MALU号の係留位置がマリーナの櫛形桟橋の陸から遠い位置から、陸から渡って直ぐの場所に8年越しで移動になりました。しかし、シングルバースでは無いのでポートに着桟させるためには、今まではバウ側からバースに進入していたのを、今度はスターンからアスターン(後進)で着桟させないとポート側に桟橋が来ないということで、アスターンでの櫛形桟橋への着桟を今はやっています。
しかし、ヨットを離着岸させるとき、意外に難しいのがアスターン(後進)。
前進では舵を切れば素直に曲がるのに、後進を入れた途端、思った方向へ船尾が動いてくれない。特に停止状態から後進を始めた直後は、舵を切っているのに「どうして曲がらない?」と思うことがあります。ところが、そのまま少し後進して艇にスピードがついてくると、今度は舵が効き始めます。
同じラダーを使っているのに、前進と後進ではなぜこれほど操船感覚が違うのでしょうか。
そこで今回は、ヨットがアスターン(後進)を苦手とする理由について書いてみたいと思います。

ヨットはなぜ後進が苦手?
ヨットがアスターン(後進)を苦手とする大きな理由は、そもそも船体やラダーが、前進することを基本に設計されているからです。
ヨットの船体を上から見ると、バウ側は水を左右へ分けながら進みやすい形をしています。一方、スターン側は必ずしも同じような形にはなっていません。
ラダーも同様です。
通常のセーリングでは前進する艇の水流を受けて働くように配置されており、エンジンで前進するときには、艇の動きによって生じる水流に加えて、プロペラが作り出す水流も利用できます。
ところが後進すると、状況が変わります。
水はスターン側から船体へ当たるようになり、ラダーを流れる水の向きも逆になります。さらにプロペラが作る水流も、前進時とは反対方向へ流れます。
特に停止状態から後進を始めた直後は、まだ艇そのものが後ろへ動いていないため、ラダーを通過する水流も十分ではありません。
この状態では、いくら舵を切っても思ったほど艇は反応してくれません。
その一方で、プロペラを回したことによる別の力はすでに発生しています。そのため、舵はまだ十分に効いていないのに、船尾だけが予想とは違う方向へ動き始めることがあります。
これが、ヨットを後進させたときに「前進とはまったく違う」と感じる理由の一つです。
前進ではなぜ舵が効く?
ヨットの舵、つまりラダーは、水の流れを利用して艇の向きを変えています。
ラダーを左右に動かしただけでは、艇を曲げる力はほとんど生まれません。ラダーの周囲を水が流れている状態で角度をつけることで横向きの力が発生し、船尾が押されることで艇の向きが変わります。
つまり、舵が効くためには、ラダーに水流が当たっていることが必要なのです。
前進しているときは、艇そのものが水の中を進むことで、ラダーには前方から後方へ連続して水が流れます。艇速が上がればラダーを流れる水も速くなるため、一般に舵の効きも強くなります。
さらにエンジンで前進している場合、シャフトドライブ艇などプロペラの後方にラダーがある配置では、プロペラが後方へ送り出した水流がラダーに直接当たります。
このプロペラが作る水流をプロップウォッシュ(Prop Wash)と呼びます。
そのため、艇がまだほとんど前進していなくても、前進に入れてプロペラを回すことでラダーに強い水流を当て、舵を効かせることができます。これが、離着岸などの低速時でも、前進では比較的艇の向きをコントロールしやすい理由の一つです。
ところが後進では、プロペラが作る水流の向きが反対になります。ここに、前進と後進で舵の効き方が大きく変わる理由があります。
後進すると何が変わる?
後進に入れると、プロペラが作る水流の向きは前進時とは反対になります。前進時にはプロペラから後方へ流れていた水が、後進では船首方向へ送り出されるようになります。
ここで重要なのが、プロペラとラダーの位置関係です。
プロペラの後方にラダーがある一般的なシャフトドライブ艇では、前進時にはプロペラから送り出された水がラダーへ直接当たります。ところが後進では、その水流がラダーとは反対側、つまり船首方向へ流れてしまいます。そのため、停止状態から後進に入れてプロペラを回しても、前進時のようにプロペラの水流を利用して、すぐに舵を効かせることができません。
後進では舵が効かないのか?
艇が実際に後ろへ動き始めると、ラダーにも水流が生まれます。この後進方向へのスピード(スターンウェイ / Sternway)がついてくると、次第にラダーが働き始めます。
つまり後進では、プロペラを後進に入れる → 艇が後ろへ動き始める → ラダーを通る水流が生まれる → ようやく舵が効き始める という時間差が生まれます。
そして、この舵がまだ十分に効いていない時間にも、プロペラは別の方向へ船尾を動かそうとする力を発生させることがあります。
それが、後進時の操船をさらに難しくするプロップウォーク(Prop Walk) です。

ドライブ方式でも挙動は変わる
後進時の操船特性は、プロペラやラダーの位置だけでなく、エンジンの動力をプロペラへ伝える方式によっても変わります。
ヨットで代表的なのが、シャフトドライブとセイルドライブです。
シャフトドライブでは、エンジンから船尾方向へ伸びたプロペラシャフトの先端にプロペラが取り付けられています。艇によって違いはありますが、シャフトには角度がついていることが多く、プロペラとラダーの位置関係も艇ごとに異なります。
一方、セイルドライブでは、船底から下へ伸びたドライブユニットにプロペラが取り付けられます。シャフトドライブとはプロペラの位置や向きが異なるため、後進時のプロップウォークの現れ方や、プロペラが作る水流とラダーとの関係も変わってきます。
そのため、「シャフト艇だからこう動く」「セイルドライブ艇ならこう動く」と、ドライブ方式だけで後進時の挙動を決めることはできません。同じドライブ方式でも、プロペラの回転方向、プロペラとラダーの距離、ラダーの形状、船型などによって後進時の性格は変わります。
大切なのは、自分のヨットが後進を入れた直後にどちらへ船尾を振りやすく、どの程度後進速度がつくと舵が効き始めるのかを知っておくことです。

