セーリングに出て海上でスマホをあたりまえに使うようになりました。電話する以外にも、音楽をかけたり、気象情報のアプリを使ったり、AISアプリで周囲の船舶情報を見たり、画面はちょっと小さいけれど電子海図だって表示したりと、今やスマホで何でもできるようになりました。しかし、スマホは海上での通話や通信はやはり今でも不安定なもので、見通し距離に幾ら陸が見えていてもスマホが突然繋がらなくなることもしばしばあります。アプリをみたり、メールができないくらいなら何も問題はありませんが、これが事故や船上で急を要するときにスマホが繋がらないとなると困ったものです。僕はスマホを仕事用とプライベート用の2台持ち、それもキャリアはソフトバンクとドコモと分けて持っています。妻も1台持っていますから、夫婦でセーリングするときにはスマホは3台船内にあることになりますが、幾ら3台あっても携帯の電波が届かないと意味がありません。そこで、あったら心強いのが無線設備である国際VHFです。
今回は、ヨットに必ず備えておきたい国際VHFについて書いてみたいとおもいます。
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携帯電話では絶対にできないことがある
日本のプレジャーボートでは船舶に世界標準の国際VHF無線を設置及び普及がかなり遅れています。その代わりに携帯電話があれば何とかなるなんて感じにまでなってしまっています。しかし、携帯電話には絶対にできないことが1つあります。それは、相手の電話番号が解らないと相手を呼び出すことができないという事です。そんなのあたりまえじゃないかと怒られそうですが、海上で船舶同士が航行の安全を確保するために話をしたいとき、船には電話番号は書いてありませんから、いくら近くにいる船でも電話で相手を呼び出すことはできません。これが仲間の船であれば電話番号を知っているかもしれませんが、近くに見える船の船長の電話番号なんていくらスマホで検索しても出てきません。つまり、携帯電話がつながるエリアであったとしても目の前に見えている船舶と交信することはスマホではできないというわけです。まあ、スマホが繋がるのであれば、緊急事態は118番に電話すれば海上保安庁と連絡を取り合うことはできますが…。しかし、とにかく助けて!って時には、国際VHF無線に勝るものはありません。基本的に大型船(総トン数100トン以上)には国際VHFの搭載が義務付けられており、航行中は基本的に常時聴取していますから、誰か助けて!って発信すれば、それを聞いた見通し範囲にいる大型船や地上局の誰かは反応してくれます。緊急無線には必ず応答しなければならないというルールがあり必ず誰かが応答してくれるか、海上保安庁などへ通報もしてくれます。これって電話ではできないことですが、電話に例えると周囲の人たちみんなの電話を一斉に鳴らして助けを求めることができるのと同じようなことを国際VHFではできるという事です。かなり心強いと思いませんか?
国際VHF無線機には2種類ある
無線機と言うと、据え置きの無線機に外部アンテナを設置してという設備的なイメージがありますが、実はハンディー型(トランシーバー型)の物もあります。(国際VHF無線機は据え置き型とハンディー型の二種類があります。)据え置き型の方が強い電波(25W)を発射することができますが、ヨットの場合にはキャビン内に設置することになるのでコックピットで操船をしているとちょっと無線まで遠いですね。そんな時には手元にハンディー型があるととても便利です。ハンディー型の電波は据え置き型に比べると発射できる電波は5Wと弱いですが、それでも海上で何も遮るものが無ければ見通せる範囲には充分に電波が届きます。つまり、ハンディータイプのものでも十分に交信可能ということです。
ハンディー型国際VHF無線機
緊急時に据え置き型だと、コックピットを離れてキャビン内で無線を使うことになりますし、据え置き型の無線機は船のバッテリーを電源として使っているのでバッテリーや電気系統がダメなると使えません。それに比べてハンディータイプはスマホと同じように内蔵バッテリーで使うことができるので、船の電源を気にする必要はありません。その代わり、ちゃんと充電しておかないといざという時に使えないのはスマホと同じことです。
