「ヨットで帆走している時に大型船がよけてくれなくてヒヤッとした」という話をするヨット乗りがもしいたら、そのヨット乗りは安全に対する認識が間違っています。

確かに、ヨット(帆走船)と大型船(機走船)の避航行動は、国際規則(国際海上衝突予防規則=COLREGs:日本の国内法では、海上衝突予防法)に基づいて定められていて、ルール上は機走船が帆走船を避ける(避航行動をとらなければならない)とあります。つまり、帆走船は自分の進路を保持できる優先権を持っているという「ルール上の優先関係」はそのようにはなっています。

しかし、現実には「ルール上の優先関係」と「実際にとるべき安全行動」とは大きく異なります。ヨット乗りは、相手船の特徴を理解した上で安全航行する正しい認識(シーマンシップ)が求められます。免許のテキストには書かれて無かったとか教習所で教わらなかった、ルールは守っているから自分は全く悪く無いと思っているとしたら、それは大きな間違いです。

また、大型船の船長や航海士をしている人たちからもたまに聞こえてくるのが、「ヨットは急に進路を変えるので進路が予測しずらい」という声です。これも、帆船やヨットのことをキチンと理解していない現代の船乗りならではの声です。誠に残念なことですが、現代の船乗り教育には帆船による帆走操船実習は無く、おそらく教科書の何処かに少し帆船について書かれていても、試験に出ない、実際に船乗りになっても帆船なんて乗らないから関係ないと言って見過ごされているように感じます。残念ながら、そんな発言をする船乗りもシーマンシップが欠けていると言わざるを得ません。

そこで今回は、ヨット乗りは大型船を邪魔しないと題して、大型船と出会ってしまった時の心得を書いてみたいと思います。

1. 法律上の原則(海上衝突予防法)

ここでは、先ず避航関係はについての原則を整理しておきます。

帆走船と機走船の関係
• 原則として 帆走船(ヨット)が優先/機走船(エンジン推進)が避航義務あり。
• 理由:帆走船は風に依存して進むため、自由に避けにくいと考えられるから。

帆走船同士の場合
• 同一タック(同じ風上側)では、風下側の船が優先。
• 異なるタックなら、右舷から風を受けている船が優先。

機走船同士の場合
• 行会い船 → 互いに右に避ける。
• 横切り船 → 右舷側に相手がいる船が避航。

2. 実際にとるべき安全行動

ここからが今回の本題です。法律上は帆走状態であればヨットが優先でも、実際には大型船に避けてもらえない(避けられない)ことが多いと言うことを知っておく必要があります。その理由は…

1.慣性が大きい
大型船は、フルに舵を切っても曲がるまでに時間を要します。数万トンレベルの超大型船だと舵を切ってから曲がり始めるまでに数分掛かり、停止距離も数海里以上を要します。
→ 小回りの利くヨットが動かないと衝突リスクが非常に高いと言うことです。

2.死角が大きい
多くの大型船は船首前方数百メートルがブリッジからは見えません。つまり、小型ヨットが視認されにくいのです。逆に大型船は他の船をかなり手前である10海里くらいの場所からは自分の進路上に障害物が無いかをさまざまな方法でワッチしています。
→ ヨット側が「大型船から見えているはず」と思うのは危険です。

3.航路・制約がある
大型船は航路や水深の制限があり、自由に避けられないのです。
海上衝突予防法でも「制限船は優先権を持つ」とあります。
つまり、大型船と出会った水域が大型船にとって制限のある場所だと、いくら相手船が帆走状態であっても避けられないのです。

3. ヨット乗りとしての心得

• 海上衝突予防法における権利よりも衝突回避を最優先する。
• 大型船の進路前方には出ない(特に船首前方1マイル以内は危険と認識する)。
• レーダーリフレクターやAIS、灯火などで自船を早めに大型船に認識させる。
• VHF(Ch16)で大型船に呼びかけることも有効。

ヨット乗りの間でよく言われる言葉ですが「法律で勝っても、ぶつかったら負ける」
つまり、優先権をいくら主張しても衝突してしまえば致命的な事故になるため、ヨット側が積極的に避けることが大切であると言うことです。つまり、それがヨット乗りとしてのシーマンシップです。

最後に… ヨットの曖昧な機帆走

ヨットには、純粋なセーリング状態である帆走船の顔とセール(帆)を使わずエンジンの力で航行する状態の動力船の状態があります。しかし、この両方を用いて航行する機帆走という状態がヨットにはあります。
この時、他船からはセールが上がっていれば帆走船の状態だと認識できますが、実際にはエンジンを使っていて、この状態は法的には明確に動力船状態であると定義されています。また、この時には機帆走状態であることを示す形象物を船首側に掲揚する義務があります。この義務を怠って他船と衝突した場合、ヨット側の過失が認められます。

また、港則法により港の中では帆を減じることとあります。これの意味は、港の中で突然の風が吹いてもコントロールを失わないようにするという意味合いから、そのようなルールになっているのですり
つまり、帆を少なくして機帆走又は機走の状態にするのが港の中での正しい姿だと言えます。機走状態ではセールを広げていないので一目瞭然ですが、セイルが少しでも出ている時には機帆走状態(動力船)であることを他船に示さなければ、相手船はどのような行動をとったら良いのかわからないと言う事を、これも認識しておくべきです。

今回は大型船にフォーカスして書きましたが、航行するうえで大切なことは、他の船から見て自船の状態を正しく認識させることが重要であるという事です。特に混み合った海域や港の中など、多数の船がいるところでは、機帆走状態の時には形象物の掲揚はとても重要だと言えます。

そして、僕たちヨット乗りは大型船の航行の邪魔をしないという事が大変重要です。それは今回の記事でお気付きだと思いますが、大型船は急に止まらない、曲がれないのです。だからこそ港の中でタグボートで押したり引っ張ったりしてもらっているのです。更に、数千トンや数万トン級の超大型船で無くても、一般的に大型船と言われるような数百トンクラスの船でも、そんなに急に止まれないし、曲がれないのは同じ事です。つまり、彼らより僕たちヨットの方が小回りも急な停止や移動もやり易いのです。

そして、もう一つ理解しておく必要があるのが、大型船の彼らは働く船なのです。たくさんの貨物や乗客を乗せているのです。だからこそ、遊んでいる僕たちヨットは働く大型船の邪魔をしないように遊ぶべきなんです。
それもこれも、ヨット乗りとしてのシーマンシップだと僕は思います。

ヨットの夜間における灯火と昼間の形象物のおさらい

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