僕たち夫婦が自分たちのヨットを持って、最初に悩んだのがドッキング(着岸) “Docking” でした。天候の穏やかな日のドッキングなら、僕一人でも余裕でできますが、風や波がある日には、なかなかそう簡単ではありません。特に桟橋側からの風が吹く日のドッキングは一人では難しくどうしたものかと頭の中でいろいろと考えたりしていました。それも、最初は小さめのヨットから始めればよいものを、勢い37.5フィート(実測で約12.5メートル)、重さ7トンものヨットを選んでしまったがために、桟橋で船を押したり引いたりしたくても思い通りには動いてくれそうにはありません。それに加えてうちの妻は、超のつくほど非力だし、ドッキングの操船なんて任せられないし、船を持つまでまともに舫のクリート留め、フェンダーを吊るす作業すらしたこともありません。そんな状態でいきなりダブルハンドでMALU号に乗ろうというのですから、これはホント僕たち夫婦にとって一大チャレンジでした。(ちょっと大袈裟過ぎるか…)
妻だけでもヨット教室に通わせようかと、いろいろと思い悩みもしましたが、時既に遅しとばかりに艇は既にあるし、妻が一人前になるまでなんてそんな悠長なことは言ってられません。
そこで、妻を有能なクルーに仕立て上げるべく、秘密の特訓を始めたわけです。(これも、そんな大袈裟なものではないんですが…)
先ずは、フェンダーを吊るす作業と桟橋に降りて係留ロープをクリート留めできるようにはなってもらおうと、そのための基礎としてのロープワークの特訓から。小さなクリートを買ってきて木の板に付けたロープワーク練習台を作り、家でクラブヒッチとクリートノット、そしてもやい結びの3つだけはとにかくスムーズにできるように毎日夕食後に練習させたりしました。
それと並行して、着岸のやり方を僕は検討するという具合です。
しかし、以前にクルーとしてお世話になっていた艇の離着岸の方法を妻にやらせるわけにいかないし、完全なダブルハンドでの着岸方法では決してなかったので、2人だけで安全・確実に余裕をもって着岸作業ができる方法を探したわけです。とにかく、市販のテキスト本やCD,DVDに至る映像関係、インターネットは海外サイトから今流行りのYouTubeと、とにかくドッキングに関する情報を探し回った結果、ついに納得のいくドッキング法を見つけ出しました。
そこで、今回は僕たち夫婦がこの2年間いつも実践してきた着岸法である “One-Line Docking” (ワンラインドッキング)をご紹介したいと思います。
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ワンラインドッキングとは
このドッキング(着岸)法は下の図にあるように、ヨットのミジップよりやや後方(全長の後ろ側からおよそ1/3から1/4の位置;メインウインチが付いている位置)から桟橋のスターン側のクリートに1本のロープを渡し、スキッパーとクルーの2人だけで着岸作業の全てを行うものです。
通常よく使われるドッキング法は、風向きなどで最初に取る舫の位置が異なりますが、このドッキング法は、常に着岸時に最初に取る舫は上の図の位置で1本だけ取ることで着岸し、スロットルを前進に入れ舵を少し左に切ることで艇を常に安定させ桟橋側に寄せておけることができるという仕組みです。その他の係留ロープを舫う(バウライン、スプリング、スターンラインなどの)作業は、艇が安定しているので余裕をもって安全に作業することができるというわけです。
ドッキングは常に同じ位置の1本のロープ “One-Line” で艇を安定させて停めることから、”One-Line Docking” と言います。
ワンラインドッキングの流れ
入港し着岸して舫を全てとるまでの流れを説明したいと思います。
1. フェンダーの取付
クルーは港に入ったら桟橋に着ける側にフェンダーを吊るします。
我が家のホームポートの場合は、桟橋はポート側なのでポート側のミジップにライフラインを開けることが出来る乗り降り口があるので、この乗り降り口の両脇のパルピットに其々吊るし、出入口からバウまでの間とスターンまでの間に合計4個を吊るしています。
2. ワンラインの準備
クルーはワンライン用の係留ロープの片側にもやい結びで輪を作り、その輪をメインウインチに掛けます。また、ロープの反対側をライフラインの下を通して上からデッキ側に戻します。このデッキ側に戻したロープの端を持って桟橋に降りるので、ロープはミジップの辺りのライフラインの上に掛けておきます。
以上で海上での準備作業は完了です。
3. ドッキングの準備
桟橋に近づいてきたら、クルーは乗り降り口のライフラインを開け、片手にワンラインの端を持ち、桟橋に降りる準備をします。(ライフラインが開かない艇の場合には、片足をライフラインの外に出してライフラインを跨いだ状態で桟橋に降りる準備をします。)
4. バースに進入する
バースへの侵入はデッドスローの状態でギア(スロットルレバー)を中立にし、進入します。
