MALU号も船齢29年となり、お年頃の娘を通り過ぎ、お肌の曲がり角という感じで、最近はハルのメンテナンスをどうしようかな…と考え始めるようになってきました。
しかし、そもそもFRPハルやデッキって、どのように造られているのかなんとなくは知っていても、あまり深く考えたことはありません。
更に、前回の記事でも書いたように、ゲルコートの白いハルにも意味があったとなると、この先のことも考えてメンテする必要もあります。

そこで今回は、ヨット雑学としてヨットのFRPハルについてもう一段踏み込んで、どのような材料と構造なのか、どのような工程で形づくられているのかを見ていきたいと思います。
そもそもFRPとは何なのか?
先ずは、そもそも論になりますが、FRPとは、
Fiber Reinforced Plastic の略で、日本語では 繊維強化プラスチック と言います。
一般的なFRP製セーリングクルーザーでは、主にガラス繊維(Glass Fiber)と樹脂(Resin)を組み合わせて船体を造っています。
ガラス繊維は、非常に細いガラスを繊維状にしたもので、これをマット状や布状などにして、FRPの補強材(Reinforcement)として使います。
樹脂には、ガラス繊維同士を一体化させ、加わった力を繊維へ伝える役割があります。
つまり、ガラス繊維と樹脂が一体化して、初めてFRPという構造材料になるというわけです。
異なる性質を持つ材料を組み合わせ、一つの材料として機能させるものを複合材料(Composite Material)と呼び、FRPはその代表的なものです。
古いFRPヨットで広く使われてきたポリエステル樹脂
現在使われている少し船齢の高い量産型セーリングクルーザーでは、FRPの樹脂として不飽和ポリエステル樹脂(Unsaturated Polyester Resin)が広く使われてきました。
FRPというとガラス繊維そのものが船体を造っているような印象がありますが、実際にはこの樹脂も非常に重要で、ガラス繊維だけでは船の形にはなりません。ガラス繊維の中まで液状の樹脂を行き渡らせ硬化させることで、一体のFRP構造になります。この繊維の中へ樹脂を行き渡らせることを含浸(がんしん/Impregnation)と呼びます。
※FRP船には、ビニルエステル樹脂やエポキシ樹脂も使われますが、今回の記事では、古い量産セーリングクルーザーで広く使われてきたガラス繊維+ポリエステル樹脂によるFRPを基本に考えていきます。
ハルは大きな「雌型」の中で造られる
量産型FRPヨットのハルは、一般的に雌型(Female Mold)と呼ばれる大きな型を使って造られます。完成したハルの外側と同じ形が、そのまま型の内側になっていると考えると分かりやすいです。
先ず、型の表面に離型処理を行い、その上に液状のゲルコート(Gelcoat)を施工(塗布)します。完成したハルを見ると、FRP船体の外側に白いゲルコートを塗ったように見えますが、実際は製造するときは逆というわけです。最初にゲルコート層を造り、その内側にFRPで船体を造っていきます。
ゲルコートが適切な状態まで硬化したところで、その上からガラス繊維を配置し、樹脂を含浸させていきます。さらにガラス繊維と樹脂を何層にも重ね、必要な船体の厚さを作っていきます。
この作業が積層(Lamination/ラミネーション)です。
そして出来上がったFRPの層をラミネート(Laminate)と呼びます。
樹脂が硬化して型から船体を取り外すと、最初に型へ施工したゲルコートが完成したハルの一番外側に現れるという具合です。
船底からハル側面はどうなっているのか?
船齢の高い40フィート程度までの量産セーリングクルーザーを見るうえで、まず基本となるのがソリッドFRP(Solid FRP)です。
ソリッドFRPとは、コア材を挟まず、ガラス繊維と樹脂を積層して必要な厚さと強度を持たせた構造です。
断面を単純化すると、海水側 → ゲルコート → FRP積層材 → 船内側 となります。当時広く使われていたのがハンドレイアップ(Hand Lay-up)と呼ばれる工法です。
型の中へガラス繊維を配置し、液状の樹脂を含浸させ、ローラーなどを使って樹脂を行き渡らせながら内部の空気を抜いていきます。
そして、その作業を繰り返しながら必要な厚さまで積層します。
ここで重要なのが、内部に空気を残さないことです。
ガラス繊維と樹脂がきちんと一体化して初めて、本来のFRPとして機能します。
そのため製造時にできた空隙や含浸状態などは、長い年月を経て船体の不具合としてオズモシスの原因などになります。
船底とハル側面も同じではない
同じソリッドFRPのハルでも、船体全体が同じ厚さで造られているわけではありません。
例えばセーリングヨットの場合、キールから大きな荷重を受ける船底部分と、水線より上のハル側面では求められる強度が違います。バルクヘッドなどから荷重が伝わる場所にも補強が入ります。
そのため、必要に応じてガラス繊維の積層数や種類を変えたり、局部的に積層を増やしたりします。
どの材料をどの場所へ何層積み重ねるかという設計上の積層仕様を、ラミネートスケジュール(Laminate Schedule)と呼びます。
つまりFRPハルは、一定の厚さを持った巨大なプラスチックの殻ではありません。同じ一艇の中でも、場所によって構造や厚さが違うのです。
デッキはハルとは違う構造
デッキを見ると事情が変わってきます。船齢の高い量産セーリングクルーザーでも、デッキにはサンドイッチ構造(Sandwich Construction)が広く使われてきました。
