MALU号のコックピットの前側に一か所だけゲルコートが欠けているところがあります。
場所はスライドハッチ脇の上角で、近くにはウインチもあります。いつ、どうして欠けたのかわからないんですが、もしかするとウインチハンドルでもぶつかったのかもしれません。
幸いなことに、他の場所でゲルコートに割れや欠け目立ったヒビなどが入っているなんてことは無いようなんですが、もしかしたら、気付いてないだけでよくよく探せば何処かにあるのかもしれません。
古いヨットですから、今後デッキやコックピットなどに細かなヒビが入ったりすることもあるかもしれません。
しかし、何かをぶつけて「欠ける」というのはなんとなく理解できますが、何もぶつけていないのに、なぜゲルコートにヒビが入るのでしょうか。そして、もっと気になるのが修理の可否や要否です。

そこで今回は、ヨットのゲルコートにできる「欠け」と「ヒビ」について書いてみたいと思います。
ゲルコートはなぜ欠けたりヒビが入るのか?
FRPで造られたヨットの表面を覆っているゲルコートは見た目以上に硬い材料です。以前の記事でも触れたように、古い一般的なFRPヨットでは、型の表面にまずゲルコートを施工し、その上からガラス繊維と樹脂を積層して船体やデッキを造ります。
完成したヨットでは、このゲルコートが一番外側にあり、FRPを紫外線や水分などから守るとともに、私たちが普段目にしている滑らかで艶のある表面を作っています。ところが、この「硬い」という性質が、欠けやヒビにも関係しています。
例えば、MALU号にあるような小さな欠けは、硬い物がぶつかるなどして局所的に強い衝撃が加わったときに、ゲルコートの一部がパキッと割れて脱落した可能性があります。また、ヒビは必ずしも何かをぶつけたときだけにできるものではありません。
ゲルコートの下にあるFRPは、ガラス繊維によって補強されているとはいえ、まったく変形しない材料ではありません。ヨットは波を受け、人がデッキを歩き、セイルやリギン、ウインチ、クリートなどからさまざまな力を受けています。そのたびに船体やデッキには、目で見ても分からない程度のわずかな変形(歪み)が生じます。
その変形に表面のゲルコートが追従できなくなると、表面に亀裂が現れることがあります。この線状の亀裂を クラック(Crack)と呼びます。
また、欠けやクラックには衝撃や船体の変形だけでなく、長年の紫外線や温度変化、特定の場所に繰り返し加わる荷重、さらには製造時のゲルコートの厚さや施工状態など、さまざまな要因が関係します。
つまり、同じように見えるゲルコートの損傷でも、「何かがぶつかって欠けた」のか、「その場所が繰り返し動いたことでヒビが入った」のかでは意味が全く違うということです。
そして、ヨットのゲルコートにヒビを見つけたときに重要なのは、ヒビそのものを見るだけではなく、「なぜ、この場所にヒビができたのか」を考えることです。
「欠け」と「ヒビ」は同じではない
ゲルコートにできる「欠け」と「ヒビ」は、どちらも表面に現れる損傷ですが、少し性質が違います。
まず「欠け」は、硬い物をぶつけるなどして強い衝撃が加わり、ゲルコートの一部が割れて脱落した状態です。英語では チップ(Chip)や チッピング(Chipping)と表現されます。
MALU号のコーチルーフにある小さな欠けも、見た目としてはこちらに近いものです。欠けた部分の周囲にヒビが広がっておらず、その下のFRPにも損傷がなければ、比較的単純な表面補修で済む可能性があります。
「ヒビ」は、ゲルコートが脱落していなくても発生します。一本の線のように亀裂が入ったものがクラック(Crack)です。
原因は衝撃の場合もありますが、それだけではありません。ゲルコートの下にあるFRPがわずかに変形したり、特定の場所に繰り返し力が加わったりすることで、表面のゲルコートだけにクラックが生じることもあります。そのため、見た目にはほんの細いヒビでも、その意味は場所によって違ってきます。
例えば、何かを落とした場所に一本だけクラックができている場合と、スタンションやクリートなど大きな力が加わる金具の周囲から何本ものクラックが伸びている場合では、同じ「ヒビ」として扱うことはできません。
後者の場合には、ゲルコートそのものではなく、その下のFRPや金具の取り付け部分が動いていることも考える必要があります。
つまり、欠けは「何が表面から失われたか」が分かりやすい損傷。それに対してヒビは、「なぜそこに亀裂ができたのか」を考える必要がある損傷です。
何もぶつけていないのに、なぜヒビが入る?
