今年(2019年)の台風19号は非常に強力な勢力を保ったまま日本列島に接近し、これまでに見たことのない大きさを衛星画像で見ていると、このままのサイズ(東西800キロ以上)と勢力(920hPa前後)を保ったまま日本沿岸に到達したら、もうヨットを心配するどころの話でなく、一体どうなってしまうんだろうと全く想像がつかない危機的状況に思考停止の僕でした。
東海エリア上陸直前まで、気象情報やホームポートに設置されている風向風速計から送られてくる情報を見ていると、日本沿岸に接近してきたところで台風の中心気圧が急に上がり(勢力が弱まり)始め、これまでに到来した台風並みになってきたことで風速も25m/s程度と、これなら何とか乗り切ることが出来そうだと安堵の気持ちになりました。ホームポートの風速計の値も瞬間最大で30m/s程度で、去年の台風24号の時には瞬間最大風速が50m/sを超えたのを見ているだけに、この程度なら問題なしと確信、ほっと胸を撫でおろしました。
しかし、超巨大台風の影響は非常に大きく、雨台風として各地に豪雨を降らせ、海よりも内陸地での川の氾濫などで広域的な水害になってしまいました。
大きな水害となる場合、汚泥だけでなく様々なものが海に流れ出します。台風による直接的な被害を防ぐことができても、その後に海に出て二次的被害を受けるという事が実はあります。
今回は、その二次的被害にどんなものがあるかについて書いておきたいと思います。
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台風は多くの物を吹き飛ばす
台風ですから、風が強く吹くことは誰でも想像がつくことです。しかし、それによって台風後に海ではどんなことが起きているかを考えることは一般の人にはあまりないかもしれません。
私も自分の艇で海に頻繁に出るようになってから気付いたのですが、台風後の海は流出したゴミや山から流れ出てきた木などが大量に港や沿岸に浮いています。
今回の19号では川の氾濫、堤防の決壊により大きな水害になっていますが、豪雨により山の土が流れ出し、同時に山の木々も流されて来ます。特に間伐をせず下草の生育も非常に悪い山の場合には、簡単に地盤が緩み山の土が川に流れ出します。また、台風時の大風によって弱った木や枝が折れるばかりか、手入れのされていない森の落ちている木の枝なども大量に川に流出します。これらの木だけでも、かなりの量が海に放出されます。幸いなことに、木は有機物ですから時間が経過すれば分解しますが、大きな丸太などは台風通過後の海でもなかなか流されることなく沿岸に滞留します。
更に、台風時に吹き飛ばされた、様々な陸上の物が海に流出します。まさに海上はゴミだらけと言うのが台風後の海です。これは数週間に渡り沿岸に滞留します。やがて風や波、潮の流れなどで徐々に拡散してゆきます。
浮いている物より中性浮力のゴミが怖い
僕たちヨットにとって非常に怖いのは、浮いているゴミより見えないゴミです。
特にマリーナなどの入り江に入り込んだゴミは、なかなか外には流出しないで入り江の中に留まり続けます。更に、海の透明度は台風後は非常に悪いので、みそ汁のような色で全く水中の物が見えません。
ここで怖いのが港ではエンジンを使って走りますが、この時に水面には見えない中性浮力のゴミがプロペラに触ると、ゴミが巻き付いたり、大きい物だとプロペラに歪みが出たり、シャフトが曲がったりしてしまいます。
実は、我MALU号は去年の台風後の海で、中性浮力状態の何かにプロペラをやられてしまいました。水面には何も浮いていない場所で、急にプロペラに何かが触れたような感覚がありました。
その時には、何か壊れたという感覚は特にありませんでしたが、実際には今年の上架時に、プロペラが芯ズレを起こしていること、そしてプロペラ自体も先端が曲がっていることが発覚しました。
ゴミの浮いているところに差し掛かったら中立にする
セーリングの時にはプロペラが壊れるようなことはありませんが、機走時にプロペラに何か触れると、高速で回転しているので被害は免れません。
そこで、少しでもできることは、水面にゴミが浮いているところはできるだけ避けて走ることです。また、どうしてもゴミが浮いている場所を横切らなくてはならない場合には、スロットルレバーを中立にして惰性で通り抜けることです。プロペラが止まってさえいれば、壊れるリスクは減ります。
出港前には水中を気にする
台風後や大雨後に久しぶりにセーリングに出るなんて言う時には、フィンキールとラダーの間に中性浮力のゴミが留まっていると、動かしたときに必ず引っ掛かります。
櫛型桟橋にバウ側からバースに入っている場合には、アスターンで出港になりますから、出るときにフィンキールにゴミが引っ掛かります。セイルドライブの場合には、フィンキールとラダーの間にセイルドライブが突き出しているので、アスターンで出るときにいきなりプロペラに引っ掛かったり、巻き付くリスクもあります。ある程度の透明度があるときにならば、出港直前に覗き込めば、何かあれば気付きますが、透明度が極端に悪い時には、ボートフックを桟橋から突っ込んで確認するくらいはした方が良いかもしれません。
実は、我MALU号は出港時にこの位置の中性浮力のゴミが実際に引っ掛かったことがあります。
たまたま、うまく抜けてくれたので、大きな問題になりませんでしたが、完全に船の真下で中性浮力で留まっていたようです。
スタンディングリギンの緩みがないか確認しよう
台風時にはマストに大きな負荷が掛かると、以前に台風準備の話で書きました。僕たちが普段のセーリングで会う風の強さは、幾ら強くても20ノット前後です。それ以上の強風時に出航することなんてないですが、台風時には船を固定してマストには風が当たるわけです。台風の風向きは一定ではなく、台風の移動と共に風向きは変わって行きます。その時に、船は走ることができないので、最もストレスが掛かるのはスタンディングリギンです。つまり、台風後にはスタンディングリギンは伸びて緩みますので、出港前には必ずスタンディングリギンの状態を確認して、増し締めなどをする必要があります。
バランスが悪いとデスマストの危険性も
スタンディングリギンは左右のバランスが取れていてこそ、マストを保持してくれます。この締め付けバランスが崩れると、ある一方にだけマストが曲がるという事が起きてしまいます。更に、全体的な緩みは、セーリング時に常にマストが振れ回ることになります。そうすると、マストに変なストレスが掛かってしまいデスマスト(マストが折れる)する可能性が高まります。
外観が何ともなくても船内は?
台風後に自分のヨットを見て、外観的に何も損傷がなくて安心してしまい、そのまま海に出てしまうというのは危険です。キャビンに入ってたら、必ずビルジを確認しましょう。
床下を容易に見ることができるのであれば、床板を上げて船底を目視確認しても良いと思います。ビルジが増えているようなら、何処かから水漏れが発生している可能性があります。それが、上からなのか、それとも何処か船底からなのか、原因が解らないままの出港は危険です。
最後に…
普段のセーリング時でも、出港前点検を行ってから出港するのは、あたりまえのことですが、台風後の海や艇は普段とはコンディションが異なります。
なかなか想像できないこともありますので、是非、これらを参考にして頂ければ幸いです。
我が家の場合には、大雨や台風の後のセーリングはワッチを強化するようになりました。それも遠くをワッチするのではなく、港の中では直前の水中をできるだけ見る。前に走っている船があれば、その後ろにできるだけつく、そして、何か違和感を感じたら、とにかく直ぐにスロットルを中立にしてプロペラの回転を止める。
これしか見えない中性浮力のゴミに対してできることはありません。
でも、気を付けるに越したことはありません。
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