運用には2つの免許が必要
無線機を購入すれば直ぐに使えるというわけではありません。日本で無線を使用するためには複雑な免許制度をクリアする必要あります。それが「人の免許」と「局の免許」です。この2つの免許制度があることで、世界標準の国際VHFの普及が日本では大幅に遅れてしまっています。2009年の電波法改正までは大型船にしか国際VHSの設置を定めていませんでしたが、小型船舶操縦免許の規制緩和と同じように国際VHFも免許制度が大幅に緩和されたことから、少し面倒は残っていますが免許の取得はかなり容易になりました。日本は世界に比べてこういう部分でもまだかなり遅れを取っているんですよね。
「人の免許」とは
無線設備を使う人は無線従事者免許証を持っている必要があります。無線従事者免許は自動車運転免許のように使う場所や出力によって細分化されていて、船で国際VHFを使う場合には海上特殊無線技士(1級~3級)を取得する必要があります。この1級から3級までの違いは、発射できる電波の強さと使う区域制限の有無となります。1級は50W以下で使用エリアの制限なし(DSC可)、2級は50W以下で国内通信のみ(DSC可)、3級は5W以下で国内のみ(DSC不可)です。
※DSCについては後述します。
海外に出ないのであれば、2級まであれば十分です。あえて3級と書かないのには理由があります。それはDSCの項目で後述します。
「局の免許」とは
無線局免許状のことで、無線設備を特定の場所に設置し運用を開始するために必要です。書類申請することで免許状は交付されます。但し、申請だけで免許状の交付を受けるには、技術基準適合品である通信機器を使用する必要があります。申請には船検証のコピー、船舶局免許申請書(原本とコピー)、無線局事項及び工事設計書(原本とコピー)、無線従者選任届(原本とコピー)、返信用封筒(住所等を記載のうえ、切手を貼る)を揃えて必要事項を記入のうえ管轄の総合通信局または事務所に郵送で送ります。書類の作成方法は購入した機器に同梱のマニュアルや資料、またはメーカーのホームページに出ています。また、書類のダウンロードも可能です。
尚、局の免状は無線機を設置する場所が特定されているため、ハンディータイプでも船外に持ち出しての使用(電波を発射すること)はできません。
DSCとは
DSCはデジタル選択呼出(Digital Selective Calling)のことです。と言っても、何のことかわからないと思いますが、国際VHFは基本的にアナログ通信です。ですから、相手が話をしている間は聴く側は話ができません。しかし、デジタル通信では大量のデータを送受信することができるので、国際VHFでも一部のチャンネルにデジタル通信が割り当てられており、このチャンネルを利用して緊急時の遭難警報(DISTRESS)を発信することができます。この遭難警報を発信するには、無線機本体に付いているDISTRESSボタンを長押します。この遭難警報には、無線機にGPSの位置情報機能が内蔵されている場合には同時に位置情報が発信されます。つまり、アナログ通信で緊急通信をする場合には、音声でメーデーをコールし、受信者との交信が始まった段階で自船の位置情報等を伝えることになりますが、DISTRESSはボタンひとつでデジタル情報として位置情報データと遭難信号を送信することができます。
「人の免許」である3級海上特殊無線技士の免許では、このDSC機能を使ったDISTRESS信号の発信ができないので、できれば2級を一気に取っておくことをオススメします。
海上特殊無線技士免許の取り方
無線従事者免許証(海上特殊無線技士)は、全国各地の総合通信局長が発行する国家免許です。免許を取る方法としては、国家試験を受験するか、養成課程と言って国家試験免除の講習会に参加し修了すれば取得することができます。養成課程は公益財団法人日本無線協会が開催する講習会のほか、全国各地で国家試験免除の総務省認定機関による養成課程講習会が行われています。養成課程は、基本的には3級を取ってから2級を取るという流れになっていますが、2級を一気に取れるコースもあります。3級は1日間、2級は2日間(3級を既に持っている場合には1日間)、1級は7日間の講習となります。費用的には日本無線協会で開催されている養成課程を受けた場合、3級は申請料込で21190円、2級へのステップアップコースが32854円です。2級を一気に取るコースは40630円、1級は78430円になります。最もオススメは費用的にも2級を一気に取るコースです。開催日や場所などの詳細は日本無線協会養成課程のページで確認してください。
