ヨット(セーリングクルーザー)を持つといつか必ずやって来るのが「船検」です。
僕たちのようなセーリングクルーザーの場合には、3年毎にやってくるわけですが、船検というと往々にして費用が高いとか、法定備品にいちいちコストが掛かるとか、とかく費用面や法定備品のことばかりに視点が行きがちで、その内容はよく知らずに「お上が定めたことだから仕方ない」なんて言いつつ、とにかくやり過ごすと言う感じだと思います。実際、僕自身も最初はそんな風に感じていましたが、自分のヨットで海に出るようになると、出港前点検もやるようになったし、ヨットのコンディションも気になるようになり、船検の時に忘れてることないですか?って3年毎に確認させられるのは、あながち悪いことじゃないなって思うようなりました。
船検制度は自動車の車検制度と同じようなものではあるのですが、車検の場合には自動車の安全性を確認すること、交通の安全を保つこと、重大事故を防止することというような、自分及び同乗者のみならず他人の安全をも保つための制度ですが、船検の場合には、基本的な考え方は車と似ていても海上という特殊性から他人よりも自分や同乗者の安全にどちらかと言うとウエイトが置かれている制度のようです。確かに自動車に乗っていて仮に事故や故障で動けなくなったとしても、車をその場に置いて周囲に救援を頼むことが容易にできますが、船の場合には容易ではありません。何故なら周囲は海なんですから…その場に船を留めるということすら簡単ではなく、風や波に流されてしまい、単に故障だった話が大事故になってしまったり、死に直結したりしてしまうということすらあり得るのです。更に、故障や事故などの海難にあうと救援してもらうためには自分を見つけてもらう必要まで出てきます。このような陸上とは異なる特殊性が車と船の検査制度の違いになっているわけです。
そこで、今回は「船検」について、ちょっと深堀りしてお話してみたいと思います。
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ヨットはエンジンが無くても船検が必要なものがある
船検が必要な理由をエンジン(推進機)が付いている船だからと考えがちですが、実はそうではありません。エンジンが付いていなくても日本の沿岸から20海里より遠くに出ようとする「エンジンのないセーリングボート(帆船)」の場合は船検が必要になります。
ハワイにホクレアという古代帆船を復元した大型のポリネシアンセーリングカヌーがありますが、これを日本で建造して、ホクレアのように世界中を航行させようとすると船検を通しておく必要があるという事です。(日本だったら北前船って言った方がよかったかな?…でも北前船は20海里も岸から離れないか…笑)
20海里と言うと航行区域の区分で言うと沿海区域より外に出る場合ということなのですが、これを言い換えると「エンジンも無しに20海里以上も離れて航行しようとするなら、せめて十分な準備をして海に出てくださいね」っていう意味です。20海里離れるという事は、離島へ行くか海外に出るということになります。マストが折れてしまったとか、セイルが破れてしまったとか失ってしまったというように、ひとたび何かが起きてしまえば、大変な事態に陥ってしまうから十分な準備が必要なんですね。
つまり、これらのことから言える船検のポイントは、安全が保たれているか、手入れがされているか(適正なメンテナンス)、耐久性を保っているか(過度な消耗で壊れやすくなっていないか)、救援を呼ぶことができるか(海上での通信手段)、救援が来るまで自分で持ちこたえられるか(救命具)、救援がきたとき自分をみつけてもらう準備ができているか という点です。つまり、たとえエンジンが無くても日本の陸地から遠く離れる場合には、これらの準備をしてからでなければ離れることができないという事で、言い換えれば救援にも岸から遠くなればなるほど時間を要することから、その法定搭載備品も増えるわけです。
尚、船検の対象となる小型船舶は20トン未満という表現が使われていますが、20トン以上の船は一般船舶ですから無条件に船検があります。また、小型船舶でも船検が不要な例外がありますが海を航行するセーリングクルーザーは船検が必ず必要です。