サンドイッチ構造とは、外側FRPスキン → コア材 → 内側FRPスキン という構造です。FRPとFRPの間に、軽量な材料を挟んでいます。この中央の材料をコア材(Core Material)と呼びます。少し船齢の高いヨットでは、バルサ材がよく使われています。そのほかフォーム系のコア材(発泡プラスチックを板状にしたもの)もあります。
なぜ、FRPの間に別の材料を入れるのか
理由は軽量なまま剛性を高くできるからです。デッキは人が歩く場所です。そのため、体重がかかっても簡単にたわまないだけの剛性が必要となります。しかし、デッキは船体の高い位置にあります。そこをすべて厚いソリッドFRPで造ってしまうと重くなり重量バランスが悪くなってしまうからです。
そこで二枚のFRPの間に軽量なコア材を挟むことによって重量を抑えながら曲がりにくい構造にしています。
デッキ上の全てにコア材が入っているわけではない
デッキがサンドイッチ構造だからといって、デッキ全面がまったく同じ構造になっているわけではありません。
ウインチ、クリート、ジェノアトラック、スタンション、マストステップなど、大きな力を受けたりボルトを通したりする部分では、構造を変えて補強しています。
コア材をなくしてソリッドFRPにしたり、より高密度な材料へ置き換えたり、追加の補強を入れたりしています。
船齢が高くなったヨットでは特に知っておきたいこと
デッキへ取り付けられた金物のシールが劣化すると、ボルト穴などから水が入り込むことがあります。
その先に吸水性のあるバルサコア材があれば、長期間の浸水によってコア材や接着状態に問題が生じることがあります。
古いヨットでデッキを踏んだときに「ここだけ少し柔らかい」と感じることがあります。こうした症状には、コア材の劣化やFRPスキンとコア材との剥離などが関係している可能性があります。
これは船底に発生するオズモシスとは別の問題です。
ハルとデッキは別々に造られる
完成したヨットを見ると、ハルからデッキまで一体の船にしか見えません。しかし一般的な量産FRPヨットでは、ハルとデッキはそれぞれ別の型で成形されています。
ハルを一つの大きなFRP部品として造り、デッキも別の大きなFRP部品として造ります。
さらに船内には、バルクヘッド(隔壁)や、艇によっては船内構造を一体成形したインナーライナーなどが組み込まれます。
インナーライナー(Inner Liner)は、FRPヨットの船内側に取り付けられる、一体成形されたFRP製の内部構造物です。
量産艇では、ハル本体とは別の型を使って、船内の床や家具の基礎、収納部、場合によってはバースなどをまとめてFRP成形し、それを完成したハルの内側に組み込む工法があります。この大きな成形部品がインナーライナーです。
最後にハルの上へデッキを載せ、船体外周にあるハル・デッキ接合部(Hull-to-Deck Joint)で一体化します。
接着、ボルトなどによる機械的固定、FRPによる接合など、その方法はメーカーや艇によって異なります。
つまり私たちが普段「FRPの船体」と呼んでいるものは、単純な一枚のFRP製の殻ではありません。
ハル、デッキ、バルクヘッド、内部補強などを組み合わせ、一つの船体構造として成立させているものなのです。
古いFRP艇を維持するなら知っておきたい構造
FRPは木造船のように腐らないし、鉄のように錆びない。そのため、FRP艇が普及した当時には非常に耐久性の高い材料として受け入れられました。
実際、30年、40年を経ても現役で航海しているFRPヨットは珍しくありません。
しかし、FRPだから何も起きないということではありません。一番外側には薄いゲルコートがあり、その内側にはガラス繊維と樹脂によるFRP積層材があります。デッキにはコア材が入っている場合があります。さらにそれぞれが接着されたり、接合されたりして一艇のヨットになっています。
そう考えると、
「ゲルコートの艶がなくなる」
「細かなひびが入る」
「FRPの模様が外表面に見える」
「船底に水疱状の膨らみができる」
「デッキの一部が柔らかくなる」
といった症状も、すべてを「FRPが古くなった」の一言で片付けることはできません。
どの層で、何が起きているのか。
それを考えるためにも、まず自分のヨットのFRP構造を理解しておくことは大切ですね。
最後に…
ここまで説明してきたのは、主として船齢を重ねた40フィート程度の量産FRPセーリングクルーザーを理解するための基本的な構造です。
もちろん、FRPヨットの製造技術もその後大きく進歩しています。
現在ではハルにもサンドイッチ構造を広く使う艇があり、従来のハンドレイアップだけでなく、真空含浸成形(Vacuum Infusion)などによって樹脂量や空隙をより精密に管理する製造方法も使われています。
さらにカーボン繊維、エポキシ樹脂、高性能なフォームコアなどを使った艇もあります。
しかし、これら最新の製造技術については、今回の本題ではありません。MALU号のように船齢が20年、30年、40年となったヨットをこれからどう維持していくのかを考えるなら、まず知っておきたいのは、旧世代のFRP艇が、どのように造られているかということで書いてみました。
次回は、その構造を踏まえて、
「FRPヨットでどんな不具合が起きる?」について書いてみたいと思っています。
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