今年はヨットレースに助っ人クルーとして乗って欲しいという話があって、ちょこちょこあちこちの船にクルー参戦している。ある日のレースでベテランヨットマンの大型艇で参戦したときの話、レースコンディションは非常にタフ。風速は20ノットを超えるような感じで波立ち、のんびりレースでは無い様相となった。駿河湾を横断するレースで風は対岸ゴール側より真っ直ぐ吹いている。いわゆる真上りレースとなった。
艇は大きくヒールして、風があるのでグイグイ進むけれど、海況は悪くなる一方で艇は上下にピッチングを繰り返し、波を乗り越え乗り越えしながらも良いペースでスタートを切った。レースも中盤を迎える辺りで、舵を持っていた艇のオーナーが船が安定している間にトイレに行ってくるとヘルムを交代したら、キャビンの奥の方からオーナーが何やら叫んでると思ったら、キャビン前方のトイレやギャレーのシンク排水口から海水が逆流して水浸しになってると言う。
後でオーナーに「出航する時にスルハル閉じるの忘れたの?」って聞いてみたら、「えっ?スルハル閉じないとダメなの?」…
とまあ、スルハルにまつわるヨットの大惨事…なんて話は少なくありません。スルハル(正しくはスルーハル)のことを正しく理解しておくことはヨット乗りとしてとても重要なのです。

そこで、今回はスルーハルについて書いておきたいと思います。
スルーハルとは?
僕たち日本のヨット乗りは「スルハル」って日常的に言ってますが、正しくは「スルーハル」(through-hull)と言います。英語の方を読んで字の如く、through=~を貫通して + hull=船体 から来た言葉で、「船体を貫通する」という意味です。
スルーハルと言うと開閉式のバルブも含めて、その部分のことを指して話してますが、実際にはバルブの有無は関係なく「船体を貫通している箇所」の事をスルーハルと言います。

