に水平線は近いところにあることが分かります。

今回は、そんな素朴な疑問について、改めてまとまてみたいとみたいと思います。

ヨットから見た水平線は、わずか5kmほど先

水平線までの距離を考えるうえで重要なのが、海面から自分の目までの高さ=眼高 です。
ここでは、一般的なクルージングヨットのコックピットに立って海を見ている場面を想定してみます。

たとえば、
人の眼の高さを約1.6m、コックピット床面の水面からの高さを約0.4mと仮定した場合、
眼高は約2m の高さになります。

航海で使われる大気の標準的な屈折を考慮した近似では、
水平線までの距離(海里)≒ 2.08 × √眼高(m)と計算することができます。

眼高2mなら、2.08 × √2 ≒ 2.94海里
1海里=1.852km なので、約5.4kmと算出することができます。

つまり、ヨットのコックピットに立って眺めている水平線は、
わずか5kmとちょっと先にあることになります。

意外に近いですね。

座って見れば、水平線はさらに近くなる

ヨットでは常に立っているわけではありません。むしろセーリング中はコックピットのベンチに座っている時間の方が長いでしょう。
仮に座った状態で海面から目までの高さが1.5m程度なら、2.08 × √1.5≒2.55海里≒約4.7km です。

つまり、座って見ている水平線は5kmも離れていないことになります。

逆に、キャビントップなどヨットのデッキ上の少し高い場所から見れば水平線は少し遠くなります。以下は海面からの眼高と水平線までの距離を簡単な表にしたものです。

海面からの眼高 水平線までの距離
1.0m 約1.85海里/3.9km
1.5m 約2.55海里/4.7km
2.0m 約2.94海里/5.4km
2.5m 約3.29海里/6.1km
3.0m 約3.60海里/6.7km
5.0m 約4.65海里/8.6km
10m 約6.58海里/12.2km

こうして見ると、人間がヨットのデッキ上で多少高いところへ移動した程度では、それほど劇的に水平線が遠くなるわけでは無いという事がわかります。

水平線までの距離は高さそのものではなく、「高さの平方根に比例する」からです。

10km先の船が見えるのはなぜ?

ここで一つ疑問が出てきます。

水平線が約5.4km先なら、なぜ、それよりはるか遠くにいる大型船を見ることができるのでしょうか。

海上を航行していて、かなり遠方に大型船が見えることがあります。これは「水平線まで5.4km」という数字が、自分の目から海面を見ることのできる距離だからです。相手の船にも高さがありますから、かなり遠くでも大型船は見ることができるわけですね。

相手の高さも加える

たとえば、こちらはクルージングヨットで眼高を2mとします。そして相手が大型船で、ブリッジや上部構造物など、海面から30mの高さまであると仮定します。

こちら側の水平線までの距離は、2.08 × √2 ≒ 2.9海里 です。

もう一方の大型船側から見た水平線までの距離は、2.08 × √30 ≒ 11.4海里 となります。

この二つを足すと、2.9 + 11.4 =14.3海里 ≒ 約26.5km となります。

つまり理論上は、視界などの条件が良ければ、約26km離れた大型船の上部が水平線上に見えていても不思議ではないということになります。

もちろん、この距離では大型船の船体全部が見えるわけではありません。

遠くの船は「船の上部から」現れる

遠方から大型船が近づいてくるとき、最初から船全体が水平線より上に現れるわけではありません。

最初に見えてくるのは、マスト、煙突、ブリッジなど船の高い部分です。
さらに近づいてくると、徐々に低い部分まで見えるようになり、最後に船体全体が見えてきます。つまり、船全体の姿が見えるは、水平線の高さである、おおよそ5キロ先という事になります。

逆に遠ざかる船の場合は、船体下部から水平線の向こうへ隠れていき、最後までマストや上部構造物が残ります。
これは遠くなって船が小さくなって見えなくなるだけではありません。地球の丸みによって、船体下部が水平線の向こう側へ隠れていくからです。

双眼鏡で見ても、地球の向こう側へ隠れた船体を見ることはできません。

灯台も同じ考え方です

灯台を見る場合にも応用できます。

たとえば灯台の灯火の高さが海面から20mだったとします。
ヨット側の眼高を2mとすると、こちら側が約2.9海里。
灯台側は、2.08 × √20 ≒ 9.3海里。
これを合計すると、約12.2海里 ≒ 約22.6km です。

地球の曲率だけを考えれば、約23km離れたところから灯火部分が水平線の上に現れる計算になります。

但し、実際に灯台の灯火が見える距離はこれだけでは決まらないのです。
光の場合、灯火そのものの光度(光の強さ)や大気の透明度(大気中に含まれる水蒸気やチリ)なども関係します。
海上保安庁などの航路標識資料でも、灯火には地球の曲率と眼高・灯高から決まる地理的光達距離と、光度や大気条件に関係する光学的な到達距離という考え方があります。

「地球の丸みとして見える距離」と「実際に灯火を視認できる距離」は必ずしも同じでは無いということです。

最後に…富士山は何故あんなに遠くから見えるのか?

MALU号のホームゲレンデである駿河湾で、分かりやすい例が富士山です。

富士山の標高は3,776mで山頂を一つの物標として同じ計算をしてみると、
2.08 × √3776 ≒ 127.8海里 ≒ 約237km です。

さらにヨット側の眼高2mによる約2.9海里を加えると、約130.7海里=約242kmとなります。

つまり、途中に何も遮る物や地形がなく、大気の状態などを無視して地球の曲率だけで考えれば、200km以上離れていても富士山頂には見通し線が届くことになります。

もちろん、「富士山は242km離れていても必ず見える」という意味ではありません。
実際には霞、雲、大気の透明度、屈折、途中の地形などが大きく影響します。

それでも、海面近くにあるものは数kmで水平線の下へ消えてしまう一方、富士山のように高い物標は非常に遠くからでも見えるのです。

その理由は、同じです。「高さと地球の曲率」の関係にあります。

ヨットのコックピットに立ち、海面から目までの高さが約2mだとすると、水平線は約2.9海里、約5.4km先、思っていたよりずっと近いと感じられたのではないでしょうか。それより先にある海面そのものは、すでに地球の丸みに隠れています。それでも遠くの大型船が見えるのは、船の上部に高さがあるから。遠くの灯台が見えるのも同じ。そして、はるか遠くの富士山が見えるのも同じ原理です。

沖から港へ戻ってくるとき、最初に山が見え、やがて高い建物や灯台が見え、さらに近づいてから低い陸地や防波堤が見えてきます。
出港するときには、その逆の順番で消えていきます。
普段、ヨットの上から何気なく眺めている水平線。しかし、その水平線は実はわずか5kmほど先。
ヨットに乗って海を見るということは、地球が丸いということを実際の景色の中で感じられることでもあります。
しかし、解っていそうで知らなかった水平線までの距離、是非参考にして安全航海に活かしてくださればと思います。UW

【参考資料】

  • 水平線までの距離は眼高の平方根に比例し、航海では大気の標準的な屈折を加味した近似が使われます。米国の航海術標準書 The American Practical Navigator(Bowditch) の「Distance of the Horizon」が代表的な一次資料です。
  • 灯台などの視認には、自船の眼高だけでなく物標側の高さも関係します。
  • 実際の視認距離には大気屈折、透明度、霞、光度などが影響するため、計算値は「必ず見える距離」ではありません。

The American Practical Navigator(NOAA)
海上保安庁 海洋情報部

 

  クリック頂けると嬉しいです
にほんブログ村 マリンスポーツブログ ヨットへ

コメント

タイトルとURLをコピーしました