ヨット探しを始めた頃、情報は主にインターネットの中古艇情報サイトを見ていました。たくさんのヨットが掲載されていて、見ているだけでも飽きることはありませんでした。最初は眺める程度で、この船は綺麗だなとか、かなり古ぼけているなあと、外観重視で見ていましたが、徐々にそのヨットの詳細を見るようになると、いろいろなヨット用語が書かれていることに気付き始めます。書かれている内容は、主な艤装や計器類、設備、エンジン、エンジンの馬力、ドライブと続きます。この中で僕が最初にわからなかったのが「ドライブ」についてです。サイトによっては書いてあったりなかったりで、ドライブってそんなに重要なことではないのかな?と思いながらも、いろいろとネットやヨット関係の書籍などで調べてみても、なかなかドライブのことをきちんと説明してくれている資料には出会うことがありませんでした。そこで、掲載している相手に質問を出してみたりもしましたが、まともな回答は一つとして得ることができませんでした。おそらく、こんな基礎的なことを解らない相手にはヨットは売れない、だから回答するまでもないと思われたのかもしれないですね。

そこで今回は、僕だけだったのかもしれないですが、ヨットのドライブについてお話をしてみたいと思います。

ヨットのドライブは実は大切な部分

このトピックスでいきなりの書き出しですが、ヨットのドライブというようりも、ヨットを含めたボート全般においてドライブの形式はボートを購入する際に検討材料の大切な要素です。しかし、ヨットの世界ではドライブのことを書いたり書かなかったりと曖昧にする傾向があります。その理由はよくわかりませんが、おそらくヨットにとってエンジンは「補機」、「主機」はセイル(帆)なので、エンジンの型式や馬力を表示すればそれで充分という考え方があるのかもしれません。また、それを気にする人が少ないのかもしれません。しかし、エンジン本体も大切ですがドライブの形式はヨットを所有して維持してゆく(メンテナンスし続ける)中でとても重要な要素のひとつです。

ドライブの話をする前に

ドライブとエンジンの関係は切っても切れないのですが、ドライブの話をする前にエンジン(実際には機関)に対する表現に「船内機」「船内外機」「船外機」と言う言葉がよく出てきます。ドライブを理解するうえで、まずこれを理解する必要があります。

この3つの言葉は、エンジンシステム(機関)が船のどの場所にどのように設置されているかを示す言葉です。エンジンシステムは基本的にエンジンとドライブギアボックス(動力伝達装置)とプロペラ(スクリュー)の3つの要素で構成されています。(かなり大雑把に言うとです。)この3つ要素の位置関係を示す言葉が船内機、船内外機、船外機という言葉になります。

船内機

小型のセーリングクルーザーを除きセーリングクルーザーの殆どは船内機です。キャビン内部にエンジンとドライブギアボックスが置かれていて、ギアボックスから船外のプロペラまでの間に動力を伝達するドライブシャフトが通っています。ドライブシャフトは船外に長く突き出しているものもあれば、殆ど船外に出ずに船内を通っているものもありますが、基本的にエンジン、ドライブギアボックスが船内にあることから、船内機(船内に機関がある)と呼ばれています。

船外機

船外機は小型のボートに非常に多く使われています。エンジンとドライブギアボックスとプロペラの全てが船の外側にある物を言います。セーリングクルーザーでも船内のスペースが小さな小型艇には船外機を付けているものがあります。

船内外機

エンジンは船内でドライブギアボックスからプロペラまでが船外にあるものです。中型以上のボートに多い形でセーリングクルーザーにはこの形は殆ど見られません。一部、モーターセーラー(モーターボートのように速く走ることができ、かつセーリングもできる船)にこの形が使われているものがあります。

ドライブ船とは

セーリングクルーザーには必ずエンジンが付いています。エンジンを動かしてプロペラ(スクリュー)を回して機走するのですが、エンジンとプロペラの間にあるのがドライブです。スクリューはエンジンから船尾側に向けて直接シャフトが出ていてプロペラが回っていると思われがちですが、実際にはエンジンとプロペラに間にはドライブギアボックスが付いていて、ここで前後への回転の切り替えを行っています。そして、ギアボックスから出たドライブシャフトが船尾側に向け船底を貫通して船外に出てプロペラにつながっているというのが基本的なドライブの構造です。つまり、ドライブ船と表示されている場合、ドライブシャフトでプロペラを回している船のことを指しています。もちろん、その場合には上で書いたように船内機ということです。
セーリングクルーザーの多くがこのドライブ船に該当しますが、最近の主流になってきているのが次の項目のセイルドライブです。

