我家のヨットライフは、セーリングすることだけでなくマリーナに係留している時にプチ別荘としてヨットで過ごすことも楽しみのひとつです。こんな楽しみ方ができるのも、基本的な生活設備が整っているセーリングクルーザーだからこそです。キャビンがあって、ギャレー(簡易キッチン)やヘッド(トイレ)、そしてバース(寝室)がありますから、小さな1ルームのアパートと変わらない環境と言えます。また、季節が良ければ、コックピットはさながらテラスバルコニーと言ったところでしょうか。テーブルを出して食事やティータイム、バーベキューだって楽しむことができます。欧米のヨッティー達のヨットにはバーベキューグリルが常設してある船も少なくありません。我家も、家では焼肉とか煙の出るものはしませんが、ヨットのコックピットは我家にとってバーベキューサイトとして焼肉の頻度が高いです。

そんなヨットライフですが、セーリングから帰ってきて疲れている時に料理なんてやってられないなんて時には、やっぱり電子レンジを使ってコンビニ弁当やお惣菜を温めて、ビール片手に腹を満たし、のんびり海を眺めながら転寝したいってこともありますから、ヨットに電気を引き込むことができる陸電の存在は、プチ別荘暮らしにとって重要なアイテムです。更に、お湯を沸かすにも電気ポット、テレビも観たいし、冷暖房だって欲しい…。電気のある暮らしに慣れてしまった現代人の私たちとしては、やはり家電製品を使いたいと言うのは今や当然の欲求でもあると言えます。

そこで今回は、そんな電気の大元となる陸電についてお話をしてみたいと思います。

ヨットの電気

そもそも船という乗り物では電気は自船の中にある発電機を使って発電し、その電気を使って航海計器や照明、その他の電気を使う設備や機器等に電気を供給しています。大型船舶ではジェネレーター(発電機)を使って電気をつくっていますので、船の中に発電所があるというふうにイメージしてもらうと解り易いと思います。ヨットでも基本的な考え方は大型船舶と同じですが、このような発電機による電気の供給は大型のヨットに限られる話です。日本で主流の30フィート前後のヨットで発電機を設置するのは、スペース的にも苦しいことから発電機を設置しているヨットは稀です。こういう小型ヨットにとって電気と言うと、自動車と同じようにエンジンを回してバッテリーに電気をためて使うと言うのが一般的です。このエンジンを回して(オルタネーターで)作り出される電気は自動車と同じように直流の電気で特にヨットのエンジンは小型なことから乗用車と同じ直流の12ボルト(DC12V)の電気をバッテリーに貯め(充電し)て使用します。
逆に大きなヨットに設置されている発電機は、家庭用のコンセントから流れてくる電気と同じ交流電源で、直流用の機器へは交流から直流に変換して使ったり、エンジンのオルタネーターで発電した直流の電気をバッテリーに充電して使っています。
大型船舶でも私たちのような小型ヨットでも、基本的に電気は自船で作り出した電気を使うのですが、停泊中にバッテリーに充電した電気を使い果たしてしまっては航海に出た時に必要な電気が使えなくなります。また、停泊中にジェネレーターやエンジンを掛けっぱなしにしておかねばならないことから、陸からの電気の供給を受けることが出来るようにしている船もあります。
この陸から電気を貰うための設備のことを「陸電」 “shore power” と言います。

陸電 “shore power” とは

陸電は、大型船舶でも私たち小型ヨットのような小型船舶でも、陸の電気を供給する設備から給電ケーブルを使って船に電気を引き込むこと、つまり陸の電気を引き込んで使用することから陸電と言います。大型船は陸の建物で例えるとビルのようなものですから、電気の引き込みには物凄く太い給電ケーブルで陸と船の間を繫ぎます。私たちのような小型ヨットの場合、冒頭に書いたように小さなアパートの一室のようなものですが割としっかりした散水ホースのような太さの陸電用ケーブルで陸とヨットの間を繫いで電気の供給を受けるわけです。

陸電
一般的に、専用の陸電設備の整っているヨットハーバーやマリーナでは、陸電ポストから交流100ボルト(AC100V)の電気を1回路30アンペア(30A)または50アンペア(50A)で供給しています。30Aや50Aという数値は、さながら家に電気を外部の電柱から引き込んでいるようなものです。また、専用の陸電設備ではなく簡易的な外部給電設備で電気を供給しているところもあり、その場合には1つのコンセントから引き出せる電流値は20アンペア(20A)の供給となっています。日本では1つの家庭用コンセントからは20アンペアが取り出せる電流値の上限となっています。
この「アンペア」とは、電流のことで電気を流せる量というように考えれば解り易いです。つまり、アンペアの値が大きいとそれだけ同時に多くの電気機器を使用することができるというわけです。陸電を使用する際には、供給側の電流値に対して船側で使用する電気機器を調整して使用する必要があります。これについては後述します。

