2026年3月16日に沖縄県の辺野古沖で研修旅行中の同志社国際高校の生徒らを乗せたボート2隻が転覆し、生徒1人と船長1人が死亡、その他多数の負傷者が出た海難事故がテレビ等で多数の報道がありました。この時の気象状況は気象庁によると、16日午前、名護市沿岸には波浪注意報が発表されていた。日本の東海上で低気圧が発達し、その影響で沖縄から太平洋沿岸はうねりを伴った若干高い波の状態がこのところ続いていたとのこと。
僕がこの報道を聞いて真っ先に思ったのが、ついに起きたかと…
何がついに起きたか…と言うと、報道写真等で映し出された船は、どう見ても2-3人乗りがいいところの小型ボート。そこに1隻は11人、もう1隻は9人(どちらも船長含む)が乗船し、風波の立つ海に出航したということ。報道では、この転覆した2隻のボートは、平和丸(5トン未満)と不屈(1.9トン)とのこと。
おそらく、船検上の最大搭載人員数以内の人数に抑えて出航はしたけれど、海況が悪くて運悪く転覆してしまったというのが一般的な考えでは無いかと思います。
しかし、僕は以前から、この「最大搭載人員数」について大きな疑問を持っていて、どのような基準で人員数が決まっていて、その人員数を守っていれば絶対に安全なのかという事も疑問だったので、ついに事故が起きたなって実は今回の事故報道を見て思ったわけです。
そこで今回は、ヨット(小型船舶)の最大搭載人員(数)について、書いてみたいと思います。
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最大搭載人員とは?
船検が対象となる船舶には船舶安全法に基づき、船の安定性や設備から安全に運航できる上限として船舶検査証書に記載された、船員・旅客を含む合計人数(定員)です。この人数を超えて乗船させることは法律で禁じられており、違反すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。(ヨットの場合には、客船登録されている船以外は船員の定員のみで、旅客は0と表示されます。)船体には必ず「最大搭載人員」を掲示する必要があります。

最大搭載人員数はどうやって決まるのか?
小型船舶の最大搭載人員は、船の大きさ(船内面積)ではなく、主に復原性や乾舷といった安全条件を基に決定されます。
最大搭載人員を求めるための根拠法
小型船舶安全規則第102条、103条を満たす最大搭載人員を求めることになっています。
第102条(復原性)
小型船舶は、その構造、用途及び航行区域に応じ、適当な復原性を有するものでなければならない。
第103条(乾舷)
小型船舶は、その構造、用途及び航行区域に応じ、適当な乾舷を有するものでなければならない。
復原性の基準
小型船舶安全規則では、復原性について適当な復原性を有するものでなければならないとあるだけで、基準となる数値やルールは書かれていません。そこでJCI(小型船舶検査機構)が検査基準として、以下のとおり定めています。
(1) 乗船者全員が片舷に寄っても船が20度以上横傾斜しないこと及び船が20度横傾斜したときの乾舷が9cm以上確保される(甲板が没水しない)こと
(2) 波長が船の長さと同じで波高が波長の5%である縦波の上で船が10度横傾斜しても乾舷が確保されること
(3) (2)と同じ状況で船尾乾舷が確保される(船尾端が没水しない)こと
※乾舷とは、水面からデッキ(舷の上端)までの高さで、乾舷が確保されるとは、水没しないという意味
最大搭載人員の算出方法
先の項目の(1)(2)(3)が満たされる最大搭載人員が何人であるかを逆算して最大搭載人員は決められています。計測は満載(ただし乗船者がいない)状態で行うと、JCI(小型船舶検査機構)のホームページでは解説されています。
最大搭載人員の決定方法から言えること
人が定員数乗っても、20度以上傾斜しないこと。そして、波の高さが船の全長の5%の縦波の上で船が10度傾斜しても水没しないことと言うことは、全長10メートルの船で50センチの波高により10度傾いてもデッキ上に水が入ってこないという事ですから、片方に偏って全ての人が乗っていて、50センチの波で30度未満の傾斜で水がデッキ上に上がってこないことしか想定していないという事です。
これを今回の事故の船で見てみると、おそらく船の長さは8メートル未満の船のように見えますので、仮に8メートルだったとして、40センチの波高で8メートル間隔で波がやってきたとき、最大で30度近くまで傾く可能性があるという事を言っているのと同じです。(実際には、それ以下という事だけでなく、安全マージンは取られているとは思いますが…)
