ヨットのことを知ってる人、あまり良く知らない人でも、ヨットってパワーボートに比べてロープがとにかく沢山張り巡らされているってことはぐらいはご存知ですよね。パワーボートが手軽で人気があるのに対して、ヨットの人気がイマイチなのは、セイル(帆)と沢山のロープで何だか面倒そうに見えるからだと思います。「ハイ、その通りです! ヨットはとっても面倒です」笑。しかし、以前にも何処かで書きましたが、ヨットはパワーボートと違って単なる移動手段としての道具(乗り物)ではありません。ヨットは風の力を使って船を走らせることこそが楽しみであり、ヨット自体が遊ぶための道具なのです。ですから、A地点からB地点までの単なる移動手段(乗り物)では無いのです。他の海遊びに例えると、サーフィンならサーフボードがヨットにあたります。波に乗って遊ぶ(サーフィングする)ためにはサーフボードが必要なように、風を使って船を走らせて遊ぶ(セーリングする)ためにヨットが必要なわけです。そして、ヨットのセイルと沢山のロープを駆使して船を気持ちよく帆走(はし)らせることが楽しみとも言える遊びがセーリングなのです。(それ以外にもヨットの楽しみは沢山ありますが…)
そんなヨットの面倒そうな沢山あるロープですが、1隻のヨットで一般の人がロープと言えるものだけで、最低でも10本以上はあります。うちのMALU号の場合にはヨットの操作や係留に普段使っている物だけも17本、おまけにアンカーロープや予備の舫綱、その他のメンテナンス用の予備や古くなって外したロープ類など、何かで使えると取ってあるものなどを含めたら、40本くらいのロープが船に積んであります。まあ一般の人から見れば、ちょっとしたロープコレクターかと思われても間違いじゃないないかもしれないくらいありますね。
でも、これって僕だけのことではなくヨット乗りなら大体どのヨットでもたくさんのロープを積んでいます。それも、長さや太さは様々で、使い方によってロープの材質や種類も異なります。
そんな沢山あるロープですが、実は厄介なのがロープは細い繊維を撚ってつくられていることから、端っこが解(ほど)けてくることです。このロープの端っこの処理のことをウィッピングと言います。ウィッピングはヨット乗りとしては必須のロープワークでありメンテナンス作業の1つでもあります。
そこで今回は、ロープの端っこの処理(whipping)ウィッピングについてお話したいと思います。
ウィッピングの意味
ウィッピング “whipping” は日本のヨット用語では「ホイッピング」なんて書かれている物もありますが、英語的な読みは「ウィッピング」です。そもそも、ウィッピングは何のためにするのかと言うと、ロープは繊維を糸に撚って、その糸を束ねて捩じったり編んだりして太くしたものがロープになるわけですが、切りっ放しのロープの端をそのままにしておくと解(ほぐ)れてくることから、端を糸などを巻いて解れ留めをすることをウィッピングと言います。
ウィッピングの語源は、ロープの端が風で鞭のようになってセイルを叩き、セイルが痛まないようにするためにロープの端留めをしたことから始まると言われていて、ウィッピング “whipping” を辞書で調べると「鞭打ち」という日本語訳が出てくるように、ロープの端が風で鞭のように暴れ、ロープの端が解れてゆく有様から、船乗りが言い始めた言葉のようです。
帆船時代の船乗りにとって、帆船の綱(ロープ)は大切なもので、切れたら繋いで使う、ほぐして細い紐として使うなど、とにかく最後に繊維でボロボロになるまで使われてきました。また、非常に長いロープ自体が非常に貴重な物だった時代に端からどんどん解けて行くのをきちんと日常的に点検して留めることは非常に大切な作業だったわけです。
現代のヨットのロープも決して安いものではありません。大切なロープの端留めをきちんとしておくことはヨットマンとして大切なことと言えますね。
ヒートシーリング
ヨットで使われているロープ類は今や全て化学繊維素材でできています。
化学繊維ということは、熱で溶けるということです。熱で溶けると聞くと、固そうな気がしますが、ヨット用のロープには固くゴリゴリの物から柔らかくしなやか物まであります。化学繊維の糸の1本1本の太さや材質によって手触りが大きく異なってきます。
また、強度も様々で今や鉄でできているワイヤーよりも強いロープも開発され、強いのに軽いというのが最近のトレンドです。
以前はポリエステルやナイロンと言われる素材のロープが主流でしたが、最近は芯材に高分子ポリエチレンなどの高強度素材が使われています。
ですから、一昔前までは大きなヨットには太いロープを使っていましたが、最近のヨットは40フィートクラスのヨットでも30フィートクラスと変わらない太さのロープを使っていたりします。しかし、見た目は同じでも高強度の化学繊維素材が使われたロープと言うことになります。
