ヨットを持ったら是非やってみたいと思っていたのが、何処か綺麗な透き通った海水の入り江にアンカリングで停めて、ゆったり海で泳いだり浮かんだり、ぼんやり時の過ぎるのを海上で楽しみたいって思っていました。勿論、MALU号で操船が慣れてきた頃合いをみて行ってみたかったポイントでアンカリングして、ヨットから海に入って海水浴しました。それから、毎年のように行ってるかな。
アンカリングと言うと、沖縄でダイビングガイドをしていた時にはアンカーを持って水中に入り小さな根や大きな岩に一回りアンカーロープを回して、ダイビングボートが数時間は動かないようにガッチリアンカリングをしていましたが、ヨットだと潜ってアンカリングするわけにもゆきません。水深計を見ながら浅場を狙って、ここならと言う場所にアンカーを打つわけです。
我家のMALU号のアンカーには40メートルのチェーンが付けてあるので、水深5メートルくらいの場所ならこれでだけで問題無くアンカリングできます。そして、長く重たいチェーン付きのアンカーを手上げしなくても良いようにウインドラスも追加で取り付けたりしています。しかし、そこで知らなかったのがチェーンだけだとチェーンを船のクリートに留めることができなためにウインドラスから舳先のガイドローラーを通って引き出したままになり、ウインドラスに常に負荷が掛かるなって、初めてアンカリングした時に直感的に思ってしまったんです。これまで修行で乗せて頂いていたヨットは殆どがチェーンは最初の10メートル程度で、その後ろはロープというのがあたりまえだったので、ロープをクリートに留めてアンカリング完了だったのですが、うっかりオールチェーンにしてしまったがために、そこまで考えが及んでいなかったのです。
しかし、そのままにして海に入って遊んでしまい、折角付けたウインドラスを壊してしまっては嫌なので、その場でしばし考えて即興でチェーンにロープを縛り付け、そのロープをクリートに留めるという形でウインドラスへの負荷を無くすようにしたのです。この時に使った縛り方は、以前にご紹介したローリングヒッチを使ったというわけです。とっさに思い付いたにしては我ながら上手く行きました。それからもずっと同じ方法でアンカリングしています。
さて、このウインドラスにアンカリング中は負荷を掛けないというのが、実はヨットのアンカリングではナショナルスタンダードだったことを知ったのは後のことで、それをヨット用語では「スナバ―」と言うことを知りました。
スナバ―という用語は日本ではあまり使われていないヨット用語で、ヨットの教本などでも紹介されているのを見たことがありませんでした。
そこで今回は、この「スナバ―」について、ちょっとだけ掘り下げてお話してみたいとおもいます。
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スナバ― “SNUBBER” とは?
英語の “SNUBBER” を日本語訳すると「緩衝」という言葉になります。
「緩衝」を国語辞典で調べると、『対立している物などの間にあって、衝突や不和などを和らげること。また、そのもの。』と書かれています。言葉にすると、ちょっとわかりにくいのですが、つまり「衝撃を和らげる」ということになります。
ヨットにおける「スナバ―」は、衝撃を直接伝えないようにする、いわゆる緩衝機能のことで、ウインドラスから出ているアンカーチェーンは伸縮しないことから、波や風で船が振れたり動いたときに、その衝撃や負荷をもろにウインドラスが受けてしまうことから、ウインドラスが壊れてしまうのを守るためにスナバ―を使います。係留ロープの間に入れる器具のことをスナバ―とも言いますが、スナバ―とは緩衝機能のこと全般を指します。
アンカリングの際のスナバ―は「アンカー・スナバ―」と言ったりもします。
スナバ―とは、どんなものか
スナバ―は、アンカーロードが全てチェーンの時に主に使う物で、ウインドラスから出ているチェーンを切り離すことなくチェーンと船体の間に入れる形で緩衝させます。
上のイラストでは、スナバ―を両舷からとっていますが、簡易的に片舷から取ってクリートする場合やアンカーロードと同じく舳先からチェーンと共に出す場合もあります。
両舷から取るのは、長期間に渡ってアンカリングで停泊するなどの場合には、強風時など高い付加にも耐えられるようにするためや、風による船の振れ回りなど考えると両舷からとってあった方がより安心ですね。
