自分の船を持ちオイル交換をする時にいつも思うのが、エンジンメーカー純正のオイルを使うべきかどうかということ。
MALU号を譲り受けた頃、前のオーナーは船に積んでいたスペアパーツなどを全部そのまま譲ってくださって、船には補充用のエンジンオイルも積んであった。そのオイルは自動車用の汎用オイルだったので、この程度の安いオイルを入れておけばいいんだって当時は思ってました。
ヨットに乗り始める前は、乗り物と言えば陸の乗り物ばかりでバイクや自動車には自分でもちょっと数え切れないほどの台数を乗り換えてきた事もあり、オイルはとにかくエンジン指定の粘度に合ったオイルを入れておけばいいという程度で、気にして入れてたのは、スーパーチャージャー後付改造のV8エンジン車に乗っていた時だけで、それ以外はカー用品量販店で売ってるプライベートブランドの安いやつを適当に入れてました。
しかし、MALU号に乗り始めて、ヨットのことをいろいろ調べ始めると、特に海外ユーザーはキチンとメーカー純正オイルを入れているという話があちこちから出てくる。まあ、うちの船はVOLVO PENTAエンジンで純正オイルはかなりお高いけれど、海外では日本より純正オイルの値段が安いから、みんな純正入れてるのかな?っていう程度に大雑把に思ったりしてました。しかし、その後もいろんなところで日本のユーザーも値段が高い純正オイルを入れている人が多いらしい… ということで、うちの船でも純正オイルを補充用に積んでおくようになりました。
でも、船のオイル交換は上架整備する時、一緒にマリーナに頼むので、マリーナはどんなオイルを入れてるのかわからない。でも、船の専門家が整備や交換をしてくれているから大丈夫だろうという判断をしてました。
しかし、前回書いた記事のこともあり、色々とヨットのエンジンオイルについて調べてみて、わかってきたこともあったので、今回は「エンジンオイルはメーカー純正を使うべきか」というテーマでちょっと書いてみたいと思います。
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メーカー純正オイルを使うメリット
純正品を使えばとにかく安心なのは誰でも思っている事だと思いますが、それを整理してみると以下のようになります。
「規格適合が保証されている」
日本でヨットのエンジンと言えば、YANMERかVOLVO PENTA が二大メーカーとなります。ごく少数、欧米の
ヨットで見られる Beta/Nanni/Solなどのエンジンがそのまま搭載されて日本にきているケースも稀にありますが、世界的に見てもこの2社が全体の約8割以上を占めていると言われています。この二大メーカーは其々に純正オイルを出していますが、純正オイルの良いところと言えば、それぞれのエンジン設計に合わせて粘度・添加剤・灰分量が最適化されている点です。「ACEA」「API」規格に加え、メーカー独自の認証規格も当然クリアしたものです。
「エンジンの保証」
新艇や新品エンジンの場合、メーカー指定のオイル以外を入れると保証適用外になるケースがあるようです。特に海外では「純正以外=保証無効」という認識が強く、保証期間中は純正オイルを入れているケースが多いわけです。海外の方が保証に対してシビアだということもあるからだと思います。
「安心感とトラブル回避」
船のエンジンは自動車やオートバイなどの陸の乗り物と違い、海上での故障が大きなリスクとなるため、高くてもメーカー純正品を使うことで安心を買っているという、ある意味保険的な発想で純正オイルを使う人が多いようです。
純正以外を使う際の注意
純正品はコスト的に見てもかなり高く、新艇やエンジン更新による新品に交換した時は別としても、長く使い続ける事を考えた時、やはりコスパの良い汎用オイルを使いたいというのは、貧乏ヨット乗りである僕なんかはそう考えてしまいます。そこで、純正品以外を使用する際の注意点を挙げてみました。
「規格と粘度を必ず守る」
例として、Volvo Penta MDシリーズなら「API CF/ACEA E5 以上の規格をクリアしており、粘度は 15W-40(または地域・季節により10W-30)」が指定となっています。
また、Yanmar の小型ディーゼルなら「API CF / ACEA B2/B3 の 15W-40」が多いです。
これらの規格・粘度が合っていれば、他の信頼できる船舶用や自動車用、汎用ディーゼルオイル(農機具や建設機械等に用いられている物)でも使用可能です。
「添加剤の違いに注意」
小型ヨット用ディーゼルエンジンは低速高負荷で使われるため、自動車用オイルでは清浄分散性能や防錆性が不足する場合があります。マリンエンジン専用のオイルは、特に耐腐食性や長時間高負荷対応に強化されている点が特徴です。
「安いオイルを選ぶリスク」
工業用やカー用品店の廉価オイルは、灰分が多かったり、耐せん断性が弱い場合があるようです。また、ターボ付きディーゼルではターボ軸受の寿命にオイル選びは直結するため注意が必要です。
「実務的なオイルの選び方」
•新艇・保証期間中 → 迷わず純正を使うのがベストです。
•保証期間切れ、又は中古艇 → 純正規格と同等以上のマリン用オイル、VOLVO PENTA / YANMAR の指定規格を満たす物を使用する。
APIとACEAの違い
小型船舶ディーゼルエンジンにおけるエンジンオイル規格について、以下に説明します。
1. エンジンオイル規格とは?
