ヨットに誘われたり、ちょっとだけ興味があっても、その先へ進むにはかなりの勇気が必要なのがヨットの世界だと思います。勇気が必要になる理由を考えてみると、ヨットに乗るという事がどういう感じなのかということが乗ったことのない人には全く想像できないからではないでしょうか。これは真っ暗なトンネルに明かりを持たずに突っ込んでいくのと同じようなもので、先のことがよくわからないことに人はなかなか手を出したくないと言うのが人の心理だからです。
だからこそ日本ではヨット(セーリングクルーザー)のことは一般的ではないし、あまり知られていません。ネットで検索してみても本当にちょっとだけ興味を持った人が知りたい情報が容易には出てこないし、専門用語の羅列で何を言っているのかすら容易に理解できませんから…。
こんな状況になってしまったのはヨットをやっている(セーリングクルーザーに乗っている)コアな層の年代が今や高齢であることや、バブル崩壊から始まる日本の長い不景気の時代も相まって業者の活動も活発では無かったという事から、ネットの情報世界から抜け落ちたジャンルになっているのが大きな理由ではないでしょうか。

僕たち夫婦も知人のヨットオーナーからお誘いを受けたとき、正直かなり戸惑いました。僕自身は一度はヨットに乗ってみたいと只々漠然とは昔から思っていましたが、実際に乗るとなるとそのための予備知識などは持ちあわせているわけでなく、そもそもヨットの何がどう楽しいのかという情報は全く身近に無かったのですから、僕たち夫婦の貧困な発想力ではごくごく一般的なヨットに対するイメージである「お金持ちの優雅な楽しみにちょっとご一緒させて頂く」という程度しか想像できませんでした。多くの皆さんが、おそらく同じような感じではないかと思います。

しかし、僕はたった1回のセーリング体験でヨットに完全にハマってしまいました。そして暫く後に妻も乗せて頂いたわけですが、妻が初めて乗った日はヨットレース、雨が降り風も強く波もある初めての人には最悪のコンディション。そんな日にヨット用のウエアなど持っていない僕たち夫婦はゴルフ用のカッパを着て参加した結果、下着までびしょ濡れになる始末。普通の女性ならもう絶対に乗るのは二度と嫌だと言ってもおかしくなかったのですが、そんな周囲の想像を覆し「また乗りたい!」と…、やっぱり妻も一発でヨットにハマってしまったのです。
それから僅か数年、自分たちのヨットを持つまでになりました。ヨットにゲストを乗せてセーリングしている様子などをSNSなどにアップし始めると、「乗らせてもらう事ってできるんですか?」なんて話がチラホラ知り合いから出るようになりました。
その反響は、な~るほど~と言う感じです。僕たちがセーリングやヨットで過ごす様子を写真や動画を通して見た人たちは、こんなのだったら一度乗ってみたいと思ったんでしょうね。

そこで今回は、「ヨット(セーリングクルーザー)に乗るという事はどういうことなのか?」「 何がどうなって、どう楽しいのか」というようなことを、僕たち夫婦の体験的視点から独断と偏見を交えてお話ししようと思います。

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ディンギーとクルーザーの明確な違い

まずはこの話題を避けて通るわけにはゆきません…。ヨットと言ってもいろいろな種類があることは、これまでにいろいろな視点からご紹介してきましたが、明確な遊び方(楽しみ方)における違いについては書いたことがありませんでした。それは、違いを簡単に表現するという発想がなかったからなのですが、今回は私の独断と偏見ではありますが、あえてわかり易く表現すると、「ディンギーはスポーツ&アクティビティー」「クルーザーはツアー&スタイル」と表現するのが一番イメージして頂きやすいかもしれません。