陸電の引き込みにおけるポイント

陸電は先に書いたように、ヨットと言う家に電気を引き込むようなものです。つまり街中で例えると電柱から家に電気を引き込むのと同じだということを念頭においておく必要があります。言い換えると、陸電の自船への引き込みとは、家電機器を家のコンセントに繫ぐような気軽な物では無いということでもあります。
陸電を引き込む際の注意点を以下に挙げておきます。

1. 適切な太さのケーブルを使用する

ケーブルの太さは、電気の流せる量に比例して太くなります。ケーブルの太さに対して過大な電流を流すことは、事故の原因となりますので、必ず電流量と陸電のケーブルの太さは一致させる必要があります。必ず陸電用の専用品を使用するか、電気容量に合った電源ケーブルを使用しましょう。

2. 引込はできるだけ短距離にする

電気は流す距離が長くなればなるほど減衰します。これは、適切な陸電用ケーブルを使用しても、距離が延びれば電圧が下がります。ですから、給電用の陸電ポストからできるだけ短距離でヨットに接続することが望まれます。陸電専用ケーブルの長さが足らないからと言って延長するのは、あまり良いことではありませんので、できるだけ1本の専用ケーブルでつなぐようにします。

3. ケーブルは確実に繫ぐ

陸電ケーブルは、家のコンセントのように差し込むだけではなく、固定用のスクリューリングが付いています。これは、接続部の防水の意味もありますが、接続コネクターが確実に接続され揺り動かされないようにするために固定することが目的です。接続部が緩んでいたり、固定用のスクリューリングのネジ山が合わないままで無理にねじ込み固定が不十分だと接続部が固定されずに接続不良を起こします。接続不良は事故の原因となりますので、ケーブルは確実に繫ぎ、固定用スクリューリングも目一杯までねじ込んで接続部がグラつかないようにします。
※最近の新しい陸電用ケーブルでは差し込むだけでしっかりロックされる製品も出てきています。

4. 接続及び切離しはブレーカーをOFF

陸電ケーブルを船に接続する時や切離しの時には、船側の陸電用メインブレーカーを必ず切ってから行います。メインブレーカーが入ったままで接続したり切離しを行うと、過大な電流が流れてスパークする恐れがあり、接続部が焼けこげたり、熱により断線してしまったりする可能性があります。安全のため、更に陸電用の船内設備を守るために、必ずメインブレーカーは切ってから接続や切離しの作業を行います。

陸電の使用時における注意点

陸電は家庭用の電源のような安定した電源ではありません。何故なら、陸電ポストは電力会社が設置した設備ではなくマリーナやヨットハーバー側が設置した私設設備だからです。つまり、必ずしも安定した電源ではありません。ヨットで陸電を使用する際には、このことに留意して船内の電気機器の使用を考える必要があります。

1. 電圧降下を想定する

自分のバースの場所によって、陸電ポストから供給される電圧に差が出てくる場合があります。陸から桟橋に渡っている電源用の電線経路を辿って、経路が短いほど電圧降下は低いということになります。つまり、桟橋が陸から遠く離れている場合には、電圧の降下率は高いと考えられます。夏場の昼間は一般家庭での電気消費量も非常に多く、当然電力会社から供給される電気自体でも電圧降下が起きています。更に、私設設備内でも同様のことが起きますから、末端にある船での受電電圧は更に低くなります。また、同じ陸電ポストに接続している船の数、同時に電気を使用している船の数によっても電圧降下は起きます。できれば電圧状況をモニターできるようにしておくと良いでしょう。

2. 高容量の器具の同時使用を避ける

熱機器は高容量の電気を使います。具体的には、エアコン、電気ストーブ、電子レンジ、電気ポット、などなど。熱に関わる電気製品は高容量の電気を使います。それに対して、小型のヨットは大抵は30アンペアの陸電を引き込んでいると思いますので、同時使用することでブレーカーが落ちたり、能力が極端に落ちたりします。

