今年はヨット事故が立て続けに何件か発生し、ネットニュースなどで目にする機会が度々あり、少し気になっていたのですが、遂にお盆直前の13日午前8時頃、大分県でヨットレースを終え佐伯市の港を午前6時頃に出港し、大分市のホームポートに戻るために北上中のヨット(約10メートル、5トン)と、豊予海峡側より南下中の砂利運搬船(約65メートル、492トン)が大分県津久見市・保戸島の北東約2kmの海上で衝突、当時この海域では波はなく穏やかな海の状態でしたが、朝靄で視程が100メートル前後と視程不良であったと伝えられており、ヨットは衝突直後に沈没、同ヨットのオーナー船長は捜索により発見救助されるも既に息はなく亡くなられたという痛ましい事故が起きてしまいました。

この事故で私が最初に思ったのは、この事故は他人事では無いなってこと、そしてヨットが衝突直後に沈没したことから、視程不良の海域でありながら砂利運搬船が停船又は微速航行することなく通常に近い航行をしていた(これは直感的に感じたことで事実関係は現在のところ調査中)と思われることから、衝突時の強い衝撃でヨットの艇体は大きなダメージを受けキャビン内に水が流れ込み即沈没に至ったてしまったと思いました。
たった10メートル 5トン程度のFRP船であるヨットに、65メートル 495トン(積荷があったらその何倍も重たい)もある鉄製の船が仮に10ノット前後(約18キロ/時)の低速航行で衝突したとしても、同様のダメージはあったと思われます。大型船にとっての10ノット前後は低速航行でも、ヨット(セーリングクルーザーやセーリングレーサー)にとっては、かなり速い速度になります。

「あー相手が(双方)悪かったな」と言うのが、報道第一報を見たときの感想でした。

この事故、大型船とヨットで視程不良時の対応や船の走らせ方(警戒や航行)が大きく異なること、つまり両者の感覚が異なることが死亡事故につながってしまった最大の原因だと思っています。それが今回のテーマである安全艤装です。

大型船が視程不良時に何を頼りに船を走らせているのか?ヨット側の僕たちは他の船が僕たちをどのように見ているのかということを知っておくこと、そして準備しておくことが事故の確率を下げると言うことになります。そこで今回は、ヨット事故と安全艤装について少し考えてみたいと思います。

ヨットは他船からどう見えるのか

ヨットと言ってもその大きさはいろいろありますが、僕たちのような小型セーリングクルーザーが他の船からどう見えているかと言うことを知っておくことは大切です。
特に今回のような朝靄の中や霧の中の視程不良時、僕たちを他の船はどうやって認識するかと言うことです。

先ず、肉眼では僕たちセーリングクルーザーは、とても認識しにくいです。殆ど見えないと言っても過言では無いと思います。理由はハル(船体)の白いヨットが多く、デッキより上もキャビンの屋根は低く、あとはマストが立っているだけ。ドジャーやオーニングなども目立つ色の船なら、少しは見えるかもしれないですが、いかんせん面積が小さいので見え辛いという感じです。肉眼では判別しにくいのであれば、他の船はどうやって僕たちを見つけてくれるのかと言うと、
次は、レーダーでしょうか? しかし、鉄の船ではなく、水面からかなり低い艇体のヨットはレーダーにはほぼ写りませんから、レーダーでも認識してもらえません。
そうすると、後は必死で音響信号を発する。音で認識してもらうしかありません。しかし、大型船が音で僕たちのような小さなヨットの音を拾って貰うためには、かなり至近距離に居て止まった状態でないと、大型船は自船の機関音などにかき消されて聞こえないでしょう。

結論としては、僕たちヨットは他の船から殆ど認識してもらえないと言うことです。

他船はどうやって航行するのか

では、他の船は視程不良時にどうやって警戒し航行ているのかと言うことですが、漁船などはそこそこの大きさや沖合に出る漁船はレーダーを見ています。漁船は結構スピードも出るので沖合に出て本船(大型船)に遭遇するケースも多く、それを事前に避けるためにも通常時はレーダーを使って猛スピードで漁場に向かいますから普段からかなりレーダーを使って航行しています。(レーダーの無い船は、殆どが沿岸で漁をしている漁船です。)
そして、大型船についてもレーダーは必需品です。視程不良時には更にレーダーへの依存度は高くなり、衝突を回避するために、かなりレーダーを細かく見るようにしているはずです。

そして、視程不良時の音響信号(大型船を含む動力船)は、動力船が航行中(進行している場合)→ 2分以内ごとに汽笛で長音1声(約4〜6秒)、動力船が航行中だが機関を停止して惰力で漂っている場合 → 2分以内ごとに長音2声(間隔約2秒)の汽笛を鳴らします。
僕たちヨットも、視程不良時にはセーリングはしないのが基本ですから、動力船状態になるので、同様の音響信号を発する必要が本来あるのです。

そして、レーダーと音響信号以外に何を使って航行しているのかと言うと、衝突防止のための艤装としてAISを用いています。
大型船(500トンを超える外国へ行く船)の場合には、SOLAS条約と言う、船の安全に関する国際基準にAISの設置が定められており、国内の大型船もそれに準じたルールにより大型船の多くがAISを使って衝突防止措置をとっています。

AISとはどんなものか?