では、バルブは何て言うのか?
そのまま「バルブ」と表現したりします。厳密には スルーハルフィッティング(through-hull fitting) が船体を貫通する金具(樹脂製のものもあります)で、その船体の内側に取り付けて開閉するバルブのことを seacock(シーコック)と呼びます。余談になりますが、日本ではこのバルブの事をキングストンバルブと呼んだりもしますが、ヨット用の小さなバルブはシーコック呼ぶのが正しく、本来はキングストンバルブとは呼びません。
参考までに、キングストンバルブ(Kingston valve)は船体外板にほぼ面一になるように設けられた海水取入口用の弁を指し、19世紀以降の大型船・軍艦などで広く使われました。一般的なスルーハル+ボールバルブとは構造が異なり、かなり大きな自動車のハンドルのような円形ハンドルを回して開閉作業を行います。似たような小型のものはキングストンコックと呼ばれたりもするようですが、最近のヨット界では回転式ハンドルで弁を開閉するタイプの物は使わず、ハンドルはバータイプでハンドルを90度倒すだけのボールバルブタイプのシーコックが一般的です。
日本では、船体に開けた穴とフィッティング、そしてバルブまでの一式をまとめて「スルーハル」と呼んで、フィッティングとバルブをセットで部品販売している場合などもみられますが、海外で「スルーハル」とだけ言っても全く通じません。実のところは スルーハル ≠ バルブ(スルーハルはバルブを示す言葉ではない)と言うことです。この辺りを正しく理解したうえで話をする必要があるということです。
スルーハルはあちこちにある
スルーハルがどういうものかと言うことは、先の説明で理解して頂けたと思いますが、スルーハルはヨットのあちこちにあります。船を所有する場合、自分の船のスルーハルはどこにあるのかと言うことを必ず知っておく必要があります。
また、先の説明の通り、バルブが付いている物だけではありません。フィッティングだけの場所や特殊な用途で開口されている物もあります。
シーコック付きの場所
シーコック(バルブ)が付いているスルーハルは、基本的には水中にあり、海水を船外から取り込む、または排水する用途です。
•エンジン冷却水の取り込み口
•マリンエアコン用冷却水の取り込み口
•トイレ、洗面台の海水取り込みや排水口
•ギャレーの排水口
•ジェネレーター冷却水の取り込み口
仮に、この5つ全てが船に設備されている時、シーコックは最低でも艇内に6箇所あると言うことになります。
シーコックは付いていない場所
シーコック付き以外は、フィッティングに直接ホースが刺さっている物などです。基本的には排気または排水するために設けられています。殆どが喫水線より上に設けられていますが、一部の特殊な用途で喫水線より下の水中に設けられています。
•清水タンクのオーバーフロー及び通気孔
•燃料タンクのオーバーフロー及び通気孔
•エアコンの冷却排水及びドレーン排水口
•エンジンの排水排気口
•ジェネレーターの排水排気口
•FFヒーターの排気口
•アンカーウェルの排水口
•計器のスピードセンサー取付口(水中)
全てのヨットにこれらが必ず設けられていると言うわけではありませんが、ヨットオーナーであればどのスルーハルが何のためにあるのかを必ず確認しておくべきです。
スルーハルの注意点
冒頭のエピソードでも触れたように、スルーハルのシーコックを閉め忘れ、海水が逆流してキャビンが水浸しどころか、船によってはシーコックの閉め忘れが、次に船に行ったら船が沈んでたなんて話もよくあることです。
そこで、スルーハルの注意点についてまとめておきます。
出航時にはシーコックを閉める
出航時には基本的にあらゆる場所のハッチを閉めるのと同じように、使ってないシーコックは全て閉じて航海する。凪の時なら問題なくても、波があって船が上下にピッチングするような時は、開け放たれたシーコックから海水が逆流してきます。
また、ホースバンドの緩みやホースが劣化している状態だと外からの水圧でホースが外れる、破れるなどの事態になると、もう手が負えなくなるので、できるだけトラブルを避けるためにも航海中は今使っていないシーコックは閉めておくようにする。当然、使い終えたら閉じると言うのは鉄則です。
船に居ないときはシーコックは全閉
船を係留していてキャビン内に水漏れがあれば、気付けば対処することはできる。しかし、船を離れてしまっては、気付く術もないわけだから、水漏れはどんどん進んでしまう。係留中には何が起きるかわからない。大き目のボートが引き波を立てて勢いよく通過しただけでも、自艇の大きさにもよるが航海中と変わらないピッチングが起きることも考えられます。そんなとき、シーコックを閉めていないとキャビンに水が上がってきてしまう。先にも書いたように、シーコックが開いたままだと防ぎようがないのです。
また、台風接近時などにシーコックを開けたままの係留で船が半沈したと言う事例はとにかく多い。船を係留して船から離れるなら、シーコックは必ず閉じてから下船するように心掛けたい。
シーコックの無いスルーハルの注意点
シーコックが付いていないスルーハルの場合、水漏れが無いかのチェックを定期的に行うようにすべきです。シーコックの無い場所は、大体が喫水線より上に付いているので、漏れに気付きにくいのです。また、高い位置に付いているスルーハルフィッティングは、紫外線の影響を受け易く、樹脂製のフィッティングだと劣化してしまう。また、高い位置と言うことはフェンダーなどがフィッティングに触れてしまうこともある。こうなると樹脂製フィッティングだと押されて割れてしまうことも少なくない。実際にMALU号では数箇所ある樹脂製フィッティングが割れてしまった経験から、力の掛かりそうな場所のフィッティングは全て金属製に交換した。
最後に…
この写真は我愛艇MALU号の船尾側から撮った写真ですが、この写真に写っているだけで何個のスルーハルがあるかわかりますか?

この写真で確認できるのは4つなんですが、実はこの角度からだと水中にも3つくらいシーコック付きのスルーハルフィッティングが並んでいます。トイレの排水、トイレのフラッシュ用海水取込、洗面台のボールの排水です。つまり、7個もスルーハルがあると言う事になります。
水中にあるスルーハルフィッティングやシーコックは交換しようとすると上架する必要があります。最近、シーコックの動きが悪くなってきて、そろそろ交換時期かなと思い始めています。シーコックの動きが悪くなり、やがて固着してしまったりすると、ハンドルだけが空回りしてボールバルブが閉じなくなってしまうなどの問題が起きてしまいます。そうなると、安心して船から離れることが出来なくなり、次の上架時期まで船が心配で憂鬱な日を送る事になるので、水中に設置されている物は完全に壊れる前にメンテナンスが必要です。
目安としては、シーコックの動きが渋くなってきた、金物の錆や汚れが激しくなったきた、バーハンドルがガタガタと揺れるようになってきたなど、経年劣化を感じるようなったら、上架整備の項目に交換作業を追加しておくようにすれば良いと思います。
スルーハルは、キャビンに居ても見えない場所にあります。床板を外す、ギャレーの引き出しの奥やキャビンのソファーシートの下などにありますが、どこに何のシーコックがあって、その他のスルーハルが何処にあって何と繋がっているのか、一度は全てを確認して把握しておくことが大切です。





コメント
コメントありがとうございます。
20箇所以上あると言うのは、かなり多いですね。
喫水線下にあるものは、ホント危ないので、定期的に検査必要ですね。
僕の船は20か所以上あって、とてもじゃないがチェックしきれません。
ただし、デッキの排水にはスルハル開けっぱなしているので、パイプの破損は沈没します。
現に、たまたま乗船中に破断して沈没するところでした。。。。