3. マリンエアコンは増圧する

日本の電気事情は海外よりも複雑です。日本は世界に稀な一国二周波数という特異な電気事情です。世界では電気の周波数は効率の良い60ヘルツ(60Hz)でほぼ統一されていますが、日本だけは効率が悪いにも関わらず日本の東側半分では50ヘルツ(50Hz)の地域があります。更に、電圧はアメリカよりも低い100ボルト(AC100V)ですから、海外製品であるマリンエアコンは日本の電気事情では充分な能力を出すことができません。日本でマリンエアコンを使う場合でもアメリカ仕様の115ボルト(AC115V/60Hz)製品を使うことになりますが、およそ15%近く電圧が低いということは、それだけ能力が下がります。また、関東などの東日本エリアでは周波数が異なりますから、更に20%近く効率が落ちます。
低電圧は機器が充分に作動できず故障の原因にもなります。更に、機器の要求電圧が高いのを補うために、電流値が上がってしまうという症状も出ます。これでは大電流が一気に流れてしまい、発熱して船内の配線に負担が掛かってしまいます。このようなことを防ぐためには、マリンエアコン用の電源を増圧することです。更に周波数が異なる地域では、周波数コンバーターの使用も検討した方が良いかもしれません。

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4. 出港時の抜き忘れを防ぐ

舫を全て外す前に、先ず陸電のケーブルを外すようにしましょう。ケーブルを引っ張ってしまうと、ケーブル内で断線してしまい、長い陸電ケーブルを買い直すことになってしまいます。
出港準備に入ったら、まず最初に陸電のブレーカーを切る、陸電ケーブルを外すという具合にルーティーン化すると抜き忘れを防ぐことが出来ます。

5. 外したケーブルの漏電対策は確実にする

陸電ケーブルを外して桟橋に転がしておく場合には、ケーブルのコネクター部分の漏電対策は必ずするようにしましょう。突然の雨や桟橋からの落下で水没する恐れがあるばかりか、陸電ポストには繋がったままの場合には、陸電ポスト側の漏電ブレーカーが落ちてしまいます。復旧が容易にできない陸電ポストもありますので、ケーブル側のコネクターはキャップをするなどして、対策をして出港しましょう。

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最後に…「陸電用ブレーカー」

今回の記事で書いた内容は、私自身の実体験から考えられることを記事にしました。実は、我がMALU号は、陸電の設定が発売当初は無かった古い設計思想の船です。ですから、陸電用の船内設備は全て後付けで、漏電ブレーカーすら付いていませんでした。それでも最初はそのまま使っていましたが、僕たち夫婦はヨットでプチ別荘暮らしを楽しみたいのですから、きちんと家並みの電気設備にやり直す必要があると考えたわけです。その大きなきっかけは、マリンエアコンの故障です。マリンエアコンを同じメーカーの最新のものに置き換えたにも関わらずブレーカーが落ちるのです。そこで、陸電用の分電盤を新規で見直すことにしました。それまでは漏電ブレーカーもありませんでしたから、メインブレーカーは給電容量と同じ30アンペア(30A)の漏電ブレーカーを入れ、回路はエアコン用、バッテリーチャージャー用、キャビン電源用の3回路に加えて予備回路までを収容できる分電盤を設置しました。勿論、電気工事はプロにやってもらいました。自分でやってできないわけではありませんし、資材も仕事柄、手配できるのですが、電気工事は有資格者が行うと言うのがルールですから…。しかし、有資格者である電気屋さんでも、その後に起きた様々な症状に対して、なかなか明確な回答をしてくれることはありませんでした。何故なら、今回の記事で書いたようにマリーナの桟橋の電圧降下率が規定値以上に大きいことや、海外製品であるマリンエアコンの詳しい事情が解らないからです。これを解明するには、ずっとエアコンを掛けっぱなしにした船内に一晩中居てテスターで数値を測らないと詳しいことは解りません。そこで、僕が準備したのが電圧モニターです。これにより、どれだけ電圧降下しているのか、気温との関係はどうなっているのかなどを知ることが出来たわけです。結果として解ったことは、幾らマリーナの陸電と言えども、電圧がブレブレだということです。これは、大元の電力会社からの給電にも問題があるのかもしれませんし、マリーナやその地域全体の給電状況がギリギリなのかもしれません。そして、私の船はマリーナでも最も岸から遠い位置にあることも理由かもしれません、平日の誰も居ない、電気を使って無いような時間帯での電圧はぴったり100ボルトで給電されているのも計測できました。しかし、そんなに他の船が電気を使ってないにも関わらず、気温が35度を超える日中には93ボルトなんてこともありました。これで115%増圧を掛けても110ボルトを下回っているのを見て確信したわけです。
電気は苦手と言う方が少なくありません、私も正直苦手ですが、快適に船内で過ごすためには苦手とは言ってられません。また、陸電を繫いでいて電気火災が起きては、大切な船を失いかねません、それだけではなく、船に泊まってていて火災なんてことを避けるためにも安心できる陸電設備を構築しておくことが大切だと思います。

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“ヨットライフをより楽しむための陸電の基礎知識” への1件のコメント

  1. 陸電による電蝕についても注意が必要です。

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