昨年の12月に発表された「世界最大のセーリングヨットランキング」で1位と2位になったメガセーリングヨットは、2017年から2018年に掛けて一気にローンチされたヨットです。何故、ここ数年で一気にこのようなセーリングヨットが開発されたのか、その裏側には2020年1月1日から始まる「IMO 2020 SOx規制」(IMO;国際海事機関)が大きく影響しています。

この規制は、温室効果ガスの排出量を削減して地球環境を保護するために2020年1月1日より全ての船舶に対して燃料油に含まれる硫黄酸化物を85%削減する事が義務付けられます。新規制適用後は、運航船舶の燃料における硫黄含有率の規制値が現在の3.5%から0.5%に強化されるといものです。
これに対して具体的な対応策は、1.「スクラバー(排気ガス洗浄装置)を使用する」、2.「非石油製品(液化天然ガス(LNG)など)の代替燃料への切り替えをおこなう」、3.「低硫黄燃料油(VLSF)または軽油(MGO)への切り替えをおこなう」、の3つです。
これを既存船舶に実施するには、何れの場合においても船舶の改造が必要となり、改造による荷室の減少や大きなコスト負担をしなければなりません。また、代替燃料に関しては生産や供給施設等の諸問題など、解決しなければならない問題は多岐にわたることから、結果として燃料費や輸送コストの増加が懸念されるわけです。つまり、商船や客船等の営業船にとっては運営コストが上がってしまう事から、事業収益の悪化、クルーズ船などにおいては折角のブームに対して利用価格を上げてしまうと利用者の減少が懸念されることから、今後の新造船については環境にやさしく低コストで航行できる新たな技術導入が切望されているわけです。

世界最大のメガセーリングヨット「ホワイトパール」』でも書きましたが、これらのメガセーリングヨットは単なる大富豪の道楽として新造されたわけではなく、このような規制とコマーシャルシップ(営業船)のニーズに対応した新たな技術開発の一環(メガヨットオーナーにとっては新規事業への投資)として旧来からの化石燃料等の使用をできるだけ圧縮し、無限エネルギーである風力を使用した現代型帆船の技術開発を目的に造船されたわけです。

そしていよいよ2020年には試験航海を開始し、2021年末の本格就航を目標に「風力を主動力としたRO-RO船(Roll-on Roll-off Ship;貨物を積んだトラックやシャーシ(荷台)ごと輸送する貨物船)」の建造が現在進行中とのプレスリリースがありました。


そこで、今回は世界初となる風力を主動力とする(現代型の)帆船型貨物船について、ご紹介したいと思います。

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NEOLINEプロジェクト

このプロジェクトは、NEOLINE社というこのプロジェクトのために設立された新会社により進められています。新造される風力を主動力としたRO-RO船 “NEOLINER1360” は、大西洋横断航路を海上輸送するためにデザインされ、最初の2隻がフランスのサンナゼールにある “Neopolia Marine” によって建造されることが決まりました。最初の船は2021年末の就航を目標にしています。

SAILING RO-RO SHIP ”NEOLINER1360”

NEOLINER1360
NEOLINER1360は、、全長136メートル、全幅24.23.8メートルのモノハルに各舷に2本ずつの高さ60メートル可倒式マストを持ち(マストを倒した状態では35.5メートル)、セイルは各マストに2枚ずつの8枚でセイルエリアは4200平方メートルで11ノットの巡航速度を実現します。4000kw補助ディーゼル電気モーターに可変ピッチプロペラをダブルで組み合わせ最大速力14ノット、バッテリーのみの航行でも10ノットでの航行が可能です。これは主に入出港時に使用され、沿岸でのゼロエミッション航行を可能とします。帆走時には風による船の横滑りを防止するための格納式フィンを持っています。同サイズの従来型の貨物船に比べ燃料の消費量を90%削減することができ、IMO 2020規制に全く影響されることはありません。

規格外のパッケージを輸送できる本格RO-RO

貨物は5000トンを搭載可能で、280本の20フィートコンテナを運ぶことが出来ます。この船には後部に大きなスロープと2つの屋根付き積み込みエリアがあります。メインとなるガレージは2236㎡(長さ121メートル、幅21メートル、高さ9.8メートル)、下部ガレージは1200㎡(長さ81.6メートル、幅14.6メートル、高さ5.3メートル)です。

ルノー、ベネトウ、マニトウの3社がプロジェクトに参加

フランスを代表する3大メーカー(自動車メーカーのルノー、プロダクションヨットメーカーのベネトウ、農機具や建設機械のマニトウ)がこのプロジェクトに荷主として参加しています。これらの会社は、アメリカやカナダへの輸出をこの船を使って輸送することで合意しています。

特に、プロダクションヨットメーカーのベネトウは、ヨーロッパで製造されたヨットの80%近くを北米に輸出しており、ヨットの大きさは通常の貨物に比べ格段に大きいことから、このプロジェクトを支援することで輸送品質を維持し、様々なサイズの製品を安定的に輸送できる手段としてこの船を活用することを目論んでいます。ベネトウはこの船の設計段階で自社の生産するプロダクションボート(ヨット)で最大のものを輸送できるように高さ9.8メートルのメインガレージやランプの幅を12.6メートルとして、カタマランヨットが積み込めるようにリクエストしたとのことです。

最後に…

フランスはセーリング大国だと常々考えていましたが、世界初のセーリングRO-RO船もやはりフランス企業が開発し実用化に漕ぎつけようとしています。まだまだ未発表の部分や検討段階にある部分があるようですが、大西洋をゼロエミッションで航行することも可能にしようという計画もあるようです。そこには燃料水素電池の利用がルノーとのパートナーシップの中で検討されているようですし、更にソーラー発電の導入など、最も効率の高いものが採用されるものと思われます。最初の船のコストは開発費を含めて3500万ユーロ(約42億円)の見込みだそうです。このプロジェクトは単なるパイロット船の造船プロジェクトではなく、開発、造船、航路開発、運航、営業までの全てをNEOLINE社が担い、定期商業運航の実現に取り組んでいます。また、2030年には全長210メートルの6本マストの更に大型のものまで視野に入れており、完全なゼロエミッション航海による海上輸送の実現とNEOLINE社の航路がユーロ圏と北米の大動脈となるところまでを視野に入れたプロジェクトになっているのは非常に興味深いところです。

先ずは2020年の試験航海でどのような情報が追加発信されるかとても楽しみですね。

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