養成課程(講習会)の内容
養成課程(講習会)は国家試験の出題傾向に準じた項目に重点を置きながらテキストと補助教材を使って行われます。内容は法規と無線工学に分かれており、電気に詳しい人なら無線工学の方はそんなに難しくありません。基本的に講師の説明をよく聞き、ここが重要ですと言われる部分を漏らさずチェックしておけば、修了検定(テスト)は4択問題なので問題なく回答できると思います。合格点は法規12問、無線工学12問で各60点満点で40点以上で合格なので、1/3は間違ってしまっても合格できます。講習でやったところから修了検定問題は出題されるので、講習時間中は気を抜かずにきちんと受講することが合格のポイントです。
最後に ~法定備品の減免がある~
国際VHFを国は緊急通信機器としてみているため、法定備品の一部を国際VHFと置き換えて考えるという措置がとられています。これは非常に合理的な判断だと思います。
例えば、航行区域が限定沿海で5トン以上の船には小型船舶用膨張式救命いかだ又は小型船舶用救命浮器が定員の100%分必要と定められています。定員数が12人の船の場合、救命いかだ(ライフラフト)は6名用が2台必要になります。1台あたり約50万円、2台で100万円と超高額です。それに代わる浮器の場合、12人用でおよそ9万円。しかし、12人用は1メートル四方の大きな浮器になるので、船に置いておくのは非常に邪魔になります。これが、国際VHFの5Wを搭載していると不要になります。
また、航行区域が平水または限定沿海の船の場合、小型船舶用信号紅炎を2個入り1セットを搭載する必要があります。これは3年ごとの船検毎に新しくする必要があります。2本で7千円~1万円程度掛かりますが、これが国際VHFの5Wを搭載していれば不要になります。
これらのコストを考えれば、2級海上特殊無線技士の免許を取得して、国際VHF無線のハンディー5Wを搭載したほうがメリットは大きいです。
発信することが無くても、聴取することは常に可能で、気象・海象の異変が予想されるときや、航行の障害となる漂流物や航路標識の異常などが発生したときには、海上保安庁から情報が提供されたりもします。
是非、ヨットを安全に楽しむためにも国際VHF無線機をヨットに搭載して、安全な航海に役立てて頂きたいと思います。
MALU SAILING オススメのハンディー型 国際VHF無線機
ハンディー型国際VHF無線機は「ブルーウェーブGPS」を”MALU SAILING”はオススメします。(MALU号でも実際に使ってます!)
GPSによる位置情報、緊急通信、個別呼出グループ呼出などの便利な機能を使うことができ、水上に落としても安心な完全防水型で水に浮くフローティング構造のハンディートランシーバーです。僕も実際に目の前であったのですが、海に落としちゃったっていうシーン…。大体のハンディー無線機は水に沈みます。更に浮くタイプのものが他のメーカーでも出ていますが黒っぽいボディーで水面に浮いていても見えにくく、釣りの浮のように立って浮く物が殆どです。しかし、ブルーウェーブは写真の通り本体が白いので水面に浮いていると目立ち、更に白い面を上にして浮くように設計されているので、よく目立つので発見も容易です。大型のLED照明付きディスプレイは結構明るくて夜間にちょっとした懐中電灯の代わりにもなり、更に大容量リチウムイオンバッテリーにより長時間連続使用が可能です。(満充電状態でおよそ7時間)本体背面は大型クリップでライフジャケットの胸元につけたりするにもとても便利です。多くのヨットマンがこの機種が発売されて、これに変えたいって声もよく聞きます。もちろん技術基準適合品なので簡単な書類申請のみで無線局免許状が発行されます。船のお守り代わりに1台持っておいても損は無いと思います。
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