我が家のMALU号はミラベル375という艇種なので、その名の通り37.5フィートのセーリングクルーザーなのですが、ヨットレースにも出なければ、外洋をクルージングすることもなく、普段は駿河湾の中をちょこちょこと走り回っています。
そんなセーリングライフの中で、最高の対地艇速は、おおよそ 9ノット弱 なんですが、「今日は8超ノット出た」という話は周囲でもよく耳にするのですが、「10ノットを超えた」といった話は同じようなヨットでは聞いたことがありません。

普段、5〜7ノット程度で走ることの多いセーリングクルーザーにとって、10ノットという数字はかなり速く感じるのですが、37フィート程度の一般的なモノハル・セーリングクルーザーで、10ノットを出すことは可能なのかについて、今回は考えてみたいと思います。
10ノットってどんなもの?
私たちが普段の生活で接する速度は、何キロって言う具合にキロ表示なので、10ノットというスピードがなかなか想像し辛いのですが、
10ノットをキロ表示にすると、18.52キロとなります。
こうやってキロに置き換えると、たったの20キロ弱のスピードなんだと思ってしまいますが、ヨットの普段の巡航速度は6ノット程度で同じようにキロに置き換えると11.112キロ、普段の生活で考えると個人差はありますがジョギングするくらいのスピードが6ノットくらいになります。
では、10ノット(18.52キロ)はと言うと、普通の自転車でかなり一生懸命にこいで走っている状態くらいのスピードと言えば理解してもらえるかな?
ヨットでエンジンを使って流れのない平水面をフルパワーで走らせると7ノット前後が限界値なので、クルージングヨットにとって10ノットと言うスピードは、実現性が低そうな領域です。
因みに、レンタルのパワーボートなんかだと、艇速は巡航速度で18〜25ノット前後、スポーツタイプで巡航速度は25〜35ノット程度と言われています。巡航速度は安定して走ることができるスピードで最高速はそれ以上出せるのが殆どです。
こうして考えてみると、ヨットのスピードはパワーボートの半分にも及ばないと言うことになるので、10ノットはヨット乗りにとっては夢の領域だと言うことが言えるのかもしれません。
ヨットには「船体速度」と言うものがある
一般的なモノハルのセーリングクルーザーは「排水型」と呼ばれる船です。
船体が水を押しのけながら進むため、速度が上がるにつれて船首波と船尾波が大きくなり、造波抵抗(自分が起こす波による抵抗)も増えていきます。
そこで昔から、排水型船の速度を考える一つの目安として使われてきたのが「船体速度(Hull Speed)」です。
代表的な近似式は、船体速度(kt)≒ 1.34 × √ 水線長(ft)です。
たとえば、MALUと同型の Comet 375 では、公表されている水線長(LWL)は約9.9m、約32.5ftです。
これを計算すると、1.34 × √32.5 ≒ 7.6kt となります。
つまり、古典的な船体速度の考え方では、7.6ノット前後がひとつの目安になります。
では、7.6ノット以上は出ないのか?
ここで誤解されやすいのが、「船体速度=その船の最高速度」という考え方です。
実は、これは正しくはありません。
船体速度は、そこを超えた瞬間に船がそれ以上進めなくなる「速度リミッター」ではないのです。
船速が上昇すると船自身が作る波の波長も長くなり、やがて船首波と船尾付近の波との関係から、船体が大きな波の谷に入り込むような状態になります。
そこからさらに速度を上げるには、大きなエネルギーが必要になります。
つまり船体速度とは、
「これ以上の速度になると、排水航走では急激に抵抗が増えてくる領域」を示す目安と考えた方が分かりやすいでしょう。
したがって 7.6ノット が船体速度だからといって、8ノットや 9ノットが出ないわけではありません。
10ノットが可能になる「サーフィング」
37フィート級のクルーザーが10ノットを記録する代表的な状況が、サーフィング(Surfing)です。
追い波、あるいは斜め後方から来る波に船が乗り、その波の斜面を滑り降りるような状態になると、船は通常の排水航走とは違った加速を始めます。
たとえば普段7ノット程度でセーリングしていたヨットが、8ノット、9ノット、そして一時的に10ノット、場合によってはそれ以上まで加速することもあります。
このときヨットは、単純にセールから得られる推進力だけで10ノットを出しているわけではありません。風による推進力に加えて、波の斜面を下る力が加わっている。これが大きなポイントです。
10ノットはどんな感覚なのか
