ヨットを楽しむうえでロープワークは絶対に避けては通れないものです。ヨットオーナーになろうとする人は小型船舶免許を取る際、4つの結び方を覚えることになり、これだけは知っているという人は多いですが、それでもそれぞれの結び方も使わないと忘れてしまうものです。また、その結び方を必要な時に手早くスムーズに使えることで、本来の意味をなすと言えます。

ヨットの上で必要なロープワークの殆どは、安全な航海をするために必要なテクニックでもあり、スムーズな運行には欠かせないものです。また、ヨットでは多くのロープを扱うことから、ロープワークを自分のものにしておけば、セーリングがもっと楽しくなるばかりか、ロープワーク自体を楽しむ事でヨットの楽しみが広がります。

そこで今回は、ヨットのロープワークの基本について、おさらいも含めて書いてみたいと思います。

ヨットのロープワークの大原則

まずは、結び方などの話をする前に、ヨットのロープワークでは大原則があるのをご存知でしょうか?

ヨットでの結びの大原則は、「結びが緩むことなく、且つ、容易にほどけること」です。

結びと言うと、ほどけないようにきつく締めつけると考えがちですが、ヨットでは結んでも容易にほどくこともできることがとても重要になります。
また、これは緊急時にロープを外さなければならないときにも容易にほどくことが出来なければ、あとは「切る」しか方法が無くなってしまいます。切ってしまったら再び使う時には、短いままで使うか、繫いで使うしかありません。しかし殆どの場合、新しいロープに交換しなければなりません。繫ぐという行為自体がヨットではとりあえずの対策でしかなく、基本的にヨットで切ったロープを繫いで使い続けるという事はしないからです。また、ヨット各所に使われているロープはその1本1本が決して安いものではありません。「切る」という事はかなりの決断が必要になることなのです。極端な表現をすると、ヨット上でロープを切るのは人命の危機がある時だけともいえるのです。

”King of Knot”と呼ばれる「もやい結び」

ヨットで最もよく使う結びが「もやい結び」”Bowline Knot”です。小型船舶操縦免許の試験でも、4種類の結びを教えられますが、実技試験で出てくるのは殆どの場合「もやい結び」という程、この結び方は船乗りにとって船上で必ず必要となる重要な結びです。

もやい結び
もやい結びがどんな結びかというと、ロープの先端に輪を作る結びです。
ヨットのロープワークの大原則通り、その輪がどんなに強く引っ張られたとしても ➀つくった輪の大きさが変わらない、➁結び目がほどけることがない、➂ほどきたいときには容易にほどける という特徴があります。
また、ロープが引っ張られて(張力が掛かって)いる時には、結ぶことが出来ず、解くこともできません。

何故「もやい結び」と言うのか

船を舫う(もやう)時には、船側の留め具(クリート)と岸側の係留具(ピットなど)の間でロープを渡して結びます。その際に、基本的には岸のピットの大きさに合わせた大きさの輪をロープの片側につくり、輪の方を岸に投げてピットに掛けてもらいます。その後に船側はロープの反対側を引いて長さを調整し、船のクリートにロープを固定します。
この岸に投げる側の輪を、舫う時に使う結びなので「もやい結び」と言うわけです。

船を接岸し舫う時の流れ

大型船などの着岸時を見て頂ければよくわかるとおもいます。船は波で上下したり動きますので、基本的に船側の舫綱は固定せずに輪の方を先に岸側に渡してピットに掛けて貰ってから船側で舫綱を引いて船を岸に寄せてゆきます。つまり、接岸時の船のコントロールに舫綱は使われるわけです。
ヨットでも同様に岸側に人がいて舫を取ってもらえる場合には、ピットに掛けてもらうだけで後は船側で調整をすると言うのが大原則です。しかし、ピットやクリートが岸に無い漁港などでは、ロープを通す係留用のリングがあると思いますので、そこにロープを通して船側に投げ返して貰います。その際にも、投げ返して貰った輪のある方を先ずは船のクリートに掛けて、もう片側を引いて船を岸に寄せるわけです。

ヨットでとにかくよく使うもやい結び

一般のボートでは、船を舫う(もやう)時にしか使う機会がありませんが、ヨットでは舫うとき以外にもとても頻繁に「もやい結び」を使います。どんなところでつかうのかと言うと、セイル(帆)は隅を全てロープと繫いで使います。ロープとセイルを繫ぐ時は「もやい結び」を使います。何故「もやい結び」を使うのかと言うと、先にも説明した通り、作った輪が引っ張られても大きさが変わらないからです。輪の大きさが変わるとセイルをロープが締め付けてしまい、その部分が痛んでしまいます。また、ロープを外してメンテナンスしようとするときにも、もやい結びなら容易にほどくことができることから、セイルには必ずもやい結びを使います。メインハリヤードやスピンハリヤードなどのように頻繁に付け外しする場合には、ハリヤードシャックルを使ってセイルとロープを繫ぎますが、ハリヤードシャックルへのロープの取付はスプライスするか、やはり「もやい結び」で結びます。
また、ジブシートなどのコックピット側のロープの端に輪を作っておいたりする場合にも「もやい結び」を使います。その他、ロープ同士を仮に繫げるときなどにも、互いに「もやい結び」でつなぐことで、外す際にとても容易に外すことができます。
「もやい結び」の利点は、物に通したりして輪を作って止める際に、輪の大きさが変わらないので輪の中に入っている相手方を締め付けたり潰したりすることないので、非常に重宝するわけです。つまり、結んで取れなくしまっては困る部分には、とにかく「もやい結び」を使っておけば間違いないと言うわけです。
このように、ヨットではもやい結びは非常によく使うことから、”King of Knot” (結びの王)と呼ばれるわけです。

