ヨットのプロペラ「基礎知識編」

ヨットに乗っていて、プロペラについて考えることはどのくらいあるでしょうか。

上架したときに状態を確認したり、貝などが付着していないかを見たりすることはあっても、普段からプロペラについて考える機会は、あまり多くないかもしれません。

けれども、機走していて「以前より力がない気がする」「エンジンの回転が思うように上がらない」「回転を上げても船速があまり伸びない」「以前より振動が大きくなった」と感じたことはないでしょうか。

こうしたとき、どうしてもエンジンに目が向きがちです。もちろん、エンジンを疑うことは間違いではありません。しかし、ヨットがエンジンの力で走るとき、その先には必ずプロペラがあります。

ところが、自分の船にどんなプロペラが付いているのかと聞かれると、意外に知らないことが多いものです。「この船のプロペラの回転はどっちですか?」「ピッチは幾つですか?」と聞かれたらどうでしょう。

自分の船なのに答えられない。これは決して珍しいことではありません。

プロペラは水中にあり、普段は見えません。エンジンのように音を聞いたり、計器で状態を確認したりすることもありません。だからこそ、何となく「船を進めるために回っているもの」として扱われがちです。

エンジンなら、何処のメーカーのどう言う型式で何馬力って答えられる人は多いのにプロペラのことになるとわからない…、ヨットオーナーであれば、知っておいてもよい部品だと思います。

と言うことで、今回はプロペラの基礎的なことについて見ていきたいと思います。

プロペラは何をしているのか

プロペラについて考える前に、まず押さえておきたいことがあります。プロペラは、エンジンの回転を使って水に力を加え、その反作用によって船を進めるためのものです。

見た目は「扇風機の羽根のようなもの」なんですが、プロペラのブレード(プロペラの羽のことをブレードと呼びます)は、単なる平らな板ではありません。

水中で回転することで、ブレードには水を動かす力が生まれます。その水に与えた力の反作用が、船を前へ進める推力(スラスト / Thrust)になります。

ここで重要なのは、エンジンが直接船を前へ押しているわけではない、ということです。エンジンが作っているのは回転する力です。

その回転を減速機やセイルドライブなどを通してプロペラへ伝え、最後にプロペラが水へ力を加えることで、ようやく船を進める力になります。

つまり、機走するときには、エンジン → 駆動系 → プロペラ → 水 → 船 という流れで力が伝わっています。

ここまでは、ごく当たり前の話に思えるかもしれません。けれども、この関係を理解しておくことはとても大切です。

エンジンが正常に回っていても、最後に水へ力を伝える部分に問題があれば、船は期待したようには走りません。逆に、エンジンの回転が思うように上がらないときも、必ずしもエンジンだけを見ればよいとは限りません。

機走の調子を考えるときには、エンジンからプロペラ、そして水へと続く一連の流れを見る必要があるのです。

プロペラ各部の名称

プロペラを見ると、中心部分から何枚かの羽根が伸びています。この羽根を ブレード(Blade)、ブレードを支えている中心部分を ハブ(Hub)と呼びます。

ブレードには、回転するときに先に水が入っていく側と、後から通過する側があります。先に水が入っていく側が リーディングエッジ(Leading Edge/前縁)、後から水が通過する側を トレーリングエッジ(Trailing Edge/後縁)と呼びます。

ブレードの最も外側にある先端は チップ(Tip/翼端)と呼ばれます。

少し分かりにくいのが、ブレードの「表」と「裏」です。プロペラが前進方向の推力を発生しているとき、船尾側を向いているブレード面を フェイス(Face)、船首側を向いている面を バック(Back)と呼ぶのが一般的です。ここは日常的な「表面」「裏面」という感覚とは一致しないことがあるので注意が必要です。

プロペラの大きさを表すときに基準になるのがプロペラの直径である ダイヤメーター (Diameter)です。直径とは、プロペラが1回転したときにブレードの先端が描く円の直径です。例えば「16インチのプロペラ」といった場合、基本的にはこの直径を指しています。