数字だけなら、10ノット = 約18.5km/h です。
自動車なら非常に遅い速度ですが、ヨットに乗っていると、その感覚はまったく異なります。
37フィートの艇が10ノットで走れば、1秒間に約5.1m進みます。
そのような状況だと、船首から水が激しく左右へ飛び、船尾には大きな航跡が伸びていきます。
さらに追い波のサーフィングでは、波に乗った瞬間に艇が急激に加速するため、通常の6〜7ノットで走っているときとは明らかに違った感覚になります。
普段のクルージングヨットで経験する速度としては、かなり速い領域です。
つまり、結論は『可能』です。但し、巡航速度で走れるわけではありません。
37フィート級の排水型クルーザーにとって10ノットは、通常の航走状態を超えたかなり高い速度です。
それでも、風向や風速、波、セール、船型などの条件が揃えば、10ノットを超えることは十分にあり得ます。
「SOG」と「STW」
「10ノット出た」という話をするとき、もう一つ確認しておきたいことがあります。
それが、SOG(Speed Over Ground)=対地速度と、STW(Speed Through Water)=対水速度の違いです。
GPSやチャートプロッターに表示されるSOGは、地球上で位置がどれだけ移動したかを測っています。
一方の、STWは船が周囲の水に対してどのくらいの速度で進んでいるかを示します。
たとえば船が水に対して8.5ノットで走っていて、同じ方向へ1.5ノットの潮流が流れていれば、8.5kt + 1.5kt ≒ SOG 10kt となります。
GPSには10ノットと表示されますが、この場合、船体そのものが水に対して10ノットで走っているわけではありません。
逆に潮流がほとんどない状態で、追い波に乗った瞬間にSTWでも10ノットを記録したのであれば、これは文字通り37フィートの艇が水に対して10ノットで走ったことになります。
最高艇速を語るのであれば、この違いは意外に重要です。
37フィートどのくらいの速度が現実的?
37フィートといっても船型はさまざまです。
重量級の長距離クルーザーと比較的軽量で細身の船型を持つパフォーマンスクルーザーでは、同じ37フィートでも性能が大きく違います。そのため「37フィートなら何ノット」と一律には言えません。
それを承知の上で、一般的な37フィート級モノハルのクルーザーの感覚として考えるなら、5〜6ノットなら通常のクルージング、7ノット台なら気持ちよく走っている、8ノット台ならかなりよく走っている、9ノット台になると明らかに速い。
そして、10ノットを超えれば「今日はかなり速かった」と記憶に残る速度。
そんな位置付けではないでしょうか。
特に10ノット以上となれば、強めの風でのリーチングや追い波によるサーフィングなど、条件が整ったときに現れる速度と考えるのが自然です。
最後に… IMOCA60の30ノット帆走
先日の記事で白石康次郎さん率いる DMG MORI Sailing Team の挑戦について書きましたが、最近のヨットレースでは衛星経由のネット接続が一般的になったことから、レースの状況やレース艇が海を走る様子が手軽に手元のスマホで見ることができるようになりました。
僕が白石康次郎さんのバンデグローブをネットで公式サイトやAISサイト、そして気象アプリなどを検索して毎日Facebookにアップしていた時から比べたら、その進化はものすごいスピードです。
そんな中、Global One が30ノットという高速で走る様子がInstagramに公開されているのを見て、こんな高速で24時間ぶっ通しで走っていたら、精神的、肉体的にも持たないなって、前回のバンデグローブの動画では感じましたが、今回の The Ocean で30ノットのシェイクダウンをしている様子は、以前のものとは比べ物にならないくらい平然と30ノットで走っているように見えました。
今回は更に乗員に対する負担が少なくなる船造りをしたと言うような話も聞こえてくるように、船の進化もかなりなものなんだと感じました。
そんな動画を見ながら、我MALU号が目一杯頑張ったら何ノット出るのかな?なんてことを考えながら記事にしてみました。
実際に国内の外洋レース艇は、ラフなコンディションで10ノットオーバーで走っていると言う話はよく聞きます。また、ネット検索をしてみると、似たような感じのヨットで10ノットを実際に超えたという話も出てきたので、その記事などもさんこうにさせて頂きました。
10ノット、一瞬でもいいから体験してみたいですね。




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