定期的な検査以外に不定期な検査もある
小型船舶の船検では、一般小型船舶の場合は6年ごとに検査を受けます。一期間が長いことから中間に簡易チェック的な中間検査があるのが船検の定期検査の特徴です。また、自動車は事故などで大きな修理が必要になった場合、修理が終われば公道を走り出すことができますが、船の場合には臨時検査を受けてからでなければ航行することができません。また、小型船舶には航行区域が決められていますが、これを変更したりする場合にも臨時検査を受ける必要があります。
小型船舶検査の種類
「船検」は、以下の4種類の検査があります。
定期検査、中間検査 はいずれも一定の周期で受けるもので、この2つが一般的に言われる「船検」にあたります。
臨時検査、臨時航行検査 は「臨時」とあるように、その必要が生じた時に臨時で受けるものです。
定期検査・中間検査
定期検査は、初めて船舶を航行させる時(新規)、または船舶検査証書の有効期間が満了した時に受ける検査(継続)です。
中間検査は、定期検査と定期検査の間に受ける検査です。
検査の時期は、一般のヨット(小型船舶)の場合は、6年ごとに定期検査、その中間の時期に中間検査を行います。定期検査は期限満了の3か月前、中間検査は検査日の前後3月ヶ月間に受験します。
定期検査の検査期限は、船体の船舶番号の横に貼られている「次回検査時期指定票」にその「年・月」が表示されています。正確な受検期間は船舶検査手帳の「検査の時期」を確認すると書いてあります。この期間内に検査を受検し合格しないと航行できなくなります。
臨時検査
改造、修理または船舶検査証明書に記載された航行上の条件を変更するときに受ける検査です。
船体の改造、修理、機関換装を行ったときは「変更登録」と「臨時検査」の手続が必要です。
※定期検査または中間検査の時期に行う場合場合には、その検査において改造などに伴う検査も同時に行われるので、重複して臨時検査を受ける必要はありません。
「変更登録」が必要となる場合
・船舶の長さ、幅、深さまたは総トン数に変更
・推進機関の種類(「船内機等」または「船外機」の別)に変更
「臨時検査」が必要となる場合
(改造、修理、取替)
・船の長さ、幅または深さを変更する改造
・船体の強度、水密性及び防火性に影響する改造または修理
・かじ、操舵装置の改造
・主機または機関の主要部(クランク軸、プロペラ軸など)の取替え
(ただし、船舶検査手帳に指定されている船外機などと取替える場合を除く。)
・復原性または操縦性に著しい影響を及ぼすおそれのある改造または修理
・海難や火災などで、船体、主機または機関の主要部に重大な損傷を受けたとき
・船舶の航行区域、最大搭載人員など船舶検査証書に記載された航行上の条件を変更するとき(技術基準が変わる場合)
臨時航行検査
船舶検査証書の交付を受けていない船舶を臨時に航行させるときに受ける検査です。
船検ではなにをするのか
小型船舶の船検での検査内容は「安全の確保」と「万一の備え」という視点に大別されています。安全の確保については、船体関係の検査になり、万一の備えについては主に法定備品の検査に分かれています。
検査の具体的な内容は以下の通りです。
安全の確保に関する検査項目(船体検査)
1. 浸水及び転覆の防止
・船体の構造、水密性、強度の確認
・復元力、浮力の確認による最大搭載人数の決定
2. 火災及び爆発の防止
・機関室の不燃材の使用
・引火性ガスの発生が無いことの確認
・燃料油等の漏洩が無いことの確認
・エンジンの構造、強度の確認
3. 衝突及び漂流の防止
・エンジン、プロペラの動作確認
・舵きき等の確認
・航海用具、航海灯などの据付・動作(点灯)確認
万一の備えに関する検査項目(法定備品等)
1. 設備
・係船設備(アンカー、チェーン、ロープ)
・排水設備(ビルジポンプ、バケツ)
2. 脱出・救命・消火
・脱出口、脱出通路の確認
・救命設備(救命胴衣、救命浮環など)の搭載確認
・消火設備(消火器、バケツなど)の搭載確認
3. 通信手段
・有効な無線設備(国際VHF、携帯電話も含む)
4. 救助
・遭難信号(小型信号紅炎など)の搭載確認
5. 備品