プロペラには、もう一つ重要な寸法があります。それが ピッチ(Pitch)です。プロペラには「16×11」「17×12」のような数字が表示されることがあります。一般的には最初の数字が直径、次の数字がピッチを表し、16×11なら、直径16インチ・ピッチ11インチという意味になります。

ピッチは単純なブレードの角度を表す数字ではありません。プロペラが柔らかい物質ではなく、滑りのない固体の中をねじのように1回転したと仮定したとき、理論上どれだけ前へ進むかを距離で表したものです。つまり、11インチピッチなら、理論上は1回転で11インチ進む形状ということになります。尚、実際のプロペラは水中で回転するので、1回転してもピッチと同じ距離だけ船が進むというわけではありません。
この差には水の流れや船体抵抗などが関係し、プロペラスリップ(Propeller Slip)と呼ばれる考え方につながります。

プロペラを見るときは、単に「羽根が何枚付いているか」だけを見るのではなく、ハブ、ブレード、リーディングエッジ、トレーディングエッジ、チップ、ダイヤメーター、ピッチといった部分を区別して見ると、プロペラの形が持つ意味が少しずつ読み取れるようになります。

ダイヤメーターとピッチ

プロペラの仕様を見ると、「16×11」「17×12」など、2つの数字で表されている場合がほとんどです。基本的には、ダイヤメーター(Diameter/直径)× ピッチ(Pitch)を表しています。

ダイヤメーターは、2枚羽根でも3枚羽根でも、プロペラそのものの端から端を適当に測るのではなく、回転したときにチップが描く円が基準になります。

直径が大きくなるほど、プロペラはより広い範囲の水に作用できます。ただし、大きければ大きいほどよいわけではありません。

プロペラを大きくすると、回転させるために必要なトルクも大きくなります。また、船底や舵との間には十分なクリアランスが必要なので、取り付けられる直径には船体側からの制約もあります。

ヨットでは、エンジン出力だけを見て直径を決めることはできません。

ピッチは、ブレードの角度そのものを表した数字ではありません。プロペラを「水の中を進むネジ」と考えると分かりやすくなります。例えば、ピッチが11インチなら、プロペラが1回転したとき、理論上11インチ前へ進む形状になっているという意味です。

「ピッチがきつい」とは?

ヨットやボートでは、「このプロペラはピッチがきつい」「もう少しピッチを落としたほうがいい」という言い方をすることがあります。

ここでいう「きつい」は、一般にピッチが大きく、プロペラを回すための負荷が大きい状態を指しています。

例えると、自転車で考えると、重いギアではペダルを1回転させたときに大きく進めますが、その分だけペダルを回す力が必要です。軽いギアならペダルは回しやすくなりますが、1回転あたりに進む距離は小さくなります。

プロペラも似た関係を持っており、ピッチがきつければ負荷は大きく、ピッチが浅ければ負荷は小さいです。ただし、実際にエンジンへどの程度の負荷がかかるかは、ピッチだけでは決まりません。ダイヤメーター、ブレードの枚数や面積、形状、エンジン出力、減速比、船体など、複数の条件が関係します。

「ピッチが大きいから速い」「直径が大きいから力が強い」と単純には考えられないところが、プロペラを理解するうえで重要なポイントです。

ブレードの枚数で何が変わる?

ヨット用のプロペラには、2枚羽根、3枚羽根、4枚羽根などがあります。「ブレードが多いほど、たくさん水をかくから推進力が強い」そんなイメージを持つかもしれません。

実際には、そう単純な話ではありません。

ブレードの枚数を増やす大きな理由のひとつは、限られたプロペラ直径の中で、より大きなブレード面積を確保できることです。同じような条件なら、より多くのブレードを使うことで、プロペラが受け持つ負荷を複数のブレードへ分散できます。

特にエンジン出力が大きい船や、直径の大きなプロペラを取り付けにくい船では、ブレード枚数を増やすことが選択肢になります。

2枚羽根

セーリングヨットでは、2枚羽根のプロペラが古くから多く使われてきました。固定式の場合、3枚羽根に比べてブレードの総面積を小さくしやすく、セーリング中の水中抵抗を抑えやすいという利点があるからです。