セーリングディンギー(ヨット)は、サーフィン、パラグライダー、ボルダリング、スキー、ダイビング、釣り、と言った単体の遊びと同列線上にあるものです。(種目名としてはセーリングと言います。)つまり、「セーリング」することだけに特化している遊びと言えば理解し易いのではないでしょうか。
それに対して、セーリングクルーザー(ヨット)は、旅すること、つまり何処かに行って何かを観たり、経験したり、体感したり、食事したり、宿泊したり、と言うような感じで、単体の遊びではなく過程の全てを楽しむもの、つまり旅行とか”お出掛け”、更にはライフスタイルが「クルージング」だと言えます。
勿論、セーリングクルーザーでセーリングしているときはセーリングディンギー同様にセーリングするというスポーツ的な要素も十分にあります。そのことについては後述します。

セーリングとクルージング

セーリングとクルージングの明確な違いは「行動範囲」と「船で過ごす時間」です。

多くのスポーツは「ある一定の場所(フィールド)」でそのスポーツ(種目)をプレイします。例えば、サーフィンなら波の立つ海辺(ポイント)、スキーならスキー場(ゲレンデ)、ボルダリングならクライミングジム、釣りなら海や川などの釣り場、それぞれ種目ごとに一定のフィールドでそれをプレイし(楽しみ)ます。ディンギーヨットでも同じようにセーリングをプレイするための場所をゲレンデって呼んだりする人もいるように、限られた海域でセーリングを楽しみます。サーフィンやスキーなどと同じように、数時間やれば十分と言う感じですね。

それに対してクルージングは、長い距離を移動することを指します。英語の”cruising”は日本語訳では「巡航」とあるように、いろんなところを巡るので行動範囲は広域ということになり、海があるところなら何処までも行くことができます。何処までも行けるのですから、数時間どころではなく何日にも渡って航海することもできます。そうなると当然、家のように船の中で生活もするということですね。

セーリングクルーザーという乗り物

「セイルクルージング」は、セイル=帆、クルージング=巡航する という意味で「帆を使ってあちこち巡る」ことです。つまりセーリングクルーザーは、セイルクルージングするためのヨットということになります。つまりクルージングできる装備(設備)※詳しくはこちらの記事があるということです。その船でディンギーヨットのようにセーリングを楽しむことだって勿論できますが、生活できる設備がある船ですから、大きさは大きくなってしまいます。
セーリングは帆を使って水の上を走ることです。ディンギーヨットやウインドサーフィン、大きくなると大型帆船でも帆走することをセーリングと言います。大きさの違いはあっても帆を使って水の上を走ることはすべてセーリングです。しかし、セーリングクルーザーでセーリングするという事は、同じ帆を使って走ることではありますが、ディンギーやウインドサーフィン、更に大型帆船とはまた違ったセーリングの醍醐味があるのです。

では、ここからはいよいよ「セーリングクルーザー(ヨット)の醍醐味」とはどういうものなのかを説明してゆきたいと思います。

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セーリングクルーザーでセーリングするとはどういうことなのか

このテーマがヨットを経験したことない人にとっては最も頭の中で想像しにくい部分だろうと思います。僕たち夫婦も最初はそうでしたでの、ここではシーン別に説明をしてゆきます。

以下、セーリングクルーザーのことをヨットと簡単に表記します。

1. ヨットは風の力だけで走る

ヨットが帆を広げ風の力だけで走り始めることをセーリング(帆走)状態に入ると言います。
ヨットは小さいものでもおよそ20フィート(約6メートル)以上、重さは3トン前後あります。※ご参考までにうちのMALU号は37フィート(実測でおよそ12メートル)重さは7トンもあります。
陸上で6メートル3トンと言えば乗用車よりも大きなものがエンジンの力を使わずに水の上を走ることができるということです。勿論、補助動力としてヨットには必要最小限のエンジンが搭載されていて、風の無い時や港の出入港の際には帆を下ろしエンジンの力で走ります。(機走と言います。)風が弱い時にはエンジンと併用して走ります。(機帆走と言います。)