セイルドライブとは

最近の新しいヨット(セーリングクルーザー)のドライブ形式で主流になっているのが「セイルドライブ」です。セールドライブは、エンジンの直下にギアボックスとドライブボックスが一体化したものを船底から出してプロペラを取り付けた形になります。ドライブボックスが船底を貫通して付いているので、昔はドライブ船に比べて大口径のスルーハルを開けるので浸水リスクが高いとして嫌われる傾向にありました。しかし、実際にはドライブが貫通しているスルーハルから浸水して沈没したという事例は殆ど聞いたことがありません。何事も新しい技術に対しては最初は懐疑的なだけで、現在では完全に確立されたドライブシステムとして、安全性には全く問題ない模様です。まあ、問題があれば、最新の船が採用することはありませんし、ボルボペンタの過去のレポートでは、セイルドライブが座礁時に海中の突起に時速7ノットで衝突しても、船内への漏水は起こらなかったという報告もされていますので、先ず大きな問題はなさそうです。

我が愛艇のMALU号もセイルドライブです。下の写真のように、船底からドライブが突き出した形になっていて、そのドライブボックスにプロペラが付いています。

ドライブ船のデメリット

ドライブ船はドライブシャフトが船体から船外へ貫通しており、このドライブシャフトが通る部分をスタンチューブと言います。ドライブシャフトはスタンチューブを通って船外のプロペラを回していますが、ドライブシャフトがスタンチューブの中で回転するためにはスタンチューブとドライブシャフトとの隙間を完全にシールするわけにはゆきません。そこでグランドパッキンという隙間を埋めるものを入れ、それを緩め込むことで水の流入を防ぎます。しかし、グランドパッキンを締め込み過ぎると今度はドライブシャフトの回転に大きな抵抗となりエンジンの出力をロスしてしまいます。当然、ドライブシャフトを回転させることでグランドパッキンは摩耗し続けますので、消耗品として定期的な交換が必要となります。グランドパッキン方式の場合、若干の水漏れは仕方ないと考えるべきです。航行したら必ずビルジの量を確認し排水しておくことが重要となります。また、長期間動かさない場合には、グランドパッキンを少し強目に締め込んでおくことで、海水の侵入を防ぐことができますが、再度動かす際にはグランドパッキンの調整が必要となります。
最近では、グランドパッキン方式以外にも水漏れを防ぐシールパーツが出ていますが、何れにしてもドライブシャフトは可動するため、定期的な交換は必要となります。

セイルドライブのメリット&デメリット

セイルドライブは、旧来からのドライブシステムの問題点を解決するために出てきた新たなシステムですので、基本的には旧来のドライブシステムに対して考えるとメリットしかありません。
最も大きなメリットは、スタンチューブのグランドパッキンのような調整が一切不要であること。また、基本的には日常的な水漏れは無いことが大きなメリットにあげられます。また、セイルドライブは、エンジンとドライブギアボックス、プロペラまでが一体となっているのでエンジンのパワーロスが非常に少なく、更にメカニカルノイズや振動がドライブ船に比べて極端に少ないという点があげられます。また、操船においても、セイルドライブ船の回転半径はドライブ船に比べてかなり小さく回ることができます。また、船内におけるエンジンレイアウトの自由度が格段に上がるので、キャビン内のスペース効率も非常に良くなるという設計面でのメリットも大きいです。
デメリットは現在のところ考えられませんが、1点だけ気になることとしては、セイルドライブ用の貫通穴(スルーハル)の直径が非常に大きいため、シールの経年劣化により漏水し始めるとそれを止める手立てが無いことです。現在のところ、セイルドライブはボルボペンタとヤンマーの2社が有名なエンジンメーカーでは採用していますが、ボルボは7年サイクルでヤンマーは5年サイクルでのシールの交換を推奨しています。このシール交換作業は上架しての作業となり、エンジンとドライブを切離し、キャビン側からセイルドライブを引き抜く形でドライブを外してシール交換を行うため、交換作業はかなりの大掛かりとなり費用もそれなり掛かると思われます。

最後に

現在、大手ヨットビルダーの殆どがセイルドライブを採用しているように、これからはセイルドライブ船が益々増えてゆくと思われます。しかし、ヨットの寿命は30年とも50年とも更に100年とも言われており、依然旧来からのドライブ船も多く残り続けます。ドライブ船が特に問題あるわけではありませんが、セイルドライブの方が快適でパワーロスも少ない面では優位にあるのは確かなことです。
余談になりますが、僕たち夫婦の場合には、ヨット探しをする際にセイルドライブ船を条件に入れていました。その理由はスタンチューブのグランドパッキンの調整をいちいちするのが面倒だと考えたからです。また、セイルドライブがフィンキールの直後に設置されている船の場合、旋回性能の高さなども期待できる部分が大きかったからです。

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