・航海用具(汽笛、双眼鏡、ラジオ、コンパス、形象物、海図、レーダー反射器)
・一般備品(工具類)
※法定備品は航行区域によって異なります。詳細については、こちらをご参照ください。
船検の実際の流れと様子はこんな感じ
船検の申し込み
船検の時期になるとJCI(日本小型船舶検査機構)から郵送で船舶検査のご案内が届きます。船検は検査満了日の3か月前から受検が可能ですので、大体4ヶ月前には届きます。
案内の中には、船検の案内(船の位置略図、船検手数料の郵便振替払い込みの用紙)、船舶検査申請書、自主整備点検記録の用紙、が同封されていますので、案内に書かれている通り申込作業を行います。
船検当日
船検当日の前日に検査日時の確認の電話が担当検査員からあります。(マリーナに受検代行を頼んでいる場合には電話はマリーナにあります。)
当日は予定時間には検査員がマリーナに来て検査がスタートします。
桟橋から外観等の確認をして船に乗り込んできます。検査員の求める内容に応じて作業を進めます。大体の場合、エンジン室の開放、内部設備の目視確認、法定備品の確認、法定灯火類の設置状況の確認と作動(点灯)確認、アンカーの確認(2本)、エンジンの始動等、となります。内容は上記に書いた内容を目視で確認しているようです。
船検当日をスムーズに終えるポイント
先ず、船検前の申し込み段階で案内に同封されていた自主整備点検記録をきちんと書き込んでおくことが重要です。用紙にもこの以下のような記載があります。
(自主整備点検の結果の活用について)
1. 船体・エンジン・設備等の自主整備点検の実施内容と結果を記入の提出頂きますと、外観検査特段の異常が認められない場合、船舶の種類、航行区域に応じて、船体の上架検査、エンジンの開放検査、効力検査など、船舶検査の一部が省略されます。
(なお、本書式によらず、自主整備点検結果を記入した任意の書面により提出いただいても構いません。)
2. 整備事業者から発行された船体上架、エンジン解放等の整備点検の記録があれば、ご提出ください。
このように、きちんと記載して提出すれば検査項目が省略されるようで、スピーディーに検査を終えることができるようです。つまり、きちんと整備や修理を行っているという事がわかれば、細かな検査まであえてしませんということなのです。
整備している様子が無いような船やコンディションが一見して悪い船の場合には、検査もシビアになるようですので、船検前には充分な整備を行い、不具合がある場合には事前に修理、メンテナンスを行っておく必要があります。
また、法定備品については、検査当日に全て揃えて出しておき、スムーズに検査員が確認できるようにひとまとめして並べておくことも重要です。
こういった準備をしておくことで、大体1時間も掛からない時間で検査を終えることが出来ます。早ければ20分~30分という話も聞きますから、やはり普段からのメンテナンスは非常に重要だということですね。
最後に…船検は自分でも受検できます
僕たちのヨットは、マリーナに係留保管していることから、船検はマリーナに代行を全てお願いしています。
毎年の上架船底メンテナンスやエンジン関係のメンテナンスなども全てマリーナにお願いしていることもあって、船検はとてもスムーズに終えています。中間検査にマリーナにお願いしているにも関わらず、たまたま時間い余裕があったので立ち会ったのですが、15分程度で終えていました。勿論、事前にチェックや確認をしてくれているのが勿論のこと、慣れているので段取りも早いわけです。
しかし、船検を自分で受検することもできます。基本的に定期(中間)検査は、自動車でいうところのユーザー車検が出来るようになっています。マメにメンテナンスをしていて、船の調子は絶好調という人は、法定備品さえきちんと揃っていれば、船検はそんなに難しいものではありません。特に2回目や3回目の受検ということになれば、自分で受検しても全く問題ないと思います。自分で受検する場合には、JCIが丁寧に問い合わせ対応してくれます。問い合わせ先については、JCIから来る船検のご案内に記載されています。挑戦してみては如何でしょうか?
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