ゲルコートのヒビというと、何か硬い物をぶつけたり、強い衝撃を受けたりした結果のように考えがちです。しかし、古いヨットに見られるクラックの中には、そうした明確な衝撃とは関係なく発生するものもあります。
その大きな理由のひとつが、ゲルコートの下にあるFRPのわずかな変形です。
ヨットの船体やデッキは、見た目には非常に頑丈ですが、航行中には波によって船体全体にさまざまな力が加わります。デッキにも人が歩くことで荷重が加わり、さらにセイルからの力を受けるリギンやウインチ、シート、係留索を受けるクリートなどからも局所的に大きな力が加わります。こうした力を受けると、FRPは目で見て分からない程度ですが、わずかにたわんだり変形したりします。
もちろん、その程度の変形はヨットの構造として想定されているものです。
ところが、その表面を覆っているゲルコートは比較的硬いため、下のFRPが繰り返し変形すると、その動きに追従できなくなることがあります。
例えば、薄いプラスチック板の表面に硬い塗膜を作り、その板を何度もわずかに曲げることを想像すると分かりやすいかもしれません。板そのものは壊れていなくても、表面の硬い層だけにヒビが入ることがあります。
ヨットのゲルコートでも、これに似たことが起こります。
さらに、同じ場所に繰り返し荷重が加わると、その部分に応力が集中します。ハッチなどの開口部の角や、ウインチ、クリート、スタンションなどの取り付け部分の周囲にクラックが現れることがあるのは、このためです。
また、長い年月の間には紫外線や温度変化などにもさらされます。製造時のゲルコートの厚さや施工状態によっても、クラックの発生しやすさには違いが生じます。
つまり、何もぶつけていない場所にヒビを見つけても、必ずしも不思議なことではありません。
ただし、ここで注意したいのは、「古いヨットだからヒビくらい入る」と簡単に片付けてしまわないことです。
表面のゲルコートだけに起きているヒビもあれば、その下のFRPやデッキが通常以上に動いているために、結果として表面にヒビが現れている場合もあります。
ゲルコートのヒビは、それ自体が原因なのではなく、その下で起きていることの結果として表面に現れていることがあるのです。
なぜデッキやコックピットにヒビを見つけやすいのか?
ゲルコートのヒビはハルにも発生しますが、古いヨットを見ていると、デッキやコックピット周辺で目にする機会が多くあります。その理由のひとつは、デッキにはさまざまな力が局所的に加わる場所が多いからです。
例えばスタンションには、人がつかまったりライフラインに体重が掛かったりすることで、根元を倒そうとするような力が加わります。
クリートには係留索から大きな力が掛かりますし、ウインチにはシートやハリヤードからの荷重が掛かります。
さらにデッキには、ハッチや窓、コンパニオンウェイなど多くの開口部があります。平らな面が連続している場所に比べ、こうした開口部の角や形状が大きく変化する部分では応力が集中しやすくなります。人が歩くことによる繰り返しの荷重もあります。
もうひとつ、デッキの場合に考えておきたいのが、その内部構造です。
ヨットのデッキには、2枚のFRPの間にバルサ材や硬質フォームなどのコア材を挟んだサンドイッチ構造が使われていることがあります。
正常な状態なら、軽量でありながら高い剛性を得られる構造ですが、長い年月の間にデッキ金具などの取り付け穴から水が浸入したり、FRPとコア材の接着に問題が生じたりすると、その部分だけデッキが以前より動きやすくなることがあります。すると、その変形に追従できなくなった表面のゲルコートにヒビが現れる場合があります。
ただし、ここは誤解しないようにしたいところです。デッキにヒビがあるからといって、必ず内部のコア材が傷んでいるとは一概に言えません。
単純な表面のクラックの場合もあれば、過去の衝撃によるもの、金具周辺に加わる荷重によるものなど、原因はいろいろあります。
だからこそ、デッキでヒビを見つけたときには、ヒビだけを見るのではなく、「そこはどんな場所なのか」を同時に考えることが重要になります。
