ヨットに初めて乗る人が最も興味があるのが、ヨットの中はどうなっているんだろうということだと思います。僕も最初は、外見よりも中の方が興味ありました。…と言うのも、大型ボートはダイビングをやっていた頃に散々乗って知っていたのですが、ヨットの場合には穴倉のような船底にキャビンがあるので、どんな感じなのか興味深々だったわけです。

ボートのキャビンはデッキの上に建物が建っているようなもので、ドアを開けて中に入るので、まあ地上の建物と何ら違和感はないわけですが、ヨットの場合には家のようなドアはデッキ上には見当たりません。そして、コックピットに乗り込んでみると、コックピットから下に向けて階段を下りてキャビンがあるわけです。
最初は物凄く狭苦しいのではないかと思ったのですが、結構な広さで大人が6人くらい入っても何とか食事できるし、小さいながらもギャレーがあるってことで、昔のフォークソングの歌詞にあったような「三畳一間の小さな下宿…」よりも豪華で広々していたので、とても驚いたのが最初の思い出です。

さて、このヨットのコックピットからキャビンに下りてゆく入口ですが、日本語なら「入口」、英語なら「エントランス」”entrance” ですか、しかしヨットの場合には、普通に想像しても出てこないような言葉でここのことを表現します。

そこで今回は、ヨット用語に戸惑うシリーズ第15弾、ヨットの出入口の名称について書いてみたいと思います。

ヨットのコックピットからキャビンへ降りる出入口

小屋のことをお話する前に、先ずはコックピットから小屋の中のキャビンに下りてゆく玄関のような場所があります。先ずはここからご説明したいと思います。

コンパニオンウェイコンパニオンウェイ内側

上の写真のように、ヨットのコックピットからキャビンへの出入り口ですが、この部分を「コンパニオンウェイ」”companionway” と言います。コンパニオンウェイは、「コンパニオンの道」ですから入口から内側の階段の踏み板の下までの部分の総称です。

コンパニオンウェイの語源

この「コンパニオン」”companion” と言う言葉は、現代英語の日本語訳では「相手」とか「供人」とか、パーティー・コンパニオンなんて言葉がよく使われますが、実は言葉の起源は帆船生活にまつわる言葉で意味としては「食事仲間」から「友達」という意味合いで使われる言葉です。
“com” は「共に」を意味するラテン語で、”panion” は食べ物の「パン」”panis” の変形した言葉で、これらを合わせて「パンを共に分かち合って食べる人」と言う意味合いで “com-panion” というようになり、共に食事するほど仲の良い「友達」とか「仲間」という意味になっていった言葉です。

つまり、「コンパニオンウェイ」はヨットのキャビンで仲の良い友達と食事するための通路というわけで、入口から階段部分の全てを指すわけです。

コンパニオンウェイの入口の刺し板

コンパニオンウェイの入口ドアにあたる場所に板を刺しますが、この「刺し板」のことを「ウォッシュボード」”washboard”(=洗濯板)と呼びます。語源は、刺し板は昔は通気口のルーバーが付いていましたが、それがさながら洗濯板の表面のようにギザギザに見えることから、そう呼ばれるようになったようです。

washboard&slide-hatch

このウォッシュボードという呼び方はイギリス式で、アメリカ式では「ハッチボード」”hatchboard” と呼びます。これは、ハッチを閉めるために刺す板だからですね。

刺し板
現代の最新のヨットでは、刺し板がアクリルガラスのような透明で上から抜き差しせずに下に押し下げるだけのものや、ドア型のヨットもあります。

ハッチボード(ガラス)

コンパニオンウェイを閉じるための蓋

コンパニオンウェイの上部は、スライド式のハッチで閉じます。これはこのまま「スライド・ハッチ」”slide-hatch” と呼びます。

スライドハッチ

「ハッチ」”hatch” は、デッキ上の開口に対して、開け閉めする蓋ような扉のことを「ハッチ」と呼びます。横に開くのは「ドア」”door” で 上向きの口が開くときの扉は「ハッチ」”hatch” と言うわけです。
下の写真は、一般的なデッキ用のハッチです。
デッキハッチ

 

最後に… 昔のハッチは重たく危険だった

昔のハッチは写真のような木製ハッチだったので、ハッチ自体の重量がかなり重いので、持ち上げるのは容易ではありませんでした。それを内側から押し上げて開くのは、ちょっと考えただけでも大変そうですね。そこで考え出されたのがスライドハッチです。スライドを軽くする工夫は容易ですが、重たいものを持ち上げることはなかなかできず、強いガラスが登場するまでは、開き戸とスライドハッチが主流でした。

帆船のスライドハッチ

コンパニオンウェイも帆船から来た用語ですが、元々は写真のように犬小屋のような小さな扉付きの箱で上部はやはりスライドハッチになっています。上ってきて頭をぶつけないようにスライドさせて上の空間を開けるわけですが、雨の時や波が打込むような時にはハッチを閉めてボードを指してキャビンに水が入るのを防ぐようになっています。

帆船のコンパニオンウェイ

コンパニオンウェイのスライドハッチは、デッキ面より上の高い位置についていますが、これはスライドハッチが不用意に閉まっても逃げるスペースを確保するめに、上の写真のような犬小屋のようにしたと思われます。上段の写真のような形だと、上がってきてハッチが閉じたらと思うとちょっと怖いですね。

現代のコンパニオンウェイも同じ思想で少し高めに造られていて、昔の帆船の設計思想を踏襲しているということが言えます。

「楽しい食事を仲間とするための出入口」という意味でつけられたコンパニオンウェイ、帆船時代の海の男たちの発想はホントに素敵ですね。

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