クルーは自分が下りようとする桟橋の位置(クリート留めするクリート脇)までと艇の距離をスキッパーに残り〇メートル、〇メートルと言う感じでカウントダウン式に伝えます。クルーが桟橋に降りる位置の直前でスキッパーはギアを後進に入れてほぼ停止の状態まで行き足を落とし、クルーは自分の判断で安全に桟橋へ降りることができるタイミングでスキッパーに降りると声を掛けて桟橋に降ります。(艇はほぼ停止または完全に停止した状態で桟橋に降りる)
5. ワンラインで舫う
クルーは桟橋に降りたら直ぐに所定のクリートにロープを掛けて一巻きしたらスキッパーに「OK」と合図します。その合図でスキッパーはギアを前進に入れ船を係留位置まで進めます。艇がバースの係留位置に入ることを確認しながらロープを垂みなくなるまで引き込みクリートノットで完全に留めたら再度スキッパーにクリート留めしたことを伝えます。
スキッパーはそのまま舵をやや左に切ります。(ギアは前進で舵を左に切ることで、艇は桟橋に押し付けられた状態で安定して止まります。)
6. その他の係留ラインをつける
スキッパーは完全に艇が安定して停止していることを確認して、舵を固定し、スロットルは前進に入ったままで、コックピットを離れてバウデッキに向かい、桟橋のクルーと共にバウライン、スプリング、スターンラインを舫う作業を行う。
全ての作業が終わったら、スキッパーはコックピットに戻り、ギアを中立にしてエンジンを停止し、舵を中央に戻して固定する。
これですべてのドッキング作業は完了です。
桟橋側からの風があるとき
桟橋側からの風がある時には桟橋への行き足を落とし過ぎると、艇は桟橋からどんどんと風に流されて離れて行ってしまいますので、桟橋に対して斜め向かいから侵入してゆき、桟橋直前で舵を右に切りながらギアを中立から後進にして行き足を一気に止めたタイミングでクルーは桟橋に降りるようにし、直ぐにクルーはクリートにラインを巻き引き込んで行き、艇が桟橋と並行になったらクリートヒッチで留めたのを確認したら、スキッパーは直ぐに前進を入れて左に舵を切ると、艇が桟橋から離れることを防ぐことが出来ます。また、バウが風に流されても、ワンラインが舫われていれば、そこから舵を左に切って、前進を入れて少しスロットルを上げることで、艇は再び桟橋側に戻ってきます。風が強ければ、それだけエンジンの回転を上げれば桟橋側に艇全体は寄って桟橋に艇が押し付けられて停まります。
桟橋と並行に風が吹いているとき
係留時にスターン側からの風の場合には、行き足を落とすつもりでギアを中立にしても、艇が風に押されて行き足が落ちないので、早めに後進を入れてスピードを調節します。ワンラインを舫うことが出来たら、ギアを前進に入れて艇を桟橋に押し付けて安定させるのは通常を同じです。
また、バウ側からの風の場合には、行き足が落ちやすいので、スロットルを中立にしたり後進を入れるタイミングを遅らせるだけですが、バウ側からの風の場合には、ワンラインで舫っている状態で行き足が止まると、桟橋と反対側にバウから流されてゆくので、早めに前進を入れて舵を切ることで、バウの開きを抑えることができます。
ドックアウトでもワンラインは有効です
ドッキングでやった逆の手順を踏めば、ドックアウトも艇を安定させて舫を解き出港することができます。その際に、ワンラインは桟橋側のクリートにクリートヒッチで留めるのではなく、桟橋側のクリートにはひとかけしておくだけで、艇に戻してウインチに固定しておきます。(行ってこいの状態にしておく)これで出港時に前進で出るのであれば、ギアを前に入れて舵をやや右に切ればバウは斜め前に向くので、そこでワンラインをリリースすれば、艇が前に進み始めます。後進で出る場合は、ギアを前に入れて舵を左に少し切ってバウが左側に入ったら、ギアを中立に戻し、ワンラインをリリースしたら、ギアを後進に入れることで桟橋から離れながらドックアウトできます。
ワンラインはバウスラスターが要らなくなる
バウスラスターはあるととても便利なものですが、このテクニックをマスターすると、ドックインやドックアウトでのバウスラスターが殆ど要らなくなるように感じます。最初の頃はあったらとても便利なんだろうなっていつも思っていましたが、このドッキング、ドックアウトをマスターしてから、バウスラスターへの興味は薄れてしまいました。
最後に…
我が家のMALU号が係留さているバースは櫛型桟橋でMALU号のバースへは通路から左回頭でバースに侵入し桟橋はポート着けなので、桟橋への進入は桟橋に並行か、または若干斜め向かいでしか進入できません。桟橋側からの強風時でも最初の桟橋へのアプローチで桟橋にクルーがスムーズに下りることがきれば。そこから先は素早くワンラインをクリートしてしまえば艇が桟橋から大きく離れてしまうことは無く、直ぐに前進を入れて舵を左に切れば艇は桟橋に押し付けられて安定します。僕たち夫婦は、これまで桟橋への進入をやり直したのは最初の頃に数回だけで、あとは徐々に慣れてきたこともあってドッキングに失敗したことはありません。また、天候が悪くても危険を感じるような係留作業もなく、今まで過ごしてきてきています。初心者の僕たちでも独学でこのドッキングの方法をマスターすることができたので、この方法はかなり良い方法なのだと思います。
ヨットをより楽しむために、是非この方法も覚えておくと良いでしょう。
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