スタンションの根元なのか、クリートの周囲なのか、ハッチの角なのか。それとも、特に大きな力が掛からない広いデッキ面なのか。ヒビができた「場所」は、その原因を考えるための大きな手掛かりになります。
蜘蛛の巣のようなヒビ割れ
ゲルコートにできるヒビには、一本の線として現れるクラックとは少し違い、髪の毛のように細いヒビが何本も広がって見えるものがあります。このような細かなヒビが網目状、あるいは蜘蛛の巣のように広がる現象をクレージング(Crazing)と呼びます。
古いFRPヨットのデッキやコックピットなどで、よく見ると表面に細かな線が何本も走っていることがあります。クレージングは、必ずしもFRPそのものが割れていることを意味するものではありません。ゲルコートの表面付近だけに細かな亀裂が発生している場合もあります。
では、なぜこのような細かなヒビができるのでしょうか。
長年にわたる紫外線や温度変化などによる経年変化に加え、その場所に繰り返し加わるわずかな変形や荷重などが関係することがあります。また、製造時のゲルコートの厚さも関係します。
ゲルコートは厚ければ丈夫になるというものではありません。厚く施工されすぎると、かえって衝撃や下地の変形に追従しにくくなり、クラックやクレージングが発生しやすくなることがあります。
つまり、クレージングを見つけたからといって「FRPまで割れている」とすぐに判断する必要はありません。
また、「表面だけの細かなヒビだから問題ない」と決めつけることもできません。
特に、ある金具の周囲だけに集中している、同じ場所を補修しても再び現れる、ヒビの周囲を押すとデッキが動く、といった場合には、その下で何かが動いている可能性も考える必要があります。クレージングそのものよりも重要なのは、やはり「どこに、どのような状態で出ているのか」ということです。
では実際にゲルコートのヒビを見つけたとき、何を見れば「そのままでもよさそうなヒビ」と「もう少し調べた方がよいヒビ」を見分けられるのでしょうか。
ヒビを見つけたら「大きさ」より「場所」を見る
ゲルコートにヒビを見つけると、まず気になるのはその大きさではないでしょうか。髪の毛ほどの細いヒビなら大丈夫そうで、太く長いヒビなら危険そうに見えます。もちろん、ヒビの幅や長さも判断材料のひとつですが、それだけで状態を判断することはできません。
むしろ最初に確認したいのは、「そのヒビがどこにできているのか」です。
例えば、スタンションの根元から放射状にヒビが伸びている場合には、スタンションに加わった力が取り付け部分へ集中し、デッキがわずかに変形した結果としてゲルコートにヒビが入った可能性があります。
クリートやウインチの周囲も同様です。こうした金具にはロープから大きな荷重が加わるため、その取り付け部分には繰り返し力が掛かります。
ハッチや窓、コンパニオンウェイなどの角から伸びるヒビにも注意します。開口部の角は構造上、応力が集中しやすい場所だからです。
さらに、チェーンプレートなどリギンから大きな荷重を受ける部分の近くにヒビがあれば、単なるゲルコートの経年劣化と考える前に、その取り付け部分や周囲の状態を確認した方がよいでしょう。
そして、特に気をつけたいのが、一度補修した場所に再び現れたヒビです。ゲルコートだけを補修して一度はきれいになったにもかかわらず、同じ場所に再びヒビが入ったのであれば、その下にヒビを発生させる原因が残っている可能性があります。
反対に、大きな荷重が掛からない場所に極細のクレージングが広がっているだけで、押しても周囲が動かず、膨らみや段差などもない場合には、ゲルコート表面に限られた症状である可能性もあります。
つまり、「小さなヒビだから大丈夫」「大きなヒビだから危険」という単純な判断はできません。
ヒビを見つけたら、その幅や長さだけではなく、場所、ヒビの伸び方、周囲の変形、そして以前にも同じ場所で発生していないかを確認することが大切です。
ゲルコートのヒビは、場合によってはその下にある構造から送られてきた小さなサインでもあるのです。
欠けやヒビは自分で補修できる?