後進ではいつから舵が効く?
後進に入れた直後は舵が効きにくいのですが、では、どのくらい後進すれば舵が効くのでしょうか。
これについて、「○ノットになれば効く」という共通の数字はありません。ラダーの大きさや形状、船型、プロペラとの位置関係などによって違いますが、基本的には艇が後進して、ラダーを通過する十分な水流が生まれると舵が効き始めます。
この後進方向への動きによりスピードがついてくることをスターンウェイ(Sternway)と呼びます。日本語だと、「後進の船足がついてくる」なんて表現をします。
スターンウェイがついてくると、プロペラを強く回し続けなくても、艇そのものが水中を後進することでラダーに水流が当たるようになります。すると、後進を始めた直後にはほとんど反応しなかったラダーが、次第に艇の向きを変えるようになります。
ここで注意したいのが、後進中のラダーには前進時とは逆方向から水が当たることです。
そのため、ラダーを大きく切った状態で後進速度がつくと、ラダーには水によるかなり大きな力が掛かります。場合によってはティラーやステアリングが急に強く動こうとすることもあります。
つまり、後進では「舵が効かないから」と最初から大きく舵を切ればよいとは限りません。まず艇にスターンウェイをつけ、ラダーに水流が生まれたところから、その艇の反応を見ながら舵を使う。
この「まず後進速度をつくり、それから舵を効かせる」という考え方が、ヨットを後進させるときの重要なポイントになります。
後進をうまく行うコツ
後進で大切なのは、最初から舵だけで艇を思い通りに動かそうとしないことです。
停止している状態から後進に入れた直後は、まだスターンウェイがなく、ラダーに十分な水流がありません。そこで、まずはプロペラの力を使って艇に後進速度をつけることを考えます。
状況によっては、低い回転数で長時間後進させるより、短時間だけ少し回転を上げて後進推力を与え、艇が動き始めたところで回転を落とす方法が有効です。
スターンウェイがつけば、プロペラの回転を落としてもラダーには艇の移動による水流が当たるため、舵を使って進行方向を修正しやすくなります。
この方法には、もう一つ利点があります。
プロペラを強く回している時間を短くすることで、後進時に発生するプロップウォークの影響を必要以上に受け続けずに済みます。
ただし、後進速度をつけ過ぎるのも問題です。
ヨットは車のようにすぐ停止できるわけではありません。特にマリーナのような狭い場所では、艇速が上がり過ぎると、その後の修正や停止が難しくなります。
また、風や潮流があれば、後進中の艇はその影響も受けます。特に風を受ける面積の大きいバウは流されやすく、舵やプロペラだけでは思ったとおりに動かせないこともあります。
だからこそ、離着岸で重要なのは、自艇が後進を入れたときにどちらへ船尾を振るのか、どの程度スターンウェイがつけば舵が効き始めるのかを知っておくことです。
風や潮流の弱い安全な場所で何度か後進させてみると、その艇特有の「後進の癖」が少しずつ分かってきます。その癖を知ってしまえば、後進時に起こる動きをすべて抑え込むのではなく、むしろ利用して離着岸することもできるようになります。
最後に……ヨットには後進の癖がある
ヨットの後進が難しく感じられるのは、単に「後ろ向きだから操船しにくい」というだけではありません。
前進時には、艇の動きによる水流に加え、プロペラとラダーの配置によってはプロップウォッシュを利用して舵を効かせることができます。
一方、後進を始めた直後は、まだ十分なスターンウェイがなく、ラダーを流れる水も十分ではありません。そのため、舵が十分に効くようになるまでに時間差が生まれます。
しかも、その間にもプロペラは回転しているため、プロップウォークによって船尾が横へ動き始めることがあります。
これが、「舵を切っているのに思った方向へ行かない」という、ヨットの後進時特有の感覚につながっています。
そして、その動き方はすべてのヨットで同じではありません。
プロペラの回転方向や位置、シャフトドライブかセイルドライブか、ラダーの形状や配置、船型などによって、それぞれの艇に異なる後進特性があります。
つまり、ヨットの後進にはその艇固有の「癖」があるということです。大切なのは、その癖をなくそうとすることではなく、自艇がどのように動くのかを知ることです。
後進に入れた直後は船尾がどちらへ動くのか。どのくらいスターンウェイがつけば舵が効き始めるのか。
それが分かってくると、一見扱いにくく感じる後進の動きも、次第に予測できるようになります。
ヨットの後進は、舵だけで操るものではありません。プロペラが生み出す力と、艇が動くことで生まれる水流、その両方を理解することが、後進操船を理解する第一歩なのです。





コメント
後進はだれでも苦手ですよね。
都会のマリーナのようなダブルバースだと、どきどきしちゃいますねえ。それでも海外みたいにフェンダーで防御するだけでギチギチっていう所はないでしょうが。
うちのマリーナでもいろいろなラダーがおります。
やはりロングキールのラダーが最悪でしょう。
僕のはスケグ付きですが良く効きます。
最高はスペードラダーでしょうが、網に乗り上げた時を考えると最低かも。