ロープの摩擦で留める「クラブヒッチ」

ヨットで頻繁に使う結びの第2位は何かと言われたら、殆どの人が「クラブヒッチ」を言うのではないでしょうか? クラブヒッチ “Clove Hitch” は日本語では「巻き結び」と言い、徳利を吊るすために使われたことから「とっくり結び」とも言う結び方です。

巻き結び
「もやい結び」が輪を作って相手を締め付けない結びであるのに対して、「巻き結び」は相手に巻き付け締め付ける結びで、結ぶときにはロープの両側を引っ張る(テンションを掛ける)ことで相手を締め付けると同時にロープ同士の摩擦抵抗が大きくなってほどけにくくなりますが、引っ張り(テンション)を緩めると容易にほどけるという特徴があります。また、両側を引かずに留めていない状態で片側だけを引っ張るとロープは抜けてしまいます。クラブヒッチはロープ同士の摩擦で留まるので、摩擦の低い滑りやすいロープには不向きな結びです。

クラブヒッチは仮止めに最適

ヨットで最もクラブヒッチを使う場面はドッキング(接岸)時のフェンダーを吊るすときです。デッキの外周にあるスタンションやライフライン、パルピットなどに吊るす際にフェンダーの高さを調整しながら素早く縛ることが出来るので非常に重宝します。また、フェンダーの場所を変える際にはフェンダー側のロープを軽く持ち上げるだけで素早くほどけて移動することもできるのがクラブヒッチの最大の利点です。つまり、ドッキング時に素早く作業するには最適な結びと言えますが、あくまでも仮止めで長時間の係留には向きません。
また、岸や桟橋に係留する際に、輪が無い舫綱を船から渡されたときには、クラブヒッチでピットに掛けたり、リングにもクラブヒッチで留めることができます。クラブヒッチは横に渡っているものに縛り付けるだけでなく、垂直に立っているものに対しても縛り付けることが容易にできます。慣れると非常に簡単かつ安全にピットなどの垂直に立ったものに巻き結ぶことができます。

係留時のフェンダーにクラブヒッチが不向きな理由

フェンダーをドッキング時に吊るす時にはクラブヒッチを使いますが、係留には向かないと説明しました。その理由は、係留していると、他の船の引き波などで船がローリングしたり上下します。そうすると、フェンダーが船と岸の間に挟まれた瞬間にロープが緩んで結び目が緩み、緩んだ分だけフェンダーが下がってしまうのです。気が付くと水面ギリギリに付けていたフェンダーが水に浸かっているというケースをよく見るのは、こういうことがあるからです。クラブヒッチはあくまでも着岸時の仮止めだと考えるべきです。これはピットなどに舫ったクラブヒッチも同様ですので、着岸が終わって係留作業をするときには別の結びに変えるか、そのままでテンションが掛かる側のロープに余った側のロープをツーハーフヒッチなど留めることで、緩みを防ぐことが出来ます。

フェンダーには「ラウンドターン&ツーハーフヒッチがオススメ」

フェンダーを吊るすには「クラブヒッチ」の仮止めをこれに結び換えることでフェンダーのズレ落ちを防ぐことができます。写真ではラウンドターン(一度棒に巻いて)から「ツーハーフヒッチ」で留める形になっていますが、「クラブヒッチ」に「ツーハーフヒッチ」を加えてもズレ落ち止めとして十分に機能します。
また、この結び方はライフラインなどの横線に結ぶだけでなく、垂直に立ったスタンションの根元にこの結びで固定することでライフラインが伸びて垂れてくるのを防ぐこともできます。長期の係留には、この結びがオススメです。

ラウンドターン・ツーハーフヒッチ

余談になりますが、「巻き結び」に「ハーフヒッチ」を「引き解け結び」の形で結ぶと、それを「裕次郎結び」とか「裕次郎巻き」と呼ぶそうです。ヨットが大好きだった石原裕次郎さんは、ライフラインに「巻き結び」によるフェンダーのずり落ちが嫌で、その結び方を好んだ使ったそうです。(この話は先輩ヨット乗りの方から聞いた話なので、真偽の程は定かではありません。あしからず。)

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今回の最後に…

まだまだロープワークの話はたくさんありますが、今回はヨットで最もよく使う結びの2つをおさらいしてみました。
この2つの結びはヨットに乗るうえで絶対にマスターしておくべき結びです。いちいち手元を見なくても結べるように練習しておきたいものです。

他にも幾つかヨット上で知っておくと役に立つロープワークがありますので、それはまた別の機会に御紹介したいと思います。

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