たった40センチの波で30度近くまでボートが傾いた場合、この30度という数値は、人にとっては物凄く傾いていると感じられる角度ですから、実際にはこの状態で海に落水してもおかしくありません。
この話、小型のプレジャーボートだと、あながち無い話ではありません。釣りをしているプレジャーボートが波を受けて左右に大きくローリングしている姿は割と日常的にあることだからです。上で書いたような状態だと、釣りなんてしていられない状態だと思いますが…。
つまり、最大搭載人員とは、その数まで完全に安全が担保されているわけではないという事です。
また、その安全マージンは非常に小さくて、船の全長の5%の高さの波を受けた場合、最大で30度弱まで傾斜する可能性があるという事です。
そして、人の重さは1人あたり75kgで計算されており、実際には人数ではなく重さで見ているので、
仮に10人とした場合、それは750kgが上限値という事になります。
ここからはヨット乗り目線でのおはなし
ヨットで30度のヒールで帆走していると、どんな感じなのかと言うと、上で書いた乾舷はほぼゼロに近く、デッキ上に波が乗ってきます。つまり、30度というのは、ヒール(傾くこと)して走る限界角度ということです。ヨットの場合、元々がヒールして走ることが前提となっている船ですので、傾きにはかなり強く、30度ヒールしても船を覆いかぶさる程の波を被らない限り、船が完全に倒れてしまうことは先ずありません。何故かと言うと、船底に重たいバラストキールをぶら下げているからであり、更にそれよって復原力も大きいからです。
しかし、安全マージンを考えたときに、JCIが定める、全長の5%の高さの波で30度近くまで風の影響以外で傾く可能性があるという事であるならば、波高が全長の5%以上ある海には定員一杯で出航しない方が賢明であるという事が言えます。
更に言えば、最大搭載人員数はあくまでも目安であって、実際にはそれだけの人を安全に載せられるという事ではないということだと思います。風も穏やかで波もないような平水域であれば、定員一杯の乗船でも問題ないかもしれません。しかし、風もそこそこ吹いていて波もあるような海へは、定員一杯の状態では絶対に出るべきではと思います。
以前に、とあるヨットイベントで二十数フィートのヨットに乗船定員一杯に人が乗っていて、これで波風が海上で強くなってきたら一体どうするんだろう?って思ったことがありました。
僕は怖くて絶対にそんな船には乗れませんし、自分の船は重さ7.5トン、全長11.5メートル、定員数は12人ですが、ベストな海況であったとしても、いくら乗せても6人くらいが限界だと考えています。何故なら、それ以上に人が居ると操船に支障が出るし、船上の安全も確保できないと思うからです。まあ、ヨットレースでチームとして熟練していれば、8人くらい乗ってもいいかなって思いますが、それでも満員は怖いですね。
最後に… 辺野古の事故で思うこと
今回の沖縄辺野古の海難事故ですが、波も風もある海へ小さなボートで出航して、船上は最初から全く穏やかでは無かったと思います。波を乗り越え、更にスピードも出せない小型ボートでは前後左右に船がローリングして、乗っている人たちは船につかまるのが精一杯では無かったかと思います。そして、急に大きな波でも入ったら一気に船は横転、乗っている人は何が何だかわからないうちに海に放り出されたと思います。船の知識も海の知識も乏しい人たちばかりだったとすると、死者が出てもおかしくない状況だったと思います。
結果は、船長の判断ミス、海況の判断の甘さと人を船の能力上限近くまで乗せて出航してしまったことにあると思います。
船長の責任は大きいです。
乗っていたのは校外学習の生徒たちで学校の責任を問う声などがありますが、学校の教師だけではなく、日本人は総じて海についての知識が乏し過ぎるように最近思います。学校でも海のことは全く教えないようになっていますし、海が益々危ない場所になって行くばかり、更に船を持つ船長までが正常な判断(安全マージンを充分にとること)ができないとなると、誰も海遊びなんてしたくなくなりますよね。
僕は海遊びをずっとしてきた人ですから、こういう事故が起きることが残念でなりません。
せめて、船を扱う船長は、海のことをもっと正しく理解していて欲しいと思います。