ヨットは基本的にエンジンを使って出港しエンジン音をたてながら移動します。港を出て帆を広げ風を掴んだらエンジンを止めセーリング(帆走)し始めます。エンジンのけたたましい騒音が無くなり、ヨットの舳先(へさき)が水を切って走る音だけになり静かに風の力でだけで帆走するのです。

エンジン音が止み、水を切る音と風の音だけで海上を走り始めたとき、こんな大きく重たいものが風の力だけで走るんだって、そのダイナミックさに僕たち夫婦は感動しました。初めてヨットに乗る人は先ず皆そう感じる筈です。また、最初に乗ったヨットが大きければ大きい程、ダイナミック感が更に大きくなりますから、驚きにも似た感動がある筈です。
これはヨット最大の醍醐味であると言えます。また、風さえあればヨットは何処までも燃料を使うことなく走り続けることができるのもヨットの醍醐味でセーリングクルーザーの最大の魅力でもあります。

2. ヨットは傾いて走る

乗り物が傾きながら走るなんて一般的な常識では考えられないことです。しかし、ヨットは帆に風を受けると風下側(かざしもがわ)に傾きます。これをヒールすると言います。ヨットに初めて乗った時、これが一番驚くことだと思います。船がひっくり返ってしまうのではないかと心配になりますが、そんなことはありません。ヨットは傾きながら帆走るようにできているのです。
このヒールするというできごとは非日常的でなかなか経験することのできないことであることに間違いありません。

傾きの角度は風が強ければ強いほど傾き角度も大きくなります。安全を考えて普段は20度前後の傾斜角になるように帆から風を抜く調節をしながらセーリングしますが、レースの時などは30度から45度のヒール角で帆走する場合もあります。余程の事が無い限りヨットが完全に横倒しになってしまう事はありません。

船底にある何トンものバラストウエイト(重り)により、風で倒れようとする力とバラストウエイトで垂直に戻ろうとする力(復元力)が前に進む推進力に変換されるからです。ヨットは風の力を受けて進むために倒れないように設計されているというわけです。(かなり大雑把に説明しています。もっと詳しいことを知りたい方は教本等をご参照ください。)

マルチハル(双胴)やトリマラン(3つの胴体)タイプのヨットはレース用のものを除き、基本的に傾いて帆走することはありません。詳しくは「ヨットの種類~モノハルとマルチハル~」をご参照ください。

3. セーリングしている時はスポーツ

ヨットと言うと「優雅な遊び」とよく言われます。しかし、実際には上で書いたように、風を受けて傾いて走りますから、それだけでかなり非日常的な体験となります。船上では優雅にお酒を飲んでのんびりするというようなイメージを持っている方も多いかと思いますが、セーリング(帆走)している時には、全くそんなことはありません。(風が弱ければ確かにかなりのんびりですが特に強い風の時にセーリングすると、帆を調整して船の傾きを調節しますし、舵だって自動車のハンドル操作ように簡単ではありません。波や風に合わせて舵を頻繁に調節しながら走ります。何もできない初心者は、船にしがみついているのが精一杯と言う感じですが、慣れてくるとロープ類を引いたり出したりと操船の手伝いもすることになってくると思います。風や波の力は想像よりも大きなもので、ロープを引く手もかなりの力が必要です。
傾く船上で体を水平に保つだけでも全身運動になっていますし、体を如何にうまく休める態勢を取りながらセーリングを楽しむかなんてことも考え始めるようになります。

うちのMALU号は古いヨットなので、セーリングをしているときにはまるでフィットネスマシンのような感じです。引くロープ類は全て重いし、セイル(帆)を出し入れするだけでもかなり力が必要です。頻繁に帆の調節などを繰り返すと、腕だけでなく足腰全体を使いクタクタになります。僕はヨットに乗るためにトレーニングを少しばかりしているくらいですから