ゲルコートに欠けやヒビを見つけた場合、気になるのは「自分で直せるのか」ということです。結論から言えば、ゲルコート表面だけの小さな損傷であれば、自分で補修できるものもあります。
例えばMALU号のコーチルーフにあるような小さな欠けです。
欠けた部分の周囲にヒビが広がっておらず、下のFRPにも損傷がなく、周囲を押しても動いたりしないのであれば、補修用のゲルコートなどを使って欠損した部分を埋め、表面を整える方法があります。

基本的には、欠けた部分に残っている浮いた部分を取り除き、洗浄、脱脂、乾燥を行ってから補修材を充填します。硬化後に耐水ペーパーなどで周囲と同じ高さまで整え、最後にコンパウンドで磨けば、かなり目立たなくすることもできます。
ただし、欠けが深い場合には注意が必要です。ゲルコートは本来、FRPの表面を形成する比較的薄い層です。深い穴をすべてゲルコートだけで埋めるのではなく、必要に応じて下地を樹脂系の補修材などで形成し、その表面をゲルコートで仕上げる方法をとります。
ヒビの補修は少し考え方が違います。表面だけにできたクラックで、下地に問題がないことが確認できれば、ヒビの部分を適切に削って開き、補修材を入れて表面を仕上げることができます。単にヒビの上からゲルコートを塗るだけでは、亀裂の奥まで十分に補修できず、再びヒビが現れることがあります。
そして何より重要なのは、「ヒビを直すこと」と「ヒビができた原因を直すこと」は別だということです。
例えば、
スタンションの根元にヒビがあり、その原因が取り付け部分のわずかな動きにあるとすれば、ゲルコートだけをきれいに直しても、同じ力が加われば再びヒビが入る可能性があります。
デッキを押すと周囲が動く、金具の取り付け部分にガタがある、同じ場所に何度もヒビが現れる、あるいはFRP積層そのものまで損傷しているような場合には、表面のゲルコート補修だけで済ませず、その下の状態を調べる必要があります。
つまりDIYで補修するかどうかを決める前に、まず確認したいのは「表面だけの損傷なのか、それとも下に原因があるのか」ということです。
最後に…
ゲルコートの劣化で割れやカケが出ていると、ゲルコートを直ぐに直して綺麗にしたくなりますが、何故そうなったのかによっては表層だけを直しても再発してまう、確かにそうですね。
家の壁のクロスが裂けたり破れたりって言う相談が多いのですが、家が揺れてる、大型のマンションでも建物が揺れて内装壁が歪んでるなんて説明をすると、驚かれます。しかし、建物は常に外から何らかの負荷が掛かっています。
同じようにヨットも、風や波の負荷が常に掛かっており、ハルやデッキには負荷がかかってます。更にセーリングしている時には、係留している時より負荷が掛かって歪んでるわけですから、それが長年続けば、表層の硬いゲルコートが割れても不思議ではありません。
ヨットを購入する時、気をつける点としても、ゲルコートの割れは細かくチェックすべきで、特に割れカケの多い船は単純に不具合の多い船として購入は控えるべきなのです。
理由はハードに使われてきたという推測ができるからです。ゲルコートがひび割れたり、裂けたりするというのは、余程のことだと思いますから、僕ならそんな船は手を出さないと思います。
なぜなら、ゲルコートだけでは済まないと思うからです。おそらく、他の部分も細かく調べると、いろんな疲労や劣化を見つけることができ、船の価格が安くても、それの何倍も修理費用が掛かってしまうと思います。
MALU号のコーチルーフの欠けは、補修用ゲルコートを買って、涼しくなったら今年こそは補修しようと思っています。





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