機走時には、1枚のブレードが受け持つ負荷が比較的大きくなります。また、船体やシャフトの配置などによっては、プロペラが回転する位置による水流の違いが振動として現れやすくなることがあります。

3枚羽根

現在のクルージングヨットでよく見られるのが3枚羽根です。

2枚羽根よりブレード面積を確保しやすく、推力を比較的滑らかに発生させられます。

前進だけではなく、離着岸などで後進を使う場面でも、扱いやすさを重視するクルージングヨットでは採用しやすい構成です。

ただし固定式であれば、水中に残るブレード面積も増えるので、セーリング中の抵抗との兼ね合いを考慮する必要があります。

4枚羽根

4枚羽根になると、同じ直径の中でもさらにブレード面積を確保しやすくなります。

限られた直径で大きな力を水へ伝えたい場合や、振動を抑えて滑らかな推進を得たい場合などに使われます。

ヨットでも採用例はありますが、2枚羽根や3枚羽根ほど一般的ではなく、大型ヨットに使われる傾向にありますが、セーリング中の水中抵抗は最も大きくなります。

枚数だけでは比較できない

2枚羽根より3枚羽根、3枚羽根より4枚羽根のほうが優れている、という順位ではありません。プロペラには、ブレードの枚数だけではなく、直径、ピッチ、ブレードの幅や形状など、多くの要素があります。

例えば、幅の広い2枚羽根と細い3枚羽根では、単純に枚数だけを比べても、実際に水へ作用するブレード面積の違いは判断できません。

ここで使われるのが ブレード面積比(Blade Area Ratio)という考え方です。

プロペラが回転するときに描く円の面積に対して、ブレードがどの程度の面積を占めているかを見るものです。

ヨットでは、さらに別の条件が加わります。エンジンで走るときには十分な推進力が欲しい。セーリングするときには、できるだけプロペラの抵抗を減らしたい。この二つを同じプロペラで成立させなければなりません。

セーリングヨットでは、エンジンで走るときの性能だけでプロペラを考えることはできません。機走では十分な推進力が欲しい反面、セーリング中はプロペラによる水の抵抗をできるだけ小さくしたいという、ヨット特有の事情があります。ブレードの枚数も、この両方を考えて決める必要があります。

単純に「枚数が多いほうがよい」のではなく、機走性能とセーリング性能のどちらをどの程度重視するかによって、適したブレードの枚数も変わってきます。

プロペラの回転方向

プロペラの回転方向には、右回り(Right-hand Propeller)と左回り(Left-hand Propeller)があります。

ここで混乱しやすいのが、「どこから見て右回りまたはひだりまわりなのか」ということです。

船舶用プロペラでは、一般に船尾側から船首方向にプロペラを見て、前進時に時計回りに回転するものを右回り、反時計回りに回転するものを左回りと呼びます。

プロペラの回転方向は、実は船によって異なります。同じメーカーで船種が同じでも、エンジンやギア、ドライブなどの違いにより回転方向が異なる場合があるので、個々の船で判断する必要があります。

船を上架した時など、プロペラが止まっていてもブレードの向き(傾き)を見れば右回りか左回りかを判断できます。

ブレードには、回転するときに先に水が入ってくるリーディングエッジ(Leading Edge/前縁)と、後から通過するトレーリングエッジ(Trailing Edge/後縁)があるので、リーディングエッジが船首側の右にある時は右回り、左にある時は左回りになります。

実物を見て判断するときには、以下の図のような見方で判断します。

基本的にプロペラの回転方向は、船が前進する時にプロペラをどちらに回すと後ろ側に水が押し出されるれ、船が前進するかで判断するします。

プロペラは平ではなくブレードには船の前後方向に角度がつけられ、水を船首側から取り入れて後ろに押し出すようになっています。このブレード端が最も船首側にある(傾いている)のがブレードの右端だと右回転、左側だと左回転になります。