ヨットやプレジャーボートに搭載されるディーゼルエンジンも自動車と同じようにオイル規格に基づいたオイルを使用することが求められています。
• API規格(American Petroleum Institute / アメリカ石油協会)
• ACEA規格(Association des Constructeurs Européens d’Automobiles / 欧州自動車工業会)
どちらの規格もエンジンオイルの性能を保証する国際的な基準です。
2. API規格(アメリカ基準)
API規格は「S(ガソリン用)」と「C(ディーゼル用)」に分かれています。
小型船舶ディーゼルでは主に C系(CF〜CK-4) が使われます。
• API CF : 1990年代以降の小型高速ディーゼルに対応
• API CI-4 : 高出力ディーゼル、EGR対応
• API CJ-4 / CK-4 : DPFやSCR搭載の最新ディーゼル、低灰分(Low-SAPS)オイル
3. ACEA規格(欧州基準)
ACEA規格は、欧州車や欧州ディーゼルエンジンの使用条件に合わせた規格です。
• A/B系 : 乗用車用(ガソリン・軽ディーゼル)
• C系 : DPFなど後処理装置対応の低灰分オイル(C3, C4, C6 など)
• E系 : 大型・商用ディーゼル用(E7, E9 など)
マリン用では特に E7 / E9 が指定されることが多く、DPF付き最新モデルでは C3 / C4 / E9 などの低SAPs系が必要です。
4. Volvo Penta / Yanmar 推奨規格
🔧 Volvo Penta
• MDシリーズ(旧型) → API CF / ACEA B4・E7
• Dシリーズ(DPFなし) → API CI-4 / ACEA E7
• Dシリーズ(DPF付き) → API CJ-4 or CK-4 / ACEA C3・E9
🔧 Yanmar
• 旧型(2GM・3JHなど) → API CF / ACEA B4
• 新型CR・DPF付き → API CJ-4 or CK-4 / ACEA C3・E9
5. まとめ:どの規格のオイルを選ぶべきか
1. 旧型エンジン(DPFなし)
→ API CF〜CI-4、ACEA B4/E7 が基本。
2. 新型・DPF搭載エンジン
→ API CJ-4/CK-4、ACEA C3/E9(低SAPsオイル)。
3. 不明な場合
→ メーカー指定マニュアルに従うことが最重要。
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ポイントは、DPFやEGRなどの排ガス後処理装置が付いているかどうかです。付いていれば「低SAPs(灰分低め)」のオイルが必須になります。
• DPF(Diesel Particulate Filter)
ディーゼル排気中の「煤(PM: 微粒子)」を捕集・燃焼処理するフィルター。
• EGR(Exhaust Gas Recirculation)
排気ガスの一部を再循環させ、燃焼温度を下げて窒素酸化物(NOx)の発生を抑える装置。
• 灰分は、オイルを燃やしたときに残る無機物(燃えない成分)のことで、添加剤(金属化合物)由来で、DPFや触媒を詰まらせる原因になるため、最新ディーゼルでは低灰分(Low-SAPS)オイルが指定されるわけです。
最後に… メーカー純正を入れるべきか?
結論から言えば、メーカー推奨の純正オイルを入れておくのが、最も安心だと思います。
しかし、VOLVO PENTAのオイルはYANMERに比べ、価格で3倍の開きがあります。これは、輸入品か国産品かの違いだけで無く、VOLVO PENTA の場合には独自のVDS(Volvo Drain Specification)と言う規格を持っており、2つの国際規格をVDS規格で包含するようにしているようです。最も新しいVDSは4.5と表示されており、この4.5が表示のあるオイルは全ての旧型も含めたVOLVO PENTAディーゼルエンジンに対応しています。(注意:VDS-5と言うオイルが出ていますが、5は後方互換が無いトラック専用オイルのため、これを船舶に使うことができません。)
しかし、近年の最新型のVOLVO PENTAにおける小型船舶用のディーゼルエンジンはYANMERベースの物が使われており、結果として価格が日本で1/3で販売されているYANMERのオイルでも問題無いということが言えると思います。(あくまでも私見です。)
更に調べると、VOLVO PENTA VDS-4.5に対応したOEM生産のオイルが日本の精油メーカーであるENEOSから販売されています。残念ながらプロユースで20リッターのペール缶でしか供給がありませんが、18000円程度で販売されており、これとYANMER純正品とを比較すると、ほぼ同額又は少し安いくらいです。このことからもマリングレード(小型船舶エンジン向け仕様)のオイルの適正価格は、リッターあたり1000円程度が適正価格と言うことが言えるようです。
最も気になるのは、自動車は変速機を使ってできるだけ低回転で車を走らせますが、小型船舶の場合には変速機が無いため長時間高回転を維持して走らせます。つまり、マリングレードのオイルはそう言う環境でも油膜切れを起こさないこと、更に水上で使用することから防錆機能が陸の乗り物に比べて強化されていることなどから、やはり安い物を探すにしても、国際規格に合っており、且つマリングレードのオイルは入れておくべきだと思いました。
また、近年の最新エンジンは、低灰分のオイルでないとトラブルの元となるので、充分な注意が必要です。
結論、やっぱりVOLVO PENTAの純正オイルは高過ぎるので、国産マリングレードの国際規格に合ったオイルを入れるのがお財布に優しいという事では無いかと思います。
いいですね、こういうお話。
昔の舵誌にはこういうお話がエンジニアからでていたけど今やスポンサーの無い紙面はほぼなくなっちゃいました。
私のはD-3 110馬力でDPFはついていないはず。輸入元のミズノマリンへメール入れると必要なパーツ、オイルをマリーナへ直送(マリーナも買えますが個人で買ってます)し、交換はマリーナスタッフにお願いしております。
ボートショーで部品担当者と面会し、フェイスツーフェイスでコンタクト出来ました。
皆さん、2002や2003の方が換装で困るようです。何故ならボルボが小さいからエンジンルームを壊さないとヤンマーが入らない。
D-3もターボのメンテナンスは全く分からないので万が一の時は外してミズノマリンへ送るしかありません。
クルマはメカニックが多くいるのでいいですが、ヨットは大変ですね。
クルマのほうはモチュールがお気に入りです。