AISは Automatic Identification System(船舶自動識別装置) の略で、「船が自分の情報を自動で発信し、相手の情報も受信するシステム」です。
AISでできることは、「位置の共有」→GPSで得た自船の位置を自動で発信する。「船の基本情報を表示」→船名、船の種類、大きさ、行き先、速度、針路などを送信する。「他船の情報を受信」→周囲の船のデータを受信し、画面(レーダーやプロッター)に表示する。
つまり、衝突防止に役立つもので、航行中にお互いの動きをリアルタイムで把握できるため、衝突回避の判断に非常に有効なシステムです。

しかし、現状は全ての船がAISを設置しているわけではなく、主に大型船に導入されており、近年では徐々に小型船にも設置され始めています。
大型船が発信しているAIS情報は、誰でも見ることができ、スマホアプリなどでもリアルタイムの情報ではありませんが数分から数十分遅れの情報を見ることができます。海上でスマホの電波を受信できるエリアであれば、割と直近の周囲の大型船を含むAISを搭載している船の状況をアプリで確認することができます。

他船から認識してもらうための艤装

今回の事故のような視程不良の時には、他の船に自分の船(ヨット)を認識して貰う事が最も重要だと言う事です。何故なら、先に書いたように、肉眼で見えにくい、レーダーに映らない、音も聞こえにくい状態で最も効果的なのは、機械的に認識して貰う事です。(その他の努力も否定はしません)

1. レーダーに映しだされるようにようにする
これが最もポピュラーで簡単にすぐ出来る艤装手段です。
出来るだけ高い位置にレーダーリフレクターを取付ておくことで、レーダーを搭載している船から感知して貰えるようになります。

ヨットの場合には、マストのスタンディングリギンの出来るだけ高い位置に取り付けるのが効果が最も大きいとされています。僕の船はこの筒タイプの物を付けてます。大体2〜3年で紫外線劣化で容器が壊れて落ちてきますので、それくらいのスパンで交換となります。他にも下のような吊り下げタイプもあります。

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2. AIS情報を発信する
最近注目されているのが、AISです。
船が自発的に自船情報を発信しているので、これはある意味でレーダーより確実です。
僕は海図はipadに入れたニューペック(NEW PEC)を使っており、ipadがGPS情報を受信できるので、これをチャートプロッター代わりに見ています。ニューペックには、その海図上にAIS情報を表示できる機能があるので、ipadはシム入りのデータ通信できるタイプを使い、AIS情報を表示させています。
大型船は遠くに見えても、結構な速度で走っていたりするので、目視できた段階で画面に表示されている船のアイコンをタップして、その船が現在何ノットで航行しているか、行き先は何処の港なのかを確認するようにして、出来るだけ大型船の邪魔にならないコースどりをするように心がけています。当然、タックとかジャイブも、その情報見て判断するようにしています。視界が良くても、あっという間に近くまで来ていたなんてこともあるので、これは割と役立っています。

ニューペックの情報はこちら

でも、まだ自船の情報をAISでは発信できないので、発信できるようにトランスポンダーを設置しようか考え始めた矢先でした。
日本ではこう言う製品があります。

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AISトランスポンダについては、別の機会に詳しく説明したいとと思います。

3. VHFで呼びかけ問いかける
こちらも小型船舶での導入は少ないのですが、VHF無線でヨットが居ることを知ってもらい警戒して貰うよう呼びかけることです。特に大型船はVHF無線により、他船との情報交換や確認を頻繁に行っています。つまり、VHFをヨットに搭載して、16chで聴取して、近隣で大型船がやりとりしていないかを確認、居るようであればレーダーに自船が映し出されていないか確認する事は、とても効果的な安全対策になります。その時にGPS位置情報を参照して自船位置を伝えることが出来れば、VHFを搭載している船は警戒してくれます。

最後に… 重要なのは認識して貰うこと

視程が悪い時、霧の中からいきなり大型船が出現しても、僕たち小型ヨットは殆ど何も手の打ちようがありません。つまり、他船(特に大型船)には近くに居るかもしれない事を認識して貰うことによって、事故確率を下げる努力を最大限に行うしか手がないと言う事を僕たちヨット乗りは知っておくべきです。
ヨット乗りの先輩の方々も、急に濃霧に遭遇してしまったら、必死にホーンを鳴らし続けたとか、何も無くてフライパンをたたき続けたなんて昔の話を耳にしたりします。とにかく必死になって他の船に気付いて貰うことしかやれる事は無いのです。

現代において、AISが登場したのはこう言った視程不良時や夜間航行時など、大型船同士の衝突事故を減少させるためです。相手がはっきり見えていても大型船の場合、急に止まれない、急に曲がれないわけですから、衝突を防止するために小型船では考えられないほどの遠距離から警戒し、進路を決定し速力を調整して航行しているのです。ですから、我々小型船は出来ればこちらが大きく避ける、大型船の前にはできる限り出ないという心掛けは常に持っておかなければならないのです。しかし、互いに見えない状態の時には、小型船側が積極的に情報が見えるように準備しておかないと、大型船は手の打ちようが無いのです。まさにロシアンルーレット状態なのです。

今回の事故では、互いの船が朝靄(あさもや)の出ている海域に突入し、大型船側からは直前まで全くヨットが見えなかったと推測されます。減速もしたし、その惰性で進んでいただけかもしれません。レーダーを見てもチャートプロッター上にも船影は無く、他には大型船も居なかったかもしれません。そんな中で砂利運搬船の船長はどう考え、どのように航行していたのでしょうか? 

そして、ヨット側にレーダーリフレクターは付いていたのか? 他の船に気付いて貰うための準備や行動をとっていたのか?

残念ながら、2つの船は偶然にも靄の中で出会ってしまい衝突してしまったのです。

普段のファンセーリングでは、海況が悪い時には出航しませんが、ちょっと遠出をしている途中に海況が悪くなってくることもあります。そんな時に、自船の事故リスクを少しでも下げることができるのが、今回ご紹介した安全艤装では無いかと、今回の事故を通して思った次第です。

亡くなられましたヨットのオーナー兼船長のご冥福をお祈りいたします。

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