4. ヨットで食事

ヨットには炊事設備があるので、ヨットでご飯を作って食べることができます。船が大きければ更にその設備は充実していて、家のキッチンのような設備を持っているヨットもあります。炊事設備があっても海上で走りながら調理することは、ロングクルージングにでも出ない限りそんなにやることはありませんが、冷蔵庫やクーラーボックスに冷たい飲み物を入れ、冬場はガスでお湯を沸かして暖かい飲み物を準備し、お弁当や果物、おやつなどを持って行き、海の上で食事を楽しむことが簡単にできます。セーリングに疲れたら帆を下ろしたり、風を逃がしてのんびりランチタイムやおやつタイムを楽しみます。まあ、このシーンがヨットは優雅な遊びだと言われている由縁ですね。でも、登山やハイキングに行ったって同じように食事しますよね。それが海上で出来るだけの事なのですが、それはやっぱり非日常的な体験となります。

因みにヨットは前にも書きましたが、船底にバラストウエイトを持っているので、海上で止まっている時にはモーターボートに比べてかなり安定しています。モーターボートは水の上を速く走るために水面を滑走するように軽く船底ができています。それに対してヨットはセーリングの時に風の力を使って水中のバラストにより起き上がろうとする復元力を使って走る力にしていると説明しましたが、バラストには船を安定させる役割もあるので、水上で安定してのんびり食事を楽しむこともできるわけです。

5. ヨットで宿泊

港に係留したり、静かな入り江に入ってアンカリング(錨を下ろす)すれば、ヨットは水上コテージに早変わりです。小さなヨットでもキャビンがありますから、キャンプでテントを張る面倒無しに船内に泊まることができます。コックピットデッキでバーベキューしたり、星空の下で一杯やりながら夜がふけてゆくのを楽しむことだってできます。
上で書いたように、炊事設備だってあるのですから、料理だってできます。ヨットの大小によってまさに気分は水上キャンプや水上コテージに宿泊するような感じです。豪華なヨットならば、船内にシャワー設備あったり、個室のトイレだってあります。電気を引いてくることができれば、電子レンジを使ったり、冷蔵庫、炊飯器、電気ポットを使ったりもできます。プロパンガスを積んでいるヨットもありますし、最近はカセットコンロが普及していますから、冬は鍋物、夏場は焼肉やバーベキューなども簡単にできます。設備が整っていない無いヨットでも、最近のキャンプ用のクッキングアイテムを使えばちょっとしたものを作って食べるなんてこともできます。船上で食事の準備をすること自体、非日常的な体験ですよね。

僕たち夫婦はMALU号に行くときには殆どが泊りがけで行きます。まあ、小さな別荘のようなもので、スーパーやコンビニで買い物をしてきて、船で簡単な料理をして、テレビを見たりしながら夜を過ごします。普段ヨットを係留しているマリーナには温かいシャワー設備もあるので汗を流してから、昼間のセーリングで普段より疲れているのもあって、いつもより早く船室のベッドに潜り込み、気付けば朝なんて感じです。いつもより早く寝た日は目覚めも早いので早朝の朝焼けや澄んだ朝の様子を感じることができたりもします。

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最後に(まとめ)

ヨット(セーリングクルーザー)の醍醐味は上に挙げた5つに尽きます。小さなディンギーヨットでは決して経験できないことばかりです。

セーリングクルーザーはヨットオーナーによっては日本中を旅して回っている人、海外まで遠征しているなんて人もいます。もっと手軽なところでは週末にちょっと乗りにやってきて、ちょっと海に出て軽くセーリングして船の上で簡単に食事して帰ってゆくなんて人もいます。ショートトリップで1泊程度で近場の港に行き温泉に入ってくるなんて人もいたり、そのスタイルは様々です。ヨットでの過ごし方やスタイルは千差万別です。
明確な違いのところで表現した「ツアー&スタイル」と言うのは、実はそういう意味なのです。普通の旅行でも非日常感は味わえますが、スポーツ性と普段ではなかなか体験できない経験、そして非日常感、これがヨット(セーリングクルーザー)の楽しみというわけです。

是非、興味のある方は一度体験してみてはどうでしょうか、楽しいですよ。

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