下の動画は、アンカリングの一連の流れを教えている物ですが、アンカリングの最後にスナバ―をする様子が入っています。この動画では船の舳先から1本でスナバ―をとっています。
スナバ―を入れる方法
動画みれば一目瞭然ですが、ここではスナバ―を入れる際に気を付けることなどを含めて説明したいと思います。
➀ 先ずは通常通りアンカーを打ち、適正なアンカーロードを設定します。
➁ アンカーを打ち終わったら、スナバ―を入れます。
➂ スナバ―の片側をアンカーロードのアンカーチェーンに取り付けます。
➃ スナバ―のもう一方の片側をクリートします。
➄ アンカーチェーンを更に出します。
➅ スナバ―でアンカーロードが引っ張られるようになったら、更にアンカーチェーンを少し出してウインドラスへの負荷を解消します。
スナバ―をアンカーロードと同じ場所で付ける場合と、クリートから直接外に付ける場合では、スナバ―の取り回しが異なるので、気を付けてください。また、先のイラストのように両舷でスナバ―をする時にも、外回しで取り付ける必要があるので注意が必要です。
スナバ―の本体
スナバ―の本体は、片側はクリートに取り付けるようにアイを作ります。チェーン側については、取付方法により加工をします。スナバ―本体は緩衝機能が働くように、一般的なアンカーロープと同じ材質のロープで製作します。くれぐれもダイニーマなどの殆ど伸縮しないような材質のロープは使わないにようにします。
両舷側用として製品化されたスナバ―も海外にはありますが、国内ではあまり取り扱いが無いようですので、スプライスして自作してみるのも良いですね。
スナバ―とアンカーチェーンの接続
スナバ―のアンカーチェーン側の取付は、ローリングヒッチで直接結びつけることもできますが、シャックルなどの器具を使って取り付けることもできます。
ローリングヒッチ
スナバ―自体は係留ロープを使用しますので、スナバ―自体をローリングヒッチでチェーンに付けるというやり方です。
スナバ―専用チェーン取付器具
シャックルなどを使ってスナバ―を取り付けると言ったやり方がありますが、シャクルは軸側に負荷が掛かって外れなくなる場合もあるので、できれば専用の器具を使うとトラブルを防ぐことができます。
いろいろなメーカーから様々なデザインの物が出ています。他にも世界中でいろんなデザインのものが出ていますが、チェーンを痛めて破断強度を下げてしまう製品もあるようですので、ここではテストを行って問題無いと言われている製品のみをご紹介しておきます。
ソフトシャックルによる接続
フックよりも手軽でチェーンを痛めない物としてオススメは、ソフトシャックルです。
ソルトシャックルはダイニーマのロープで作られたものですので、破断強度が高くてしなやか、水濡れによる変質などもありません。
最後に…
僕がスナバ―を知ったのは、実はMALU号に乗り始めた頃に片っ端から見ていたYouTubeの海外動画で、MALU号で以前にアンカリングした時にとっさに考えてやったやつと同じだったので、やっぱりこういうことするんだって思ったのです。当時見た動画を探したのですが、今回これを書くときに探し出せず別の動画になっていますが、ローリングヒッチでスナバ―をやっている動画と大体同じような感じです。
海外ではヨットで長旅をして、アンカレッジでアンカリング生活するというのは、割と一般的なことで、アンカーラインもオールチェーンというヨットも少なくありません。ヨットで快適に安心してアンカレッジでの生活を送るためにはスナバ―は絶対必要なものなのです。アンカリング生活をしていると、風が強くて波立ってしまう日もあります。そこでチェーンに直接つながれた状態では、船への衝撃ダメージは非常に大きく、更にチェーンの音も緩んだり張ったりでジャラジャラと煩いわけです。
しかし、日本ではそもそもアンカレッジが少なくアンカーで何日も過ごすということは無いし、オールアンカーというヨットも少ないのかもしれないことから「スナバ―」という言葉もあまり浸透してないのだと思うのです。
なので、この記事はヨットを持っていてもオールチェーンの方限定という感じになってしまいましたがご容赦ください。
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