プロペラの種類

セーリングヨットに使われるプロペラは、大きく分けると固定式、フォールディング、フェザリングの3種類があります。

どれもエンジンの力で船を走らせるという役割は同じですが、セーリング中のプロペラの状態には大きな違いがあります。

固定式プロペラ

固定式プロペラ(Fixed Propeller)は、ブレードがハブに固定されている最もベーシックなタイプです。

エンジンを停止してもブレードの形や角度は変わりません。

構造が単純で丈夫なことが大きな特徴で、可動部分がないため、整備する箇所も少なく、クルージングヨットでは最も広く使われています。弱点は、エンジンを止めてセーリング中もブレードが水流を受け続け抵抗となることです。特に3枚羽根などブレード面積の大きな固定式では、この抵抗を無視できません。

フォールディングプロペラ

フォールディングプロペラ(Folding Propeller)は、エンジンを使用していないときにブレードを折り畳めるタイプです。

エンジンを回すと遠心力などによってブレードが開き、通常のプロペラとして働きます。エンジンを停止するとブレードが閉じ、水流に対して細い形になります。

最大の目的は、セーリング中の抵抗を減らすことです。レース艇だけでなく、帆走性能を重視するクルージングヨットでも使われてす。

ただし、ブレードを開閉する機構があるので、固定式より構造は複雑で、可動部への海洋生物の付着、摩耗、ギアやピンなどの点検も必要になり、メンテナンスは固定式に比べると手間が掛かります。

フォールディングプロペラの実際の画像などは、ここから見ることができます。

フェザリングプロペラ

フェザリングプロペラ(Feathering Propeller)は、ブレードを折り畳むのではなく、ブレードそのものの角度を変えるタイプです。

エンジンを停止すると、ブレードが水流に対して薄い面を向ける位置まで回転します。鳥が羽根の角度を変えて空気抵抗を小さくすることを「フェザリング」と呼びますが、このプロペラも同じ考え方です。

セーリング中の抵抗を小さくできることに加え、前進と後進でブレードの向きを変えられる構造を持つ製品もあります。

ヨットでは後進性能を重視してフェザリングプロペラを選ぶケースもあります。

構造は3種類の中では最も複雑で、内部にギアなどの可動部を持つものが多く、定期的な清掃、給脂、摩耗状態の確認などが必要で、分解整備が定期的に必要となります。

フェザリングプロペラの画像はこちらから見ることができます。

ヨットでは帆走時にも重要

モーターボートなら、プロペラは船を走らせるための装置として考えることが中心になります。しかし、セーリングヨットでは少し事情が違います。

エンジンを使っている時間より、帆だけで走っている時間のほうが長い船もあります。このときプロペラは推進装置ではなく、船体の水中にある抵抗物になります。

固定式は構造が単純で丈夫。フォールディングはブレードを畳んで抵抗を減らす。フェザリングはブレードの角度を変えて抵抗を減らす。と言った特徴がありますが、セーリングヨットでは、エンジンを使ったときにどう走るかだけではなく、帆走時にエンジンを止めたときにプロペラがどうなるのかも、選ぶうえでのポイントになります。

最後に…

プロペラは、普段は水の中に隠れているので、自分のヨットにどんなものが付いているのか、意外と知らないものです。

上架したときも、船底塗装やジンクの交換に気を取られ、プロペラは「汚れていないか」「傷がないか」を確認する程度で終わってしまうこともあります。

次に上架する機会があったら、少しだけじっくりプロペラを見てみるといいと思います。

ダイヤメーターとピッチ、右回り、左回り、メーカー名や型式、数字などが刻印されていないか。

できれば写真も撮っておくと、何かあった時に役立ちます。

実は、以前にMALU号では、中性浮力で沈んでいる布団にプロペラが接触して、ブレードが曲がってしまったことがあります。もう、プロペラを交換するしかないので、ダイヤメーターやピッチがわかりますか?って聞かれたのですが、どうやらプロペラ本体に刻印されているのが磨き過ぎて見えなくなってしまっていたそうです。

結果はどうなったかと言うと、曲がったプロペラを修正しくれるプロペラ専門の工場を見つけて、そこに外したプロペラを送り、修正してもらいました。

プロペラについて知っておいたらいいことは、まだあります。それはまた別の機会でお話ししたいと思います。

今回は基礎知識編としてここまでとします。

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