現代ヨットの基本形は、1本マスト、(マストの前後に各1枚の)2枚セイルという形のスループ型です。何故スループなのかと言うと、この形がセーリングするのに最も効率が良いからです。今や、最新の技術では必ずしもスループが最も効率が良いとは言えなくなってきましたが、コストパフォーマンスでは今でもスループが最高に効率の良いセーリングシステムであることは間違いありません。
さて、そんなスループ型ですが、マストに取り付けてある帆をメインセイル、そしてマストの前にあるセイルをヘッドセイルと言います。ヘッドセイルとはあまり言われず一般的にはジブと言いますが、ジェノアと言ったり、ナンバー3と言ったりもします。
初心者だと、もうこれは何がなんだかわからないですよね。
我家のMALU号のヘッドセイルは125%のジェノアが付いています。
125%?ってなに?って思いますよね。
ヘッドセイルは、こんな感じで謎が多いセイルです。
そこで今回は、ヘッドセイルについてお話してみたいと思います。
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ヘッドセイルの代名詞 「ジブ」”JIB”
ヘッドセイルの名前で最もよく聞くのは「ジブ」”jib”です。ジブ・セイルとは言わず、単に「ジブ」とだけ言います。
ジブの語源
“jib”の語源は実は定かではないようですが、”gibbet” から由来しているという説が有力です。
“gibbet”は動詞で「晒す(さらす)」という意味で、名詞では「晒し台」となります。つまり、「晒し首にする台(絞首台)」のことです。ヨット用語は、昔の帆船用語から来ているので、帆船のジブを張るためにはバウスプリット先に延びたジブブーム”jibboom”からマストの間にヘッドセイルを架けることから、このジブブームが絞首台に似ていることから「ジブブームに付けるセイル」ということで「ジブ」と呼ぶようになったのではないかと考えられます。
帆船とヨットのジブの違い
帆船のジブは、その位置によって呼び方が異なります。
最も外側が「フライング・ジブ」”flying jib”、2段目を「アウター・ジブ」”outer jib”、最も内側を「インナー・ジブ」”inner jib”と言います。
帆船のジブはタックがジブブームに取り付けられるセイル のことで、バウスプリットやバウに取り付けられるセイルは「フォア・ステイスル」”fore staysail”と呼びます。
現代のスループ型ヨットのジブは、フォア・ステイスルの位置ですが、ヘッドセイルが1枚だけになってしまったので、ジブと呼ぶようになったんですね。
また、カッターリグのヨットの場合には、前側をアウター・ジブ、内側をインナー・ジブと呼びます。
「ジェノア」”genoa” と呼ばれるヘッドセイル
「ジェノア」”genoa” は、セイルのクルーがマストよりも後ろにまで来るものを言います。また、これによりメインセイルとオーバーラップする(重なり合う部分がある)ことから、オーバーラップ・ジブとも呼ばれたりします。
ジェノアの語源
“genoa”は、スウェーデンの有名なセーラー Sven Salén がイタリアのジェノバ(genoa)で1926年に行われたヨットレースでこのタイプのヘッドセイルを初めて使用し、また翌年アメリカで行われたヨットレースでもこのセイル使用したことから、ヨット界に広まったと言われています。ジェノバで初めて出現したヘッドセイルなのでジェノアと呼ばれるようになったというわけです。また、Sven Salén はパラシュート・スピネーカーの生みの親でもあり研究熱心だったんですね。
ジェノアの大きさは「%」で言う
ジェノアは、マストよりも後ろ側に大きくオーバーラップしているジブのことを言いますが、そのサイズは様々です。大きさを表現するときには、「150%ジェノア」と言う具合に表現します。パーセンテージの計算方法は、ステムヘッドからマストまでの長さ(写真の赤ライン)を100%として、それに対してフォアステーから直角にクルーまでの長さ(写真のオレンジライン)の対比で表します。概ね100~110%をレギュラージブと言い、それを超えるものをジェノアと言います。
ナンバー”code”で表現するレース用ヘッドセイル
レース用のヘッドセイルは、その大きさによって番号で表現します。これは、レースルールでセイルは何枚までしか積むことができないなどのルールがあるからです。理由は、セールサイズによって帆走性能が大きく変わるからです。ナンバーとコード”code”は同じ意味です。
番号は1から5まであり、セイルサイズの計算方法はジェノアの計算方法と同じです。
ナンバー1は、最も大きなヘッドセイルで、概ね150%程度が最近の主流です。ナンバー2は、125~140%程度、ナンバー3は100~110%でワーキングジブとかレギュラーとも呼ばれたりします。ナンバー4、ナンバー5は、ストームセイルと呼ばれる強風用のセイルになります。
最後に… ファーラーとフラクショナルリグ
ヘッドセイルも巻き取り式のファーラーが登場してからは、ジブをいちいち風に合わせて付け替えるということは少なくなりました。ファーリングシステムの良いところは、セイルを巻き取る量を調整することでリーフ作業が容易になることです。これによって、ジェノアの需要が大きくなり、多くのヨットがジェノアを標準的につけるようになりました。しかし、最近の最新ヨットはフラクショナルリグのヨットが多くなり、マストが前寄りになったことで、セイルエリアも圧倒的にメインセイルが大きくなっています。ヘッドセイルの役割がメインセイルへの空気の流れを効率的に流す整流板的な役割が強くなり、それに伴いヘッドセイルが小さくなってきています。また、海外でもシングルハンダ―の増加でヘッドセイルのセルフタッキングリグを搭載したヨットが増えてきています。これによって、一般の新型ヨットではジェノアが使われなくなってきています。
アメリカズカップ艇なども、ジブが物凄く小さくなり、メインセイルの性能をどんどん上げる工夫が今後もなされるのではないかと思ったりしています。しかし、ジブの小型化はヨットの面白さが半減するような気もするのですが、今後のセイルデザインが気になりますね。
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