さて、化学繊維ということは、ヨットのロープは熱を与えると溶けます。つまり、ヨットのロープの端部処理で先ず一般的なのは1本1本細い繊維の糸を解けてこないように溶かして一塊にするというものです。これをヒートシーリングと言います。
このヒートシーリングには、ヒートナイフという熱で溶かしてロープを切断する器具を使います。
糸によるウィッピング
昔から使われている方法としては、糸によるウィッピングがあります。これはロープの端部に糸を巻き付けて解れを防止するというものです。
この糸によるウィッピングには、もう一つ理由があって、ダブルブレイドロープ(中の芯材と表皮材の二層構造になっているロープ)の場合、表皮材(カバー)と中の芯材(コア)がずれてくることを防ぐ目的もあります。最も強力なウィッピングの方法が、下の動画でご紹介しますセイルメイカーズウィッピングです。
上の動画で使われている材料関係については、通販で「ゆうこうマリン」さんから全て入手可能です。
ウィッピング用の糸のことをウィッピングトワインと言います。これらの材料も全てラインナップされています。
端部をカバーする
ヒートシーリングや糸によるウィッピングを行っても、端部をカバーしたいということがあります。
特に糸によるウィッピングの場合には、使っているうちに擦れたりすることで糸が切れてくることもあります。そこでよく見るのがビニルテープを巻き付けることでの端部のカバーです。
プレミアムビニールテープ
写真では、ヒートシーリングしたところにビニルテープを巻いています。しかし、一般的なビニルテープは紫外線や温度変化などで劣化して剝がれてきます。実は一般的なビニルテープは屋内用で主に屋内配線(電気工事)の絶縁用に使われるものです。それに対して、実は屋外用のビニルテープと言うのが存在します。「耐熱・難燃・耐寒プレミアムビニールテープ」というもので、その名の通り、熱に強く、燃えにくく、寒さも強いというビニルテープです。このテープを巻くと、かなり長期間に渡って剥がれてくることはありません。
ヒートシュリンクチューブ
巻いたものは、やっぱり解けてくる心配はあります。そこで次の一手が最近ちょっと流行っているヒートシュリンクチューブです。
そもそもは電気配線の接続部分の絶縁や防水処理のために使われるものです。ヨットでも電気配線をする際にも使えるものですが、このヒートシュリンクチューブには接着剤が内部に塗布されていて、熱圧縮すると接着剤が溶けて固まるという仕様の物もあります。これをロープ端部に使うとビニルテープ巻きするよりもしっかり固定されます。
この熱収縮させる時には、ヒートガンという物を使いますが、上で紹介したターボライターでも収縮させることができます。しかし、直接炎を当てると焦がしてしまう可能性もありますので、できれば、ヒートガンを使った方が綺麗に仕上げることができます。電気式とガス式がありますが、ガス式の方が場所を選ばす使うことが出来ます。(ガスはライター用のガスを充填します。)
ウィッピングでは、このヒートシュリンクチューブを使用するのが最強だと思います。
ヒートシュリンクチューブは元々は電気の世界で使う物のですので、直径が細いものが多く売られていますが、太いロープでも使えるヒートシュリンクチューブは売っていますので、ムアリングライン(舫綱)のような太いロープでも使うことが出来ます。
尚、チューブで圧着できるからと言って、アイ(輪っか)を作ってスプライスすることなくヒートシュリンクだけで留めてもアイに力を掛けることはできませんので、くれぐれも間違った使い方はしないようにしましょう。
最後に…シングルブレイドのロープの処理
ロープには撚って作られたツイストロープ、編んで作られたブレイドロープの二種類があります。
ツイストもブレイドも繊維(ファイバー)を紡いで糸(ヤーン)を作り、その糸の束(ストランド)を撚ったり編んだりしたものがロープとなります。ヨット用のロープの場合には、基本的にはブレイドロープを使いますが、ブレイドロープには2種類あって、1つの素材だけでつくられたシングルブレイドと芯材と外皮材の異なる材質で編まれた二層構造のダブルブレイドがあります。上では基本的にダブルブレイドロープのウィッピングについてご紹介しましたが、シングルブレイドの場合にも同じようなウィッピングが可能です。また、シングルブレイドの場合にはウィッピング処理以外にバックスプライスというストランドを編み込んでゆく方法もあります。バックスプライスした場合、使っているロープの直径よりもスプライスした部分は太くなってしまうので、末端が太くなってしまうのが嫌な場合にはウィッピング処理をするようにします。
ウィッピングやスプライシングは地味なヨットメンテナンス作業ですが、誰でも簡単に取り組むことできるメンテナンス作業でもあります。是非、チャレンジしてみてください。
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